タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

「名探偵津田」シリーズ、エンタメとしての可能性とミステリとしての限界・希望

どうも、タリホーです。

先日「水曜日のダウンタウン」で放送された名探偵津田の第二弾を見ました。

ざっくりとした感想は Twitter の方で述べたし面白かったのは間違いないけど、「あ~面白かったな」だけで終わらせずにもっと語っておきたいことがあるので、ここに記録として残しておこうかと思う。

 

一応知らない人のために説明するが、「名探偵津田」という企画は今年の1月に同番組内で放送された「犯人を見つけるまでミステリードラマの世界から抜け出せないドッキリ、めちゃしんどい説」から生まれたものであり、お笑い芸人のダイアンの津田さんが何も知らない状態でロケ撮影に参加。そのロケの途中で殺人事件(もちろんフィクション)が発生し、ここで津田さんはこのロケがドッキリ企画だと悟る。

普通ならここでドッキリが終わる所を、この企画では津田さんが探偵役として殺人犯を見つけるまで終わらないようになっており、事前に知らされない状態でいきなり謎解きをさせられる津田さんの一挙手一投足がこのドッキリ企画の見所となる。

 

1月に放送されたドッキリ企画は蓼科のペンションを舞台にしたかまいたちの夜」テイストの連続殺人事件で、(実際は何も起こってないのに)外部と連絡がとれなくなり洪水でペンションの外に出られなくなった、クローズドサークル下での謎解きを津田さんは行うのだけど、最初は「何でオレが犯人探さなアカンの?」みたいな感じで渋々謎解きをさせられていたのに、徐々に手がかりが集まっていくと推理を嫌がるどころかむしろ前のめりになっていてその様子が本当に面白かったし、最後はノリノリで「犯人はあなただ!」って言っていたのが印象的だった。

 

この企画は、元々謎解きミステリに全然興味がなく、それほど頭が切れる人ではない津田さんを探偵役に配置しているというのが絶妙なポイントで、仕掛け人である登場人物(事件関係者)はミステリドラマでは定番の言動をとるのに対し、津田さんは何も知らないゲームのプレイヤーとしてドッキリに参加しているため、ミステリ経験値がないからこそのリアクションだったりツッコミが私としては新鮮かつ笑撃的で「これは続編見たいな!」と1月の時点で思っていた。

そんな視聴者の期待が届いたのか、今月11月に第二弾が発表され、引き続き探偵役を津田さんがすることとなった。まだ見てない方はTVerで配信されている(11月22日まで)ので是非見てもらいたい。

 

(以下、第二弾の事件のネタバレあり)

 

第二弾を見てわかった「ミステリ的な問題点」と「希望あるサブ探偵」

今回放送された第二弾は、長野県の山村を舞台に村に伝わる手毬唄になぞらえて村人が殺されていくという横溝正史の『悪魔の手毬唄』さながらの事件となっており、第一弾は30分程度の放送だったのに対し、今回は二週にわたって放送されるという質量共にスケールアップした見応えのある企画となった。

 

まず今回の事件はプロットが第一弾よりも練られているなと前編を見て思う。前編は「村に到着→第一の事件(村長殺し)→手毬唄を聞く→第二の事件(長男殺し)→第二の探偵・みなみかわの登場→東京の事件(次男殺し)」という流れで進むのだが、第二の事件が起こる前に手毬唄を視聴者にも提示させておくことで、第二の事件が起こった際に違和感を生み出しているのが巧妙。

手毬唄の二番では二匹の子狸が毒を盛られて死ぬ」という歌詞なのに対し、毒殺されたのは村長の長男一人だけだった。「見立てにするなら二人死んでないとおかしいのに…?」とこの時私は思ったのだけど、その後でみなみかわさんが第二の探偵として投入された上に、別場所で村長の次男が毒殺されていたという形でこの違和感が回収された時の驚きとカタルシスたるや!ここは物語の構成として抜群に巧いなと評価したよ。

 

また今回の事件のメイントリックとなる村長殺しのアリバイトリックも本作がドッキリ企画であるという点を有効に活かしているのが秀逸だなと思っていて、ドッキリ企画の中にもう一つ別のドッキリ企画が隠されていたというメタ的な騙しを仕込むというトリックとしての面白さだけでなく、そのトリックのせいで今自分がどの世界線にいるのかわからなくなって発狂しかける津田さんが見られたのもホント面白かったな(本人は笑いごとではなかっただろうけど…ww)。

 

で、全体的にはクオリティもスケールもアップしていて確かに面白かったのだけど、一方でスケールアップしたからこそ浮き彫りになった企画としての問題点、特にミステリとしての問題点についてここからは語っていくが、やはりこの企画はドラマではなくドッキリなので、当然ながら津田さんに謎を解かせないといけないし、あまり込み入ったトリックだったり専門的な知識を使えないというのがネックである。まぁ今回の毒キノコの伏線みたいに事前に津田さんに知識をインプットさせる手段はあるかもしれないけど、果たしてそれをちゃんと記憶していて思い出せるかとなるとそこは賭けになってしまうから、その辺りの仕込みだったり誘導がシリーズを続けていく上での課題点になっていくと思う。

 

このトリックを複雑に出来ないという問題点は今回の事件では解決パートで如実に表れているのだが、犯人を推理する手がかりとなったのはメイントリックとなる村長殺しと次男が言っていた「じいさんに気を付けろ」というこの二点だけで、それ以外の出来事、特に第二の事件の毒殺は、そもそも長男が飲んだお吸い物のお椀にどうやって毒キノコを入れたのかが全然解き明かされていない。席順は偶然なのか予め指定されていたのか不明だし、全部のお椀に毒を仕込んだら無関係な人まで死んで見立てが成立しなくなるのだから、この謎がうやむやなままスルーされているのは、津田さんがそれを推理して解決パートでキチンと説明出来ないとスタッフが判断したからスルーしたのかなと個人的には思った(もしかしたら尺の都合でカットされただけで謎解きはあったのかもしれないけど)。

あと村長殺しのアリバイトリックに関することだけど、実際の殺害現場が村長宅ならば村内放送を行った電柱に付いていた血痕(血だまり)は犯人がいつ付けて、死体からどうやって血を採取したのかという謎も放置されている。後で警察が捜査するのだからまさか動物の血で偽装したとは考えられないし、あれだけの血が付いていたのだから血を採取する容器はどうしたのかとか、そこもミステリ好きとしては凄く気になる部分なのだ。

 

じゃあ結局探偵役が津田さんだからあまりミステリ面を凝った作りに出来ない、詰めの甘い作品にせざるを得ないのかというと、私は必ずしもそうではないと思っていて、これはこのドッキリの企画より前、普段ミステリ小説を読んでいた時から考えていたことなのだが、名探偵を成立させるためには名犯人が必要、つまりは犯人役の役割も結構重要になるのだ。

特に解決パートにおける探偵役との応酬が出来ないと探偵役である津田さんも順序立った推理が披露出来ないと思うし、「私には〇〇の時間にアリバイがあるんですよ!」とか「でもこの現場には□□という証拠があったじゃないですか?」「では何か私がやったという証拠があるのですか?」という感じで次に探偵役がどのような推理を展開させ、何を言えば良いのか誘導していけるような台詞を決め、犯人役がそれを言えるように事前に準備しておかないといけないのではないだろうか。

これは津田さんやみなみかわさんの推理・捜査をサポートしていたADの女性と同じくらい役割としては重要だと思っているし、それだけに事件の流れやトリックを把握しておかないといけないという点で難役だ。しかもドラマと違い撮り直し・やり直しは無理なので、記憶力と即興性が求められる。今回の犯人役の方は「マイタケに似た毒キノコ」「猛毒に似たマイタケ」と言い間違えてたけど、これを間違えるようでは犯人役としてはちょっとな…って、そこはスラっと言えないとダメでしょうに。

 

まぁこんな感じでバラエティ番組なのでどうしてもミステリ面では勿体ないと感じる部分はあったし、医者の誤診オチ※1もこれが本格ミステリならば完全にアンフェアになるため本当はマイナスポイントとして挙げても良かったのだけど、それでも先月の10月に日テレで放送された「THE MYSTERY DAY」※2に比べればかなり高度なことをこの番組はやっていた。ミステリとしても圧倒的にこちらの方が面白い出来になっていたので私は「名探偵津田」シリーズはこれからも続いて欲しい企画として応援したい。

それに、今回は問題点も浮き彫りになった一方でそれをクリア出来る希望となる存在も出て来ている。それが他ならぬサブ探偵のみなみかわさんだ。これはメインの探偵として謎を解く必要がないという気楽さがあったという事情もあるのだろうが、みなみかわさんは津田さんと比べて飲み込み・理解力も早い方だし、犯人役の台詞間違いにもいち早く気づいた人だから、このサブ探偵の存在をもっと有効活用すればトリックを難しくしても企画としては問題なくやれるのではないだろうか?

例えば、今年の7月~9月にかけてテレ朝系列で放送されたドラマ「ノッキンオン・ロックドドア」みたいに、探偵を分業体制にする。つまり、一人の探偵に事件の全てを解決させるのではなく、津田さんは事件の大枠部分を説明し、みなみかわさんがトリックだったり証拠といった細かいポイントを押さえた説明をするという形で負担を分散させれば、企画として探偵役が行き詰まる可能性は低くなるし、ミステリとしてより質の高いものを作れるのでは…?と考えている。

 

※1:医者の誤診オチについてはディレクターの藤井健太郎氏が「面白さが優先」と述べている。

誤診オチを回避させようと思ったら脇にゴムボールを挟んで脈を止めるというトリックがあるので、村長がそれを使って死を偽装したという筋書きにしても良いのだが、専門的知識な上にそれを津田さんに推理させるのはかなり難しいので、誤診オチにしたのは妥当と言った所だろうか。

※2:日テレの犯人当てミステリー「THE MYSTERY DAY」にうんざり&ガッカリした理由 - タリホーです。

 

さいごに(次はどんな「名探偵津田」が見たいか)

Twitter の方で既に言及したけど第三弾があるとしたら、ベタに孤島を舞台にした事件や「金田一少年の殺人」みたいに津田さん自身が殺人事件の容疑者として追われるドッキリ、何かしらの事情で部屋から出られず現場に行かないで推理する「安楽椅子探偵」形式のドッキリなんかが面白そう。(「水曜日のダウンタウン」、結構監禁系の企画あるからね)

あと「古畑任三郎」みたいに倒叙ミステリ形式の「名探偵津田」があっても良いと思う。津田さんはそのままいつも通り探偵役をやって、犯人役は芸人の誰かが番組側が用意したトリックを実行して、その後はアドリブで津田さんの推理を妨害したり、犯行を隠蔽する行動をとる。これだったら犯人役がポンコツでもバラエティとしては面白くなりそうだし、賞金を懸けて対決形式(津田 VS 犯人〇〇)にすればそれはそれで別の新たな企画として生まれ変わる予感がする。