タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

殺人鬼は蒐集狂【ダークギャザリング #14】

初見でここからスプラッター・ホラーになるなんて、予想出来る訳ないでしょ…?

 

「旧Fトンネル」

「卒業生」の回収を終えた夜宵たちは、遂に目的地となるO市の旧Fトンネルへ辿り着いたが、この心霊スポットのモデルとなったのは青梅市にある旧吹上トンネル

ja.wikipedia.org

吹上トンネルは3種類あって、1993年に開通した新吹上トンネルが現在自動車通行が可能なトンネルとなっており、問題となる旧吹上トンネルは1953年に開通したトンネルで現在は二輪と徒歩での通行のみ可能な道となっている。そして、旧吹上トンネルよりも更に古い1904年に竣工された旧吹上隧道(旧旧吹上トンネル)は老朽化で現在は通行不可となっており入り口は2009年以降封鎖されている。

 

news.line.me

アニメ本編でも説明があったように、旧吹上トンネルは都内有数の心霊スポットとして有名な場所であり、特に旧吹上隧道は昭和30年代に近くの居酒屋※1で強盗事件が発生し、被害者の一人がこのトンネルで殺害されたという曰くがあることから、その被害者の霊が現れているのではないかと噂されている。

 

とはいえ上に載せた記事にもあるように、実際の所は外部のよそ者が騒いでいるだけで地元民には何てことのない場所だし、10話の感想記事で紹介したオカルト研究家の吉田悠軌氏もルポの中でマナーの悪い外部からの訪問者の存在をゴミやたばこの吸い殻、落書き等から読み取っている。

霊能力者の方も訪問したようだが特に霊的に危険な場所ではないようで、強いて言うなら土地に気のよどみがあって運気が下がる、マイナスのパワースポットだと指摘している。※2

 

※1:記事によっては茶屋と紹介されている。

※2:吹上トンネル(東京都) - 霊視検証!有名心霊スポットの真相!

 

殺人鬼のコレクター性

実際の旧吹上トンネルは過去の強盗殺人事件から派生して生まれた心霊スポットというだけで、要はただのトンネルに過ぎないのだが、本作の旧Fトンネルは猟奇殺人鬼の悪霊が棲みついている超危険な心霊スポット。和服の女の幽霊の目撃談の正体は、女性の頭部の皮をかぶった霊なのだから、正に激ヤバである。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

いつものジャパニーズ・ホラー的な霊かと思い蓋を開ければ、海外の殺人鬼ジェイソンさながらのスプラッター・ホラーとでも言うべきガタイの良い悪霊が飛び出した今回のお話、グロいと言えばグロいのだけどよく考えたら四股を切断されて内臓を引きずり出されるなんて失神レベルの話じゃないし、頭に斧を入れるよりも前に普通は出血多量でショック死するだろうから、そこはフィクションだなって思う。まぁ人間じゃなくて霊のやることだから、霊的なパワーで頭に斧を入れる段階までは延命させられるのか、或いは肉体は死亡していても意識(魂)だけは生きた時のまま苦痛を味わう状態にさせられるのかもしれない。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

それはさておき、日本だと残忍な方法で被害者をなぶり殺すシリアルキラーによる事件は(フィクションはともかく)現実社会でほとんど見かけられない。どちらかと言うと本作の旧旧Fトンネルの悪霊みたいな殺人者は海外でそういった前例が見かけられる。

 

例えば今回の悪霊で思い出したのがエドワード・ゲインという男。彼はアメリカで1950年代に二人の女性を殺害し、その女性以外にも墓場から死体を掘り起こして死体の皮膚や骨を使ったアイテムを製造していたことで知られている。1957年当時、ゲインが所有する納屋を調べたシューレー保安官は、天井から吊るされ解体されている途中の女性死体・人間の皮膚で革張りされた椅子・壁に画鋲で留められた女性の顔の皮などを見て叫び声をあげたそうであり、後にこの捜索が切っ掛けで不眠と不安神経症に悩まされることとなった。それだけゲインの納屋は「狂気の展覧会」とでも言うべきグロテスクな景色だったということである。

本作の旧旧Fトンネルの悪霊も女性の顔の皮をはぎ取りそれを被るという変態的嗜好があった※3が、ゲインもまた女性の死体から切り取った乳房をベストのように着用し女性の頭皮を被って満月の夜に農場をねり歩くという「パーティー」をしていたそうだ。

 

あまりにもグロい話なので具体的な話はこれくらいにしておくが、ゲインの例だけでなくジョン・ウェイン・ゲーシーにジェフリー・ダーマ―、テッド・バンディといった過去の殺人鬼たちの事例を見ると、殺人鬼には一種の蒐集狂的な側面があることがわかる。ダーマ―は殺した男性を解体、その死体を食料として保存していたし、ゲーシーは自宅の地下に約30体もの死体を埋めていた。

通常の犯人なら死体を身近な場所に置いておかず、出来るだけ自分の家から離れた、無関係な土地に遺棄するものだが、こういった猟奇殺人鬼は死体を身近な所に置いておき、それをコレクションのようにしている。彼らにとって殺人は目的そのものであり、自分が設定した課題・妄想を実行に移し達成することが彼らにとっての報酬となる。そして死体はその実績・功績として手元に残しておくという訳だ。例えるなら、それは狩りで捕らえた鹿を剥製にして壁に飾るような、そんな感覚である。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

一般的なコレクターというのは蒐集したものを見せびらかす、或いは他者とシェアすることで心の欲求を満たすが、猟奇殺人鬼の蒐集はあくまでも自己完結的なものだ。自分の好みのターゲットを殺し、その死体をコレクションとして保存したり食べることを繰り返す。今回の無限ループと化して出られなくなった旧Fトンネルは、正にそういった猟奇殺人鬼の狂気のルーティンワークを表現した世界観であり、その歪んだ世界観を本作では心霊現象という形で見事に表現していると言って良いだろう。

 

※3:腰紐もよく見ると人間の腸を使っている。

 

さいごに

今回はただでさえ本編がグロい話なのに追い打ちをかけるようにまたグロい事例を持ち出して来て、そこは申し訳ないと思う。でも実際にあった事件を紹介しないことには猟奇殺人鬼の習性というか心理的傾向が語れないのでどうかご理解いただきたい。ちなみに、今回のゲインやダーマ―といった殺人鬼の知識は、平山夢明氏の『異常快楽殺人』を参考とした。

 

霊やあの世の世界も新たな進展がないという点ではループした世界観なのだが、殺人鬼の世界観と質が違うのは、一般的な霊は特定の物事に執着・未練があるだけでそこに至るまでの道のりにこだわりがないのに対し、猟奇殺人鬼の場合は殺人に執着こそすれ、ただ殺せたら良いという訳ではなく、いかにしてターゲットに苦痛と恐怖を与え、自分の思い通りに殺人が達成出来るのかといった手順や過程にまでこだわりがある。だからある程度思考に流動性・柔軟性があるのが猟奇殺人鬼のループした世界観の特徴なのだ。

さて、前座としてSトンネルの霊が旧旧Fトンネルの霊に挑んだが、トンネル霊対決の結果はSトンネル霊の黒星。次回は詠子救出と「卒業生」の解禁が見所となる。