タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

モリアーティだけが異常ではない【アンデッドガール・マーダーファルス #08】

怪盗・探偵・保険屋・夜宴。

〈最後から二番目の夜〉を手にするのは誰か!?

 

(以下、原作・漫画版を含めたネタバレあり)

 

「夜宴」

今回は原作の244頁から最後まで。「ダイヤ争奪」編もこれで完結となるが、8話は各陣営のバトルの模様と〈夜宴〉がダイヤを狙う目的が判明した。

モリアーティの語りの中で鴉夜の不死の性質が人工的に生み出されたことや、津軽が半人半鬼になった下りも明かされたが、その詳細は現在発売中の原作4巻で過去編として語られている。鴉夜も津軽もそれぞれ異なる地獄を経たことがわかるので気になる方は是非とも読んでいただきたい。

 

〈夜宴〉について解説する前に、まず先に今回ホームズが披露したバリツについて触れておきたい。

バリツはホームズの原作「空き家の冒険」において言及されている。ホームズがライヘンバッハの滝から復活した際、ワトソンに日本の武術・バリツを駆使してモリアーティを滝に落とし、自分は転落を免れたと語っているが、このバリツはシャーロキアンの間でも謎の武術として議論がなされており、「武術(ぶじゅつ)」の誤記説や「バーティツ」※1という日本の柔術にステッキ術と打撃技を合わせた護身術を指しているのではないかという説がある。

そして本作アンファルにおいて原作者の青崎氏は「場律」という漢字をあてはめ、一種の空間把握・掌握術としてバリツを解釈することで、アンファルならではのホームズの見せ場を作り上げた。敵の動きや空間全てを計算して相手の先手を取る術のため、頭が良くないと出来ない芸当だと作中で説明されており、対人間用の武術のため怪物には通用しないと言われている。

 

今回のアニメでは尺の都合から原作の「場律」ではなく「バーティツ」説を採用、ホームズは木の棒(木刀にしては短いか?)で毒針を持ったクロウリーの手を突き、毒針をクロウリーにお返しするという技を見せている。原作の「場律」が見られなかったのは少し残念だが、漫画版では原作と同様にホームズが「場律」を駆使してクロウリーを制圧しているので、気になる方は是非チェックを。

 

※1:ちなみにバーティツは考案者エドワード・ウィリアム・バートン=ライト自身の名前「バートン」と日本の「柔術」を掛け合わせて作った言葉。

バーティツ - Wikipedia

 

〈夜宴〉紹介(その2)

前回はカーミラクロウリーを紹介したので今回は残りの三人、ヴィクターとジャック、そしてモリアーティ教授について紹介しよう。

 

〇科学とオカルトの怪物、ヴィクター

ja.wikipedia.org

人造人間ヴィクターの元ネタとなった原作は1818年にメアリー・シェリーが匿名で出版したフランケンシュタイン あるいは現代のプロメテウス』。当時19歳の少女が執筆したこの作品は、理性と科学と恐怖という相反する諸要素を融合させた古典的名作として現代でも評論・研究の対象になっている。ちなみに、『フランケンシュタイン』を執筆した時、メアリーは二人の子供を産んでおり、そのうち最初の一人は生後11日目で死亡。しかも相手の男性である詩人パーシー・ビッシュ・シェリーとは不倫関係であった。メアリーは子育てと並行しながら作品を執筆した訳であり、不倫で駆け落ち中のことだから、当然親や親戚のサポートもない中での子育てと考えるとその苦労はただならぬものだったと思われる。

 

映画のイメージからフランケンシュタインの怪物は最初から醜い怪物として作られたと思われがちだが、原作では顔形の良いパーツ(美しい死体)を集めて作ったはずなのに、いざ完成して怪物が目覚めると、その恐ろしさに創造主のヴィクター・フランケンシュタイン博士は怪物を放置して逃げ出した、ということになっている。つまり、外見の醜さというのは恐ろしさの根源ではなく、動くはずのない死体が生命を持ったこと・生命そのものが抱く制御不能なエネルギーに対する恐怖こそ重要なポイントだと言えるのではないだろうか。

原作ではヴィクターに見放された怪物が人間から差別・迫害の憂き目に遭い、その憎しみ・怒りは創造主に向けられ、「博士 VS 怪物」という形で物語は展開する。そして物語を通じて読者は人間の醜さ・怪物の孤独、人間の中にこそ怪物が潜んでいるといったことを読み取るのだ。

 

画像

© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

さて、本作アンファルの人造人間ヴィクターも同じく創造主となる博士がいるのだが、詳しくは原作1巻の「人造人間」の章を読んでいただきたい。その章を読めば彼がどのような経緯で誕生し、何故〈夜宴〉に入ったのかがわかるよ。

 

〇元祖シリアルキラー切り裂きジャックの野望

ja.wikipedia.org

5話の感想記事でチラッと紹介したが、切り裂きジャック1888年にロンドンのイーストエンド地区、ホワイトチャペル通りを中心に娼婦を最低でも5人、模倣犯の可能性がある分も含めると11人も殺害したと言われている。

切り裂きジャックが現在でも有名なのはこの一連の事件が犯人が逮捕されていない未解決事件であること、被害者の喉を切り腹をかっさばいて内臓を取り出すという残忍な手口、警察に犯人と思しき人物から手紙が送られるといった劇場型犯罪の要素を押さえた事件だからであり、130年以上たった現在でも切り裂きジャックの正体を突き止めようとする好事家がいるくらいだ。※2

 

画像

© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

アンファルにおける切り裂きジャックは15歳の時にホワイトチャペル通りで完全犯罪を成し遂げ、そこからモリアーティを探し出し彼の部下として〈夜宴〉で組織のナンバー2的存在になっている。ちなみに、ジャックがモリアーティの部下という設定は映画名探偵コナンイカー街の亡霊」を彷彿とさせる。

 

このジャックは原作を読んだ方もご承知の通り「思想」が口癖で「そういう思想もある」とか「興味深い思想だ」とかやたらと思想という言葉を使う。この辺りからも察せられるように、彼は瞑想や修行といった手段で悟りや新たな思想を手に入れるのではなく、怪物という異種族の肉を移植し血を入れ替えることで精神を高めようと考えている。肉体を追い込むのではなく肉体そのものを入れ替えることで精神をより上位の所まで持って行くというのがジャックの考えだろうが、この発想は「羊たちの沈黙」のレクター博士にも通じていて、レクター博士の場合は人間という同種族を喰らう所に人間の上位種になる、つまり食物連鎖の頂点である人間の更に上を行くという願望が見出せる。

ジャックの場合は怪物を己の肉体に取り込むことで人間の上位種になることを目論んでいるということになるが、それが実現すると彼を止められる者はいなくなるということになり、非常に危険な存在になることは言うまでもないだろう。ある意味これは人間の創造主=神が決めた宿命を打ち破りたいという創造主への強烈なアンチテーゼ(=反キリスト主義)でもあるのだ。

 

〇「物語の幕引き」として現れた宿敵、モリアーティ

ja.wikipedia.org

モリアーティ教授が登場するのは『シャーロック・ホームズの回想』所収の「最後の事件」。作中のホームズによると、モリアーティは21歳で二項定理に関する論文を書いて当時のヨーロッパで一世を風靡した数学の天才でありながら、遺伝的な性質により犯罪の道へと走り表の顔は数学の教職員、裏の顔はロンドンの犯罪を牛耳る闇の組織の親玉と言われている。

 

モリアーティ教授は「探偵の因縁の宿敵」として後世の作品に影響を与えており、有名な所だと金田一少年の〈地獄の傀儡師〉や「探偵学園Q」の〈冥王星〉、更に10月にアニメ化する「鴨乃橋ロンの禁断推理」というミステリ漫画ではモリアーティの子孫が登場する。ドラマだと織田裕二さん主演の「IQ246 ~華麗なる事件簿~」でマリア・Tと呼ばれる探偵の敵役が出て来るし、斎藤工さん主演の「臨床犯罪学者 火村英生の推理」では最終回における諸星沙奈江との対決がまんまホームズのライヘンバッハの滝を意識した演出になっている。

このように、モリアーティとホームズを意識した後世のミステリ作品を挙げると幾らでも出て来るのだが、身も蓋もない言い方をすると作者のコナン・ドイルはあくまでもホームズ譚を終わらせたいがためにモリアーティ教授を生み出した訳であって、つまるところモリアーティは「物語の幕引き」として誕生した宿敵なのだ。だからモリアーティがどんなことをこれまでやってきたのか、それは「最後の事件」において具体的に語られている訳ではないし、ホームズが彼の陰謀を度々妨害したことで命を狙われるという程度の情報で「最後の事件」は物語を進めているから、原典を読んだ所でモリアーティの凄さは多分理解出来ないと思う。

 

画像

© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

本作におけるモリアーティ教授はホームズと同様にライヘンバッハの滝から復活を遂げ、〈夜宴〉のボスとして新たな犯罪組織の立ち上げに動く黒幕として描かれている。ホームズにとっての宿敵であると同時に、鴉夜の胴体を持ち去った張本人としても二人の探偵の前に立ちはだかることになるが、モリアーティが目論む犯罪組織の革命、つまり合成獣(キメラ)という生物兵器のアイデア自体は決して珍しいものでもない。それをこの後の項で説明しよう。

 

※2:最近だと7月に捜査官の子孫にあたるサラ・バックス・ホートン氏が真犯人を突き止めたとする書籍『片腕のジャック:切り裂きジャックの真犯人を暴く』を刊行するようである。

「切り裂きジャック」真犯人解明? 捜査官の子孫が新刊 英 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News

 

人工的奇形の歴史

モリアーティが考える人間に怪物を取り込むという発想、言い換えれば人間を人工的に奇形種に変えてしまうということは、実は人類の歴史の中で洋の東西を問わず様々なケースがあるのだ。

1880年、イギリスの医師マグガウァンは中国で子供の身体に動物の皮膚を移植するという外科手術を目撃し報告している。幼児の表皮を切り取って、そこに犬や熊の皮膚を移植するというもので、皮膚の定着には数ヶ月かかったという。そしてより動物に近づけるため声帯を切り取ったり二足歩行出来ないよう関節を外して、動物と人間のミックス「動物子供」が作られたというのだ。

これはかなり極端な例だが、ローマ帝国時代後期では商人たちが新生児を買い取って小人を意図的に作り出そうとしていたケースもある。小人は一定の好事家や貴族の間では人気があり、それを所有することは一つのステータスとされていた。だからこそ子供の栄養を制限し拘束具等で身体を変形させて小人を作るという商売が成り立ったという訳である。※3

 

画像

© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

身近な所で言うなら、刺青も人工的な奇形の一つのケースである。本作だと津軽やジャックの身体に刺青のような筋が通っているが、元々刺青には芸術的なものや愛のアピール、帰属するグループ・組織の証明、痛みに耐えたことを示す一種の通過儀礼と様々な意味が込められ、様々な国や地域でその実例を見ることが出来る。過去には、全身にシマウマのような刺青を施したザ・グレート・オミ(通称ゼブラ男)がいたくらいだから、刺青は最も手軽に別の存在になる手段と言えるだろう。※4

パプアニューギニアのセピック族の場合は、身体にワニの模様を刻み込むという成人の儀式があるという。※5これは、崇拝するワニの力を身体に取り込むという意味が込められており、今回のモリアーティの怪物の力を取り込むという発想と何ら変わりない。動物の肉体を移植するかしないかの違いに過ぎないのだからね。

 

それから、忘れてはならないのが美容整形である。一見すると無関係に思えるかもしれないが、中国にかつてあった(今でもあるのかな?)纏足の風習は小さい足が魅力的という当時の美意識から来るものだと一説には言われているし、タイやミャンマー首長族は女性が首に金色のリングをまとっているが、これもその地域の美意識から来るものではないかと考えられている。日本人だって、薄い唇をぷっくりさせたり胸を豊かにするためにシリコンや美容液を注入しているのだから、決しておかしな話ではない。

また、美容整形と怪物は地続きのテーマでもある。以前日テレの「ザ!世界仰天ニュース」で扇風機おばさん※6という女性が紹介されていたが、彼女は角ばったアゴを気にして闇医者を頼ってシリコンを注入。その行為はエスカレートしやがて顔は満月のように丸くなっていくが、それでも歪んだ美への思いは尽きることがなく、最終的に整形用シリコンを買うお金がなくなると、自宅の調理用油を顔に注入し顔は見るも無残に膨れ上がってしまったという。美を求めるがあまり怪物になってしまったという寓話的な実録ドラマであるが、この扇風機おばさんも本作のような怪物テーマの物語を語る上で外せない存在だ。

 

このように、本人の望む・望まないに関わらず人類は人工的にその身体を変形させて奇形を作り出して来た。ジャックをベースにした合成獣(キメラ)製造の構想はモリアーティの異常さを物語ってはいない。人類が神から与えられた肉体という器に対して様々なアプローチで変化・変形を施していた歴史を見れば、それはむしろ普遍的な価値観と言って良いのだ。

そういやバイオハザードシリーズもアンブレラ社がウイルスや菌を駆使して生物兵器や超人を生み出す実験・開発をしているから、本作の〈夜宴〉のモリアーティはアンブレラの創設者であるオズウェル・E・スペンサーに似ているなと個人的には思った。

 

※3:マルタン・モネスティエ『図説奇形全書【普及版】』を参照。

※4:全身改造「コンセプトトランスフォーメーション」の世界、自分の希望で身体を自由に変えられる時代に、究極の「自由人」となった華麗なる人たち【動画ライター】 - bouncy / バウンシー

※5:【漫画】ワニの刺青を背中に…激痛の成人式『クロコダイルマン』|雑学王子トリビアーン

※6:扇風機おばさん死の真相に迫る|ザ!世界仰天ニュース|日本テレビ

 

さいごに

ということで「ダイヤ争奪」編、ルパンはダイヤは逃したものの純銀の金庫は盗み出し、〈夜宴〉はダイヤは逃したがダイヤに記された人狼の居所の情報はゲット、そしてホームズと〈鳥籠使い〉一行は何とかダイヤだけは死守することが出来たという形でこの熾烈な争奪戦は決着を迎えた。

 

画像

© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

特に最後の津軽のファインプレーに関しては、ジャックが怪物を取り込み知能・攻撃力・回復力といったあらゆる点で人間の上位種になっているという彼自身の驕りに対する痛烈な一撃でもあった訳だから、津軽のダイヤ奪還にはある意味笑劇としてのオチ以上の意味があったと読み取ることが出来よう。人間だから優れている訳でもないし、怪物だから劣っている訳でもない、ましてやその両方があるから一番優れている訳でもないということだ。

 

今回は「人工的奇形」という観点からモリアーティ教授の目的を語ってみたが、本作を「奇形」という視点で眺めると、鴉夜や津軽、ジャックに人造人間のヴィクターは人工的奇形に分類出来るし、ホームズやルパン、ファントムにモリアーティは精神的奇形と呼ぶことが出来るだろう。善悪の方向性の違いはあれど、ホームズやルパンといった頭脳によって人間の枠を打ち破るような存在は精神が常人から逸脱しているという点で精神的奇形者であり、それを俗に天才と呼ぶ。

 

そうそう、前回敢えて語らなかったルパンの盗難計画の「③脱出の困難」は今回明かされた通り、お堀の水が余罪の間に流れ込んだことで水路が通れるようになり、ルパンとファントムはそこを脱出経路に利用した。この脱出方法も合わせてルパンは水を流し込むという一つの行為で、

1.ホームズたちによる人力での警備を無効化させる

2.余罪の間の照明を消す(盗難の瞬間を目撃させないため)

3.通気口の鉄格子を水圧で破壊する

4.水流にのせてロープを余罪の間まで渡す

5.水攻めで警備陣を生命の危機にさらすことでダイヤの本当の隠し場所を見極める

6.脱出経路を確保する

という6つの目的を達成したのだから、正に一石六鳥の盗難計画。ダイヤこそ盗めなかったが彼の怪盗としての天才っぷりがよく表れていたと言えるだろう。

 

最後に第二章の総評をして今回の感想・解説を終えるが、何と言っても約320頁ほどある原作を全4話で過不足なくまとめた脚本と演出は流石だと評価しておかなければならない。勿論、ホームズのバリツの件やファントムのフォッグ邸侵入など個人的に見たかった描写が改変・カットされたことは残念だけど、これだけのキャラが錯綜する群像劇を約80分の物語としてまとめ上げ、バトル面でも物足りなさを感じさせない作りになっていたのは素直に良く出来ていたと言うべきだろう。(劇場版みたいに100分~120分あればもっと充実度の高い作品になっていたかも)

 

アニメ感想の動画でも初見の視聴者が面白がって第二章を評価していて原作既読勢として安心したが、第一章と同様ハマれなかった人の意見も見かけたので一応その意見に関しても言及しておきたい。

ハマれなかった人の意見で出て来たのは「キャラの渋滞」、つまり今回の四つ巴の争奪戦におけるキャラの多さをマイナスポイントとして語っていた。これに関して私なりに意見を言うと、第二章「ダイヤ争奪」編ではホームズやルパンといった皆が知る有名人を一堂に会する面白さがあるものの、だからと言って100%面白くなるかと言うとそこは難しい話で、有名人起用の功罪がどうしても生じてしまう。

有名人を使えばオリジナルキャラと違って各キャラの背景描写を省略して描くことが出来るという利点があるから「ダイヤ争奪」編は有名人だらけの群像劇でも問題なく面白い物語になった。ただ一方で有名人を起用すると、有名なだけに見る人によってそのキャラクターに対する固定観念が邪魔をして、それが「コレジャナイ感」として物語の集中を妨げることにもなってしまう。ルパンだと三世が有名なだけにそっちに引っ張られる人もいるだろうし、クロウリーの指弾にしてもどうやら「鋼の錬金術師」のマスタング大佐を連想した人がいたようなので、どうしても過去作・先行作品のイメージや先入観がフラットな姿勢での視聴を阻害するのは認めざるを得ない。

 

ただこれだけはハッキリ言っておくが、四つ巴の争奪戦はいたずらにキャラクターを増やして混戦を賑わせたのではない。保険機構ロイスと〈夜宴〉はシリーズの縦軸として〈鳥籠使い〉の前に立ちはだかる相手だし、人間離れした能力を持った組織としてある種ミステリとしての枠組みをぶち壊す存在だ。一方ルパンやホームズは超人的な面はあるにせよ、基本は頭脳戦をメインとする陣営で王道のミステリを担う存在である。

この構図から見てもわかるように、本作「アンデッドガール・マーダーファルス」はミステリであると同時に怪物を物語に取り入れた伝奇小説でもある。ミステリとしての知性・条理とそれを破壊する怪物をミックスさせた所に本作の妙味がある訳であって、ミステリの要素だけでは予定調和に陥りがちなプロットを怪物という条理に反した存在がかき乱すから物語は予測のつかない方向へ動くのだ。

 

以上で8話の感想・解説を終えるが、次回からは第三章ということで原作3巻のエピソードに突入。先に言っておくと第三章は一章のような怪物をテーマにした本格ミステリ要素がありながらも二章のようにバトル面でも退屈させない、物語としてバランスの良いエピソードだと私は原作を読んで思った。とはいえボリュームは約480頁とシリーズ最長なので、残り話数でどう描き切るのかその辺りを注目していきたい。