タリホーです。

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変態シスコン野郎の直感大ハズレにつきマイナス50ポイント(invert 城塚翡翠 倒叙集 #4)

変態シスコン野郎って語呂が良いから使いたくなりません??

 

(以下、原作を含むドラマのネタバレあり)

 

「信用ならない目撃者」

invert 城塚翡翠倒叙集

前後編として放送された最終エピソードは「信用ならない目撃者」。これまでの犯人たちは多かれ少なかれ同情の余地があったのに対し、本作の犯人・雲野泰典は調査会社の社長という立場を利用して多くの人の弱みを握り、自身の悪事を告発しようとした部下を拳銃自殺に見せかけて射殺するというなかなかのクズっぷり。

そんな訳で本作は明確に「探偵 VS 犯人」という構図がハッキリ描かれており、雲野が元刑事ということもあって(一見すると)犯行にスキが見当たらないのが前編を見た段階での印象だった。

また、事件当夜マンションを目撃していた涼見梓の曖昧な証言が本作の核となる部分であり、彼女の証言が物語のサスペンス性を高めるだけでなく、この証言からどうやって雲野の犯行を立証していくのか倒叙ミステリとして注目すべきポイントだろう。

 

前編の段階では弾倉に被害者の指紋がなかったことや、雲野が銃をこめかみに当てる仕草という些細なミスが指摘されたものの、どちらも決め手どころか状況証拠にすらならないシロモノなのでどうひっくり返すのかと思っていたら、この時点で重大な失言をしていたとは…。私もこの失言に関しては完全にスルーしていたので一本とられたよ。

そして後編ではより直接的な証拠となる雲野の時計が提示されたこともあって時計が本作の決め手になるのかな~と予想した視聴者も多かったと思うが、それは恐らく脚本に携わった原作者の相沢氏も承知の上であのように予想がつきやすい提示の仕方をしたと思うし、むしろ相沢氏としては本当の決め手に視聴者が気付けるかどうか挑戦していたはずだ。だからこそ解決部に移る前、翡翠「全てが解けたあなたにはこの言葉を…。What done it ?と言わせたのだろう。「What done it ?」は即ち「何があった?」ということで、物語の状況そのものに対する問いかけであり、プロット自体に騙しがあるというヒントでもあったのだ。

 

ここからはより具体的に本作のトリックについて言及していこう。

涼見梓が実は翡翠が用意した偽の目撃者=目撃者そのものが決め手という本作最大のサプライズは、彼女が偽物であると推理出来る手がかりはないので、(ドラマを見る限り)論理的に彼女が涼見ではないと推理は出来ないものの、現場の窓に吊るされていた靴下が持ち去られたという手がかりから、翡翠がどのように犯人を追い詰めるか予想を立てることは決して不可能ではないと思うし、「信用ならない目撃者」というタイトルそのものが涼見が偽の目撃者であるというダブルミーニングにもなっている。

とはいえ、探偵(翡翠)とパートナー(真)という従来のミステリの構図をCM等で大々的にアピールしていることもあって、真や鐘場以外に更に第三の協力者の存在がいるとはやはり考えにくいし、前編では真が翡翠に変装していることもあって、まさかもう一人別の人物に変装している人間がいるとは思いもしないだろう。このように、あからさまな変装や探偵と助手という関係を前面に押し出すことで真相を見えにくくしているのが本作の騙しとして優れたポイントと言えるだろう。

 

※ちなみに、原作で涼見を装っていたのは翡翠本人であり、翡翠の役を真がずっと演じていたというのがサプライズとして仕掛けられていた。しかしこれは小説だから通用するトリックで映像化不可能のため、第三者(岩戸)に涼見を演じさせるというドラマの改変は当然の舵取りだと評価するし、そのために「medium」の段階で劇中に岩戸の存在を伏線として配置したのも納得出来る。

(2024.04.30 追記)

 

あとこれは相沢氏も意図していなかったと思うが、アンフェアを避けるため岩戸の名前を事前に別の回で出しておき、岩戸を「詐欺師を騙す詐欺師」だと翡翠に言わせたことでメタ的なミスリードを誘発したのも見逃せないポイントだ。詐欺師を騙す詐欺師と言えば、つい先日最終回を迎えたTBSのドラマクロサギの黒崎を彷彿とさせるし、それによって岩戸が男性という誤った刷り込みが為された人もいたのではないだろうか。

(ちなみに、岩戸を演じた若月佑美さんが出演した回にはエンドクレジットに「協力者 若月佑美と記載があるよ)

 

よく手品で左手に観客の意識を集中させておいて右手でタネを仕掛けるという手法がとられることがあるが、本作は正に観客(視聴者)の意識を別の所にそらせてトリックを仕掛けるという手口を多用しており、前述した真の変装や関係性だけでなく、雲野の失言にもその手法がとられている。先に弾倉の指紋やこめかみに銃を当てる仕草といった、決め手にはならない犯人のミスを出しておくことでより重要な失言――「(涼見が)犯人が曽根本を撃ち殺す瞬間を見ていた」――に意識が向かないよう誘導しているのも巧い手だ。

 

ミステリとしての評価は以上となるが、物語としては終盤で雲野が人の心ある犯罪者として評されていたのが良かった。今までの犯人たちと比べるとクズだし手段を選ばない所はあるが、一方で亡き妻の時計を肌身離さず身に着けていたり、岩戸扮する涼見にありし日の妻の姿を重ね合わせて交流していたと思しき描写があったりと、雲野の人間性――最愛の存在を失ったが故の非情さ――が読み取れる。その対比として香月史郎こと鶴丘文樹が再登場することになったのかもしれないが、それにしてもあれだけ断言しておいてその直感は大外れだったのだから草しか生えないわ。だから変態シスコン野郎止まりなんだよ。

 

総評(日テレ系ミステリドラマの分水嶺となるか?)

「medium」から一転して、犯人を明らかにした上での謎解きを軸においた「invert」は小説が原作ということもあって、尺の都合でカット・改変された箇所があり、どうしても情報不足でスッキリしない(特に2・3話)点があったのは否めないがそれでも十分面白かったし、むしろ原作の映像化として不完全な部分があったことで逆に「原作はどうなっているのだろう?」と視聴者に思わせ、原作の販促として効果的だったのではないだろうか?

 

「medium」の時の感想でも言及したが、この度のドラマ城塚翡翠の映像化が成功した理由の一つとしてドラマ特有の過剰さが抑えられていたことは断言出来ると思う。

日テレのミステリドラマはどうも過剰に濃いキャラだったり怪しい容疑者、派手な死体を出して物語を盛り上げがちなのに対し、謎解きのロジックや伏線にはあまり力を入れている印象はなく、そういう点で質が落ちるなと思っていた。これは小説と違って話と話の間に時間の開きがどうしても出来てしまう(=次回の放送まで1週間かかる)ため、毎回見所を作って視聴者が離れないよう工夫しているのだということは何となくわかるものの、結局その工夫はテンプレ化して視聴者の意表を突くことに特化した工夫にはなっていないのではないかと思っている。

ミステリ作品は(例外は勿論あるが)真相が明かされるまではある意味予定調和な展開、即ち「事件発生→現場検証・容疑者の取り調べ→解決」になってしまう。小説の場合は自分のペースで読めるし、その予定調和にも意味があるとわかっているので読み進めることが出来るが、ドラマだといくらそれが見せかけの予定調和であったとしても物語が単調・冗長だと飽きられてしまう。それにミステリ、とりわけロジックを重視するミステリとなると必然的に情報量や説明が多くなるのも確かで、他のジャンルのドラマと違い情報の取捨選択や冗長にならない説明場面の演出など、工夫しなければならないポイントや課題点が多いこともあって、どうしても論理性が求められるミステリドラマはあまり歓迎されない傾向にあった。

 

しかしこの度の「medium」「invert」はどちらもロジックを重視したミステリであり、特に「invert」は犯人が明かされている倒叙ミステリだから尚更謎解きに論理性が求められる作品だ。謎解きの語り・説明はどうしても単調になりがちだが、謎解きにおける説明が冗長に感じなかったのは脚本の力量は当然ながらあるとして、主演の清原さんの好演も大きかったのではないだろうか。演じ方によってはあざとさに嫌味が出てしまうのが城塚翡翠のキャラ設定なのだが、清原さんはそれを絶妙な塩梅で演じていたと思うよ。

 

個人的には倒叙ミステリはもっとドラマとして放送されて欲しいと思うが、正味45分で犯人側の物語を描きながらミステリとして質の高いものを作るのは難しい。そう考えると古畑任三郎がいかに優れた倒叙ミステリドラマだったかと改めて関心させられる(刑事コロンボでも1つのエピソードに約100分前後は要するからね)。

原作のないドラマオリジナル脚本で放送された倒叙ミステリは、古畑以外に「IQ246〜華麗なる事件簿〜」刑事110キロ(第二シーズン)などがあったが、やはり倒叙ミステリとしてはイマイチで印象に残るようなエピソードも特になかった。それだけ倒叙ミステリは一般的な犯人当てミステリよりも制作の難易度が高い作品だが、今回の「invert」で日テレが倒叙ミステリに挑戦したことで、今後日テレで放送されるミステリも少しは上質なものになってくれれば良いなと思っている。そういう意味でドラマ城塚翡翠日テレ系ミステリドラマの分水嶺となり得る作品だと、大げさかもしれないがそう評したい。

これで日テレがまた従来通りのミステリをやるようなら「あ~、やはり『invert』の制作は大変だったから楽な道を選んだな」と(邪推になってしまうが)そう考えてしまうかも。