タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

ゲゲゲの鬼太郎(6期)第59話「女妖怪・後神との約束」視聴

後神と妖怪サボテン

 後神は鳥山石燕の『今昔百鬼拾遺』に描かれた妖怪。臆病神の類で背後から髪を引っ張り恐怖を煽る。村上健司氏は「後ろ髪を引かれる」という慣用句から生み出された石燕の創作妖怪ではないかと推測している。

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原作では妖怪サボテンを使って老人と子供の一家を乗っ取ろうとした妖怪。後神をサボテンと組み合わせようとした水木先生のセンスには改めて脱帽させられる。

アニメでは1・3・4・5期に登場。比較的シリーズ中では地味な作品だと思っているが、こうやって各期で映像化されているということは、鬼太郎シリーズを語る上で外せない作品の一つであるということだろう。

ではどういう点で外せないのか、と考えてみたのだが、やはりこれは日本妖怪らしいシンプルな不気味さを表現出来る話として外せないのではないかと思う。絵のタッチでマイルドになっているが、「人が行方不明になった一軒家。でも家には誰かがいる気配がある」というプロットは完全に幽霊屋敷ホラー。バトルがメインとなる動的な話では妖怪の脅威という怖さがあるが、後神の話はそれとは対称的に静的な怖さを演出している。

今更言うまでもなくゲゲゲの鬼太郎は基本バトルものであり、妖怪との戦いに重点がおかれている。原作の「後神」にしてもバトルをしていることはしているが、それを担うのは妖怪サボテンであり、後神自体は鬼太郎をやっつけられる様な特殊能力は無いのだ。妖怪サボテンは戦力であり、家の乗っ取り計画という頭脳部分は後神が担っている。つまり、後神は鬼太郎シリーズの中で知能犯の部類に属するのだ。

 

ヤンデレ後神

 今回の脚本を担当した長谷川氏が上で述べている通り、今回の後神はこれまでの後神回の諸要素を巧く取り入れた物語となっている。具体的に各期のどの部分をどんな形で取り入れているのか分析していこう。

まず注目すべきは、ねずみ男が空腹でヨロヨロ状態の時に入り込んだ部屋に用意されていた「雑炊」。これは1期に登場したアイテムであり、1期でも人のいない家で雑炊がふつふつと煮えていた。

そして今回のメインプロットとも言える「後神と人間の恋」は3期を継承したもの。3期では人間と恋に落ちた後神(すっごい美人)が行方不明になった恋人を待つため、かつて恋人と語った「緑色の三角屋根の花屋」を乗っ取ろうとしたという、ちょっと切ない物語。妖怪サボテンの弱点である「内部中央の茎」も3期からとったものだろう。

4期の要素は、見た限りでは妖怪サボテンが二足歩行で襲い掛かってきた場面くらいだろうか。4期の後神回はほぼオリジナルの展開で、座敷童子の住む家を購入した一家に後神は妖怪サボテンを送り込み、妖怪サボテンに喰わせることで人間の生気を得ようとしていた。自分のテリトリーである影の世界に鬼太郎を引きずり込んで苦しめるなど、原作の後神よりも強い能力を持っている辺りもオリジナル性が強い。

そしてまなの友達の家族が妖怪サボテンに飲み込まれていく展開は5期のホラー性を継承している。いつの間にか背後にいる後神、一人ずつ飲み込まれていく一家の様子は正にジャパニーズホラー。6期が出てくるまでは間違いなく5期の後神回が最も怖かったと言える。

 

では6期後神回のオリジナリティはどこにあるのか。これは今更言うまでもなく後神が結婚詐欺にハマってしまった点だ。3期は恋人が事故死により帰らぬ人となっていたという悲しい結末だったが、今期はそんな単純な悲恋物語にさせないのが"6期らしい"というか何というか。結婚詐欺にハマっただけならともかく、帰らぬ恋人を待つために連続して家を乗っ取る後神の狂気が描かれているのが凄まじい。

ところで、結婚詐欺と言えば、昨年放送された第24話「ねずみ男失踪!? 石妖の罠」を覚えているだろうか?

tariho10281.hatenablog.com

この回では妖怪が人間に対して詐欺をはたらいていたのだが、今回の結婚詐欺師である三田村と比べてみると、同じ結婚詐欺師でも違うなと感じた。

石妖の場合は、人との正しい関わり方を知らない妖怪故に、詐欺を行っていたという感じがそこはかとなく漂っていたが、今回の三田村の場合は単純に金目当て。妖怪を騙していたのだとわかり、その場でもう女性を騙さないと約束するも、そこは常習犯の性なのか、喉元過ぎれば熱さを忘れるというものか、またすぐに結婚詐欺を行っていた。

 

それにしてもである。結婚詐欺に遭い、相手に恋愛感情が無かったとわかっていてもどうして後神はそこまで三田村に執着するのだろう。これはあくまで推測だが、この執着は初恋というのが大きく関わっているのではないだろうか。

初恋というのはたとえ失恋に終わったとしても初体験という点では貴重なものに変わりはないだろう。殊に、恋愛というものにほぼ無縁な妖怪からしてみれば、それは人間以上にかけがえのないものなのかもしれない。人の背後にいるのが常である後神ならば尚更のこと。面と向かって一緒にいられる人がいるというのは、正に運命的な事なのかもしれない。それが金目当ての詐欺師であった…としてもである。

でも良かったじゃないか。三田村が約束破ったおかげで、一生取り憑くことが出来た訳だし。鬼太郎に退治された後に見せた不穏な笑みは、もしかすると彼が約束を破ることを信じていたから笑ったのかもしれない。

 

さいごに

放送時のTLを見ていたら、思いの外、後神好きな人々がいることに驚いた。割とマイナーな妖怪だから人気無いだろうと思っていたけど、結構マニアックに後神を愛でる人がいて思わぬディスカバリーを得たタリホーだった。

 

 

次回登場する妖怪はぶるぶる。ぶるぶるも後神と同様、臆病神系の妖怪だが、5期で登板しなかったため、今期でどのような活躍をするのか楽しみだ。

個人的にタリホーイチオシ妖怪の一人だぞっ ♪