タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

【ゲゲゲの鬼太郎】吸血木(1~4期)を見比べる

ゲゲゲの鬼太郎歴代セレクション、第五回目は吸血木(のびあがり)の回。

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四回目(幽霊電車回)をとばしたのは前回がだるまだったからそれにちなんでではなく、幽霊電車回は5・6期の感想記事で全て言いたいことを言ったので割愛しました。

 

ということで歴代の吸血木回について語っていくが、5・6期については当ブログで既に言及済み(↓)なのでそれらを除いた1・3・4期を今回は見比べていこう。実は1・3・4期は6期の感想記事で軽く触れたのだけど、せっかくなのでよりディープにね。

tariho10281.hatenablog.com

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1期(元に戻れないからこそのホラー)

1期はほぼ原作通りの内容だが、原作で依頼人としてやって来たおじいさんが鬼太郎のいる長屋に着いた途端に吸血木化するという展開はアニメオリジナル。とはいえこの改変は吸血木の恐ろしさを非常に効果的に表現した場面になっているし、この後の奥山村での吸血木と化した人の亡きがらを運ぶ葬式の様子や谷底に捨てられた吸血木の山を見ればわかるように、1期では吸血木になった時点で死が確定するので、そこがホラーとして容赦がない。それだけに、より一層のびあがりという怪物の得体の知れなさが感じられる。ラヴクラフトクトゥルフ神話的な怪物がもたらす恐怖を見事に表現していると言えるだろう。

ただ、この1期はホラーに全振りしているという訳でもなく、ちょこちょこクスリと笑えるような場面があって、例えばバスで奥山村に向かう場面では小柄な目玉おやじにも大人の乗車賃を求める車掌と何とか子供料金で済まそうとするねずみ男とのやり取りが面白いし、「えへん」と胸を張っている目玉おやじがカワイイ。

鬼太郎が吸血木になる下りでも、原作だと頼みの綱の鬼太郎が吸血木になったので村を離れるしかないという絶望的な感じになるのに、この1期の村長さんは「木になったからもう伐り倒すか」となかなかにドライなお役所仕事ぶり。そして鬼太郎が復活し事件が解決すると手のひら返しで感謝するという始末で、この1期では脇役となる村長やバスの車掌さえもが憎めないキャラとして描かれており、そこも注目ポイントとして挙げられる。

そういや、ねずみ男ってあの上着の下はすっぽんぽんだと思っていたけど、股引を穿いていたんだね(動画の10分10秒辺りを参照)。せいぜいふんどし程度かなと思ってたのでこれはちょっと意外だったな。

 

3期(愛の逃避行を阻むのは妖怪)

3期ののびあがりは原作と違い喋ることが出来る上に人間に対する明確な叛意もあるという設定で、声を田中康郎さんが担当している。そのせいか、どうもキャラが3期の初回に登場した妖怪城のたんたん坊とかぶっている感じがして、原作ののびあがりが持つ得体の知れなさがなくなってしまい、そこは正直マイナスポイントかな~と思ってしまう。

プロットに関しては、まず物語冒頭で松代と杉作という二人の男女が駆け落ちをしようとする所から始まり、二人が家同士の対立で許されざる恋をしていたということが明かされる。言ってみればこれはシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」的な恋愛物語における定番のプロットである。通常ならば、こういった男女の恋を引き裂くのはお互いの家の両親になるのに、本作ではその二人の愛の逃避行を何と地下に封じられていた妖怪が引き裂いてしまうという通常の恋愛悲劇ではあり得ない展開を生み出しているのが3期のユニークなポイントであり、改めて見るとそこに面白さを感じた。

妖怪が恋路を引き裂くというのは5期のろくろ首の回でも見受けられるが、5期の場合は人間と妖怪の恋なので今回とはニュアンスが異なるし、引き裂く側の妖怪(おどろおどろ)にしても、意図的に恋路を邪魔していたのが何か俗っぽいというか妖怪らしくない感じがしてあまり私の好みではなかった。個人的には、意図せず恋路を阻んだ今回の方がプロットしてはドラマチックだと評価したい。何せ、2万年もの間地下に封じられていた妖怪がよりにもよって二人の男女が駆け落ちする直前に復活して相手の女性を吸血木化したのだからね。タイミングが絶妙過ぎる。

(あのタイミングで復活したと断定するのは、もし駆け落ちの決行前に吸血木化の事件が起こっていたら流石に二人とも駆け落ちをしないと考えたからだ。村が異常事態なのに駆け落ちをするというのは余りにも無神経過ぎるし、仮にそれに乗じて駆け落ちしたとしたら、少なくとも物語の冒頭の二人の会話でそういった話題が出てこないとおかしい)

 

4期(コズミックホラーから反転して…)

4期ののびあがりは隕石の中から現れた怪物という設定になっており、原作以上にラヴクラフトが創出したコズミックホラーとしての怪物的要素が濃くなっている。宇宙からやって来た正体不明の怪物が麓の村の人間を次々と赤い木に変えていくという前半の流れは正にホラーと言えるが、デジタル作画ということもあってか、全体的に作画に粗さを感じてしまい、それが演出として怖さを薄めてしまっているような気がしてちょっと勿体ないなと思った。

そんなコズミックホラー的な展開から一転、後半ではのびあがりの正体が山で失踪した村長の息子・俊之であり、木に変えていたのは村を襲う大雪崩から村人を守るためというまさかの動機が明かされる。これまで一貫して悪性の妖怪として描いてきたことを逆手にとって善性の妖怪にすることで物語に意外性と感動を与えた、なかなか優れたアレンジだと評価したい。

 

 

以上、1~4期の見比べをして5・6期の感想も込みで吸血木回を評価すると、やはり一番バランスが良いなと感じたのは1期であり、あとはプロットは良いけどキャラ設定が凡庸になっている、或いは作画が粗くなっているといった具合にマイナスポイントが見受けられて手放しに褒めるのは難しいかな。5期に関してはプロットも作画もどっちも好みではないのでこれが個人的には歴代の中でワーストだと評価せざるを得ない。やはり吸血木は人間が吸血木になるから恐ろしいのであって、妖怪が吸血木になってもねぇ。