タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

名前からお察し下さい【ダークギャザリング #08】

ホラーマニアなら「神代」って名前を聞いた時点でビクーン!ってセンサーが反応するものだと思ってる。

 

「神の花嫁」

今回は原作9話「神代愛依」から10話「神の花嫁」の冒頭部分までの内容を映像化。

螢多朗は家庭教師のバイトで新たな生徒・神代愛依(かみよ・あい)を担当することになったが、彼女は昔から不幸体質で霊に憑かれやすいとのこと。そこで夜宵が視てみると、二人の霊が彼女に取り憑いており、そのうちの一体は死んだ兄の霊だった。愛依の兄は一ヶ月ほど前に彼女の不幸体質が原因で事故に巻き込まれて死亡しており、妹のことを心配した兄が成仏出来ずに彼女に取り憑いていると判断した夜宵は、ぬいぐるみの依代を利用してもう一体の霊を捕縛するのだが…。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

ということで、今回から新たに登場したギャル風の女子高生・神代愛依はアニメ本編や原作を読んだ方なら既にご存じの通り神に見初められた女の子であり、20歳で命を落とす運命が決まっているという恐ろしい宿命を背負った子なのだ。

 

この設定に何か見覚えがあるなと思った方もいるだろうが、恐らくそれは2003年に発売された伝説的ホラーゲームSIRENの影響によるものだろう。

SIREN

SIREN」は羽生蛇(はにゅうだ)村という僻地の村を舞台にした伝奇ホラーであり、プレイヤーが様々な登場人物を操作することで、村で起こった異常事態や異形の神「堕辰子(だたつし)」の存在、堕辰子の復活を目論む女、村に伝わる奇妙な風習を知ることになるのだ。そしてこのゲームで重要な役割を果たすのが神代(かじろ)美耶子であり、彼女も神の花嫁として捧げられる犠牲者としてゲーム本編で描写されている。

神の生贄として捧げられる女性というのはホラーでは定番の題材だが、今回は「神の花嫁」というテーマについて民俗学の面から語ってみようと思う。

 

異類婚姻譚、花嫁としての条件

神の花嫁というとまず指摘しておかなければならないのは神と人間の婚姻、すなわち異類婚姻譚であるということだ。異類婚姻譚で代表的な例を挙げるとすると、山幸彦として知られるホオリと海神の娘であるトヨタマヒメの婚姻が歴史の中でも古い異類婚姻譚になるが、この二人の孫が初代天皇神武天皇だと言われている。このホオリとトヨタマヒメの婚姻譚は、天皇やそれに連なる豪族の家系の正統性を示すために記された婚姻譚なので、今回のお話における生贄としての花嫁、異類婚姻譚とは意味合いが異なる。

 

女性が生贄或いは人身御供として異類と婚姻するエピソードは基本的に相手が動物である場合が多く、女性を婚約相手として提供する見返りに、女性の家族が富を得たり災いを回避するというのが基本的な物語のパターンだ。そう考えると愛依の家も代々娘を神の花嫁として捧げることで繁栄を築き上げてきた家ではないかと、何となく想像はつくだろう。

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

では神の花嫁となる条件は一体何だろうかと考えていくと、やはり思い浮かぶのは「純潔」というワードだ。単なる婚姻にしろ、生贄として喰らうにしろ、花嫁となる女性が不浄であるというのは神に穢れがうつることになるから、それはどんな神であっても厭うことだと思われる。ただ、人間は生きている以上どうしても不浄に触れるので、そこで関係してくるのが愛依の不幸体質だ。勿論これは神の仕業によるものだが、神が愛依を不幸にするのは二つの理由が考えられる。

 

一つは愛依が現世で婚約する、つまりは他の男性と契りを交わし性交渉をする可能性を潰すためだ。性交渉というのは男性と女性の肉体と血が交わる行為であり、その段階で女性は純潔ではなくなる。神から見れば穢れた身体ということになるから、(建前とはいえ)花嫁として迎える以上何としても避けたいことだ。

そしてもう一つは愛依が現世に対して執着を持たないようにするためだ。現世に対する執着が強いということは、それだけ活発に活動するようになり身体のエネルギーを消費することになる。穢れとは「気枯れ」、すなわち身体のエネルギーが枯渇することを指すとも言われており、体力や気力が消耗した状態を意味するから、生贄となる娘が隔離され他者との交渉を断たれるのには、無駄にエネルギーを消費させない、現世に対する未練・執着を残さないようにするといった目的がある。この世が楽しいものであることを知ったり、恋人や友人が出来てしまうと未練や執着が生じるから、神は生贄となる女性を不幸にするのだ。

 

神の花嫁に純潔性が求められるというのは、本作や先ほど紹介した「SIREN」の他にも同じくホラーゲームである「零」シリーズも挙げられる。純潔でない生贄によって儀式が失敗し災いが起きるというのが「SIREN」や「零」に共通するプロットなのだが、純潔というのは厳密に言うと女性にはあり得ないという思想が昔はあって、中国で作られた経典「血盆経」によると、女性は出産時に血を流すので、血の池地獄に落ちる。つまり女性は生まれながらに罪・穢れを抱えた存在であるという女性蔑視的な思想があったのだ。当然この思想は現在は支持されていないが、室町時代にこの「血盆経」が広まり、女性は不浄という認識が広まったのもこの辺りの時期だと考えられている。※1

 

「女性が生まれながらの不浄では神の花嫁になり得ないのではないか?」という意見もあるだろうが、アニメ本編を見たら神は花嫁のハラワタを普通に喰らっているし、神にとって花嫁の血が穢れではないということは推測出来る。※2少なくとも愛依を狙っている神にとっての穢れや不純というのは他者の血が混じるという点にあるのではないかと私は考えているのだ。まぁ人間は父と母の二者の血が交わって生まれるから、厳密に言うと他者の血が交わらずに生まれる子は存在しないのだけど、恐らくその辺りは神自身の采配によって神代の血に大きく影響を及ぼさない人物が婿入りするのだろう。※3

 

※1:地獄と女性の深い関係 鎌倉時代の絵巻物から伺える女性蔑視 - wezzy|ウェジー

※2:或いは、「ハラワタを喰らう=穢れを引き受ける」ということで、神が神代家の穢れや災いを引き受け祓っているという見方も出来る。

※3:その家の娘が神の生贄として捧げられるのだから、男系ではなく女系家族と考えるのが自然だろう。

 

さいごに

今回は異類婚姻譚から純潔性という観点も込みで「神の花嫁」について考察を巡らせてみたが、五芒星の印があることから見て、愛依を見初めたのはどうも陰陽道に関係のある神だと思われる。ということは日本の神ではなく中国から来た神(来訪神)ということになるが、そうなると今回語った穢れの概念自体この神は持ち合わせていないかもしれないので、今回の考察はもしかすると的外れな部分もあるかもしれない。

神という怨霊とは比べ物にならないレベルの霊の登場によって物語は大きく動くことになるが、それは次回以降の話。次回は神ほどではないがヤバーい悪霊が登場するので、その悪霊に関した話をしようかなと思う。