タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

これが見たいと四年前に言ってたんですよ!!【ノッキンオン・ロックドドア #01】

どうもタリホーです。記事タイトルにもあるように、四年前の2019年から「これはドラマ化すべきだろ!」と思っていた『ノッキンオン・ロックドドア』が遂にスタートしました!

 

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ドラマ化決定の喜びに関しては、原作が同じ青崎有吾氏で、今現在アニメ放送中の「アンデッドガール・マーダーファルス」と併せて以上の記事にアップしているので、さっそくドラマの感想に移ろう。

 

(以下、原作を含むドラマのネタバレあり)

 

「ノッキンオン・ロックドドア」

ノッキンオン・ロックドドア (徳間文庫)

記念すべき初回は原作1巻所収の最初のエピソード。著名な画家が自宅のアトリエで何者かに刺されて死亡。現場は密室状態だったが、どう見ても事故や自殺には見えず、更には現場に飾られていた六枚の絵が額縁から出されて床に放置されており、その一枚は何故か真っ赤に塗りつぶされていたという。この不可能かつ不可解な密室殺人事件に御殿場倒理(ごてんば・とうり)と片無氷雨(かたなし・ひさめ)のコンビが挑む…というのが初回のあらすじだ。

 

プロットや軸となるトリックは原作準拠ではあるが、事件関係者である画家一家や画商の名前・設定は変更されており、原作の画家一家は霞蛾という姓に対してドラマは四ノ宮という姓に変更されている。原作の英夫は「青空の作家」で知られているが、ドラマは「煌めきの画家」として有名な画家であり、妻・由希子(原作の水江に相当)も才ある画家という芸術一家として描かれているのがドラマの注目すべき改変ポイントだ。この改変については後ほど言及する。

 

事件に関しては前述したように、

〈How〉どのようにして密室を作り上げたのか?

〈Why〉何故密室を作る必要があったのか?絵を一枚だけ真っ赤に塗りつぶしたのは何故か?

が謎として提示されており、倒理と氷雨のどちらにも華を持たせたデビュー作に相応しい事件となっている。

密室はミステリ作家なら一度は挑戦したくなる魅力的な題材の一つであり、原作者の青崎氏もデビュー作『体育館の殺人』で体育館という巨大な密室をテーマにした犯人当てミステリを執筆している。そして今回のエピソードも密室を題材にしているが、鍵が掛け金だけのシンプルな施錠方法ということもあって、一見するといかようにでも密室が作れそうな状況になっており、トリックがこれだと断定しにくいのが本作の謎解きとして難しいポイントだ。とはいえ、一枚だけ真っ赤に塗りつぶされた絵が密室トリックに関わっているというのは何となくわかることだし、その使い方も非常にユニークなので、意外性もありながらフェア性もある、映像化にピッタリなトリックだと評価したい。

 

〇〇解体のための密室

さて、原作シリーズを読んでない人もいると思うので一応言っておくと、実は原作は40頁にも満たない短編であり、「事件概要→現場検証→事件解決」といった具合にアッサリ解決してしまう。これはあくまでも本シリーズが連作短編集であり、一つ一つの事件はトリックの面白さに特化した内容なので、そこは読者も承知の上で読み進めているが、ドラマは流石にトリックだけで物語を牽引する訳にはいかないし、しかも初回は1時間枠でやるということで、放送前は一体どのような改変をしてあの短編を膨らませるのだろうと注目していた。

結果から言うと構成は「事件概要→現場検証→捜査難航→トリック解明→動機解明」の五段階に分かれており、特に「捜査難航」と「動機解明」の下りはドラマオリジナルの展開になっている。

 

「捜査難航」の段では、今回の犯行動機の背景となる情報や手がかり、また今後の展開の縦軸となる倒理と氷雨の関係を描き、天川教授という二人の探偵の師匠となる存在も登場して、事件自体はあまり進展していないのに冗長になるどころか、ちゃんと面白い仕上がりになっているのが脚本として巧いなと感じた。倒理が作ったあんかけチャーハンにしても、不可能(つまり手段)を専門とする探偵だからパスタを米として代用するというアレンジを閃けるという具合に、原作のキャラ設定と齟齬を来さないようになっていて、私は良い場面だなと思いましたよ。

そして「動機解明」の段は、作風のことで被害者と揉めていたという原作の犯行動機を更に膨らませて、四ノ宮一家のダークな面を描いているのが改変として非常に素晴らしいと思った。この犯行動機に関しても、竜也の成長と共に笑顔が消えていく家族写真竜也の身体つき・父親からの作風の強制と序盤から伏線を張っていたのが秀逸で、物語の駒として動かされる空虚な登場人物になっていないのがドラマとして優れた改変になっていたなと思ったのだ。

 

もうこれだけでも映像化としては十分面白い仕上がりになっているのに、最後の最後で依頼人である由希子の真の企みまで明かされるのが凄まじい所。高畑淳子さんが演じているから単なる依頼人で終わらないとは思っていたが、画家として返り咲くためなら悲劇も利用するという由希子未亡人のバイタリティーというか、芸術の神である女神ミューズとして周囲から称賛された顔とは全く異なる、悪魔的な操りを完遂した顔にゾッとした。

しかもこの改変の素晴らしい所は密室が解体されることで家族も解体される。つまり、密室トリックが明かされ犯行が息子の仕業と確定されたことで、由希子も足枷となっていた家族からようやく解放され、返り咲きに必要な"物語"を獲得出来るという一挙両得のシナリオになっていたのだからね。息子が復讐のために密室を構築し、その密室が解かれることで母親が利益を得るという、この密室の二通りの使い方が本当に見事だなと思った。

私もそれなりに密室ミステリは読んでいるけど、「密室が解かれることで利益を得る」という今回のプロットに類似する作品は少なくともお目にかかったことがないし、あったとしたらもっと有名になっているはずだから、今回のこのドラマは大げさな言い方をすると密室ミステリの歴史に刻まれてもおかしくない出来になっていたと高く評価するべきではないだろうか?

 

※ちなみに、ドラマ冒頭で由希子がハンカチを取り出して泣いた際、倒理の鼻がピクピクっとひくついていたのが窺えるが、これがハンカチにティア・スティックを仕込んでいた(=メンソールの香りに倒理の鼻が反応した)という伏線になっている。てっきり私は魅力的な事件の予感がして身体が反応したのかなと思ったので、そう考えるとダブルミーニングの効果として巧みな演出だったと評価出来る。

 

さいごに

ということでノキドアの初回感想はこのくらいにしておくが、いやそれにしても想像を裏切るあの改変が本当に素晴らしくてドラマ化のスタートダッシュとしては最高のスタートを切ったと思いますよ。監督が堤幸彦氏だから「神の舌を持つ男」の時みたいにしょうもない・古臭いギャグ要素とか勝手に入れられたらどうしようかと思ったけど、演出面は無駄がないというか、むしろクールさを感じるくらいでそこも良かったなと思う。

実は今回のドラマが始まる前に放送された「アンデッドガール・マーダーファルス」の吸血鬼編(2~4話)が今回の物語に通じる家族の閉鎖性や、一致団結しているようで実はバラバラという家族の形を描いており、同じ原作者の作品であるアンファルの吸血鬼編が放送された後にノキドアでまた家族テーマの物語が流れたという神の采配としか思えない偶然が生じたのも今回のドラマを評価した一つのポイントだ。

あと今回のドラマで松村さんと西畑さんの演技を初めて見たけど、松村さんの倒理としての演技は勿論のこと、あの滑らかな語りはミステリというジャンルにおいて結構相性抜群なんじゃないかな?西畑さんは今回の時点ではツッコミ役・常識人という映り方なので倒理と比べるとまだそんなに目立つ方ではないけど、私は原作の氷雨がどういう人間なのかは一応知っているので、ここからの西畑さんの演技も楽しみですね。