タリホーです。

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【ゲゲゲの鬼太郎】釜なり(2~4期)を見比べる

ゲゲゲの鬼太郎歴代セレクション、第八回目は釜なり。

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正直言って鬼太郎作品の中でもかなりマイナーな妖怪だけど、見比べてみて新たな発見があるのか、それを今回は確かめてみようではないか。

 

5期の感想は既に言及済みなので2~4期までの感想を以下に記す。

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2期(現金な妖怪たち)

初の映像化となる2期はほぼ原作通りの内容。実は2期の釜なり回を見たのは今回が初めてなのだが、物語のプロローグとエピローグを鬼太郎の独白にするという演出が印象に残る。ある意味5期の「やあ、人間のみなさん。ゲゲゲの鬼太郎です」というプロローグの元祖になった演出と言えるだろう。

鬼太郎の髪の毛が根こそぎ奪われ、目玉おやじねずみ男を含む一つ釜村の子供たちが釜の中に閉じ込められたという危機的状況に、妖怪アパートの妖怪たちが一致団結して釜なり退治にあたるというのがこの「釜なり」の基本的なプロットだが、家賃を一ヶ月タダにするという条件で退治に向かうというのがいかにも現金で、ねずみ男は論外として妖怪アパートの連中もエラそうなことは言えないなと改めて見て思う。

3期以降は割と仲間妖怪も協力的に動いてくれるし、ヒーローものとしてはそれが当然というか子供に対するお手本(一種の道徳)としての意味合いも込められているのだけど、まだ2期の時点ではその協力関係もドライというか損得勘定抜きにして助けるというレベルには至っていないという感じだ。そういや神木隆之介さんが主演だった映画「妖怪大戦争」も妖怪のピンチなのに妖怪たちは敵討ちに乗り気でなかったから、妖怪に人間と同じ情があるというのは人間側の勝手な思い込みだと、そういう風にも受け取れる。敵討ちや一致団結というのは人間的思考であって、妖怪にもその理屈が通用するとは限らないということだろう。

 

3期(その声でその演出はもう完全にア〇パンマンなのよ)

3期も大まかな流れは原作と同じだが、バトルシーンが随所に入れられているのが特徴で、鬼太郎と釜なりの一対一のバトル、森を舞台にした仲間妖怪と巨大器物との集団戦、そして釜の中の異次元空間での鬼太郎と釜なりの一騎打ちという具合に都合三回に分けてバトルが展開されており、その戦闘も原作の設定を活かしたものなので割とすんなり受け入れられた。森の中にあった巨大器物は原作だと村のコレクションという謎の設定にしか過ぎなかったので、この活用の仕方は改変としてグッドだなと評価したい。(あと2期でカットされた便器をちゃんと描いていたのも良かったね!)

3期の釜なりは子供のいたずらで祠を壊されたという明確な犯行動機があるのも印象的で、この3期から釜なりのエピソードは教訓的なニュアンスが込められるようになってくる。器物の妖怪ということなので「物を大切にしよう」というシンプルな教訓話にしやすいということもあるのだろう。

それにしても、戸田恵子さんの声で「力が出ない」と言うとどうしてもアンパンマンを連想せずにはいられない。元々原作もアンパンマンっぽいとは思ってたけど、子泣きじじいが鬼太郎の髪の毛とオカリナを持って鬼太郎に渡す場面なんて「アンパンマーン!新しい顔よ!」という例の名場面を思い出さずにはいられない。

一応言っておくと3期釜なり回が放送されたのは1986年。戸田さんがアンパンマンの声優を担当することになった「それいけ!アンパンマン」の放送がスタートしたのは1988年のことだから、アンパンマンの演出をパクった訳ではない。というより、アンパンマンが始まる前に戸田さんは3期鬼太郎で同様の物語を既に経験していたということになるのだから、3期釜なり回はアニメ史の観点から見ても重要な回になると言って良いのではないだろうか?

 

4期(思考回路がヤンキーな釜なり)

4期は鬼太郎が髪の毛を盗まれるという点を除いてほぼオリジナルの物語。4期の釜なりはお社に丁重に祀られているのにもかかわらず、ねずみ男を騙して鬼太郎の髪の毛・下駄・ちゃんちゃんこを奪い取り、鬼太郎に成りすまして妖怪の頂点に立とうとしていたのだから、歴代の中で最もタチの悪い釜なりと言って良いだろう。しかもいきなり地獄の閻魔大王を倒すと言い出す所から見て、発想が馬鹿というか「全国制覇」とか言ってバイクを乗り回すヤンキーと思考の程度が似たり寄ったりなのが正に「残念な妖怪」という感じである。

3期がバトルに振っていた分、4期はねずみ男の翻弄されっぷりを楽しむのが視聴スタイルとしては適しているなと感じたが、それにしても4期は何故釜なりを妖怪の頂点を目指す妖怪という設定にしたのかさっぱりわからず、そこで若干のモヤモヤを感じていたのだけど、今回の配信でようやくその理由が掴めた。実はこの釜なり回の次、4週にわたって放送されたのが「妖怪王・ぬらりひょん」編であり、妖怪王としてこれまでにない力を獲得したぬらりひょんと鬼太郎たちによる壮絶な戦いが繰り広げられる。

この4期釜なり回がぬらりひょん編の直前に放送され、釜なりの声を担当したのが3期でぬらりひょんの声を担当した青野武さんであることから推察するに、4期の釜なり回はぬらりひょん編の前哨戦だと考えれば納得がいく。そう考えないと釜なりのキャラ設定が突拍子もないものになってしまうし、ニセ鬼太郎というアイデア自体、既にさざえ鬼の回でやっているのだから二番煎じということになる。

そういう訳で、4期の釜なり回は単体でも面白いと言えば面白いのだが、物語の性質を考える上ではぬらりひょん編のことを視野に入れないと、改変の意味がわからなくなってしまうのが少々厄介なポイントだ。

 

 

以上、2~4期の釜なり回をレビューしたが、5期が2~4期の集大成という私の感想は変わらずといった感じで、その点から判断するとおススメは5期ということになるが、改めて見ると3期も結構面白かったなと素直に思うし、前述したようにアンパンマンとの奇妙な関連性を見いだせるので、鬼太郎ビギナーな視聴者におススメしても良い一作ではないかと評価を改めている。

釜なりはマイナーな妖怪だけど、マイナーなりに各期で味付けにも試行錯誤が見られて白山坊や牛鬼のエピソードに負けず劣らず充実感はあったし、マニアックなセレクションとして鬼太郎オタクの間だけで語られるエピソードに止めておくのは勿体ないなと感じた次第だ。