タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

ゲゲゲの鬼太郎(5期)第11話「おばけ漫才」視聴

今回は10月14日までの配信。

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白山坊についての説明は6期33話でしているので今回は割愛。

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ゆるやかなバッドエンド

5期の白山坊回はこれまでの契約結婚的な物語ではなく、売れない漫才師と契約を交わし見世物のネタとして漫才師の魂を奪おうとしていた白山坊が描かれている。契約という部分は原作準拠だがそれ以外の99%がオリジナルの物語で、白山坊の姿もぼろ布をまとっていた原作のビジュアルから一新されている。

また、1・2期でねずみ男を演じた故・大塚周夫さんが白山坊の声を担当しており、新旧ねずみ男のコラボ回にもなっているのがファンとしては注目すべき所だろう。ちなみに、5期でねずみ男を演じた高木渉さんは6期で白山坊を演じている。6期の白山坊も5期と同じ見た目だから(物語は違っていても)5期の継承であることは間違いない。

 

さて、漫才師が出て来るとどうしても思い出すのが6期のさら小僧回で、

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この回と今回の白山坊の回とをやっぱり比較してしまうんだよね。そして比較すると6期の麻薬中毒に近い欲求から身を滅ぼしたビンボーイサムと今回のタロウズとでは芸人としての矜持が全然違っている。そりゃ、6期の脚本は本職のお笑い芸人でもある伊達さんが書いたものだから質は違って当たり前なのだが、やはり今回の白山坊回は物語としての“ぬるさ”が否めない、というのが正直な感想だ。

まぁ、今回は「努力もせず安易に望みを叶えようとすると、とんでもない代償を払うことになる」という鬼太郎のオープニングトークを軸とした教訓的な物語なので、6期さら小僧回のテーマとは違うしビンボーイサムの末路みたいなショッキングなオチをつける必要性もない。あのぬるさも5期の世界観としては別におかしくもないので、「とやかく言わず黙って見とけ」と言われるかもしれないがそれはさておき。

 

一見すると魂を抜かれるピンチを脱して「どつき合い漫才」という新たなスタイル(これも今の観点から見ると暴力的でどうかな~と思うのだが…ww)を確立しヒットしたタロウズだが、決してハッピーエンドではないというのは子供よりも大人になった今の方がよりはっきりと感じられた。

タロウズは確かに望み通り芸人としてヒットしただろう。しかし、どつき合い漫才は見た通り体を張った漫才のため体力をひどく消耗する。それだけならまだ笑っていられるかもしれないが、人間世界の営業だけでなく妖怪世界の営業もしないといけない。勿論白山坊はちゃんとギャラを払っているだろうし不当な労働ではないはずだが、これまでの倍以上働かないといけない。頬がこけフラフラのヘトヘトになろうがそこは契約。魂が抜かれてはかなわないから働く。

多分間違いないと思うが、タロウズは芸人としての活動そのものに幸福を感じてはいない。彼らが生き生きとしていたのはお笑い選手権後の打ち上げパーティーだったり、高層マンションで暮らしながら海外に別荘を持つ夢を語った時だ。あくまでも彼らにとって「お笑い」は手段にしか過ぎないということがこの場面でわかる。芸人としてのヒットは彼らにとっては大金持ちになって好き勝手したい願望をかなえるためでしかなかったということだ。

 

しかし、タロウズは安易に芸人としてヒットしようとした結果、芸人としてあくせくと働けるが幸福を味わう余裕をなくすことになった、と言えるのではないだろうか。

今回の物語のように、手段に時間を費やした結果本来の目的を達成出来ず死を迎えるというのは水木作品の「幸福の甘き香り」でも見受けられる。

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傍目から見れば立派な人だと思われ、うまくいけば歴史上に名を残す偉人になれたとしても、幸福を自覚して死に至る人は思っているより少ない。この現代において幸福をつかむことの如何に難しいかを示したのが「幸福の甘き香り」であり、タロウズもこの例に漏れず、金ばかりが貯まってそれを使い楽しむ余裕のない人生のまま死ぬかもしれない未来が約束されていると思わないだろうか?

 

6期のビンボーイサムの物語と比べるとぬるく感じたタロウズの物語だったが、以上のことを踏まえると(主観的に見れば)ビンボーイサムの方が幸福の絶頂で死ねた(劇中で明確に描かれてないが、結末を考えれば死んだと考えるのが妥当)という意味ではタロウズより幸福で、芸人としてあくせく働き続けなければいけないタロウズの方がむしろ不幸なのではないかと思えてくるのだ。

勿論、「どつき合い漫才」のヒットが永続的なものとして考えた上での評価なので、うまくいけばタロウズもこの労働地獄から抜け出せるのかもしれないが、身体を酷使して寿命は本来の年数よりも縮んだだろうから、タロウズはゆるやかにバッドエンドに向かっていると言っても過言ではない。

 

リアルタイム時はぬるい物語だと思っていたし今見てもぬるい要素はあるとはいえ、今回の「おばけ漫才」は本編で描かれた後の未来を想像するかしないかで評価が大きく分かれる、ちょっと特殊な作品だと思う。だから本作は一度視聴しただけでは作品としての良さは伝わらないかもしれない。それだけにおススメしにくい作品でもある。

 

 

次回はこれまた5期オリジナルの以津真天が登場する物語。例によってどんな話かは覚えてません…。