タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

日本人を縛る「べき」の呪い【ゾン100 #07】

ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~(3) (サンデーGXコミックス)

前回の感想記事で闇の10種について語ったけど、そういやリトルマーメイドの魔女アースラも10種体癖だったな。

 

「SA オブ ザ デッド」

今回は原作の10・11話を映像化。小杉リーダーとの再会によって、アキラはまたしてもブラック企業時の奴隷社員としてコキ使われる羽目になったが、そんな中でシズカは過去に自分を抑圧してきた父親のことを思い出す。

シズカの父親は一代で大企業を立ち上げアメリカで成功を果たした金融屋であり、リーマンショックを切り抜けただけあって、その性格も冷血無比。貧乏人やホームレスを「したいことをやって来た結果ああなった連中」と見下し、シズカに対して「やるべきことをやれ」と自分の価値観や信念を押し付けてきた。なまじ一代で財を築いた成功者なだけに、自分のやり方が間違ってないという思い込みが激しいから、タチが悪いことこの上ないのだが、今回の小杉リーダーの一件によってシズカは長年父親によってかけられてきた「べき」の呪いを自ら打ち破り、本格的にアキラたちの仲間入りを果たすことになる。

 

大人は思っているほど賢くない

今回の物語を見ていて思ったのは、日本人って道徳的な価値観やお題目に縛られている人が本当に多いということだ。「親に育ててもらったのだから親孝行するのは当たり前」だとか「社会人なのだから誰とでもコミュニケーションがとれないと失格だ」といった感じで無条件にこういった標語のような価値観が親や上司といった先人たちによって作られて子の世代へと受け継がれようとしている。こうしていつの間にかそういった価値観が当たり前でやるべき事として植え付けられ、それに順応出来ない人々が今苦しんでいるという感じだ。

 

時代も昭和から平成、そして令和へと移行してきたので、当然ながら昔に比べると旧弊的な道徳や価値観もだいぶ瓦解されてきたし、本作をはじめとするフィクションが先人たちが生み出した呪いを解除する役目を果たしているので、そういう点に関しては良くなってきていると言えるのかもしれないが、それでもまだ日本の社会は先人たちが作り出して来た呪いが幅をきかせているという感じである。

これは私が実際に社会人として働くようになったから、こういった「べき」の呪いの存在を実感するのだけど、この「べき」の呪いに加えて私が今これを読んでいる読者に伝えたいのは、大人って思っていたよりも賢くもないし理性的でもないということだ。しかもほとんどの人は自分が賢くないということを理解していないか、わかっていても開き直っている状態で生活していたりする。

 

私は中小企業勤めなので大企業の方にはちゃんと理性的な人がいるのかどうか、そこまではわからないしあくまでも私の経験上の話だから統計的には大間違いかもしれないけど、社会人で部長とか係長といった肩書がある人だからさぞかし理性的で正確な判断・助言が出来るのかと思いきや、感情的ですぐキレたり論理的な話が出来ず自分の価値観を押し付けてくる上司がいてホントしんどい思いをしたし、相手を問い詰めるばかりで建設的な叱り方が出来ない人も見て来た。そういう経験があるからドラマに出て来るような理想の上司というのは虚像のようなものだと痛感したし、そこで「ああ大人って思っているほど賢くないな」と思わされたのだ。

しかし、大人が賢くないなら馬鹿にしたり軽んじても大丈夫と思ってはいけない。むしろ賢くない者たちは自分の立場や権威を笠に着て、無理やり自分の意見を押し通そうとしたり、もっと悪くなると本作の小杉リーダーみたいに相手の尊厳を奪ってまでコントロールしようとしてくる。賢くない相手だからこそ注意して挑まないといけないし、それに対抗出来る知恵を身に着けないと、良いように利用されてしまうのがオチだ。

 

だから今の時代、デモやストライキといった正面きって相手に立ち向かうような対抗策も一つの選択肢ではあるけれど、強かに相手を誘導したり、言葉を巧みに使って相手のコントロールから逃れるといった、柔軟な知恵・知識・手段を身に着けることも結構大事になってくるのではないかと思う。集団戦だけでなく個人戦においても通用するようなスキルが必要というか、マトモに相手するのではなく知恵をしぼって相手が武器とする価値観や呪いを打ち崩すというのが、これからの未来を生きる我々の一つのミッションではないかと考えている。

そして、先人が生み出した「べき」の呪いを次の世代に持ち越さないためには、私を含めて今下の立場にいる者が上に立った時に同じ過ちを繰り返さないようにしなければならない。最低限自分の機嫌は自分でコントロールするとか、自分の中で選択肢をいくつも用意しておくといった心持ちでおれば、自分の欲求を満たすために自分より立場が下の人をコントロールするといったことをしなくて済むのではないだろうか。