タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

日テレの犯人当てミステリー「THE MYSTERY DAY」にうんざり&ガッカリした理由

昨日、日本テレビが開局70周年特別番組として「THE MYSTERY DAY」という視聴者参加型の犯人当てミステリードラマを放送した。

 

総額1000万円の賞金が懸けられた犯人当て企画、こういった賞金付きの推理ドラマはかつて朝日放送でシリーズ化した安楽椅子探偵という前例があり、今回のドラマも「安楽椅子探偵」ほどではないにせよ、懸賞金が付いてくるのだからまぁそれなりにちゃんとした犯人当てミステリーなのだろうと(あまり期待はせずに)視聴した。

 

ストーリーは、将来総理大臣として有望視されている政治家の夏目恭輔(小栗旬)が何者かに誘拐される所から始まる。犯人は監禁動画をネットに流し、2週間後に彼を殺すと予告。この誘拐事件をエリートだが刑事としては無能の戸隠九十九(ユースケ・サンタマリア)と猪突猛進型の警察官・安藤花恵(川栄李奈)が捜査するというお話。

都内で同時期に起こっていた通り魔殺人カサブランカ X」事件有名人の連続失踪事件が絡んだ複雑な物語としてドラマは展開していき、番組ではこの一連の事件における黒幕は誰か、ドラマ放送中に視聴者に投票を促していた。

 

「犯人」ではなく「黒幕」という表現をしているのが何かクサいな~と思い、この「黒幕」というのは夏目を誘拐した実行犯とは限らない、つまりは夏目自身が黒幕であっても別におかしくはないと思い、私は小栗さん演じる夏目を黒幕として疑っていたのだが、ではこのドラマの真相はどうだったのか。それについては以下の文でネタバレありで感想を述べていくが、今回のドラマは犯人がどうとか黒幕がどうとかそれ以前の問題としてちょっと言及したいことがあるので、単純に今回のドラマが面白かった・楽しかったと思った人は、ここから先の文は読まない方が良いかもしれない。記事タイトルにもあるように、マイナスな意見・批判的な意見を書くのでね。

 

(以下、ドラマのネタバレあり)

 

ミステリーをプロパガンダの道具として使われた感

まず結論から言うと、当初の予想通り誘拐事件の黒幕は誘拐された夏目自身であり、「カサブランカ X」事件の犯人を偶然目撃しさらわれ、犯人の動機を聞いて逆にそれを利用して誘拐事件をでっち上げたというのが真相だ。そこに模倣犯だったり事件に関する誹謗中傷を真に受けた人物による殺人などが絡まったことで複雑な事件となった訳だが、犯人当てミステリーとして放送した割に黒幕が全然意外でもないし、黒幕につながるヒントも全くない。何より、さらわれたのは偶然なのだからヒントなど出しようがないのだ。

 

もうこの時点で謎解き・犯人当てミステリーとして完全に破綻しており単なる博打ドラマになっているのが不満ポイントの一つだが、これ以上に私がうんざりしたのは本作の事件の犯行動機がネットの誹謗中傷による二次被害という点だ。この誹謗中傷をネタにしたドラマは、今年だとTBSで4~6月期に放送された「ラストマン-全盲の捜査官-」で誹謗中傷が原因のバスジャック事件を描いていたし、日本テレビでも2019年にドラマ「3年A組 -今から皆さんは、人質です-」で既に誹謗中傷ネタのサスペンスをやっていたのだ。10年前ならまだしも、4年前に同局のドラマでやったネタを70周年の開局記念の特別番組でまたやっているのだから、二番煎じも甚だしいしそこにうんざりとさせられたのだ。

 

一応断っておくと誹謗中傷による自殺や殺人は社会問題として取り上げられるのは今の時代だと当然であり、そういったデマや根拠のない憶測を拡散したユーザーは罰せられるべきだと思うし、そういうメッセージ自体を否定するつもりは全くない。問題はその扱い方なのだ。

今回の場合、犯人当てミステリーとして題した以上、まずは犯人当て・謎解きミステリーとしての面白さを重視して欲しかった。エンタメとして犯人特定の伏線や手がかりを張った上で誹謗中傷が原因の殺人だと明かす内容であれば、私も文句は言わなかったし素直に「面白かった!」と言えたのだ。しかし、今回のドラマではメッセージありきでドラマが作られたという印象が拭えないし、1000万円の賞金を付けたのも普段こういったドラマを見ない人に金をチラつかせてこのメッセ―ジを届けるという下品な思惑が感じられる。

 

要は、ミステリーという物語のジャンルを「誹謗中傷はダメ」というメッセージを伝えるための道具、それもプロパガンダ的な形で利用されたということに私はもの凄い不快感というかムカつきを覚えたのだよね。誹謗中傷が良くないことを伝えたいのであれば、ドキュメンタリーとか別の報道番組とか方法はいくらでもあるし、ミステリーとして題したのであれば、まずは前提として謎解き・犯人当てとしての面白さを優先させる。そこを達成しないでメッセージありきのドラマを作るというのは、いくらそのメッセージ性が倫理的・社会的に正しくとも、それは所詮程度の低いプロパガンダに過ぎないと、敢えて辛辣な言い方をするがそうハッキリと断言しておく。

 

作品にメッセージを込めるのは大事なことだけど、それはあくまでも作品としての面白さが前提としてあるからそのメッセージ性が後々視聴者に響く訳であって、最初からそういう物語として描くと貧相になってしまう。かの巨匠チャップリンの映画「独裁者」や「モダン・タイムス」も喜劇として物語が描かれているからこそ、その下地にあるメッセージが見終わった後に視聴者に響くのであって、メインとなる喜劇要素をいい加減に作っていたら恐らくあれほどの傑作・名作にはなっていなかったのではないかと思う。

まずはメッセージの力ではなくエンターテインメントの力で視聴者の心をつかむ。そこをいい加減に作ったドラマ・映画は単なる演説・プロパガンダの動画に成り下がってしまうというのが今回の「THE MYSTERY DAY」に対する個人的な意見だ。

 

ちょうどこのドラマが放送された10月7日はエドガー・アラン・ポー の亡くなった日であり、ミステリー記念日として謎解きの面白さ、ミステリとしての意外性を大切にしたドラマを放送してもらいたかったと、正直そう思った次第である。