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ゲゲゲの鬼太郎(6期)第82話「爺婆ぬっぺっぽう」視聴

BIBIBIクリームってBBクリームのダジャレですかね…?

BBクリーム - Wikipedia

 

ぬっぺっぽう(ぬっぺらぼう)

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絵巻物によって微妙に名前の違いはあれど、肉の塊の妖怪だということは共通している。妖怪図鑑の中には「寺に集まった死体の腐肉が妖怪化したもの」と記載したものもあるが、これは鳥山石燕画図百鬼夜行』に描かれたイラストの背景から連想された設定だろう。

 

アニメでは1・3・5期に登場。ただし、5期はモブとして登場したに過ぎないので、実質メインとなったのは今期と1・3期のみ。上のツイートでも紹介したように原作では韓国の妖怪として登場するが、1期では舞台が領土返還前の沖縄に変更されており、タイトルも「朝鮮魔法」ではなく、巨大ぬっぺらぼうの特性を文字通り表現した「隠形魔法」に改変されている。また、原作では韓国の民謡アリランを歌うことから、ぬっぺらぼうはアリランさま」と呼ばれて地元の村人から畏れられているが、1期では沖縄の労働歌ユンタから案をとって「ユンタさま」と呼ばれている。

※アニメ化されたのは1969年2月だが、その時点ではまだ沖縄は米軍の占領下にあった。沖縄が日本に返還されたのはそれから3年後となる1972年。そのため、ねずみ男は帰る時に内地へ帰ろう」と言っている。

 

3期は原作通り韓国が舞台。話の展開もほぼ原作通りだが、巨大ぬっぺらぼうの退治方法が『ガリバー旅行記』を彷彿とさせるという点で印象深い。ちなみに私はこの3期で初めてアリランの歌がどういうものか知った。確か小学校の音楽の授業で聞くよりも前だったと思う。

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あ、そういや原作でトラジという名の少年が登場するのだが、この名前は韓国の民謡トラジからとったものだというのも豆知識として紹介しておく。

 

子泣きと砂かけ

さて久しぶりのぬっぺらぼう回となる今期はこれまた久しぶりと言える鬼太郎ファミリー活躍回。特に今回は子泣き爺と砂かけ婆の老人妖怪コンビに焦点をあてた物語として記憶に残ったが、ここで子泣きと砂かけの関係についてざっと振り返ってみようと思う。

子泣きと砂かけが原作で初登場したのは「妖怪大戦争」の時。この時点では勿論両者に深い関わり合いはないが、シリーズが経つにつれその関係は夫婦のそれに近くなっていく。漫才コンビを組んでテレビ出演したり(これは原作で言及されただけで実際にコンビで漫才をしている場面は描かれてないのだが…)二人で世界旅行を計画したりするくらいだからもう夫婦と呼んで良いのかもしれないが、婚姻契約的なものは交わしていない。

互いに恋愛感情があるのかどうかはわからないが、原作で子泣きが美人を見て張りきり出したりスケベな言動をとったりすると砂かけが張り倒している場面があるから、砂かけの方は(嫉妬する程度だろうが)子泣きに対して愛情に近いものはあるのかもしれない。ただ、子泣きの方はイマイチよくわからないんだよな。パートナーとして思うことはあっても恋愛感情的なものは見せてないし。

 

原作では子泣きが砂かけに対して恋愛感情を持っているかどうかはわからないが、アニメでは3期で初めて子泣きが砂かけに対して恋愛感情を発露した。それが107話の「ケムリ妖怪えんらえんら」の回で、この時子泣きが砂かけに対して言った台詞がこちら。↓

「一生に一度くらい、惚れたおなごのために命をかけてみたかったんじゃ」

かーーーーーっ!!

 

3期の愛の形は「命を犠牲にしても守りたい」って感じだったけど、今期は「君が僕のことを忘れても僕は君を愛し続けるよ」みたいな切ない系の愛だったな。これ子泣きと砂かけだったから良かったけど、人間でこの感じの話をやったら昨今の老々介護事情と相まって日朝の領分を超えてしまいそう。

 

あ、また余談になるけど劇中で子泣きがチューに失敗したエピソードは水木先生の短編「砂かけ婆」が元ネタらしい。

以前水木しげるのゲゲゲの怪談」としてドラマ化したから覚えている人もいると思うけど、砂かけとの結婚を条件にイケメン俳優に化ける男の話がここに組み込まれるとは思わなかった。しかも「加山雄三みてえな美男」という原作の台詞がアニメの中で別の形で活かされているのだから芸が細かい。(「僕は幸せだなぁ」ってトコ)

 

「初見に厳しい」6期ぬっぺっぽう

『ゲゲゲの鬼太郎』第82話「爺婆ぬっぺっぽう」の先行カット到着! 老化し始める鬼太郎たち、しかし砂かけばばあが……の画像-8

©水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション

今回の脚本は前回に引き続き金月龍之介氏。前回はバトル要素を話の都合上カットしオリジナル要素の強い回にしたためか、今回は原作要素込みのアレンジとなっている。

ぬっぺっぽうとのバトルや子泣き・砂かけの関係といった鬼太郎ファミリーの活躍という点から見れば、今回の話はファンにとって安定した出来栄えの回だったし、鬼太郎ファミリーの活躍があまりない6期に寂しさを覚える人を満足させたと思う。

…しかしね、これをぬっぺっぽうのメイン回として見るとちょっと評価出来ないんだなこれが。

 

私みたいに原作を読んだり、1・3期のぬっぺらぼう回を履修済みの視聴者は石像に隠れる場面とか四人兄弟のうち一人が巨大で姿を消せるといった設定を知っている。だから今回の石像の下りとか姿を消せる巨大ぬっぺらぼうの設定がスンナリと入ってくるのだ。

でも原作や過去のアニメを見ていない視聴者にとってはかなり疑問が噴出したと思う。いや、疑問に思わなくてもモヤモヤとしたものくらいは残ったはずだ。

「あれ?何でぬっぺっぽうは石像に隠れていたの?隠れる必要あったかな?」とか、

「何で1体だけあんなに巨大なんだよ。っていうかぬっぺっぽうは何故ぬらりひょんに手を貸してるんだ?という具合にね。

ぬらりひょんの方は軍資金調達のために利用していたことはわかったけど(若さのエキスはどっちでも良かったみたいだね)、ぬっぺっぽうの方は協力するメリットらしきものが劇中では見えてこなかった。後々言及するのかわからないが、本拠地となっていた孤島を守るためだとか、良いように言いくるめられたのかもね。

 

それはともかく、上述した様な「初見者が感じるであろうモヤモヤ・疑問」が生まれてしまった原因はぬっぺっぽうの設定を活かす「ネタ振りの存在=人間」が抜け落ちているからなのだ。

原作ではトラジという少年がはるばる韓国から日本へ渡り、鬼太郎に助けを請う。そして韓国に渡った鬼太郎たちは長老から「アリランさま」と呼ばれている妖怪が朝鮮魔法と称される術を使い若さを奪ったり、家屋を倒壊させる脅威の存在だと聞かされる。

 

そう!この脅威の語り手となる人間こそが重要なのだ!この語りがぬっぺらぼうの設定の前振りとして機能することで、動く石像や眼に見えない力による家屋倒壊を引き起こした魔法の正体がぬっぺらぼうであったという展開を引き立てると同時に、強大だと思われたものがこけおどしに過ぎなかったという、ぬっぺらぼうの卑小なキャラクター性を描くことに繋がるのだ。

(事実、原作で鬼太郎に正体を見破られ巨大ぬっぺらぼうを退治された残りのぬっぺらぼうはどこかへ逃げてしまったし、若さを奪い人里を襲ったのも食糧調達と不老長寿のためというセコイ動機だった。)

 

にもかかわらず、今期では前振りとなる魔法についての情報や、それに脅える人間がカットされてしまったことで、ぬっぺっぽうの設定の良さが殺される結果となった。石像の下りや眼に見えないものが追っかけてくる展開は(初見者にとっては)唐突過ぎて「何かが起こっている」程度だったかもしれない。少なくとも原作が持つ怪奇性や脅威を感じにくいなと思った。特に石像に隠れるという点は、原作で魔法の演出として物理的にも精神的にも人間に脅威を与える意味合いが感じ取れたのに対して、今回のアニメは必然性に乏しいなと感じた。

 

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©水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション

あと話の都合上仕方ないのかもしれないけど、やはり巨大ぬっぺっぽうの倒し方は原作の方に軍配を上げたい。自然の力を有効活用した連鎖反応って所が良いんだよな~。

 

ところで、6期の公式サイトではぬっぺっぽう「妖怪に化けられる妖怪」と紹介されていたけど、今回別の妖怪に化けた描写は無かったぞ…。もしかして今後その能力を使って再登場でもするのだろうか…?※

 

※久しぶりに公式サイトをのぞいたら、 上記の設定の記述が削除されていた。何だったのだろうね…?

(2020.03.30追記)

 

次回はぬっぺっぽうと同じく久しぶりの登場、妖怪ほうこうの話。シリーズ屈指の強敵なのにアニメで登場したのは2回きり。今期は今まで以上にアレンジが凄そうだが…。