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名探偵ポワロ「100万ドル債券盗難事件」視聴

名探偵ポワロ 全巻DVD-SET

引き続きサボっていた分の消化。とはいえ、8月末に放送された回の感想を今更言及するのは余りにもサボり過ぎた。

 

「100万ドル債券盗難事件」(「百万ドル債券盗難事件」)

ポアロ登場 (クリスティー文庫)

原作は『ポアロ登場』所収の「百万ドル債券盗難事件」。ポワロの元にエスメー・ファーカーという女性が訪れる。彼女は婚約者のフィリップ・リッジウェイがニューヨークに輸送していた百万ドルの債券が盗まれた事件について調査を依頼しに来たのだ。

という訳で、原作は事件があった後にポワロが調査に乗り出す構成だが、ドラマは流石にそれだと出番が少なくなるため、ババソア部長の依頼で債券盗難を阻止する目的で事件に関わることになる。

 

ちなみに、原作で債券輸送に利用したオリンピア号は架空の客船だが、劇中で登場したクイーン・メリー号は実在する客船。

ja.wikipedia.org

 

そしてこれまた余談になるが、ババソア部長の吹き替えを担当したのは、先日お亡くなりになった富田耕生氏。氏は「名探偵ポワロ」では本作の他に「海上の悲劇」「死人の鏡」を担当している。また映画「オリエント急行殺人事件」(シドニー・ルメット版)ではビアンキの声を担当した。

 

(以下、ドラマと原作のネタバレあり)

 

個人的注目ポイント

・アンソニーホロヴィッツ

本作から脚本にアンソニーホロヴィッツ氏が参戦。「バーナビー警部」や「刑事フォイル」といったミステリドラマだけでなく、ポワロのオマージュ作として執筆したカササギ殺人事件』など推理小説の分野も手掛けた氏が既にポワロのドラマの脚本をやっていたとは。私もつい最近まで知らなかった。

そんな氏が手掛けた本作は、地味で淡白な味わいの原作を適度に複雑かつ伏線も利いた秀作として改変されている。

 

・登場人物の変更点

原作でも債券輸送を担っていたリッジウェイは原作だとババソアの甥という設定だったが、ドラマでは血のつながりが無くなり、ギャンブル好きという設定が追加された。これによって真犯人のスケープゴートとして利用される羽目になったが、同時にポワロの咄嗟の機転を演出出来る利点があり、一石二鳥の改変になっていたと言えるだろう。

そして原作で捜査を担当したマクニールは警察の人間ではなく銀行の警備責任者として登場。不正を取り締まるためなら上司も警察に引き渡す厳格さがある一方、ベルギー人のポワロを見下すなど、少々偏見の強い人物として描かれている。

本作で最も重要な改変となったのはリッジウェイの隣の客室に泊まっていたミランという謎の女性。これについては後ほど言及する。

 

一人二役とその他の伏線

原作は短編でクリスティも余り熱をいれなかった作品だったのか、特別謎解きとしての巧さもなければ伏線もない。盗まれた債権が既にニューヨークに渡った件にしても「実はオリンピア号よりも早いジャイガンティック号が債券運搬に利用されて」という後出し情報だし、債券のすり替えについても「そこにいた三人(ババソア、ショー、リッジウェイ)なら、ダミーを作っておいて本物とすり替えることなどいとも簡単さ」と雑な説明で終わっている。

 

で、ドラマではその辺りどう改変したかというと、まず雑な説明で終わってしまった債券すり替えについては直接債券を確認しトランクに詰めたのはババソアでリッジウェイはしっかりと確認していないこと。またそのババソアも目が悪く債券が偽物だと気づけなかったことが、(ショーが仕込んだ)事故の場面で車のバックナンバーが確認できなかったという伏線によって裏付けられており、謎解きが論理的かつ堅実なものになっている。

そして、ダミーの債券をトランクから盗んで捨てる役は原作だとショー本人が担っているが、それだと事件発覚後に警察からアリバイを調べられた際、輸送時のアリバイが曖昧になり容疑圏内になると脚本が判断したのか、看護婦のミランダが変装してダミー債券を投棄することとなった。このミランダの一人二役トリックが時計を確認する仕草によってポワロに看破されてしまうのも面白い点だと思う。

 

原作の改変は以上だが、ドラマはより事件を複雑にし容疑者を増やすため、犯人とは別の人物の思惑を介入させている。それこそ他ならぬリッジウェイの婚約者のエズミーであり、リッジウェイのギャンブル癖を危惧した彼女が(彼が犯人であろうとなかろうと)万一の事態を備えてババソアが保管していた鍵を盗んでいた、という筋書きが追加された。

もしこれが原作通りエズミーがポワロに依頼したのにも関わらずやったことならば矛盾しており改悪となってしまっていたが、ドラマは依頼主がババソアになっているため、この追加設定が辻褄の合うものになっているのが地味ながら巧い所である。