タリホーです。

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歪められた家とキメラ的呪法【ダークギャザリング #17】

いつも基本的に専門的でマニアックなことを言っているけど、今回もそんな感じの感想・解説です。特に今回は旧Fトンネル戦の時みたいに分析を凄く誰かに話したいエピソードだったので、放送する日を待ちわびてました。

 

「受胎告知の家」

今回は原作の21話から22話前半までの内容。H城址で回収した呪物と「卒業生」たちを一箇所に保管するための住居、通称「卒業生ハウス」を購入するため家探しを始めた夜宵と詠子が目に付けたのは、富士山から三峯神社経由で江戸城(原作では皇居)に流れる龍脈の上に位置する一軒家。過去にその家に住んでいた父娘が大量殺人と心中をやらかした上に、そこに突入した女性警官が突然妊娠、わずか10日で頭部が巨大化した奇形児を産んで赤子もろとも死亡したという曰くつきの事故物件だ。殺された被害者たちが生まれ変わろうと妊娠の呪いをかけてくる家として地元で「受胎告知の家」と呼ばれているこの激ヤバ物件に二人は挑む。

ちなみに原作では埼玉県所沢市狭山湖付近にある物件と具体的に記されているが、狭山湖は心霊スポットとしても有名な場所であり、ネット上の書き込みで広まった「地図にはない場所」という噂が特に有名である。※1

 

早速本編の感想・解説に移りたいと思うが、その前に一応「受胎告知」というこのワードについて説明しておこう。

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受胎告知はキリスト教の『新約聖書』に記されているエピソードの一つで、聖母マリアイエス・キリストを懐妊したことを、神の使いである天使ガブリエルがマリア本人に告げたというものだ。キリストが生誕したのは12月25日であり、そこから9ヶ月さかのぼった3月25日が「受胎告知の日」としてカトリックでは祝日になっている。当然ながらキリストは神の子なのでマリアの妊娠も処女懐胎である。

そんな訳で「受胎告知」はキリスト教圏では福音、つまりはおめでたいことの象徴として宗教画としても描かれるようなエピソードなのに対し、本作ではその言葉がおぞましいワードとして用いられている。このおぞましさをこれから読み解いていこうではないか。

 

※1:狭山湖は心霊スポットで有名!地図にない不気味な場所はヤバい! | TravelNote[トラベルノート]

 

「天使様」の儀式を徹底分析!

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

「受胎告知の家」、それは平穏で幸福だったはずの三人家族が母親の死によって運命が狂い、とある人物の差し金によって忌まわしき呪いを成就させるための魔窟と化した場であった。「天使様」という清廉な名とは裏腹に、実際は穢れを祀り上げ魔物を生み出す家にされたのだから、全くとんでもない災難というか何というか。

 

さて、そんな家で行われていた「天使様」を生み出す儀式について解説していくが、まずは父娘がやっていた儀式の手順をおさらいすると以下の通り。

1.母親の死体を「天使様」を生み出す母体として祭壇に祀る。

2.父娘の間に生まれた三体の赤子※2を殺害し「天使様」の魂の依代にする。

3.家に来た一般人を自宅の井戸で焼き殺し、その魂を「天使様」に喰わせる。

4.「天使様」を生きた女性に宿らせ霊体ではなく生体としてこの世に誕生させる。

この儀式を見た時、真っ先に頭をよぎったのが「リョウメンスクナ」だ。

 

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最近は漫画「呪術廻戦」のキャラとして有名だけど、本来の両面宿儺は『日本書紀』に記されている怪物で、現在の岐阜県に出没したと言われている。身体は一つなのに頭の前と後ろに顔があって、腕は四本、かかとがある所に指が生えた二本の足という異形の姿をした鬼神だ。二人の人間が背中合わせになって胴体と両脚が一つに融合した形をイメージすればわかりやすいと思うが、この怪物が仁徳天皇の時代に人民を襲ったことで朝廷によって討伐されたと記されている。しかし、地元岐阜の伝承では鬼や龍を退治した英雄として語り継がれており、必ずしも悪い怪物ではなかったようだ。

 

そんな歴史のある怪物・両面宿儺には、別の物語がある。それは2005年9月21日に2ちゃんねるオカルト板の「死ぬ程洒落にならない怖い話集めてみない?109」スレッドに書き込まれた、結合双生児を元に作られた呪物の物語である。

nazolog.com

その呪物は岩手県のとある古寺の本堂の奥の密閉空間にあった黒ずんだ木箱の中に封じられており、二つの頭が後頭部の所で接合し、腕が左右二本ずつの計四本、身体は一つで足は通常通り二本の人間のミイラだったという。その箱を開けた者は後に心筋梗塞で死亡したり、精神に異常を来たして病院送りになったそうで、中身を見た者も怪我を負ったり原因不明の高熱で苦しむといった被害を受けたそうである。

この呪物は大正時代、物部天獄と名乗る術者によって作られた代物であり、日本国家を呪うために以下の方法で作られたと言われている。

(前略)物部天獄という偽名を名乗っていたその男は大正時代、岩手のある部落で生活に困窮した親によって見世物小屋に売られていた結合双生児を大金を出して買い取り、そして彼らを他の奇形の人間たち数人とともに押し込んで殺し合わせる蟲毒(呪術の類)を行った。しかもその儀式は結合双生児が生き残るように他の者たちにあらかじめ致命傷を負わせた状態で行われ、さらに結合双生児は唯一生き残った後も殺した者の肉や自身の糞尿を食べねばならぬほどの長期間に渡りその地下室に監禁された。そして仕上げとして物部天獄は彼らをまた別の部屋に閉じ込め、食料を与えずに餓死させる。彼はその死体に防腐処理を施し、その死体の腹部に遺跡で発掘された古代において朝廷に反逆していたまつろわぬ民たちの骨を粉状にしたものを入れ、日本神話に語られる怪物、リョウメンスクナになぞらえた呪物を作り上げた。そして物部天獄はそれを携えて日本中を渡り歩き、実際に彼が訪れた場所ではさまざまな災害が引き起こされたという。

朝里樹『日本現代怪異事典』、「リョウメンスクナ」の項より引用

後に物部天獄相模湾沿岸近辺で喉を日本刀で掻き切って自害、遺書には血文字で「日本滅ブベシ」と記されていたという。

 

「リョウメンスクナ」の説明が長くなったが、以上の情報を「天使様」の儀式と合わせて見てみると、母親の死体の腹部に胎児の依代を安置するやり方は「リョウメンスクナ」の呪法における、結合双生児のミイラの腹の中に古代の反逆者の骨を入れる方法とよく似ているし、「天使様」と呼ばれているあの赤子の化け物も胴体は一つなのに頭部は三つの顔が混ざり合った姿だった。あの化け物の見た目からしても父娘に儀式を教えた男は「天使様」という名目でその実は「リョウメンスクナ」に類する怪物を生み出そうとしていたのではないかという推測が成り立つのだ。

ただ従来の「リョウメンスクナ」はあくまでもミイラ=死体が本尊だったのに対し、この「天使様」は霊体を生きた肉体として誕生させることで完成するという違いがある。このアレンジについて、実はもう一つ別の儀式からアイデアを得たのではないかと考えている。その儀式を説明する上で関わってくるのが真言密教の流派で一般的に邪教として認知されている立川流だ。

 

www.youtube.com

立川流についてはこちら(↑)の動画でわかりやすく解説されていたので詳しくは動画を見ていただきたいのだが、立川流と混同視された「彼の法」集団※3による髑髏本尊の儀式が今回の「天使様」の儀式と関わっていると私は思ったのだ。

 

髑髏本尊の儀式については上の動画でも説明されているが、ざっくり言うと人間の髑髏に男性の精液やら女性の愛液などを塗って、その他さまざまな細工を施し髑髏に魂を込める。そうすることで髑髏が相手の願いを叶えてくれたり、過去・現在・未来の全てを教えてくれると言われている呪法だ。呪法だけを見ると髑髏を祀るのだから正に邪教という感じだし、精液・愛液を塗る以上当然男女の性交渉が必要となってくる。基本的に仏教において女性との性交渉は煩悩につながるから御法度であり、そのため立川流は「彼の法」集団と混同され淫祠邪教の烙印を捺されて衰退したのだが、実はこの髑髏本尊の儀式には真の目的があったという説がある。

髑髏本尊の儀式の手法だけを見ると、願いを叶えてくれる髑髏を作るのがメインの目的だと普通は思ってしまうが、本当に重要なのはその過程における男女の性交渉の方であり、その際に生まれる子供こそが真の本尊であり悟りへの道となるというのがこの儀式の真の目的なのだ。髑髏はその道に至るまでの仮の本尊であり代用品であるため、儀式の途中で必要がなくなってしまうと、一説には言われている。この儀式のベースとなったと思しき理趣経も性交渉自体は不浄ではないと説いており、そういった欲求を正しく扱えば菩薩の境地に至ることは可能だという趣旨が記されている。そもそもこの世界における生命のほとんどは男女の交わりによって生まれているのだから、それを無視してこの世の真理を説くというのは不自然だという考えも「理趣経」には込められていたのではないかと私は思うのだ。

 

※2:個人的に近親相姦によって生まれた赤子が儀式に必要だったというよりは、単純に種馬となってくれる男性が父親以外にいなかったから父親を相手にして孕んだのではないかと考えている。その方が呪いを成就させる上でも手っ取り早いだろうし。

※3:「彼の法」集団 - Wikipedia

 

何故「天使様」の儀式は失敗するのか?

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

以上をまとめると、「天使様」の儀式は「リョウメンスクナ」の呪法がベースになっているものの、死霊ではなく生きた胎児としてこの世に降り立たせるという部分は「彼の法」集団による髑髏本尊の儀式を参考にしたというのが私なりに分析した結果である。

ただ今回の物語を見た感じ、どうもこの呪法ではやり方が不完全というか儀式として成功しないのではないかと私は思っていて、この儀式には「リョウメンスクナ」「髑髏本尊の儀式」だけでなく、西洋のキリスト教の要素も加えられており、それが呪法として却って逆効果になっているというのが私の考えだ。

 

キリスト教の要素というのは母体となる母親の死体が聖母マリアの像を模してヴェールをかけられ両手を合わせた姿で安置されていたというのもあるけど、依代となる胎児が三体であるという点もキリスト教における三位一体と掛けているのではないかと私は思ったのだ。

tariho10281.hatenablog.com

三位一体については15話の旧Fトンネル戦で言及したので詳しくはそちらを参照してもらいたいが、「軍曹」の場合は三位一体が成立していると思ったけど、今回の場合は三位一体として成立していない。恐らくこの呪法を編み出した男は「リョウメンスクナが結合双生児(=二つの魂)を利用したものだったから、三つならより強力なものが生み出せる」と思って胎児の依代を三つにしたと思われるし、そこにキリスト教の三位一体を掛け合わせたら絶対神的なものになるという、何かそんな安易な発想でキリスト教の要素を取り入れた感じが否めないのだ。三位一体は父なる神とその子供、そして聖霊という質の異なる三者だから成立しているのであって、胎児の魂を三体集めた所で所詮それは胎児の魂以上にはならないし、むしろ「666」というマイナスの形でその結果が現れている。

 

「666」という印は詠子の腹に浮かび上がった模様を見ていただければわかると思うが、この数字もキリスト教圏ではちゃんと意味がある。キリスト教の聖書によれば、神がこの世界を創造するのに7日間かかったことから「7」が聖なる数字であると言われているのに対して「6」は不完全な数字とされており、特に「666」は『新約聖書』の「ヨハネの黙示録」において獣の数字という不吉なものとして捉えられている。

 

ja.wikipedia.org

「ここに知恵が必要である。賢い人は、獣の数字にどのような意味があるかを考えるがよい。数字は人間を指している。そして、数字は六百六十六である」。まるで謎かけのようなこの一節をこれまで多くの人々が多様な発想で解釈してきたが、今回の物語を見ていると、「そういや赤子も獣だよな」とふとそんなことを思った。あまり意識しないから気づかないけど、生まれ落ちたばかりの赤子は人間とはいえまだ言語が話せないし本能のまま動くという点では他の動物と変わりない。それに赤子は逆子を除いて基本的に頭から生まれ落ちるし、そうやって身体を丸めて母親の胎内から出て来た状態の姿はさながら数字の6に見えなくもない。赤子は精神と身体の両方が成熟していない不完全な生き物だから、そういう点でも数字の「6」を象徴していると言えるのではないだろうか?

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

そうやって考えていくと今回の「天使様」は「軍曹」の三位一体とは違い「666」の獣の数字を冠する禍々しき化け物として見れば成立していると言えるし、神にあだなす化け物を製造する目的で依代を三体にしたのであればそれは理に適っているのかもしれない。が、その化け物を生きた胎児として誕生させる段階で失敗しているのは、胎児=赤子は男女の交わり、つまり二者の和合によって生まれ出て来る存在だからであり、聖母マリア処女懐胎にしても聖霊によって身ごもっていることから考えれば、聖霊とマリアの二者が和合してイエス・キリストが誕生したと解釈することが出来る。

要は何が言いたいかというと、二者だから和合が成立するのであって、三者では成り立たないということだ。今一度思い返すと、「天使様」の儀式で依代となった三体の胎児は父と娘の近親相姦の末に生まれた者たちである。一見すると父と娘の二者だから表面的には和合しているように見えるけど、これは近親相姦なので実際はそこに母親の血も混じって三者の和合となっているのだ。三者の和合という歪みによって生まれた三体の胎児の魂、その不調和こそがこの儀式の失敗の原因ではないか…というのが私なりの考察だ。

仮に近親相姦でない胎児を利用したとしても、未熟な胎児の魂を一度に三つもこの世に誕生させる訳であって、三人がそれぞれ他の二人よりも先に生まれ出ようと競い合うからあのように頭が異常に大きくなった歪な胎児として生まれ出たのかなと、そんな想像も膨らんだ次第である。※4

 

※4:この想像には一応理由がある。今回の赤子の化け物を見て私は「舞首」を思い出したからだ。

鎌倉時代三人の武将が口論の末斬り合いとなって互いに首を切り落とし、三つの首が海へと落下。三人の魂は怨霊と化し成仏することなく死後も海上で争っているという話が『絵本百物語』に記されている。赤子の魂が互いにいがみ合って生まれ出ようとした発想は、この「舞首」の話から連想されたものである。

舞首 - Wikipedia

 

さいごに

ということで今回は「受胎告知の家」における儀式(呪法)を徹底的に分析したが、旧Fトンネル戦以上にマニアックな解説となったので正直これを読んだ方に内容というか趣旨が伝わっているのか不安なので、わからない・理解出来なかった点があればコメントを送っていただけるとありがたいです。(…汗)

 

それにしても、この家って良いことも成就しないけど悪いことも成就しないという意味でも地獄のような場所だよね。獣のような赤子の化け物が「天使様」になるという起こりもしない奇蹟を信じて、いつまでもこの化け物を飼い続けていくという無間地獄。その歪みを誰も正せないままあの場所で終わりのない歪んだ日常を過ごしていくというおぞましさもあったなと思ったよ。

ところであの父娘に呪法を授けた男、確かH城址に呪物を仕掛けた一派の一人だったけど13話で「力を濃くした御身体を揃えて、御霊を待たねばならぬ」と言っていたから、「天使様」もその計画の一端であり、「リョウメンスクナ」以上の生きた呪物を生み出すことが目的だったとすると、やはりあの呪法は欲張って色んな要素を盛り込み過ぎたキメラのような呪法だというのが私の評価であり、特に西洋のキリスト教の要素が裏目に出ているなと感じた。

 

今回は詠子の絶体絶命的窮地を描いて物語は一旦終わったけど、流石にここで死んだら話が続かないしメタ的に考えたら命は助かるだろうけど、大事なのは結果じゃなくてそこに至るまでの過程にあるのは髑髏本尊の儀式と同じなので、次回はその辺りも見逃さずに言及していきたいね。