タリホーです。

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【ゲゲゲの鬼太郎】さら小僧(1~5期)を見比べる

ゲゲゲの鬼太郎歴代セレクション、第十四回目は「ぺったらぺたらこ」のフレーズが耳に残るさら小僧。

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さら小僧については6期の感想記事で言及したが、その時は劇中歌の「ぺったらぺたらこ」だけを比較し、物語自体の違いについては言及しなかったので今回はストーリーや演出等も見比べていきたいと思う。

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1期(水皿レンズがよりパワーアップ)

1期はほぼ原作通りの内容。60年代と言えばグループ・サウンズと呼ばれた音楽グループが人気を博した頃であり、ザ・ビンボーズもグループ・サウンズの部類に入る。

さら小僧は原作のビジュアルと違い、親しみやすさのあるカワイイ見た目に描きかえられているが、能力は原作同様水皿レンズの技を使う。ただ見た感じ原作よりも水皿レンズの威力が強く、雷雲を呼び起こす能力もあって強いことに変わりはない。

原作のさら小僧はねずみ男の臭すぎる衣服を被って発狂したということになったが、アニメではそこから水皿レンズの攻撃をまともに頭に受けてしまい、それで頭の皿が割れて発狂という形になった。この際「ノータリン」という言葉を口走っているが、これは「脳が足りない→脳足りん→ノータリン」という意味で馬鹿や阿呆を示す言葉だ。今では聞かない言葉だが、その理由はこれが差別用語だからであり、当然ながら現在テレビや報道で使ってはならない放送禁止用語になっている。

 

3期(ちょっと人間側に肩入れしすぎでは?)

3期も展開は原作と同じだが、さら小僧が河童一族のリーダー格として扱われている点や、ビンボーズのリーダーが歌謡大賞にこだわる動機など追加された要素も多い。何より3期は「ぺったらぺたらこ」ではなく「闇夜に気をつけろ」というオリジナル曲になっているのが注目すべきポイントだ。80年代は歌謡曲の黄金期と言っていいレベルで様々な曲が作られた頃だし、実際3期はねずみ男猫娘専用のキャラソングがアニメ本編で流れるといった演出もあったから、それだけ曲がバンバン量産された時代であることを踏まえれば、「闇夜に気をつけろ」というオリジナル曲を制作したのも当時の世相が大きく影響しているのかもしれない。

鬼太郎がビンボーズのリーダーの子供のためにさら小僧と戦うという点は1期と同じだが、3期の場合は特に子供から助けを求められた訳ではなく、頑張れば報われることを娘に示したいという親の動機を汲み取ってさら小僧に歌の使用を認めるよう交渉するという感じになっている。そういう人情に厚い面があるのが3期鬼太郎の長所なのだが、リーダーが盗作をしたことに変わりはないし、それで歌謡大賞をとった所で果たして娘のためになるのかという疑問は残る。だから私はちょっとこの回の鬼太郎は人間に肩入れしすぎているのが引っかかってあまり好きになれなかった。「無理が通れば道理引っ込む」ということわざがあるけど、正にこの3期さら小僧回はそれを体現した話であり、鬼太郎の「曲を歌われたくないのは、本当は自分より上手く歌われたくないからだろ」というあの一言にしても、論点をすり替えているようでねぇ。何か当事者同士が議論しないまま仲介役の鬼太郎が勝手に暴走しているみたいでイヤだったわ。

ちなみに、3期でさら小僧の声を担当したのは、何と6期の鬼童・伊吹丸と同じ古谷徹さんである。聞いただけではあまりにも違いがありすぎて気づかないよね?

 

4期(さら小僧の二面性の描き方がお見事)

1・3期はビンボーズという架空のミュージシャンだったのに対し、4期からは実際のバンドマンがゲスト出演する。ということでOPとED曲を担当した憂歌団が「ぺったらぺたらこ」を歌ってさら小僧にさらわれてしまうのだが、4期の場合はねずみ男が発端なので、歴代の中では憂歌団自身の罪は比較的軽いと言えるだろう。(ある意味騙されたようなモンだし)

これまで「ぺったらぺたらこ」は原作や1期で描かれたように独特のリズムがクセになる、テンションのアガる曲という感じだったが、4期は心に沁みるブルースとして泣ける曲にアレンジされているのが面白い(4番だけ従来通りのアガる曲調だったけど)。また、聞くと過去に逆戻りしてしまう禁断の4番があるというオリジナル設定が追加されたのも4期ならではのポイントだ。この4番は後に別のエピソードで利用されるが、それについてはまた機会がある時に言及しよう。

さて、4期は憂歌団の声を実際のメンバーが担当しており、プロの声優ではない素人ならではの独特な味わいのある喋りが印象的であったが、個人的な見所としてはさら小僧の二面性あるキャラクターを挙げたい。普段は温厚そうな感じなのに、いざ戦闘となると目の色が変わって狂暴さが出て来るという所が妖怪らしくて良かったし、一旦許したように見せかけて憂歌団に禁断の4番を歌わせるという所にも、さら小僧の油断ならない一面が表れている。4期の憂歌団は小屋に監禁されていたとはいえ、酒を飲んで割と快適にしていたから「あれ、4期のさら小僧って優しい所もあるのでは?」と一瞬思ったけど、もしかすると酒漬けにして食べるつもりで酒を飲ませていたのかもしれない、と思える余地もあって、そういう底の見えない部分に4期さら小僧の妖怪としての魅力を感じてしまうのだ。

 

5期(騒動の切っ掛けも退治のヒントも集約された「ぺったらぺたらこ」)

5期も4期と同様OP曲を担当したザ50回転ズがゲスト出演を果たしており、従来のプロット通り、曲を盗作してさらわれる。4期の憂歌団は半ば騙された形での盗用だったがこちらのザ50回転ズはビンボーズのように盗作とわかってやっているから鬼太郎も当初は助ける必要はない姿勢だったのに、病床の子供のために助けに行くというのは1・3期のプロットを踏襲している。個人的に3期は人間側の肩入れが酷かったので5期の描き方――子供のためなら嫌な接待や仕打ちにも耐える鬼太郎と目玉おやじ――には大変好感が持てた。

5期のさら小僧は同種族が複数体存在しており、水皿レンズや猛毒の小便といった特殊な技がカットされて単なる強い河童一族として描かれたのは少し勿体ないが、その分メインとなる「ぺったらぺたらこ」を有効活用しているのが5期の脚本として優れたポイントだ。原作同様バンドのメンバーがさらわれる切っ掛けとなる曲であるのは当然ながら、この歌が雨乞いの歌であり歌い続けると洪水といった水害を引き起こすというオリジナル設定も放送時期にピッタリである。

歌詞にさら小僧の弱点が記されていることや、歌の5番が雨を止める効果を発揮するという設定も1・4期の設定をうまくアレンジしたものであり、1~4期の長所を「ぺったらぺたらこ」という歌に集約させているから物語として非常にまとまりの良い仕上がりになっている。

 

※放送されたのは2009年7月13日。

 

 

ということでさら小僧回、どの期も基本的なプロットは原作から逸脱していないし、「ぺったらぺたらこ」からその当時の歌謡曲のトレンドを読み取ることも出来るだろう。1期はグループ・サウンズの流行を、3期は歌謡曲の黄金期を表し、4期は景気が落ちた後の日本を象徴するようなしっとりめのブルースという感じだったが、5期は同じフレーズの歌詞が流行るという描写に歌手でタレントのきゃりーぱみゅぱみゅさんのヒットを予言したのではないかと思える部分があった

確か「つけまつける」のCDシングルが発売されたのは2012年1月であり、そこから「ファッションモンスター」や「にんじゃりばんばん」といった曲が国内だけでなく海外の人々にもウケて大ヒットした記憶がある。大人も子供も、そして海外の人も口ずさむことが出来て、ポップな曲調・可愛くも毒々しさのある独自の世界観がこれまでの歌謡曲の世界にはないものだったからあれだけ人気になったと思うのだが、そう考えるとアニメで「ぺったらぺたらこ」がヒットした描写も決して絵空事ではないと思えるし、今回改めて5期を見てその流行を予言していたのではないかと思った次第である。

 

6期は歌謡曲ではなくリズムネタとして「ぺったらぺたらこ」というフレーズが使われたが、内容的には3期のアンサーソングになっていたなと私は今回の見比べで気づいた。

3期は娘のために歌謡大賞をとるという動機を人情話として描いているけど、別に真面目に頑張っている姿を見せれば良いだけの話であり、何も盗作までして大ヒットする必要はないのだ。それをするということは結局自分の中で「売れてチヤホヤされたい」というエゴイスティックな願望があるからではないのか?ということを突きつけたのが6期さら小僧回の素晴らしくもゾッとするような長所であり、そこを容赦なく描いたから6期のさら小僧回を私はオールタイム・ベスト級の作品として以前リストアップしたのである。