タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

変質者の霊が語られない理由【ダークギャザリング #09】

今回以降、出会ったら即死レベルの霊が続々と出てきます。怖いけどワクワクもひとしお。

 

「瀆神」

神の花嫁として見初められた神代愛依に関わった螢多朗と夜宵。一度は神をぬいぐるみの依代に捕縛したものの、そのパワーは神を名乗るだけあって強く、独力で拘束から脱出し愛依の身体へと戻る。

余りにも強い神のエネルギーは他の霊をも引き寄せるが、今回はそのエネルギーに引き寄せられた悪霊・脳幹霊と戦うことになる。

 

脳幹霊という呼び方は今回のアニメ独自の名付けで、原作では特にこの悪霊に名称はなかったと思うし、私は変質者の霊と呼んでいた。見た目がいかにもって感じだし、相手の脳を引きずり出して弄ぶ、つまりは身体の内側を犯すというのが性的虐待の隠喩とも解釈出来るので、女子供ばかりを狙うという点も含めて色々とヤバ~いこの霊を螢多朗と夜宵は退治するというのが今回の物語のメインだ。

 

変質者の霊は何故怪談として語られないのか?

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

本編の内容から外れる話をするけど、みなさん怪談話で変質者の霊が出てくる怪談って聞いたことあります?

「変質者(ストーカーも含む)に殺された女の霊」とかは怪談話としてはよくあるし私も聞いたことがあるけど、変質者自身が霊となって人に災いをもたらした怪談というのは恐らくないだろうし、あったとしてもかなりレアなケースだと思う。変質者の霊が出て来るのは「地獄先生ぬ~べ~」とか本作のようなフィクションの世界では見かけるけど、実際に人から人へと語られる怪異譚ではほぼ見かけない。

 

では何故変質者の霊が怪談話として語られないのか、という疑問を考えてみたいと思うが、そのヒントとなったのはお化け屋敷である。

昔のお化け屋敷は幽霊や妖怪を出すだけのシンプルなお化け屋敷が多かったが、近年のお化け屋敷は多様性を増しており、本格的なものになるとお化け屋敷の舞台や出現する幽霊にバックグラウンドとなるストーリーを盛り込んで、客がその世界に没入しやすいようにするのと同時に、より恐怖を味わえるよう技巧を凝らしている。

お化け屋敷プロデューサーとして有名な五味弘文氏によると「恐怖」と「嫌悪・不快」は別物であり、お化け屋敷に実社会の陰惨な出来事を持ち込まないことを心掛けているそうだ。安全な社会だから恐怖を楽しめる訳であり、お化け屋敷もまた恐怖と同時に安全性を担保しておかなければならないということである。※1

 

以上のことを踏まえると、変質者の霊が怪談として語られない理由も何となくわかるのではないだろうか。変質者は実社会で性犯罪やストーカーなどニュースで取り沙汰されるし、嫌悪や不快感を催す存在である。口伝えで語られる怪談は実録の恐怖体験として語られるが、それは当然ながらエンタメとして恐怖を楽しむために語る訳であって、そこはお化け屋敷と同じように嫌悪・不快があるといけない。怪談話は一種のコミュニケーションツールでもあるから、不快感を催す話をして相手に嫌がられては元も子もない。怪談が広まるのは怪談そのものの面白さがあるのは当然ながら、そこに現実の事件を連想させるような不快な描写や嫌悪感を催すものがないというのも関係していたのだ。

それに、私たちは犯罪者は死後の世界でも罰せられるべきという考えを意識・無意識を問わず抱いているから、そういった犯罪者が死後も現世に留まって悪さをしているなんて話はしたくないし、したとしても広まりにくい。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

では本作のようにフィクションで変質者の霊が出るのは何故かと言うと、これは言うまでもなくそれを打ち倒すヒーローがいるからだ。ヒーローが不快で凶悪な悪者を倒すから物語としてカタルシスが生じるし、そこで悪が罰せられるからこそ読者や視聴者も胸がすく思いで物語を追うことが出来るのである。

 

今回、脳幹霊は夜宵というヒーローによって倒され、自らが行った報いを受けることになった。等活地獄※2システムという悪霊への罰と魔除けを両立させた夜宵は、愛依を逃れられない運命から救い出そうとするヒーローであると同時に、悪霊を捕まえ部屋に小さな地獄を作り上げた小さな閻魔大王とでも言うべき存在だったのだ。地蔵菩薩閻魔大王が同一の存在だと言われているように、夜宵もまた慈悲の心と裁きの心を持っていることがよく表されていたのではないだろうか。

 

※1:ダークサイドミステリー「お化け屋敷の進化が止まらない! ~"怖い"は楽しい!の秘密~」(2023年7月20日放送)を参照。

※2:等活地獄は八大地獄の一番目の地獄。殺生を犯した者が落ちると言われており、獄卒によって身体の肉を切り刻まれるが、風が吹くと身体は元通りとなり、また同じ責め苦を味わされる。これでも八大地獄の中では一番軽い刑罰であり、下へ行けば行くほど刑罰はより過酷なものになり、それを受ける時間も長くなる。

 

さいごに

ということで今回は変質者の霊に注目し、変質者の霊が怪談として語られない理由を考察してみた。ホラーにはスプラッターというグロ描写を前面に出したジャンルもあるので、ホラーが必ずしも不快・嫌悪を排除するとは限らないが、大多数はそういったグロ要素は避けてホラーを楽しみたいと思っているだろうし、スプラッターというのはホラーの中でも割とマニアックで玄人向けだと私は思っているから、別に今回の考察が間違っているということにもならないだろう。

さて、物語の終盤。夜宵は神への宣戦布告をしたことで、神と人間(+悪霊)との全面戦争の幕開けとなった訳だが、物語としてもこれまでは作中の世界観や霊を捕らえて使役する理屈・法則を読者・視聴者に理解してもらうためのウォーミングアップ的な内容だったのが、ここからはそれをベースに本格的なバトルが始まり、話も俄然面白くなってくるので、原作未読の方も楽しみにしてもらいたい。

 

記事冒頭でも言ったけどもうね、どんどん洒落にならない悪霊・怨霊が出て来るのですよ。でもそれがホラーとしての緊張感とバトルの熱さにつながってホントに面白いから、アニメではそういった部分をどのように演出するのか注目しようと思う。