タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

ゲゲゲの鬼太郎(6期)第90話「アイドル伝説さざえ鬼」視聴

 

さざえ鬼

ja.wikipedia.org

中国の『礼記』によると、雀は海中に入りハマグリとなり、田鼠はウズラに化けるとのこと。それならばさざえだって鬼になるだろうと鳥山石燕が『百器徒然袋』に描いたのがこの妖怪。そのため創作妖怪だと思うかもしれないが一応伝承も残っていて、房総半島には女に化けたさざえ鬼が宿泊先の亭主を取る(または殺す)話があり、また和歌山県の波切には美女に化けたさざえ鬼が自分を犯そうとした海賊たちの睾丸を食いちぎったという話が残っている。

ちなみに海賊の話にはオチがあって、食いちぎられて睾丸を失った海賊たちは、自分たちの睾丸を取り戻すべくさざえ鬼に莫大な黄金を渡した。つまり、「キンをキンで買い戻した」という訳である。

アニメでは1・3・4・5期に登場する定番の妖怪だが、各期のキャラ設定等については後述することにして次はこの妖怪を。

 

人魚

ja.wikipedia.org

洋の東西を問わず全世界で語られる半人半魚の妖怪。とはいえ、西洋ではその歌声と美貌で船乗りを魅惑し難破させてしまう魔性の妖怪としての性格が強い(映画「パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉」に出て来た人魚とかが正にそんな感じ)。

一方東洋では人魚の肉が不老不死の薬となる言い伝えがあったり、疫病・津波を予言するといった瑞祥の妖怪としての色が強い。人間を魅惑する必要がないせいか(一部例外はあるにせよ)西洋の人魚に比べると美人ではないし、人面魚に近い見た目のものが多い(腰から下ではなく首から下が魚)。

鬼太郎アニメではさざえ鬼の回に登場するが、3期ではさざえ鬼の回以外にも鬼道衆や磯女の回で登場する。また5期ではさざえ鬼の回に人魚は登場しないが、後に準レギュラーとしてアマビエが登場。かわうそとの名コンビぶりが板に付いていた。

 

食べるより、食べられたい

『ゲゲゲの鬼太郎』第90話「アイドル伝説さざえ鬼」より先行カットが到着! 鬼太郎がアイドルデビュー!?の画像-8

©水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション

今回の物語に入る前に、各期のさざえ鬼について振り返る。鬼太郎を食べるというのは共通しているのだが、その目的や話の展開については微妙に差異があるからだ。

まず1期は原作通り鬼太郎を食ってより強い神通力を得ようとするのだが、目的は同胞が人間に食われたことに対する復讐であり、鬼太郎を食べた後にさざえの殻を集め、そこに人間を封じ込めて「人間のつぼ焼き」にして食べようとするオリジナル展開が待ち構えている。

3期はほぼ原作通りだが、動機だけが違う。鬼太郎を食べようとした動機は公害による海洋汚染で病気になってしまった身体を治すためという切実なものであり、それを知った鬼太郎は公害をまき散らす工場にもお灸をすえた。そういう経緯があるため、3期のさざえ鬼は後に鬼太郎の仲間妖怪として何度も鬼太郎のピンチに駆けつけている。

4期は話の展開も鬼太郎を食う動機もほぼ原作通り。ただ、300年間人間に食われず生き延びたせいか、生に対する執着が凄まじく、鬼太郎に退治されてもなおその執着が消えることはなかった。

5期になると粘液で相手の攻撃を無効化するオリジナルの技だけでなく、美食家で金持ちという設定が追加される。海底に豪邸があり、潜水・空中飛行が可能な船を所有しているなど、桁外れのリッチマン。美食の追求のため鬼太郎をリサーチし、猫娘を使って鬼太郎をおびき出そうとした(だから人魚は出てこない)。

 

復讐・病気治療・延命・美食探求…。各期によって異なる動機だが、今期では「食べられるために食べる」という前代未聞の動機が飛び出す。

食物連鎖の荒波を乗り越え、ようやく人間同様食物連鎖の頂点に君臨することが出来たさざえ鬼がまさか食われることを目的に鬼太郎を食うなんて、そんな展開どうやって予測出来るんだよ!!

 

で、なぜそんな突拍子もない動機になったかというと、回転寿司ではツブ貝やホタテなどの貝類が寿司ネタとして人気なのに対して、さざえは寿司ネタにすらしてもらえないという一種の「寿司ネタ差別」が原因。だから魅力ある食材としてアピールしようと鬼太郎に化けて鬼太郎をおびき出し、よりパワーアップすべく鬼太郎を食べようとしたのだ、というのがさざえ鬼の目的。

…ここにきて多様性という6期最大クラスのテーマが、こんな馬鹿馬鹿しい差別につながるとはね。なんつー思考回路だ。

 

この突拍子もない思考回路はさざえ鬼だけでなく人魚にもあったようで、かつて不老不死になる食材として崇め奉られた人魚が昨今の医療技術によって日の目を見なくなり、アイドル活動により復権を目指そうとするのも、だいぶぶっ飛んでる。

画像

©水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション

「いやいや、食べられなくなったんだから逆に万々歳じゃねーの?」と思うし、「そんな形で目立って食われたら元も子もないのでは?」と思うのだが、こういった思考回路になってしまうのは、さざえ鬼も人魚も消費されることで存在意義を見出すもの」たちだからかもしれない。

ここでいう「消費」が物理的なものなのか精神的なものなのか、そこまで深く追究する話ではないだろうが、アイドル活動をするのだから精神的にも「誰かのものになりたい」という願望はあるのだろう。アイドル活動って、言ってみたら「自分の魅力を切り売りする商売」みたいな所はあるからね。実績・業績を残して誰かの記憶に残すというよりは、自分そのものの血と肉を以て誰かの記憶に残したい、みたいな?そういう一面があると思うんだ。

 

タリホー的夢判断

画像

©水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション

さーて、もう今回の話を見た方ならわかるが、一連の事件は全て鬼太郎の脳内で起こったことであり、すべては。序盤と終盤のみ現実であったがあとは全くの空の空。だから上記で述べたような「消費されることで存在意義を見出す」云々も空虚な戯言になってしまうのかもしれない。

でもそんなことを言ったら妖怪だって本来実体がなく存在するかどうかも怪しい空虚なものでしょ?それを無理やり見ようとして形にしたり意味を見出そうとするのが面白いし、事実原作者の水木先生もそうやって様々な妖怪を形にしてきた。

そんな訳で、今回の突拍子もないこの展開に無理やり意味を見出してみようと思う。あくまでこれから書くのは私なりの「お遊びとしての回答」に過ぎないのであしからず。

 

※以下の夢判断はこちらのサイトを参考にさせていただきました。

dreamusic7.web.fc2.com

 

・鬼太郎の偽物が出てきてアイドルデビュー

【アイドルタレント】:自分が作り上げた価値あるもの、実際には価値がなくても自分にとっては重要なもの、自己の中にある無感覚な“死んだ”部分

【偽物】:騙された気持ち、本物が別にあると感じている状態、代役、まやかし、犠牲

【異性から逃げる】:愛や性に対する不安感

→鬼太郎の偽物(=もう一人の自分)がアイドルとして人気があるのは、無意識に自分自身の男性としてのセックスアピールを感知しているのかもしれない。でも意識的な自分はそういうものの扱いに慣れておらず、それが女性に対する素っ気なさとして出てしまうのだろう。現につい最近それを示すような話があったからね…。

tariho10281.hatenablog.com

 

・さざえ鬼と人魚による一連の騒動

さざえ≒【貝】:秘密、潜在能力、頑なで内気な心、心が傷付けられることを避けるための防御、今の自分のあり方を守ろうとする態度、沈黙

【人魚】:無意識な自己と覚醒している自己を深い力で結びつけるもの、女性らしさ男性らしさの無意識的イメージ

【偽物と向き合う】:人に自分の本音を知られたくない気持ち

【食べられる】:自らの衝動に呑み込まれてしまうこと、性衝動に負けそうな状態

 →さざえ鬼やら人魚やらが出て来たのは、単に生もので食中毒にあたった影響(海の連想)なのかもしれないが、もしかすると精神世界において閉ざされた自分の才能(セックスアピール)を現実世界でもフル活用させるべきなのか、それともやめておくべきなのか。そういう一種のせめぎ合いの具現化かもしれない。

あとは、ぬらりひょんが掲げる「妖怪の復権も夢物語の形成に影響していると思っている。さざえ鬼も人魚も自分たちの地位を取り返すべくアイドル活動をしているのだから、今回の夢物語はぬらりひょんとは別の方法で「妖怪の復権」を目論むものを描いたと言えるだろう。

 

・アイドルデビューの始末をつける羽目になる

→偽物の鬼太郎=さざえ鬼は「鬼太郎が隠しておきたい潜在能力」の象徴。それが退治され、その後始末を提言してきたのは鬼太郎自身ではなく、目玉おやじ猫娘といった外側からの圧力。実生活でも目玉おやじ猫娘は鬼太郎に対して恋愛的な焚き付けをこれまでに何度も行っているのだから、それに対する鬼太郎の苦悩がこの場面の意味ではないだろうか?

 

以上を総括すると、今回の夢は「鬼太郎が抱えるセックスアピールに対する葛藤の物語」と言えるのではないだろうか?

アイドル要素を抜けば展開はほぼ原作通りにもかかわらず、アイドル要素と夢オチによって奇妙にもこういう解釈が出来てしまうのだから、ホント面白いよね。

 

さいごに(雑感)

・今回の脚本を担当したのは野村祐一氏。去年の木の子回以来、実に9ヶ月ぶりの脚本回だ。

 もしかしたら6期の序盤で放送されていたかもしれないこの物語、お蔵入りで寝かしておいて正解だったと思う。物語としての積み重ねのない序盤でこんな話を出したらただのカオス回止まりだったし、上記の様な夢判断も出来なかった。

でもこうなってくると他にも「お蔵入り脚本」があるのかちょっと気になるな。DVDのブックレットとかで明かしてくれないだろうか。

 

・今回の物語を「鬼太郎らしくない」と思った方もいただろうが、題材を一つ一つとってみると水木作品にも同様の趣向があって、例えばねずみ男が鬼太郎を解体する場面は原作「赤舌」でも見られるし、妖怪を食材とするアイデアは「さざえ鬼」だけでなく「妖怪危機一髪」にもある。「妖怪危機一髪」はスゴイよ、妖怪がソーセージになってホットドッグとして売られるんだもの。

更に言えば今回の夢オチも前例があって鬼太郎の登場しない短編「マンモスフラワー」で見られる。ただしこちらの夢は貧乏人が抱える切実な夢物語だけどね。

 

子泣きじじいが登場したにもかかわらず一切言葉を発しなかった理由を夢判断的に解釈するなら、

子泣きじじい」→「石になる能力を持った妖怪」→「石=無機物」→「無機物は夢を見ない」→「無機物は夢に介入出来ない」→「子泣きじじいは夢の鬼太郎に話せない」

という具合に発想が移っていき、この物語が夢である伏線として一切言葉を発さない立ち位置になったのではないだろうか?

 

 

次回は2期の名作群の一つアンコールワットの亡霊」のリメイク。脚本を担当するのは勿論このお方。