タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

『小説 ゲゲゲの鬼太郎 ~朱の音~』読了

小説 ゲゲゲの鬼太郎 ~朱の音~ 限定版 (講談社キャラクター文庫)

前回送料が割高になってしまったので、反省をふまえて今回はAmazon で購入。

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6期は「ゆるゲゲ」でゲーム展開をしているためか、TVゲームでのメディア展開は結局なかった。その分、オリジナル小説というこれまでのシリーズとは異なる展開の仕方をしたところを見ると、やはり6期は妖怪たちのバトルや技ではなく、物語そのものの面白さを前面に出して、我々鬼太郎ファンに挑んだと考えるべきだろう。

 

ということで、前作同様、本作も簡単に各話の紹介とネタバレ感想を(ネタバレ感想は一応伏せ字で)。

 

「怨ライン奇譚」(市川十億衛門)

オンラインの戦争ゲームで味方プレイヤーを殺しまくる「PK行為」を繰り返すエス。仮想現実で人を殺しても罪に問われないことに味をしめ、様々な戦争ゲームでプレイヤーを殺しまくっていた『エス』は、ある日ネット上で『チカチーロ』というプレイヤーから声をかけられる。『チカチーロ』は殺人願望のある『エス』に目を付け、『エス』に「自分を現実世界で殺してくれないか」と話を持ち掛ける。

(ネタバレ感想)ネット上での悪質な行為に殺人欲求、凶悪殺人鬼アンドレイ・チカチーロを元にしたハンドルネームと、ひどく物騒なプロローグから一転して、鬼太郎と『エス』=妖怪さとりのコミカルなかけあいがあり、さとりと『チカチーロ』が出会う展開。

エス』が妖怪だったというサプライズが出て、さとりの人間味あふれるキャラクターに少しほっこりし、最後にヒヤッとさせられる。そんな様々な感情を読者にもたらす物語でありながら、根底に描かれているのは「心の無い人間」。病気が病気を侵すネットの悪循環を描き、それを解決するのは現実世界での繋がりだと示したオチはやや凡庸であるものの、先を読ませない筋運びは良かった。

実はさとりと『チカチーロ』が出会った時、私は漫画「殺さない彼と死なない彼女」を思い出して、二人がかけがえのないパートナーとして結ばれる展開を予想していたけど、全然そんなことなかったね!

あと忠告しておくが、アンドレイ・チカチーロは興味本位で調べないこと。体調が優れない時に彼がやった所業を知ったら、ご飯が食べられなくなりますよ…。(ネタバレ感想ここまで)

 

ねずみ男ハードボイルド」(永富大地)

11月末のこと、ねずみ男は池袋の裏社会を牛耳る妖怪・猿鬼から呼び出される。猿鬼は、以前自分の腹心を殺して金を持ち逃げした犬神を恨んでおり、かつて犬神と相棒だったねずみ男に探させようとしたのだ。期限は三日後の午後三時三十三分、間に合わなければ死、鬼太郎の助けは求められない。

かくして、ねずみ男命がけの三日間が始まった。

(ネタバレ感想)前作でぬりかべにスポットライトを当てた永富氏が描く、ハードボイルドなねずみ男の一面を描いた物語。敵討ち・権力闘争・色仕掛けが渦巻く裏社会で生き残るため、必死で頭を働かせるねずみ男。ねずみに猿に犬だけでなく、狐や貉(四将編で鵺に利用されていたのとは別個体)も出てきて化かし合いのコン・ゲームとなっているのが評価ポイント。闘争劇のオチに水木先生の命日を持ってきたのは天晴。

それにしても、石川県の能登に伝わる猿鬼が東京の池袋で裏社会のボスになっているって凄い設定だな…ww。(ネタバレ感想ここまで)

 

「怪物マチコミ」(金月龍之介

脚本家・金月龍之介行方不明になった。彼が書いていた日記には、鬼太郎6期の脚本が決まった2017年のことや、脚本会議のこと、2018年に担当した「妖怪アパート秘話」のことが書かれていた。そして同年9月3日、金月はシリーズ構成の大野木寛から『怪物マチコミ』の脚本を要請される。

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今までアニメ化されていない『怪物マチコミ』。早速6期ならではの風刺を取り込み書き始めた金月だったが…。

(ネタバレ感想あらすじを見ればわかるように、メタフィクションの構成で書かれているのが特徴。実際の永富氏や大野木氏、小川監督がああいうキャラなのかはともかく(苦笑)、こういった普段知れない内情が見えて来るような話は興味があるし、現実と虚構の境界が曖昧になる展開は、私の好きなミステリ作家・三津田信三の十八番でもあるので、それに慣れ親しんだ私としては、本書に収録された中で一番好きと言えるかも。

お参りしないで「四谷怪談」を上演するとお岩さんに祟られるエピソードがあるが、本作はそのテイストを盛り込んでおり、マチコミの生贄として脚本家が一人選ばれている点も含めて妖怪と人間両方の怖さが描かれていて巧い。泥田坊回の時にも思ったが、金月氏は過去と現在のリンクのさせ方が上手な方だよな。(ネタバレ感想ここまで)

 

「Mと呼ばれた男 ―― ラ・セーヌ外伝」(大野木寛)

吸血鬼ラ・セーヌには、人間の下僕がいた。高貴な家柄のラ・セーヌに仕える卑しい下僕。それでも彼はラ・セーヌの血を受け、吸血鬼として永遠の下僕となり仕えることを望んでいた…。

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(ネタバレ感想)ラ・セーヌの下僕視点で描かれた物語。外伝とはいえ、話の展開はほぼアニメ57話と同じ展開だし、バックベアード復活のため血を集める点も同じだから57話の前日譚という訳でもなさそう。「え?これって単なる焼き直し?」と思ったが、もしかすると本作は「大野木氏が本来やりたかったラ・セーヌ譚」ではなかろうか?

尺の都合や四将編に絡ませねばならない制約とかでアニメでは石動によって退治される展開となったが、本来大野木氏が描きたかったのはラ・セーヌとM(マンモスだろう)との主従関係であり、だからこそ石動が絡まない「外伝」として本書に収録したと考えるべきではないだろうか?

いやそうでも考えないとホントにただの焼き直しだよコレ。(ネタバレ感想ここまで)

 

「陰摩羅鬼・外伝」(大野木寛)

児童相談所職員の池内美由紀は、山藤家の長女・優礼が虐待を受けていることを聞きマンションへ赴く。扉を開けた母・佳枝のやつれ果てた姿に驚いていると、優礼が姿を現した。しかし、彼女は至って健康そのもので、虐待を受けた痕跡も見当たらない。不思議に思いながらマンションを後にした美由紀は、山藤家の窓から自分を見つめる人ならざる双眸を目撃する。ただごとではないと感じた彼女は鬼太郎に助けを求めた。

これは、アニメとは全く異なる戦慄の陰摩羅鬼譚である。

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(ネタバレ感想)アニメを見た時(大野木氏にしては)オーソドックスな展開だな~と思っていたが、こちらは児童虐待をテーマにしたより深刻な物語。これもラ・セーヌの話と同様に、大野木氏が本来書きたかった陰摩羅鬼譚だと思う。でも朝アニメで流石に児童虐待無戸籍児を出すのは無理なので、「母親の死が受け入れられない子供」というマイルド路線の脚本にしたのかと納得。

アニメは生者が死者に対して執着する話だったのに対し、本作は死者が家族という理想のため生者に執着するという逆の構図になっている点が興味深く、魂金縛りの術としての質問が、親の罪業を暴く質問にもなっている所にゾッとさせられる。親の愛によって支えられ生きてこられた鬼太郎にとって、虐待はどう映って見えるのか。

これは鬼太郎にとって、見えない世界(=児童虐待)の扉が開いた物語と言えるのかもしれない。(ネタバレ感想ここまで)

 

「鬼太郎の『だから言ったじゃないか』シリーズ」(市川十億衛門)

ゲゲゲの森には、現代の人間社会に上手くとけこめなかった哀しき妖怪が数多存在する。これはそんな五体の妖怪の悲劇を描いたショートショート

(ネタバレ感想)ストーカーに間違われる後追い小僧、高層ビルを揺すろうとして骨折するクネユスリ、お笑いスクール不合格に泣く五体面、近隣トラブルで話題となった畳叩き、あおり運転をしてしまう提灯小僧…。

まぁそれだけの話で特に深い要素はないけど、同じ「〇〇をするだけ妖怪」の豆腐小僧が電池組のニッケルカナの救いになっただけに、この処遇の天と地ほどの差は何なのかってなるね。いや別にこういう扱いがダメって訳じゃないけど。

私が上記の哀れな妖怪たちを活かすとしたら、後追い小僧は観光業の荷物運びの仕事(いじめっ子の荷物を持ついじめられっ子の構図みたいになるけど…)、クネユスリは思い切って海外で高い所の木の実を揺すって採る仕事(クネ以外は嫌だとゴネたらアレだけど…)、五体面はベビーシッターとか保育関係の仕事(人を笑わす以外の仕事が出来ればだけど…)に就けば良いと思うし、畳叩きは打楽器演奏で頑張れば希望通り有名になれるだろう。提灯小僧は…お年寄りの散歩の付き添いとかかな?(ネタバレ感想ここまで)