引き続きサボっていた分の更新です(ようやく追いついた…)。
「ダベンハイム失そう事件」(「ミスタ・ダヴンハイムの失踪」)
原作は『ポアロ登場』所収の「ミスタ・ダヴンハイムの失踪」。ジャップ警部がポワロのもとを訪れた際に現在取り組んでいる銀行頭取のダヴンハイム氏の失踪事件の話をする。そして話の流れからジャップ警部はポワロにある賭けを持ち掛ける。それは、ポワロが自宅兼事務所にしている部屋から出ないでこのダヴンハイム氏の居所を突き止めたら5ポンド払うというものだった。
基本的に現場に赴く調査方法をとるポワロが珍しく安楽椅子探偵形式で事件を解決した短編で、今風に言えばステイホームしながら謎解きをしたのだ。原作は30頁に満たないので、例によってドラマは追加設定やポワロの暇つぶしの場面で尺を稼いでいる。
(以下、ドラマと原作のネタバレあり)
個人的注目ポイント
・カーレーサーのロウエン
小物の相場師として原作で書かれているロウエン氏はドラマではカーレーサーの職も与えられている。あくまで尺稼ぎ的な追加設定でこれ自体に特別深い意味はなさそう。原作ではロウエンとダヴンハイムの間に特別殺人に至るような揉め事はなかったようだが、ドラマの方は過去にロウエンがダヴンハイムに経済的に追い詰められたことがあり、殺害動機があったことになっている。
・手品師ポワロ
ジャップ警部との賭けのため部屋を出られなくなったポワロはヘイスティングスや警部が調査中の間の暇つぶしとして手品をやる。この暇つぶしはドラマオリジナルの展開だが、物語序盤のマジックショーが警部にダヴンハイム氏の失踪事件を思い起こさせる切っ掛けになっているのもドラマオリジナル。
手品だけではなくオウム(パロット)の世話もする羽目になるポワロだが、演出として芸が細かいと感じたのはヘイスティングスと警部との食事の場面。ここでポワロが鶏肉を切り分ける際にオウムの悲痛な鳴き声が聞こえて来る。再見出来るのならば是非チェックしてもらいたい。「アァァ~……」って鳴いてるよ。
・一見無関係な質問
情報が集まってきたポワロはヘイスティングス(原作ではジャップ警部)に「ダヴンハイム氏と夫人は寝室を別にしているか」、「ダヴンハイムのバスルームのキャビネットに入っているものは?」と事件と無関係な調査を依頼する。
この一見無関係な質問が事件の真相に直結しているというのはジェイムズ・ヤッフェの短編集『ママは何でも知っている』などで見られる安楽椅子探偵ものの定番の展開。本作の場合これがダヴンハイム氏の一人二役トリックを明かす手がかりになるのと同時に、意外な隠れ場所に繋がっているのが秀逸な点と言えるだろう。個人的にポワロものの短編でベスト5に入る出来だと思う。
ちなみに、原作では金庫をこじ開けた時期が失踪前とボカされているのに対し、ドラマは失踪当日のレコードから流れる大砲の音に乗じて行ったことになっている。また、物語序盤でダヴンハイム氏が夫人のキスを「メイドが見ている」という理由で拒否する場面があるが、これも一人二役トリックの伏線になっている(付け髭をしていることがバレるのを防ぐため)。
次週は「二重の罪」。うっすら真相とストーリーを覚えている程度の話。