タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

あのマリアも読んだ、クレイトン・ロースン『首のない女』読了

以前から気になっていた本があった。

それは、有栖川有栖『孤島パズル』においてこんな一文を見つけたからである。

「おとなしい水着やなぁ、もっとハイレグかと思ってたのに」

 マリアの体操が一瞬止まる。

「やっぱりそれ言ったわね。言う方に賭けてたんだ。言わなかったらロースンの『首のない女』あげてもいいと思ったくらい」

 創元推理文庫の名物絶版本だ。本当にそう思ってたんなら惜しいことをした。横で聞いていた里美は『首のない女』なんて言葉がいきなり会話の中で飛び出したので、何のことだろうと訝しげな表情になった。

『首のない女』、何とそそる響きであろうか。しかも「名物絶版本」とまで書かれているのだから、ミステリマニアとして読んでおくべき一冊なのは間違いない。

 

しかし、レアな絶版本だけあってブックオフにもなく、そのまま気づけばスルーしていたが、昨年七月に海外ミステリ叢書《奇想天外の本棚》シリーズ第二弾として復刊した。

首のない女 (海外ミステリ叢書《奇想天外の本棚》)

すぐに読めば良かったのだが、本作を購入した当時は精神的にちょっと参っていた時期だったので積読状態にし、そのまま今月まで放っておいたがようやく手に取った次第。

 

ちなみに、タイトルの「首のない女」は外国で発明された見世物の一つで、首から上が文字通りなく、首のあった場所には一つの管があり、そこを軸にタコ足状のチューブが伸びて機械につながっている。本作でもその描写が出てきてはいるが、こちらの記事の写真を見た方がわかりやすいと思う(↓)。

karapaia.com

ギョッとするビジュアルだが、種を明かせば古典的な視覚トリックを用いたもの。本作ではこの「首のない女」に使う装置を強引に買おうとする女性が物語の発端となり、そこからサーカスを舞台にした連続殺人が巻き起こる。

 

で、読んでみた感想としては非常に読みにくかった

これは登場人物が多いというのもあるけど、やはりサーカスという現代の日本人には馴染みの薄いものを題材にしているためでもある。華やかな出し物、曲芸に道化師…といった一般がイメージするもの以外にも読心術やいかさまトランプの達人が登場するため、全体的にゴタゴタとしているのも気になる。

また、本筋となる事件が思っていた以上に地味。奇術師探偵の代表作なのだからもっと不可能犯罪のオンパレード!みたいな派手さがあるのかな~と思っていたら全然そんなことはなく、サーカス団長の死を事故死にみせかけたり空中アクロバットの女性を墜落させたりと、長編の割に起こる出来事がショボいんだよな。

本編の3分の2を超えた辺りでようやくタイトルに相応しい死体が出てきて盛り上がるのであって、それ以前はアリバイとか証拠品調べといった地道な作業が多い。映像にしたらもう少しマシになるのかもしれないが、思っていたのと違う感が終始拭えなかった。

帯でデカデカと謳われている「大胆な詐術」だが、確かに重要な手がかりを提示しておきながら読者を別の方向に注目させるテクニックには見るべき所があるとはいえ、長編一本を支えるネタとしては弱い。終盤出て来る(一応伏せ字)首なし死体の「首切りの理由」(伏せ字ここまで)にしても同じ理由であんまり凄いとは思わなかった。まぁこれは新本格の面白さを経験しているからしゃあないのかもしれないが。

 

あ、それと一番気に食わなかったのは事件の動機となる重要人物が終盤で口の端にのぼった点。物語の構成上仕方ない部分があるとはいえ、もうちょっと早い段階で事件の動機は伏線として配置してほしかった。真相解明の下りでざっと流されちゃったから犯人はわかったけど犯行に至る動機がイマイチ釈然としないまま読み進めて終わっちゃったよ。

 

まだロースンの作品は本作と「天外消失」しか読んでいないが、代表作がコレだということは、やはりストーリーテリングの才はあまり無かったと考えるべきなのかもしれない。元々目で楽しませる奇術を紙の上でやってのけるとなると、必要とされるセンスもまた色々違ってくるし、その点泡坂先生は凄い方だったな~と改めて思う(あんまり比較しちゃダメかもしれんが)。