順当に連ドラの3話が放送されると思っていたら、まさかスペシャル回を放送するとはね。ちょっと予想外だった。
「移動する穴」(特別編)
今回は2014年に放送された「鍵のかかった部屋SP」の再編集版。2時間のスペシャルドラマを前後編に分け、今回は前編にあたる部分が放送された。
原作は『ミステリークロック』所収の「鏡の国の殺人」と、小説として発表されていない仮作品の「二つの密室」。ドラマではこの二作をミックスして、都合三件の密室事件が扱われるという贅沢さが売りになっているが、再編集されるにあたって三件のうちの一つ「密室“活人”事件」が全てカットされる形となった。
カットされた「密室“活人”事件」の真相はさほどのものではないが、密室で倒れていた老人の救急要請を誰がしたのか?という部分がユニークで、ドラマの導入部分としては非常に魅力的であり、連ドラの最終回で海外へ行った榎本が青砥と再会する切っ掛けになった事件なので、やはりカットされたことには寂しさを感じた。
再編集されるにあたって月9ドラマ「SUITS」の弁護士・蟹江貢が登場するコラボ展開が新たに追加されている。正直「SUITS」の方は全く見ていないので、このコラボの必然性は無いしいらなかったと思うが、ここでちょっとマニアックな話を一つ。
実は蟹江を演じる小手伸也さんは過去に密室殺人が絡んだミステリドラマに出演しており、その作品というのが、前回の「鍵のかかった部屋」で紹介した「安楽椅子探偵とUFOの夜」。
小手さんは江戸川雷太という刑事を演じているが、ただの刑事ではなくミステリオタクの刑事で、同じミステリオタクの刑事たちと推理談義をたたかわせていた。そして何と、劇中で起こった目張り密室のトリックを刑事仲間と共にアッサリ解決してしまうのだ!
ただし、解決したのはあくまで密室トリック。本作は視聴者参加型の懸賞金付き推理ドラマのため、犯人が誰かという謎は安楽椅子探偵という別の探偵役によって解き明かされるのだ。有名な役者を使っていない、かなりマイナーな作風だが、本職のミステリ作家が考えた犯人当てのロジックが素晴らしい作品なので、気になる方はDVDを購入してその謎に挑んでみてはいかが?
さて、今回の密室は次週放送される密室殺人と絡んだ事件で、絵画コレクションを所有していた証券会社の会長が何者かに殺害される。殺害現場は密室であり、そこに侵入した空き巣に殺人容疑がかかるが、その空き巣の依頼により密室トリックの解明と真犯人を捜す、というのが今回のあらすじ。
今回の密室はあくまでもメインとなる次週の密室の前哨戦的位置づけで、トリックも古典的な部類のものだが、ひと手間加えたことによって映像的な面白みが出ているのがポイントだろう。また、事件と並行して描かれる芹沢のストーカー事件が密室トリック解明のヒントになっているのが面白い。
(ここからネタバレ感想)トリック自体は紐を用いた施錠で、それだけ見れば陳腐な代物だが、扉を施錠するために開けた窓を別の窓から施錠し、またその窓を別の窓から施錠し、更にその窓を…という「穴をズラしていく」手法に思わず苦笑。「困難は分割せよ」とは言え、ここまで手間暇のかかるトリックを作っておきながら犯人の思惑通りにならなかったというのがある意味犯人に対する「天罰」になっているのかも。
これだけでも十分面白いが、この手間のかかるトリックが後に出て来る「虚実入り混じる遺書」の虚の部分を明かす材料となっているのが秀逸で、榎本のロジカルな推理によって遺書の矛盾点が明かされる下りはホント良かったな~と思う。これは映像作品だから説得力があるのであって、小説で「あのトリックを用いるのに三時間かかる」と言われてもピンと来ないと思うのだ。(ネタバレ感想ここまで)