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映画「ホーンテッドマンション」を徹底比較!(ネタバレあり)

先日2023年版の映画「ホーンテッドマンション」のDVDが届いた。

 

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2003年版(以下「旧作」)と2023年版(以下「新作」)は既にレビュー済みだが、今回はより詳しく、がっつりネタバレしながら両者の映画の長所や短所を解説していきたいと思う。

 

(以下、旧作・新作のネタバレあり)

 

今回比較するにあたって注目するポイントは「ストーリー」「アトラクションの再現度」「ヴィラン」「制作陣のこだわり」の4つだ。

 

ストーリー

まずはストーリー。両作に共通するのは館にかけられた呪いを解くというプロットだが、旧作はそれが愛の物語という形でまとめられており、館の主人であるグレイシーの身分違いの愛とエヴァース一家の家族愛、この二つが最後に結実する。一方新作では大切な人を喪った悲しみを軸にしながら、登場人物のそれぞれが自身の問題点を克服し諸悪の根源となる悪霊を倒すというストーリーになっている。

個人的な感想としては、新作は旧作よりも尺が約30分も長い120分の物語であり、霊媒師や神父、歴史学者といったタイプの異なる登場人物が活躍する群像劇のため旧作に比べるとテーマ性が散漫だと感じる。新作の評価がイマイチなのも恐らくテーマ性が伝わりにくい内容なのと、そもそもストーリー自体が凡庸であるという点が影響しているのかもしれない。

 

また、旧作はエヴァース一家が館に入ってから一晩で解決を迎える物語なのに対し、新作は事件解決に数日を要しているため、その分新作はやや緊張感に欠ける物語になっているのも否めない。幽霊と対峙している夜のパートはともかく、夜が明けた日中のパートはホームドラマ的な感じになってそこで失速するというか、(幽霊につきまとわれているとはいえ)館に自由に出入り出来る状況なので、その分一晩で完結させた旧作に比べるとサスペンス性は弱いし、物語としてもヌルく感じてしまう。

ただ、この新作のマイナスポイントは旧作以上に元となったアトラクションの要素を取り込んだが故に生じている所もあるので、一概に制作陣を責めることは出来ない。「一度館に入ると出てからも幽霊につきまとわれる」という設定はアトラクションにおけるゴーストホストの台詞をアイデアにした部分だし、第二の舞台であるクランプ邸もマジックキングダムのホーンテッドマンションの外観を再現している。そういったアトラクションの設定を盛り込んだストーリーという点に関しては、正直新作の方が物語としてはよく出来ていると言えるのだ。

 

実を言うと、旧作はテーマ性こそ明確であるものの、改めて見ると結構ツッコミ所も多い。旧作では館の呪いを解くために納棺堂からトランクの鍵を取って来て、トランクの中に隠されたエリザベスグレイシーが愛した人)の本当の手紙を見つけるのだが、よくよく考えると本作のヴィランにとって見つかって困る物品を処分せずに隠しているというのが不自然で、「手紙なんて暖炉で燃やせば簡単に処分出来るのにわざわざトランクに鍵をかけて隠す必要はないのでは…?」と思わずにはいられなかった。あと後ほど「ヴィラン」の項でも言及するが、悲劇の原因となったヴィランの倒され方がすっごい唐突なんだよね。その点新作はヴィランとなる悪霊の正体を調査によって突き止め、悪霊の生前の所持品を元に霊媒師の力で除霊をするというキチンとした手続きで倒しているから、物語として整合性がとれているし旧作と違い皆の力で悪を倒したというカタルシスがあったと思う。

 

旧作はアトラクションという舞台を借りたオリジナルの物語という感じで、これは「パイレーツ・オブ・カリビアン」のヒットに倣って同様の形で物語が作られたのだと思うが、その分細かい設定が無視されており、例えば本作で重要な役割を果たす水晶玉の女性マダム・レオタは旧作だと彼女が何故水晶玉の中にいるのか一切言及されないのに対し、新作では彼女が館の主人のグレイシーの要請によって訪れた霊媒師であり、悪霊によって水晶玉に封じられたという背景が語られている。

館の歴史にしても、旧作はグレイシー家が超金持ちで、エリザベスの一件で没落したという程度の情報なのに対し、新作ではグレイシーが原因で999人のゴーストが集まる館になったという丁寧な説明が為されている。旧作は「999人のゴーストがいる館」という設定があまり活かされておらず、館にゴーストが留まっているのも「死んだ時にお迎えの光に会えなかった」という漠然とした理由しか述べられていない。だからこの点に関しても旧作はディティールの詰めが甘いと言わざるを得ないのだ。

 

ちなみに演出、特にコメディ要素について述べると旧作は主演がエディ・マーフィーということもあってか、彼の好演によって物語は重厚であまり子供向きではないにもかかわらず見やすくなっているし、コメディとシリアスのメリハリが利いていたと思う。その点新作はちょっとコメディ要素がうまく融合していない部分があって、重要な場面なのに話の腰を折るようなコメディ要素を入れている所があったので減点した(特にマダム・レオタの「3ドルもらおう」っていうアレは本当にいらなかったわ)。

 

アトラクションの再現度

アトラクションの再現に関しては言うまでもなく新作が圧倒的に上なのだが、一応比較としてリストアップすると以下の通り。(館の内装・外装は除く)

 

〈旧作〉

変化する肖像画

ゲストを見つめる大理石の胸像

動く扉

マダム・レオタ

墓地のゴースト

動く甲冑

ザ・シンギング・バスツ(墓地で歌う胸像)

ヒッチハイキング・ゴースト

 

〈新作〉

動く甲冑

船乗りのゴースト

永遠に続く廊下

マダムレオタ

屋根裏の花嫁のゴースト

墓場のゴースト

ヒッチハイキング・ゴースト

ドゥームバギー

ゲストを見つめる大理石の胸像

変化する肖像画

大広間のパーティー

天井が伸びる部屋

ハットボックス・ゴースト

クランプ邸

蝙蝠の形のポール

空間が歪んだ階段

赤字は特に映画の劇中でこだわりを持って作られていると感じた部分だが、旧作はアトラクションの完全再現こそ新作に劣るものの、決して手を抜いている訳ではないし元のアトラクションよりも豪華なお屋敷として設計・デザインされているのが印象に残っている。大広間のパイプオルガンなんか元のアトラクションよりずっと豪華だし、部屋の装飾もヨーロピアンな雰囲気がある。新作の館は玄関を入るとすぐ廊下があるのに対し、旧作はエントランスと呼ばれる空間がちゃんと設けられていて、そこも大豪邸としての風格を感じさせる部分だ。

 

旧作と新作を比較すると、割とオリジナル要素が強い旧作でも墓地の場面だけは特に再現に熱を入れている。館の中ではほとんど登場しないゴーストも、墓場ではお茶会をしたりシーソーをして遊んだりと、元のアトラクションでも見られるゴーストたちの賑わいがしっかり再現されているし、歌うカルテットの胸像は勿論のこと、ヒッチハイクをする三人組のゴーストもジムたちが乗っている馬車にちゃっかり乗り込むという形で出演している。新作でもヒッチハイキング・ゴーストは一応登場するものの、正直印象には残りにくい感じで登場する。

 

新作では旧作で物語に落とし込めなかった天井の伸びる部屋や永遠に続く廊下が物語のギミックとして活かされており、特に天井の伸びる部屋に関しては悪霊の妨害工作という形で活かされていたのには感心したね。アトラクションのことを知らない人が見たら「何であそこで流砂とか爆弾・ワニが出て来るんだよ」って意味がわからない場面だったと思うが、アレはあの部屋に飾られた肖像画の人々の死因となった事象なんだよね。いや~芸が細かい。

細かいと言えば、物語の序盤から主人公のベンにつきまとっていた船乗りのゴーストも実はアトラクションに肖像画として飾られている。東京ディズニーランドだと、ドゥームバギーに乗ってすぐの廊下に飾られているので、もし訪れる機会があればチェックしてもらいたい。

 

ヴィランの描き方

ディズニーと言えば物語を彩る要素としてヴィランの存在が欠かせない、「ホーンテッドマンション」もその例に漏れずヴィランが登場するが、旧作ではグレイシーに仕える執事のラムズリー、新作では館のゴーストを支配するハットボックス・ゴースト(アリステア・クランプ)がそれに該当する。

 

旧作におけるラムズリーはグレイシー家に仕える執事として、お家の存続に関わるエリザベスと当主の駆け落ちを阻止するため、自殺に見せかけてエリザベスを毒殺。死後成仏出来ずにいる当主のグレイシーを成仏させるために見た目がエリザベスとそっくりなサラ・エヴァースを連れて来て無理やり結婚させて成仏させようとする、まぁとんでもねー野郎だ。自分の利益で動くというよりも「〇〇とは、こうあるべきだ」という自分の価値観を相手に押し付けるタイプの悪役という点ではディズニーヴィランズとしては特殊なタイプなのではないかと思う。

最終的に自分がやったことがバラされてしまい「皆地獄に落ちろ!」と言って悪霊の集団を呼び出したものの、何か暖炉から地獄の使者みたいな炎が現れて、それに捕まってラムズリーは地獄に落ちていくという末路を迎えるのだが、この場面が先ほどの「ストーリー」の項で述べた唐突すぎる倒され方で、悪霊を呼び出した割にはその悪霊は飛び回るだけでジムやグレイシーたちを襲う訳ではないし、何の脈絡もなく地獄からの迎えが来るわで、この下りは改めて見ると結構雑なオチだなと思ったわ。っていうか地獄からの迎え、もっと早く来いよ!

 

一方、新作におけるクランプは生前の頃母親が死んで、あまりにも母の死に悲しんでばかりいるからという理由で父親から勘当され、親類縁者からも見捨てられた結果殺人鬼として自分を見捨てた人々に復讐を果たし、殺した人々を生贄にする黒魔術によって富を得たという結構しっかりとした設定のある悪役なのだが、肝心のその背景が駆け足で説明されているため初見でイマイチ伝わりにくいのが非常に勿体ないと思った。

親や周囲の人々から愛情を受けずに育ったが故に、人の感情を弄び利用する悪霊として主人公のベンやグレイシーの悲しみにつけ入るという悪辣さ、クランプ邸の描写やサプライズ好きという一面からうかがえる意外と子供じみた性格など、決して薄っぺらいヴィランではないのに、それが十全に視聴者に届いていないのは、勿論脚本・演出上の問題ではあるのだけど、そもそもハットボックス・ゴースト自体がアトラクション内でも馴染みが薄いゴーストというのも関係しているのかもしれない。本国アメリカでも2015年にやっとアトラクションに復活したゴーストだし、日本はそもそも登場すらしていないのだから、ま~これは仕方ないかもね。

 

制作陣のこだわり

旧作・新作共にメイキング映像があるのだけど、やはりメイキング映像って制作陣のこだわりが一番表れる部分だし、メイキングを見比べるとどこに力を入れて制作していたのかがよくわかる。

旧作だとオリジナル要素の一つである納棺堂におけるゾンビもそうだけど、ゴーストを見せる視覚演出にかなり力を入れていることがよくわかった。背景とゴースト役を別撮りにして後からそれぞれを合成するからゴースト役の立ち位置だったり視点の微調節が大変だったとスタッフも語っているし、CGでゴーストの身体から放たれる光や煙なんかを付け足しているから、その辺りのこだわり具合が本当に凄いんだよね。だからゴーストの一体一体が見る側の印象に残るように考えられているし、そこが旧作を評価するポイントの一つとして挙げられる。

新作でもゴーストはかなりの数が登場するのだけど、旧作と比べると手の込んだCGは使われておらず、ゴースト役をワイヤーで吊るすといった割と古典的な手法で演出していたのには驚いた。そのせいかはわからないけど、正直旧作と比べるとゴースト一体一体が際立っていないというか、アトラクションの再現を重視した分、印象に残るゴーストが少ない。要はゴーストの魅せ方が旧作を見てからだと巧くないと思ってしまう。ご飯で例えると、旧作は米の一粒一粒が立っているのに対し、新作はべちゃっとした米という感じだ。

 

新作のこだわりポイントとしては出演者のアットホーム感と、アトラクションの再現度、そしてニューオーリンズという物語の舞台を前面に出しているという点だろうか。これは新作レビューの記事で詳しく言及しているのでそちらを読んでいただきたいが、旧作も舞台は同じニューオーリンズだけどあまり土地柄が物語と深く関わらない。海抜が低いので大雨で川が氾濫するという点が関わってくる程度だ。しかし新作では物語冒頭からニューオーリンズという土地は葬式が祝祭となる特別な土地柄であること、生と死が同居する場であるということが説明されており、ホーンテッドマンションにあれだけ多種多様な民族のゴーストが棲みついているのも、「文化のるつぼ」と称されるニューオーリンズだからこそ成立しているというのが初見でも伝わるようになっている。劇中で館の歴史を語る以上、その建物がある土地を無視する訳にはいかないし、そこを描いているから新作は物語に深みがあると私は思うのだ。エンディングで館のゴーストと主人公のベンたちが一緒にパーティーをしている場面、いかにもディズニー作品らしいエンディングだな~と思った人も多いだろうが、あれも深読みするとニューオーリンズが生と死が同居する場所であることを象徴しているし、生きた人間が棲む家と死んだ人間が棲む墓地を分ける日本では絶対にあり得ない描写だ。この死生観の違いを知るのも映画鑑賞の楽しみの一つと言えるだろう。

 

さいごに

ということで映画「ホーンテッドマンション」を比較してみたが、最後に旧作・新作の長所・短所をまとめるとこんな感じになる。

 

〈旧作〉2003年版

長所:「愛の物語」という明確なテーマ性を押し出したプロット。コメディとシリアスのメリハリの良さ。ゴーストの魅せ方にこだわりが感じられる。

 

短所:テーマ性に反して脚本のディティールは甘い。わかりやすい分、設定や背景描写に奥行きが感じられない。ヴィランの倒され方が唐突すぎる。オリジナル要素が強くアトラクションの盛り込みが部分的という感じ。

 

〈新作〉2023年版

長所:旧作以上に再現されたアトラクション要素。ニューオーリンズという舞台を活かした脚本。一致団結して敵を倒す王道のプロット。

 

短所:物語のテーマがやや散漫で凡庸(独自性に欠ける)。コメディ要素が話の腰を折っている面もあり。一体一体のゴーストの魅せ方は旧作より劣る。ヴィランの描写が駆け足気味。

旧作も新作も良い所がある一方でイマイチな部分もある。今回このような比較をやったのには、新作があまりにも評価が低すぎると他の方々のレビューを読んでいて感じたからであり、一人の「ホーンテッドマンション」好きとしてもっと正当な評価をされて欲しいという思いから、比較による評価を行った次第である。どちらも短所はあるとはいえ面白い映画であることに変わりはないし、私のレビューを踏まえた上でまた違う見方が出来る部分もきっとあるだろう。もし旧作・新作を見比べて、「私はこう思った」という意見があるのであれば、コメントを送っていただきたい。