サボった分の続き。
「安いマンションの事件」(「安アパート事件」)
原作は『ポアロ登場』所収の「安アパート事件」。とあるパーティーの席上でロビンソン夫妻が最近購入した安すぎる賃貸アパートの話を聞いたヘイスティングス。特別他の部屋と何ら変わりないのに定価の350ポンド(年間)ではなく80ポンドで買えたという謎に興味を持ったポワロが好奇心から調査に乗り出す。
本作はドイルのシャーロック・ホームズシリーズの一作「赤毛連盟」に通ずるホワイダニットもので、何の変哲もない、人によっては気にしないような謎が重大事件とリンクしていたという類の物語。
前回の「消えた廃坑」で当時のポンド価格について触れたが、当時の1ポンド=4万8千円ほどになるので、350ポンドは1680万円(月額140万円!?)になる。それが80ポンド=384万円で売り出されていたのだから7割以上も値引きをした超破格の物件だったことになる。
(ちなみにドラマは週6ギニーなので、年間だと約330ポンドで原作より少々安くなる)
そんな破格物件がロビンソン夫妻が購入するまでの間、他に何人も希望者がいたの何故か誰一人として購入することが出来なかった、という点も謎となる。
(以下、ドラマと原作のネタバレあり)
個人的注目ポイント
・FBIのバート捜査官
原作では最後にポワロと一言しか言葉を交わしていない合衆国秘密情報部のバート氏がドラマでは依怙地なFBI(連邦捜査局)捜査官としてスコットランドヤードに派遣される。マフィアといった犯罪組織の存在を矢鱈と否定するのはかつてのFBIも実際に犯罪組織の存在に否定的な態度をとっていたようなので、一応史実に則ったキャラ設定らしい。
・黒猫の立ち位置
事件の原因となった女スパイ、エルサ・ハート。彼女の所持品であった黒猫のぬいぐるみに機密書類が隠されていたのだが、ドラマでは黒猫のぬいぐるみはカットされた代わりに「ブラック・キャット」という店の名前として活かされている。ハートが歌姫となったのもそれに伴っての改変だろうか。
・ポワロ流の解決
ハートの潜伏先にポワロやヘイスティングスが乗り込む下りは原作とドラマでは展開がやや異なる。原作の不意を突いたやり方もアリっちゃアリだとは思うが、個人的にドラマの手法の方が好み。というのも、序盤でポワロがギャング映画に難色を示したことが前振りとなって解決場面の鮮やかさに繋がっているからで、愛嬌さと鋭さを両立させた演出の巧さが優れていると言えよう。日本のサスペンスドラマも矢鱈に銃でサスペンスを高めようとする傾向があるが、使い方の巧さはこの「安いマンションの事件」には及ばない。まぁジャンルとか好みによる違いもあるので絶対とは言い切れないが…。
・「スパイもの」が出来る海外ドラマが羨ましい
海外ドラマの利点として常々思っているのが「スパイもの」が出来る点だと思っていて、これは別に昔のドラマに限らず現代劇としても出来るのが余計にプラスになっている感じがする。日本だと現代劇でスパイものはなかなか出来ないからね。あ、でも半沢直樹は現代劇では珍しくちょっとスパイ要素があるからミステリじゃなくてもそれなりに面白く見ている。