タリホーです。

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アレ見て京極夏彦を思い出した人~?【アンデッドガール・マーダーファルス #07】

匣の中には綺麗な娘がぴつたりと入つてゐた。

京極夏彦魍魎の匣

 
「混戦遊戯」

7話は原作の161頁から243頁までの内容。今回は怪盗ルパン・探偵ホームズ・〈鳥籠使い〉それぞれの作戦が明らかとなり、後半は遂に〈夜宴〉が介入したことで物語は頭脳戦から異種混合の異能バトルロイヤルへと様変わりする。

 

そんな訳で今回はルパンとホームズ、そして〈鳥籠使い〉の作戦と〈夜宴〉のメンバーについて解説しようと思う。特にルパンの盗難計画についてはアニメ本編だとかなり端折られて説明されており、原作未読の方にはいまいちルパンの計画の凄さが伝わってないかなと見ていて思ったのでちゃんと解説しておきたい。

 

(以下、原作・漫画版を含めたネタバレあり)

 

怪盗と探偵の作戦

5話の感想記事の最後で、私は盗難における三つの困難、すなわち「①侵入の困難」「②盗難の困難」「③脱出の困難」の三点を挙げてその難しさを簡単に説いたが、ではルパンとファントムはどうやってこの問題をクリアしたのか説明しよう。

 

①侵入の困難

警察や警備員によって警護されたフォッグ邸に入る上でルパンはお得意の変装術があるから良いとして、ファントムがいかにして侵入したのか。アニメ本編ではカットされたが、実はファントムはピエロの人形に扮して水路にダイブ。それを警官が回収した瞬間に警官を気絶させその制服をはぎとり、あえて警備員(近衛兵)に変装することで、「侵入者は警官の制服を着ている」という先入観を警備側に植え付けた。

そしてルパンは本編の通りガニマール警部に変装。※1この際、ホームズに変装を確認させることで、さり気なく警官による身体検査を免れているのが巧妙なポイント。事前にホームズの前に現れた時にあえて不完全な変装をしていたのも、本番の変装でホームズに見破られないための仕込みだったという訳だ。※2

まぁルパンがガニマール警部に変装したことに関してはホームズたちはともかく読者(視聴者)には見え見えというか、変装して一番怪しまれない上に「常日頃からルパンを追っている人物=ルパンもその人となりをよく知っている人物」に変装していたのだから、この点はさほど意外ではなかったかな。

 

※1:6話でルパンが駅の時間を気にしていたのはガニマール警部の到着を待っていたからであり、この時にルパンと本物のガニマール警部は入れ替わった。

※2:ルパンの変装術の徹底ぶりについては『怪盗紳士リュパン』に収録された一作で、ルパン自身の口からこう語られている。

「(前略)人相なんてものは、思うように変えられるんだよ。パラフィンの皮下注射をすりゃ、お望みのところの皮膚をふくらませることができる。焦性没食子酸を使えば、モヒカン族そっくりになる。くさのおうの汁は、みごとな湿疹や腫物をこしらえる。ある種の化学的方法は、ひげや髪をはやし、また他の方法では、声を変えることができる。(中略)最後に、アトロピンを五滴ばかりたらして目つきを悪くすれば、芸当は完全というわけさ」

 

②盗難の困難

さて、これが盗難計画の肝心要となるポイント。余罪の間に保管されたダイヤと金庫をどうやって盗むのかが問題となるが、その答えは前回提示された通りお堀の水を余罪の間に流し込むという大胆な手段。一見すると、水を流し込んだ所でどう盗みに直結するのかわからないのが面白い所であり、また水を流し込むという一つの手段にいくつもの企みが隠されているのがこの盗難トリックの素晴らしいポイントだ。

つまり、余罪の間に水を流し込む行為には、

1.ホームズたちによる人力での警備を無効化させる

2.余罪の間の照明を消す(盗難の瞬間を目撃させないため)

3.通気口の鉄格子を水圧で破壊する

4.水流にのせてロープを余罪の間まで渡す

という狙いが隠されており、特に4に関しては通常だと通気口の配管が曲がりくねっていてロープを垂らしただけでは余罪の間に通せないという問題を、水流にのせることでいとも簡単にクリアしているのが秀逸だと評価したい。

そして、ロープをガニマール警部に扮したルパンが金庫に結び付け、それをファントムが回収するという形で金庫は余罪の間から出て行った※3訳だが、ここで回収役にオペラ座の怪人を配置しているのが本作のユニークな所で、別に回収役なんて誰でも良いだろって思ってしまう所を、本作では縄の扱いに長けているファントム※4にそれを任せている。ルパンとオペラ座の怪人をコラボさせたのにもそれなりの理由があったということだ。

 

※3:ロープで引き上げる際、金庫が配管内部にぶつかり金属音が響くというのが少々ネックであり、原作でも不可解な音として描写されているため、そこでトリックに思い至った人もいたと思うが、アニメでは金属音の直後にファティマによる壁の射撃の描写が入れられたことで、金属音が壁に刺さった鉄の矢によるものだと誤認させる演出になっていたのが何気に巧妙。よく考えれば天井付近にいたホームズたちに矢の射撃音があれだけハッキリと聞こえるはずはないし、ましてや室内は水で満たされていたのだから音が聞こえたとしても、もっとくぐもった音でないとおかしい。

※4:5話冒頭、エギュイ・クルーズ内においてファントムはイスに縛られていたのに自力で縄抜けしている。ガストン・ルルーの原作小説を読んでいなくとも、この場面でファントムが縄の扱いに長けた人物であることは読み取れるし、これが盗難計画のヒントにもなっていたのだ。

 

「③脱出の困難」については次回明かされると思うので今回はあえて伏せておくが、探偵側も無策だった訳ではなく、ホームズはダイヤを別場所に移すという作戦をとっていた。何も馬鹿正直にダイヤを金庫の中に入れておく必要はないし、仮にフェアじゃなかったとしても法を破って盗みに来る側のルパンが偉そうに言えることではないのでどこに隠そうが問題ではなかったのだが、そこはフェアプレイの精神からホームズはワトソンが所持していた刻み煙草入れにこっそりダイヤを隠し、余罪の間まで持ち込ませていた。

しかしそれすらも見破って盗んでしまうのがルパンの凄い所。アニメではカットされてしまったが、実は余罪の間に水を流し込んだ目的にはもう一つ意味があって、

5.水攻めで警備陣を生命の危機にさらすことでダイヤの本当の隠し場所を見極める

という目的も含まれていたのだ。つまり、余罪の間にいた段階でルパンはワトソンの刻み煙草入れを失敬しており、地上に上がってから土壇場で回収したのではないということだ。※5

 

※5:ちなみに原作では、ホームズが過去に解決したボヘミアの醜聞(『シャーロック・ホームズの冒険』所収)で使った手口を逆手に取ったものだとされている。

 

そんな訳でホームズにとって分が悪い敵だったのには違いないが、名探偵としてルパンの水攻めの企みを1~4までは見抜き、床板の軋み(原作は階段)から変装を看破して一旦は逮捕にまで至ったのだから、完全に出し抜かれなかっただけでも良しと考えるべきだろう。

 

〇「釜泥」作戦

さて、ホームズの対抗策に対して〈鳥籠使い〉は江戸の大泥棒・石川五右衛門にちなんで落語の「釜泥」をヒントに、ホームズの作戦で空になった金庫の中に鴉夜が入るという生首ならではの対抗策が見もので、西洋の怪盗を東洋の知恵でアッと言わせる所に笑劇としての痛快さがある。※6

勿論、ただ愉快痛快なだけでなく作戦を成功させる仕込みも前回の段階で施されており、前回の感想記事で言及した新聞記者のアニーがその役割を担っているのも見逃せないポイントだ。

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ルパンと〈鳥籠使い〉が対峙した際、ルパンは「ところで、そちらの二人は助手?」と尋ねている。この一言からわかるように、鴉夜が生首の探偵だと知っていたらアニーも入れて「そちらの三人」と言わなければならない。それなのに「二人」と言ったことからルパンはアニーを輪堂鴉夜だと勘違いしていると鴉夜は推理し、それを利用して「釜泥」作戦を実行したという訳である。

そのためには、これ以上詮索されては困るので取るに足らない相手だと思わせるために鴉夜は津軽にわざと負けるようけしかけた。あのルパンと津軽の前哨戦にも意味があったということだが、実は原作だと戦闘に入る前に鴉夜は落語の花筏という言葉で津軽に指示を送っている。アニメではこのワードがカットされたので、どのタイミングでけしかけたのか不明になっているのが少し残念ではある。

 

※6:ちなみに漫画版では金庫に鍵がかかっていなかった、つまり既に金庫内の宝石が出されて別の何かが入っていたことを示す伏線が漫画という媒体を利用してさり気なく読者に提示されているので、気になる方はチェックしてみてはいかがだろうか?

 

〈夜宴〉紹介(その1)

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今回ようやく物語に本格的に介入してきた〈夜宴〉はモリアーティ教授を筆頭に、切り裂きジャック人造人間ヴィクター吸血鬼カーミラ魔術師アレイスター・クロウリーによって成る悪の組織。本作におけるヴィランズである。

モリアーティに関しては4話のEDクレジットで名前が出ていたので意外な黒幕ではないものの、ホームズを出すからにはこの教授も出さないと釣り合いが取れないということもあって、実に申し分ない宿敵と言えるだろう。そんな〈夜宴〉のメンバーについて紹介していこうと思うが、流石に全員に触れていたら終わりが見えなくなるので今回は陽動係を担った吸血鬼カーミラクロウリーについてお話しよう。

 

〇同性愛者の吸血鬼

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吸血鬼カーミラは1872年にアイルランド人作家ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュが発表した怪奇小説に出て来る女吸血鬼。私が知っている範囲だとゲゲゲの鬼太郎(6期)の西洋妖怪編で登場した吸血鬼カミーラもこの原作小説をモデルとしている。

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3話の感想記事で吸血鬼の歴史に触れた際この『カーミラ』のことも紹介したが、発表当時吸血鬼と言えば男性だったのに対し、レ・ファニュは女性の吸血鬼を生み出したことが注目され、また女性の血ばかり吸うことから同性愛者(レズビアン)の吸血鬼として後の創作では描かれることが多い。本作もその例に漏れず淫靡な吸血鬼として描かれているが、原作小説は回想録の形式にしたこともあってか、カーミラにあまり性的なものは感じにくい内容になっているそうである。

 

カーミラも創作上の吸血鬼の例に漏れず、人間の背徳的な愛欲やロマン主義的要素を詰め込んだ吸血鬼なのだが、一説によるとカーミラのモデルとなったのはハンガリー王国の貴族で、悪名高いエリザベート・バートリだと言われている。

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バートリは嗜虐的嗜好から何人もの娘をいたぶり殺し、その血を浴びて喜ぶという常人には理解出来ない趣味があったようで、度重なる残虐行為の末に最後は城の寝室へ幽閉され(貴族なので死刑は免れた)その生涯を終えている。この逸話がカーミラの元になったと言われているが、串刺し公として恐れられたヴラド公しかり、実在の人物の方が創作上のキャラより残忍なことをしていたというのは恐ろしい話である。

 

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© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

インモラルで同性愛嗜好という人間の理解しがたい部分を担った吸血鬼カーミラは本作において己の欲に忠実に血を吸い人を殺めていくが、それに相対するはカーミラとは真逆の禁欲的で忠誠を生き甲斐とする馳井静句である。次回はこの相反する二人の真剣勝負が見所の一つとなるだろう。

 

〇好奇心旺盛なクロウリー

クロウリーについてはオカルトに詳しくない人には馴染みのない名前だろうし、かく言う私も本作で初めて知った名前だが、彼は実在の人物であり、生前の功績から「20世紀最大の魔術師」と呼ばれている。

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クロウリーは1875年にビール醸造工場で財を成した家に生まれる。現在価格に換算して数十億円レベルの資産を持っていたアッパーミドルの一人っ子であったクロウリーは、金持ちの家の子供にありがちなエリート意識の強い人間で、「世界のトップで活躍するのは俺みたいな人間だ」と周囲を見下す傾向があった。そんな協調性の無さから学校では飲酒疑惑をかけられたり、家では敬虔なキリスト教徒の母親から厳しく叱られていたそうである。この時の経験によってクロウリー反キリスト主義的思想に傾き、自身がキリスト教を冒瀆する数字「666」を背負った野獣であるという妄想を抱くようになったそうである。

以上のことは、大抵思春期における中二病として、年を重ねるにつれ終わるべき所をクロウリーの場合は終わることがないまま20歳に至る。この当時のクロウリーケンブリッジ大学に在籍しており、キリスト教信仰に反する酒・女・ドラッグといった非道徳的・世俗的な快楽行為にも手を出していたが、そういった手段は「他の皆がやっていること」であり、エリート意識の強かったクロウリーの心を満たすまでには至らなかった。そんな時に彼が出会ったのが「魔術」の世界である。

 

一応ここで魔術について説明しておくが、魔術の思想のベースとなるのは人間と宇宙が相互作用するという考え方である。宇宙が我々人類に影響を及ぼしているのなら、その反対で人間も何らかの手順を以て宇宙に働きかければ影響を及ぼすことが出来る。つまり宇宙の理を知り絶え間ない修行を重ねることで、そこから得た真理に基づき自然界に影響を及ぼしたり、未知なる存在との交信が可能になるというのが魔術の思想の概略だ。

魔術と聞くと、どうしてもいかがわしい黒魔術を連想してしまいがちだが、実際の所魔術はあらゆる分野の学問の始まりとなる要素を抱えている面もあって、例えば錬金術は化学薬品の誕生や「質量保存の法則」の発見の切っ掛けになっているし、占星術も天体観測をベースにしているから自然科学の分野として語ることが出来るだろう。魔術と学問の違いは、魔術は方法を重視して過程を飛ばすのに対し、学問はその過程で生じる謎を詳らかにするという、この違いによって分けられると言えばわかるだろうか?

 

1898年、クロウリーは秘密魔術結社黄金の夜明け団に入団。この秘密結社では魔術の理論と実践を学び、テストに受かることで階級が上がっていくという学校に似たシステムが用いられていたようだが、いざ入団してみると「黄金の夜明け団」のカリキュラムや講義で用いられた資料は既にクロウリーが独学で習得したものばかりで、その物足りなさにクロウリーはガッカリしたという。元々この魔術結社はイギリスの裕福な階級の人々が団員として所属する、言うなれば同好会に近い集まりだったこともあって、本気で魔術研究をしようとしていたクロウリーは団員を軽蔑し、カリキュラムを無視した実践修行などを行ったことで先輩団員の反発を買い、結果1900年に「黄金の夜明け団」から追放されることになる。

 

という訳で、アンファルの世界におけるクロウリーは「黄金の夜明け団」を辞めて〈夜宴〉に鞍替えしたという設定になっている。以上の内容だけを見ると「クロウリーって性格が悪いイヤな奴!」という印象を抱いてしまうし、実際彼が生涯かけて行った魔術の儀式は当時のイギリスの大衆紙に大々的にバッシングされていたのだから、お手本となる生き方をした人間ではないと言えるだろう。

ただ、クロウリーには魔術師以外の顔があった。「黄金の夜明け団」追放後、クロウリーは世界一周の旅に出る。その旅で彼は各国の名峰に登り登山家として名を上げることになった。また、元々未知なるものに対する好奇心が強い性格だったため、日本を訪れた際は鎌倉の大仏に感激して一時は出家し仏門に入ろうとした所を思い止まり、インド洋のセイロン島でヨガに熱中するといった具合に、あくなき探求心と好奇心(そして親から受け継いだ遺産)によって世界を駆けまわっていたのだから、魔術師という肩書きからは想像もつかない、超アウトドアな男だったのである。

その破天荒な生き様はスピリチュアルやヒッピー文化にも影響を及ぼし芸術の面ではジミー・ペイジデヴィッド・ボウイといったロックミュージシャンにも影響を与えている。※7

 

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© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

以上をふまえると、クロウリーが怪物だらけの〈夜宴〉の中でもビビらずに平気で同じ立場のメンバーとして振る舞っていられるのも納得である。幼少期に定着したアンチキリスト思想に加え、恐怖よりも好奇心が強い性格だからこそ、あのメンバーでもやっていけているということなのだろう。(実際のクロウリーはあんな平気で人を殺すようなヤバい奴じゃないけど…ww)

そんなクロウリーが相手するのは名探偵ホームズとワトソン。彼にとってこの二人は挑むに相応しい名峰として映っているのだろうか。

 

※7:クロウリーの生涯についてはWikipediaのほか、NHKBSプレミアムで放送されたダークサイドミステリー「悪魔と天使を呼んだ男 20世紀最大の魔術師 クロウリー伝説」(2021年9月16日放送)から引用した。

 

さいごに

7話の感想・解説は以上となるが、脚本がエンタメ性を重視したこともあってか、ルパンの盗難計画の辺りが端折られていて物語やトリックとしての精度が原作未読の人に伝わりにくい感じになっているのが原作ファンとしては勿体ないと感じたポイントだが、それでも一連の盗難計画や探偵側の仕込みのヒントは5・6話で配置されていたので、そこは良かったと思う。

それにアニメはアニメで原作にはない面白さを演出していて、例えばルパン逃走時に津軽が「釜泥」を語った場面なんかは、ルパン捜索でやっきとなる警備隊を尻目に落語を語るという津軽の余裕っぷりが見て取れて面白かったし、ルパンの「ははははは!」というあの通りの良い高笑いなんかは、彼の声を担当した宮野真守さんならではの味があって凄く良かった。あれだけ高笑いが出来てそれが板につく人ってなかなかいないと思うもの。

 

さて「ダイヤ争奪」編も次回で完結となるが、一応ここでフォッグ邸における各キャラの対戦表を書いてみると以下の通りになる。

東館:カーミラ VS 静句

東館(備品倉庫):ファントム VS ファティマ

西館:クロウリー VS ホームズ&ワトソン(鴉夜)

中庭:ルパン VS 津軽 VS レイノルド

あとここに切り裂きジャックと教授、ヴィクターも入り込んで来るということになるから正に勝負の予測は未知数ということで次回を楽しみにしてもらいたい。バトル回になるけど、単に戦っておしまいではないということだけは言っておこう。