タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

眠らぬ薔薇が裁きを下す、『ブルーローズは眠らない』

ブルーローズは眠らない (創元推理文庫)

前作『ジェリーフィッシュは凍らない』に次ぐ〈マリア&漣〉シリーズ二作目。

tariho10281.hatenablog.com

前作はクローズドサークルもので本作は密室殺人がテーマになるが、謎となるテーマの違いを抜きにして本作の方が圧倒的に面白いと感じたので紹介する。

 

本作のあらすじは以下の通り。

ジェリーフィッシュ事件後、閑職に回されたフラッグスタッフ署の刑事・マリアと漣。ふたりは不可能と言われた青いバラを同時期に作出したという、テニエル博士とクリーヴランド牧師を捜査することに。ところが両者と面談したのち、施錠されバラの蔓が壁と窓を覆った密室状態の温室の中で、切断された首が見つかり……。『ジェリーフィッシュは凍らない』に続くシリーズ第二弾!

(裏表紙を引用)

青バラで密室殺人というと、金田一少年の事件簿20周年記念シリーズで発表された「薔薇十字館殺人事件」を思い出すが、本作の方がトリックの巧さは勿論、そのトリックを用いた動機や、青バラが作中に出て来る必然性など、様々な面で優れている。

というか、「薔薇十字館」が2012年に発表された作品だから、2017年に単行本で出版された本作のトリックが劣っていたのでは話にならないのだけどね。

 

ちなみに、作中では1983年に青バラの作出に成功したことになっているが、実際青バラが誕生したのは2004年であり、その色も真っ青というよりは青紫色に近い。

ja.wikipedia.org

 

物語の構成は前作のジェリーフィッシュと同じで過去と現在のパートが交互に描かれていくが、本作の過去パートは親の虐待を受けて家から逃げ出した少年が、とある博士一家に拾われて生活する様子や、彼らに起こった惨劇が描かれる。そしてその惨劇には「実験体七十二号」という怪物的なものが絡んでいるせいか、ちょっとホラー的な面もあってヒヤッとした感覚が味わえる。

一方の現在パートでは、上記のあらすじのようにマリアと漣が青バラの作出に成功した二人を捜査することになる。青バラの開発が何か事件と関係してくるのか…?なんて思っていた矢先に前述した不可解な密室殺人が飛び出すのだが、その密室の情景がまた凄い。

薔薇の蔓が温室全体を覆っている。

・窓・天窓・出入口全てに鍵がかかっている。

青バラの鉢の手前に生首が転がっている。

・出入口のガラス扉の内側に「実験体七十二号がお前を見ている」の血文字

・生首と共に密室で拘束されていた学生

本格ミステリのファンならこの情景を想像するだけでドーパミンがブワァっと出るものだ。(出ないのなら出るようにもっとミステリを読むべきですね!)

「薔薇十字館」は内開きのドアの前に薔薇が敷かれていたという形の密室なのに対して、本作は施錠に加えて薔薇の蔓という自然のカーテンが障壁となっているため、より不可能性が高まっている。

温室の施錠は外からいくらでも出来るが、蔓を崩さず外へどうやって出るのか?それが出来ないなら他に方法はあるのか?とまぁこれだけならまだしも、死体が切断されて生首だけ放置されていたり、学生が拘束されていたりと不可解な点が余りにも多くて「これら全てを合理的に解決出来るんかいな!?」と、それが気になって一気に読んでしまった。

 

一応メインは密室殺人だが、単にトリックだけの面白さにとどまらず、事件の根底にある正義感が終盤に明かされ、アガサ・クリスティの某名作にも通じる「正義の鉄槌」が振り下ろされる瞬間にグッとくる。

序盤は遺伝子工学の話とか、青バラの作出が不可能だと言われる理由について細々とした説明があって理系の話が苦手な人は読むのに骨が折れると思うが、その部分を越えてしまえばあとはそんなにガッツリ絡むことはないのでオススメしたい。

 

 

最後に、ネタバレ感想を伏せ字で書いておく。反転して見れるが、あくまでも自己責任で。

(ここからネタバレ感想)メインは密室トリックだが、ひそかに読者に向けた性別誤認の叙述トリックが仕込まれているのが心憎い所で、「フランキー博士」と呼んでいるが“彼・彼女”といった呼称を使っていない点や、プロトタイプの章で出て来るフランク博士が目くらましになっているのが何ともいやらしい。

そして肝心の密室トリックにしても(蔓のトリック自体はさほどのものでもないが)「密室トリック兼アリバイトリック」というのが秀逸で、それによって死体の切断や学生の拘束にも説明がつくのが凄い。そして大胆にもアリバイトリックの方は二つの見取り図の相似で読者にも解けるよう示されているのだから、ホント巧い(見取り図にヒント仕込む作品、結構好きなの♡)。

細かなホワイダニットを経て最大の謎「そもそも何故これほど複雑な密室殺人を作ったのか」が出て来るが、これが過去の“博士一家殺人事件”の犯人を裁きの場へ引きずり出すための舞台装置として機能し、犯人が職掌を悪用して簡単にもみ消せないよう複雑怪奇にしたのも個人的には納得がいく範囲内。最終的に悲劇の端緒となったバラによって裁かれるオチもお見事で、是非とも(実写は無理だろうが)アニメで見てみたいと思っている。(ネタバレ感想ここまで)