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新作放送記念、ドラマ「金田一少年の事件簿」を語っていこう(第二回:三代目・亀梨和也版)

4月から道枝駿佑版・五代目金田一による新作ドラマが放送されることになり、過去作の配信が始まった。前回は四代目・山田涼介版について語ったが、今回は原作から最も遠い金田一少年となった三代目・亀梨和也版について触れていきたい。

 

「吸血鬼伝説殺人事件」(不憫すぎるはじめ)

亀梨版金田一が放送されたのは2005年。他のシリーズと違い亀梨版はSPドラマが1本きりで、連ドラは制作されていない。これは評判が悪かったからではなく、単純に主演の亀梨さんのスケジュールが多忙を極めていたため、連ドラ制作に至らなかったと原作者は語っている。実際、放送当時の視聴率は18.6%を記録しており、これは二代目・四代目の視聴率を超えているのだから、一定の支持があったことは間違いないだろう。

冒頭に「原作から最も遠い金田一少年」と述べたが、本作の金田一はじめの設定は所属する部活動(ミス研→陸上部の幽霊部員)、ビジュアル、性格(祖父に対してのコンプレックス)と、これまで映像化された金田一少年の中で最も原作イメージからかけ離れており、もっと言えばヒロインの七瀬美雪や剣持警部も原作とは異なる性格・価値観の人物として改変されている。

 

個人的にはじめのキャラ改変については別に悪いとは思っていない。だって、本家の金田一耕助も初めて映像化された時はトレードマークのお釜帽や袴姿ではなく、スーツ姿で美人秘書を横に置いた西洋風の探偵だったのだからね。原作通りの見た目の金田一が映像化されたのは市川崑監督の「犬神家の一族」で石坂浩二さんが演じた金田一が初であり、それ以降映像化された作品でも様々な金田一耕助が誕生している。だから金田一はじめだってその時々の制作陣のアイデアで改変すること自体全然OKだと私は思うのだ。

 

むしろ個人的に今回不満なのは美雪と剣持が負傷した際、はじめに推理で犯人を見つけることを半ば強いて、消極的な態度をとった彼を責めたてた所だ。推理能力があるにも関わらず逃げの姿勢をとるはじめを「卑怯者」だの「おじいさまが見たらがっかりする」とか言って責めるのだけど、この「能力があるから使わなければならない」論法で責める二人の何とズルいことか。いくら犯人に襲われ負傷したとはいえ、あまりにも自己中心的というか、勇気づけるのではなく非難しているのだからね。この場面のはじめが不憫すぎて、もう可哀そうだった。

それに美雪と剣持の二人は全然考えてないけど、探偵が介入することで事件が悪化するケースもあるし、はじめ自身の身が危険にさらされるかもしれない。美雪がかつてはじめに救われた時や失せ物探しとは(はじめが言った通り)全く状況が違うし、探偵だって自分の身を守る権利はある。それを臆病と罵る二人の見識をむしろ私は軽蔑したいと思うくらいだ。

 

まぁ、脚本ははじめが美雪が本当にピンチに陥った際ヒーローとして覚醒する所を描くために、序盤は女に色目を使ったりドジ踏んでワインを割ったりと、殊更にダメ男として描いているから、はじめの印象を下げてから上げる意図があっての展開なのはわかるが、あれでは美雪と剣持の印象が悪くなるし、自分のエゴを押し付けてはじめに推理させようとしているようにしか映らない。どうせ二人に責めさせるのであれば、はじめが推理力を邪なことに使っているとか、そういう設定なら納得出来たのだけどね。

 

あと二人が余計にズルいな、と思うのは散々はじめを責めて一夜明けると、「彼は彼で昔から祖父と比較されて苦労していたのかもしれない」とか言い出す所。

そう思うのなら、せめて「昨日は言い過ぎて悪かった」くらい言ってあげてよ…。

しかも剣持なんて酷いよ。はじめが犯人探す気になって剣持に協力要請した際、彼何て言ったと思う?「『お願いします、手伝って下さい』だろ」だよ。この期に及んで上下関係出してくるんじゃねぇ、これはある意味サバイバルなんだぞ。

 

と、このように美雪と剣持には不満があるものの、それ以外は普通によく出来ていたと思う。元となる原作のエピソードがしっかりとしたミステリだから、トリックや伏線などもよく出来ているし、怪人による殺人場面といった初代でも見られた演出が本作でも用いられているので、辛うじて金田一少年の世界観が崩れることなく成立していたと思うのだ。これがオカルト要素がなくただただ普通に殺人が起こって犯人はさあ誰だ、みたいな展開だったら、金田一少年ではなく別の2時間サスペンスドラマになっていたよ。だって、2時間サスペンスの常連の方が多数出演しているし、緋色景介を演じた中村俊介さんはあの浅見光彦役として長年2時間サスペンスで活躍してた方だからね。

そう考えると今回のドラマは金田一少年浅見光彦という素人探偵コラボの回でもあったのだが、終盤を除いて緋色はほぼほぼ空気みたいな存在だから、コラボ回と言ってしまうのはちと大げさな気がしなくもない…。

 

(ここからネタバレ感想)本作は血液をとことんトリックとして利用しているのが面白い点で、ある時は荷物運搬の荷重制限をクリアするための手段に用いられ、ある時は密室トリックに使われ、事件の演出としても使われる。ただ二神殺しの密室トリックについて引っかかるのは、あれだけの血だまりを踏むことなく死体を室内に運び込めるのかという点であり、しかも美雪が人を呼びに戻ってくるまでの限られた時間に運び込むことを考えると、なかなか難しい作業だと思う。

はじめが犯人に疑いをもったタオルの下りについては、流石に上野樹里さんの裸を見せる訳にはいかないので、犯人と同じくピッタリ巻いてあったが、ドアを開錠するのに時間があったという違いで違和感をもたせていたのはミステリとしては良かったのではないだろうか。(ネタバレ感想ここまで)

 

さいごに

前述したように、はじめに推理をさせるため美雪と剣持の性格描写を変更したのが一番まずかったが、それ以外の点ではミステリドラマとして良質であり十分面白い仕上がりになっていたと評価する。それに演技面に関しても、はじめを演じた亀梨さんは普段の時(事件前の日常場面)と事件に巻き込まれている時とで微妙に声のトーン(高さ)を変えて演技しているので、それも相まって三代目金田一は繊細な部分がある印象を持ったし、そこに亀梨さんの役者としての上手さが表れていたのではないかと思う。

最後に蛇足として小ネタを。剣持が持っていた扇子には四文字熟語で「精力善用」と書かれていた。これは柔道の用語で、自分が持っている力(能力)を相手をねじ伏せたり威圧したりすることに用いず、世のため人のために使いなさいという意味がある。この言葉は今回のテーマの一つであり、劇中のはじめに向けられた言葉みたいなものだが、はじめは推理力を持っていても使っていなかっただけで悪用した訳ではないから、メッセージとしては微妙にズレているような気もする。というか、むしろ剣持の方がこの言葉を守るべきでは?序盤とか普通にはじめを威圧してたし、すぐ補導しようとしてたもの。

 

次回は、二代目・松本潤版の感想をお送りする。