タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

「クリスタル殺人事件」を観る

クリスタル殺人事件 デジタル・リマスター版 [DVD]

BSプレミアムで放送していた映画「クリスタル殺人事件」を観た。

 

原作はミス・マープルシリーズ長編8作目の『鏡は横にひび割れて』

鏡は横にひび割れて (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

マープルを演じるのはナイル殺人事件でオッタボーン夫人を演じたアンジェラ・ランズベリー

物語序盤、牧師館で開催されたミステリー映画の上映会で、肝心の犯人の名が明かされる瞬間にフィルムが切れるハプニングが起こり、マープルが卓越した推理で犯人を当てる流れがあるが、あれは原作を一冊も読んだことがない客のために「このお婆さんが本作の探偵役ですよ」とご親切にも示した場面だと言えよう。

 

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マリーナ・グレッグを演じたのはエリザベス・テイラー。生憎洋画は門外漢のため、大女優であること意外全然知らないのだけど、パーティーでの花のカツラインパクトに残る。よく相手の能天気さやおめでたさを揶揄する言葉に「頭がお花畑」とあるが、物理的に頭がお花畑の人を見ることは早々ない。

 

物語はこのマリーナを中心として、パーティーの席上で起こった招待客の毒殺事件の謎を追うが、探偵役となるマープルは犬のリードに足を引っかけ転倒し、自宅療養する羽目に。原作は別の理由で足を傷めるのだが、その点は原作を読んでいただければわかるので割愛。

本作は謎解きとしての複雑さはあまりなく、非常にシンプルな、それでいて意外性のあるミステリになっているが、根幹を支えるのは殺人に至る動機の痛ましさだ。そしてその動機に繋がる要素はマープルによって真実が明かされる前に既に随所に散りばめられており、それが大きな説得力をもたらしている。

 

『鏡は横にひび割れて』は原作も映画も単品で十分面白い作品だが、マープルシリーズの長編2作目となる『書斎の死体』を先に読めば、舞台となるセント・メアリ・ミードの時代の流れを感じることが出来るし、マープルの友人でグレッグ夫妻に自宅を提供したバントリー夫人の情報も加味されて、より一層物語に深みが出て楽しくなるので、未読の方に是非おススメする。

 

最後にネタバレありの感想を(一応伏せ字で)。

(ネタバレ感想)原作ではマリーナの写真を撮ったカメラマンのマーゴット・ベンスも容疑者の一人だが、映画ではカットされている。その分、マリーナとローラ・ブルースターの女同士の醜い争いがメインとなっており、映画の筋を変えてまで自分を美しく魅せようとするローラや、ローラを口汚く罵るマリーナのキャットファイトが印象に残る。

殺人動機となる「風疹感染」の下りは描かれているものの、それによって生じた悲劇、つまり自分の子供が障害を抱えてしまった点はごくアッサリと触れられた程度で、この点については映画よりもジュリア・マッケンジーがマープルを演じたドラマ版の方が優れていると思った。

マリーナの自作自演の脅迫状と、ジェースン・ラッドがマリーナを“解放”するためホットチョコレート睡眠薬を入れた下りは映画オリジナルの展開で原作になかったと思うが、これがテレ朝の「大女優殺人事件」に影響を与えたのだろうか。(ネタバレ感想ここまで)