京都府民の私が知ってる心霊スポットと言えば、やはり深泥池ですかね。
「日本全土」
愛依をつけ狙う神との全面戦争を布告した夜宵は、神の捕獲のため再度「空亡」打倒計画を練り直すことになる。
ということで今回は神の介入によってパワーバランスが崩れた夜宵の部屋で「卒業生」と称される破格の悪霊が誕生したこと、空亡打倒に加えて神を捕獲するための戦力補充として全国の心霊スポット巡りを決定したことが描かれた。
内容はほぼ原作通りだが、愛依の部屋の整理と夜宵の部屋の片づけは原作よりも描写が具体的になっており、寝室に注連縄を張る、鳥居のマークを描いた紙で霊の通り道を整備するといったことは漫画では描かれていない。鳥居のマークで霊の道を別方向に誘導するという方法は、「地獄先生ぬ～べ～」の「おとないさんがとおる」（単行本4巻所収）というエピソードでぬ～べ～が使っているので、これは本作オリジナルの方法ではないし一種の民間信仰と考えるべきだろう。
ちなみに京都では、街中を歩くと道の端に小さな鳥居の模型が立てかけられていたり壁に直接鳥居の絵が描いてあるが、これは何も霊の通り道を誘導しているとかではなく、立ち小便や落書き防止のために道端や外壁に鳥居の模型を立てたり絵を描いているそうである。※1
卒業生は「荒魂」である
Ⓒ近藤憲一／集英社・ダークギャザリング製作委員会
作中で言及される「卒業生」は通常の悪霊とは違い、夜宵の部屋だけでなく近隣の家にも悪影響を及ぼすほどのパワーを持った霊であり、対処法を誤れば自分たちの命をも奪いに来るという正に諸刃の剣となる存在だ。夜宵は今回誕生した「卒業生」の他に既に三体もの「卒業生」（＋超越地蔵）を手駒として保管しており、その別格とも言えるパワーを以てすれば神をも殺せるらしい。
そんな「卒業生」は言ってみれば進化する霊という、まるでポケモンさながらの個体として本作では扱われるのだが、まず言っておくと基本的に霊魂、それも現世に留まっている霊が進化するというのはあり得ないことだ。特定の物事に執着しているから霊はこの世に留まっている訳であり、執着している者が進化するというのは宗教の観点から考えるとおかしい。仏教だと成仏するには現世の執着を断つ必要があるし、そこから解脱して仏になるには輪廻を繰り返して修行を積む必要がある。キリスト教は人を作ったのが神なのだから、人が神に匹敵するような特別な力を霊魂になってから持つというのはあり得ないし、それは神の全能性を否定することになる。何もせずに進化出来る訳がないし、ましてや共食いで特別なパワーを得るというのは、それこそ創作的な発想であり進化としても邪道であると言えるだろう。
では、進化する霊という理屈は創作の世界だけの話かと言うと必ずしもそうとは限らない。その理屈が一番しっくり来るのが神道の世界だ。
神道は八百万の神、すなわちどんなモノにも神がいるという思想があり、神式のお葬式では故人を神として祀り上げることで荒ぶる死者の魂を鎮める。つまり、神道の理屈では人は死後神になれるのだ。ただ、神と言ってもそこはピンキリで、皆が皆神として崇められる訳ではない。神道における神は人並み外れた者、すなわち生前から特別な能力を持っていた者や、人並外れた業績を上げたり、或いは世間を震撼させるような大事件を起こした者も神の条件に当てはまるのだ。※2その代表的な例が、当ブログでも前に言及した菅原道真公である。
菅原道真は藤原時平の讒言によって太宰府に左遷されそこで死亡。死後怨霊となって時平を呪い殺し、京都の清涼殿に雷を落としたと言われている。当時の人は怨霊と化した道真を恐れて、彼を北野天満宮の神として祀り上げた。このように、道真は人から怨霊、そして神へと進化を果たしたのだ。
この道真の例を見てもわかるように、神道の世界では怨みを持った者でも神になれることが示されている。ただし、怨みと言ってもそこは尋常ならざる怨みでないと神にはなれないし、マイナスの感情だろうとプラスの感情だろうと、そこは人並み外れた思いの強さ、それに伴う現世への影響力が求められるのだ。
神道では和魂・荒魂（にぎみたま・あらみたま）という概念がある。神には豊作をもたらし人々を幸せにする面もあるが、同時に人を呪ったり祟ったりする面もある。丁重に神を祀ることで害悪をもたらす荒魂な神でも和魂として福をもたらす神に変化させられるというのが神道の思想だが、夜宵の場合は敢えて「卒業生」を荒魂として管理し手駒にしている。そう考えると、「卒業生」は荒ぶる神とも言えるのだから、神の捕獲に「卒業生」を用いるのは、すなわち神に神をぶつけるということになる訳で、一応理に適っているのではないだろうか？
※2：菅原道真の他に例を挙げると、現・パナソニック創業者であり経営の神様として知られる松下幸之助は三重県鈴鹿市の椿大神社で祀られている。
外部から語られる心霊スポット
全国の主要心霊スポットを巡り戦力となる悪霊・怨霊を狩っていくという方針が決まったが、リストアップされた心霊スポットをおさらいすると以下の通り。
〈東京〉
足立区：K橋（SS）
北区：旧I水門（S）
練馬区：S公園（A）
青梅市：旧Fトンネル（S）
豊島区：Z霊園（A）
八王子市：D堂跡（B）
八王子市：旧Kトンネル（S）
〈全国〉
北海道：Jトンネル（SS）
青森：恐山（ランク不明）
岩手：S慰霊の森（SSS）※3
福島：幽霊ペンション（A）
埼玉：新Mトンネル（S）
神奈川：しとどの巌（S）
山梨：青木ヶ原樹海（ランク不明）※4
福井：東尋坊（S）
京都：Aダム（A）
福岡：旧Iトンネル（B）
熊本：A大橋（A）
沖縄：SSS（ランク不明）※3
アニメでは地名・県名が伏せられたりカットされたものもあるが、ほぼ原作通りのリストとなっている。全国とはいえ、中国・四国地方や中部・北陸地方には狙いを定めるような心霊スポットはなかったみたいである。
恐らくだが、中国地方には十月に日本中の神様が集まる出雲大社があるし、四国と言えば八十八ヶ所の霊場が有名だから、そういったプラスの効果をもたらすパワースポットの土地を避けて原作者も心霊スポットを厳選したのかなと思った。
（あ、一応言っておくと中国・四国地方にも心霊スポットはあるし、調べたらいくらでも出て来ますよ）
ところで、日本全国で語られる心霊スポット。その数はざっと1000ヶ所以上はあると言われているが、曰くがハッキリしているものはほんのごくわずかで、ほとんどは肝試しに来た人々が即興で考えた創作の怪談であることが多い。また、肝試しに来るのは地元の人ではなく決まって外部から来るよそ者であり、地元の人にとっては単なる廃墟だったりトンネル・橋となる場所が、よそから肝試しに来た人々が体感したことやインスピレーションで得たことを創作として語ることで心霊スポットとなるのだ。だから、心霊スポットの怪談話を調べていくと、ほとんどが似たり寄ったりなシチュエーションであり、出て来る幽霊や恐怖体験も同じようなものが多い。
日本の心霊スポットを約300ヶ所以上まわったという作家でオカルト研究家の吉田悠軌氏によると、心霊スポットとなる場所はどこもアクセスの良い場所で、繁華街から遠くても車で1時間程度で行けるそうである。心霊スポットとして語られる以上、肝試しに訪れる人がいないと怪談として広まらないし、交通の便が悪い辺境の地や山の頂上にわざわざ肝試しで訪れる若者はいないので、心霊スポットになる場所はある程度交通の便が良く行きやすい場所がそれだけ有名になりやすいのである。※5
つまり、心霊スポットというのは9割が創作であり、そこで事故・自殺・事件があったという話もほとんどは根拠のないものである。これから夜宵たちが訪れる心霊スポットも厳密に調べれば創作だろうし、当然ながら本作の心霊スポットに出現する悪霊・怨霊は原作者が生み出したものである。そんなフィクションの霊たちを狩り集めて神と戦わせる訳だが、果たしてその神が原作者の創作によるものなのか、それとも伝承・伝説に基づく神なのか、そこが個人的には気になるポイントだ。
※3：アニメのリストではカットされている。S慰霊の森は雫石慰霊の森（現・森のしずく公園）であり、1971年の全日空機の衝突事故で亡くなった乗客を弔った場所のため、心霊スポットとしてアニメでリストに載せるのは不謹慎だと判断されたのだろう。SSSは沖縄の恩納村にあるユタ（霊媒師）の修行場として有名な場所だが、心霊スポットというよりは一種の聖域みたいな場所であり、風評被害や荒らし行為にもつながるためカットされたと思われる。
※4：アニメではSランクになっている。
※5：幻解！超常ファイル「日本最恐！心霊スポットの真実」（2017年9月16日放送）を参照。
さいごに
今回は「卒業生」と心霊スポットについて言及したが、原作を読んだ時やはりこの全国の心霊スポット巡りという計画にはワクワクしましたね。まぁ実在の心霊スポットをモデルにしているのでワクワクするとか言うとそれは不謹慎の誹りを受けてしまうのでホントはダメなのだけど、物語としてずっとここまでコンパクトな世界観でやって来たのが、ここから話が壮大になって敵もこれまで以上の霊が出て来ることが予想出来るのだから、そりゃ楽しみにもなりますよ。
次回は遂にその計画の最初の一歩として、八王子市にあるH城址（八王子城址）の霊を捕獲することになるが、危険度Sランクの霊とはどんな存在なのか。今回言及したことから考えれば、やはり神霊レベルの霊が待ち受けていると考えるべきだけど…。
