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【金田一少年の事件簿】シリーズ最新作「八咫烏村殺人事件」を徹底批評!

予告していた通り、金田一少年シリーズ30周年最新作の批評をやっていきますよー!

 

(以下、事件のネタバレあり。今回は根本尚『怪奇探偵・写楽炎』シリーズの「蛇人間」についても言及するので未読の方は該当の項目を読み飛ばすことをお勧めします)

 

八咫烏村殺人事件」

金田一少年の事件簿30th(1) (イブニングコミックス)

シリーズ30周年記念として新たに発表された「八咫烏村殺人事件」は今年の1月から7月末にかけて全14回の構成で連載された長編作。長編としては48作目(小説版も含めると56作目)にあたる今回の事件は熊野古道で有名な和歌山県、それも近い内にダムの底に沈む村(もちろん架空の村)を舞台としている。

 

ダムの底に沈む村というと泡坂妻夫『湖底のまつり』を思い出すし、昨年フジテレビで放送されたドラマ「死との約束」(原作はアガサ・クリスティの同名小説)では和歌山の熊野古道を舞台にしており劇中で八咫烏が思わぬ形で利用されていた。

tariho10281.hatenablog.com

とはいえ今回の物語とは一切関係ない。ダム・和歌山つながりとして以上の二作品を紹介したかったというだけの話だ。

 

話を戻そう。剣持警部の友人・滝隆之介が亡くなる直前に八咫烏村で起こった弁護士失踪事件の再捜査依頼の手紙を剣持に送り、その依頼を受けてはじめと美雪は剣持と共に神話の故郷・八咫烏村を訪れるというのが本作のあらすじだ。

死者からの調査依頼というクリスティの『復讐の女神』的な導入で物語は始まるが、事件自体は純和風テイストの殺人事件で、村に伝わる八咫烏の伝承になぞらえたような連続殺人が起こる。特に本作では次々とさらし首が出てくる事件の状況から、横溝正史の短編小説「首」を思い出した方もいたのではないだろうか?

 

〇登場人物一覧(括弧内は年齢)

八咫烏荘〉

日鷹イネ(85):女将。知不美の祖母。

三鴨早紀(40):仲居。悠人の母。

鷲見翔平(38):従業員。

花鳥知不美(28):元八咫烏神社の巫女。“村仕舞い”のため手伝いとして村に戻っている。

 

八咫烏神社〉

鷺坂葵(20):巫女。

 

烏守定男(75):村長。

黒羽六郎(52):元村会議員。ダム建設では中立的立場をとっていたが…。

江鳩つむぎ(33):黒羽の秘書。

鵜ノ木源太(40):村役場職員。ダム建設の推進派。

三鴨悠人(18):村で唯一の高校生。早紀の息子。

 

男鹿田一志:弁護士。6年前に八咫烏村の旅館で姿を消し、以後行方不明。

滝隆之介:故人。剣持の大学時代の友人で和歌山県警捜査一課の刑事。死の直前に剣持に弁護士失踪事件の再捜査を依頼する。

 

事件解説(生首だらけの連続殺人)

Who:江鳩殺しの密室トリックが実行可能な人物、泥の足跡

How:生首を祭壇に送る密室トリック、ガラス入りゴミ袋を利用したアリバイトリック、黒羽の血液を利用した密室トリック

Why:ダム建設計画の不正を暴こうとした男鹿田弁護士と両親を殺した三人に対する復讐

今回の事件では被害者三人が三人ともさらし首の状態で発見されているということで、ミステリマニアなら当然「何故首を切断し晒す必要があったのか?」と考えるだろうが、これに関しては一旦よそに置いておいて、まずは第一の江鳩殺しについて言及していきたい。

 

〇五重密室トリックについて

江鳩殺しでやはり注目すべきは生首が発見された社が四つの錠前(鍵は二つ)一つの封じ札によって閉ざされた五重密室であり、いかにして生首を厳重に封印された社の最奥の五の間の祭壇に運び入れるのかというハウダニットが本作最大の見所と言えるだろう。

この謎については第9回目の現場検証の時にはじめが「五重密室にすることで密室殺人を可能にするロジックがある」のではないかと述べており、一重や二重の密室ではトリックが成立しないとヒントを仄めかしているのが注目すべきポイント。更に社が斜面に建てられており、一の間から五の間にかけて下り坂になっているというのもトリック解明の重要な手がかりになっている。もっと言うと、この後発見された鵜ノ木・黒羽の生首が布の上に乗っていたのに対し、江鳩の首は布に包まれていたというこの些細な違いもトリックを推理する重要なポイントとなるのだ。

 

五重密室のトリックは、三の間の扉側の上部のボロボロの格子から、四の間の格子・五の間の格子・祭壇の扉を通して、社の外の樹木までワイヤーを張り、ロープウェイの要領で江鳩の首を三の間から五の間の祭壇まで送り届けるというトリックだ。

ロープウェイの要領で死体を移動させるというのは(ネタバレになるかもしれないので一応伏せ字)20周年の時に発表された作品(伏せ字ここまで)でも用いられたトリックだが、本作では生首だけを移動させているという点に加えて、五重でないとトリックが成立しない、つまり一重や二重の密室では生首が祭壇に届く前にはじめ達が祭壇に到着してしまうというのが面白い所。

それを踏まえて八咫烏詣の儀式(第3回目)を見てみると、日鷹と烏守は錠前を開ける際にいちいち自分の名前を名乗ってから「〇〇の間の鍵を開けたてまつる」と言って鍵を開けているし(封じ札を切った鷺坂も同じ)、二の間からは前の人が階段を降りきるまで扉で待っておくという決まりがあるため、五の間に到着するまで意外と時間がかかることは問題編の段階で示されているし、この八咫烏詣の作法がトリックを成立させるための設定になっていることは指摘しておかなければならない。

 

このトリックは生首を五の間の祭壇に送る際どうしても摩擦の影響で「シャーッ」と生首が滑り降りる音が出てしまうのがウィークポイントだが、鈴や太鼓を鳴らしながら社に入っていくという八咫烏詣の作法によってカバーしているのが巧い所で、鳴り物が生首の滑走音をカモフラージュする役目を果たしているのもさることながら、社内部が真っ暗闇※1で下り階段のため通常よりも足元に意識を向けないと危ない状況になっており、そういった点で生首が頭上を通過しても悟られにくいよう考えて状況作りが為されているのは評価して良いだろう。

 

とはいえこの五重密室トリック、全くツッコミ所がない訳ではない。例えば、生首が滑り降りる音はカモフラージュ出来たとしても、祭壇にぶつかった時の衝撃音は鈴や太鼓の音で誤魔化せるとは到底思えない。人間の頭部はスポンジじゃないのだから、ぶつかれば「ガンッ」とそれなりに大きな音はするはずだ。※2

また、犯人は上着のフードの中に生首を隠し持っていたとはじめは推理しているが、人間の頭部は体重全体の10%を占めるほどの重たさがある※3ので、仮に江鳩の体重が50キロだとしても5キロの生首をフードに入れて何気なく振る舞えるかと言うと流石に無理なのでは…。まぁ、頭を斧でかち割って殺して首も切断しているから、頭部に溜まっていた血液の大部分は流れてその分軽くなっているかもしれないが、それでもはじめがトリック再現で用いたサッカーボールよりは絶対に重いだろうし、フードに入れた状態で三の間まで持ちこたえられるかというと少し厳しいかな?

 

あとこれが実は最大の問題点かもしれないが、犯人はいつ社にワイヤーを張ったのだろう。第2回目の鷲見の話では、夜7時に巫女が社の隅々までお清めをし、それを確認した長老二人が施錠するから、ワイヤーを張るとしたら巫女のお清めと長老二人の確認・施錠の間にやらないといけない。しかしこのトリックでは祭壇の扉にもワイヤーを通す必要があるため、7時前にワイヤーを張ったら巫女の鷺坂が祭壇の異常に気付いているはずだし、長老二人もお清めを確認して施錠するのだから、トリックを仕込む時間的余裕がないのではないだろうか。

ただ夜7時にお清めをするということは、社が暗くて鷺坂がワイヤーを見逃した可能性もゼロではないので7時前にトリックを仕込むことも出来なくはないのだが、お清めのやり方や施錠前の確認がどの程度のものなのか不明なので、そこがモヤモヤとさせられる部分である。

 

※1:先頭にいた鷺坂は提灯を持っていたので完全な暗闇という訳ではないが、早紀が階段を踏み外した様子から見てあまり頼りになる明かりではないようだし、後ろにいる人ほどより暗くなるため、やはり意識は足元に向くのが自然だと思う。

※2:緩やかな傾斜ならばそれほどスピードも出ないだろうから衝撃音も最小限にすむと思うが、そうなると今度は生首が祭壇に届かず摩擦によって途中で止まってしまうリスクが出て来る。ただ第5回目の現場検証で階段が急であることが確認されているから、緩やかな傾斜の社殿でないことは明らかだし、生首が途中で止まることはなかっただろう(結局衝撃音の問題は残るが…)。

※3:頭の重さってどのくらい?首への影響 を参照。

 

 

根本尚『怪奇探偵・写楽炎』シリーズの「蛇人間」のトリックと似ている?

先日、Twitter根本尚氏のアカウントで以下のツイートを見かけた。

ファンの方ならご存じの通り、過去に金田一少年は「異人館村殺人事件」で島田荘司氏の『占星術殺人事件』のトリックを丸パクリしたという前科があるため、私も気になって根本氏の『怪奇探偵・写楽炎』シリーズに収録されている一作「蛇人間」を読んでみた。

怪奇探偵・写楽炎 1 蛇人間【文春デジタル漫画館】

『怪奇探偵・写楽炎』シリーズは霜山中学校実験部の写楽炎と空手部の山崎陽介がコンビを組み、様々な猟奇的殺人事件・不可能犯罪の謎を解くミステリ漫画。1巻所収の「蛇人間」では、ショッピングモール予定地となった蛇神の祠周辺に怪人「蛇人間」が現れ、その怪人の正体を暴くべく写楽らが調査に乗り出すという物語だ。

金田一少年シリーズでも初期の作品では怪人が物語の怪奇性を彩っていたが、本作「蛇人間」でも同様に怪人が現れたり、不可解な連続殺人が起こったりと、本格ミステリ色の強い物語となっている。

 

Twitter 上では、「蛇人間」における不動産屋殺しで用いられたトリックが本作「八咫烏村」における江鳩殺しの密室トリックと同じではないのか、つまりまたしてもトリックの流用があったのではないかと囁かれている。

ただ、個人的意見になるがこの疑惑に関しては今回はシロ、つまり流用はなく単なる偶然で似たトリックになってしまったのではないか?と私は考えている。

これは私の方のアカウントでもざっと述べているが、「異人館村」の時と違い丸パクリではないし、仮にパクったとしたらもっと出来が良くないとおかしいので、この一件については問題なしということで。(ぶっちゃけ「蛇人間」の方がミステリとしてクオリティが高いよ)

 

(ここからは「蛇人間」のネタバレをしながらトリックについて言及するので以下伏せ字)そもそも今回問題となった「蛇人間」のトリックは密室トリックではなくアリバイトリックであり、千本鳥居の上部(笠木と貫の間のスペース)から手首の入ったボールを転がして送っているため、「八咫烏村」のロープウェイ形式で生首を送る密室トリックとはやはり質の違うトリックと考えるべきだろう。共通しているのは頭上経由で死体の一部を遠方へ移動させるという点だけであり、トリックを成立させるための条件や設定などはほぼほぼ違っているので、この類似だけでトリックが流用されたと考えるのは無理がある。(伏せ字ここまで)

 

〇鵜ノ木殺しのアリバイトリックについて

続いて二番目に殺された鵜ノ木の事件では、生首がガラスごみ置き場の地下室に置かれており、はじめ達がごみ回収に来た時には入り口がガラスごみの袋で塞がれていたのに、死体発見時にはごみ袋が除けられ外に捨てられていたので、ごみ袋の移動というアリバイの問題が提示されているのが第二の事件の特徴だ。

アリバイトリック自体は至極シンプル。入り口を塞いでいたごみ袋は空気で膨らませただけの軽いごみ袋で、ガラス入りのごみ袋はごみ回収の時点で既に外に放り出されていたとはじめは推理している。実はこのトリックは過去作で用いられたトリックの応用で、過去作では(ネタバレなので一応伏せ字)死体消失トリック(伏せ字ここまで)として扱っていたものを本作でアリバイトリックとして用いているのが個人的には興味深く感じた。

 

ただし、問題となるのはこの後のトリックの回収・処分の方法。八咫烏荘の方から聞こえた発砲音によって皆がワゴン車で八咫烏荘へ引き返す際、犯人は空気入りのごみ袋が詰まったネットをワイヤーに繋ぎ、ワイヤーを車に挟むことでトリックに使ったごみ袋をネットごと遠方に移動させ処分している。

ここで問題なのは裏口に散らばったガラス片で空気が抜けてかさ低くなっているとはいえ、ごみ袋が引きずられていたら誰かしら気付いたのではないかという点だ。道が舗装されていようといなかろうと、ごみ袋が引きずられていたら絶対に音はするし、車内にいてもその音くらいは聞こえるはずだ。これが近くに大きな滝があって滝の流れによる轟音で音がかき消されたというのならまだしも、ごみ捨て場から八咫烏荘に向かう道の途中にそんな滝はないので、音の問題はクリアされていない。

また、仮に音の問題をクリアしたとしても、引きずられるごみ袋は車のサイドミラーやバックミラーに映ってしまうので、視覚的な面でもトリックの回収・処分に無理が生じている。この問題をクリアするとなると、ワイヤーの長さを10メートル程に長くしてごみ袋と車の距離を開けておけば引きずられる音もあまり聞こえないだろうし見つかるリスクも格段に低くなるだろうが、それでもワイヤーはどうしてもサイドミラーやバックミラーに映ってしまうし、ワイヤーを長くすると今度はごみ袋とネットを予定通り谷底に落とせなくなるリスクが出て来てしまう。ワイヤーを長くした分ごみ袋がどこかに引っかかってしまう恐れもあるし、谷底に落とすとなると直接ごみ袋を目で確認してワイヤーを切らないと、下手すれば道の途中にごみ袋とネットが残ってしまうのだから、視覚・聴覚・処分の3つの問題点をクリアするだけの設定が出来ていないのが残念である。

 

〇黒羽殺しの密室トリックについて

最後の黒羽殺しは、第7回目の終盤で黒羽の血が抜き取られ凝固しないようクエン酸が加えられていたので、黒羽の血液がトリックに使われることは確定しており、その分密室トリックを推理するのは意外と簡単だったのではないだろうか。

この密室トリックでは茶室ともう一箇所黒羽の車が事件現場となっており、車の中に茶筅、ボンネットに茶碗を置いてはじめ達を茶室に誘導しているのがポイント。一見するとトリックとして蛇足な気がするのだが、後述する密室トリックは血が乾いてしまうと成立しないトリックのため、出来るだけ早く茶室の生首を発見してもらうためにやった工作だと考えれば、一応理に適った行為だろう。

 

肝心の茶室密室は、引き戸の鍵と障子のネジ締まり錠の計三箇所が閉ざされており、トリックが仕掛けられているとすれば当然血がぶちまけられた障子だという考えに至るのはそう困難ではない。そこから、血が付いている方の障子は施錠されておらず鍵が接着剤か何かで固定されているだけではないかと推理するのは十分可能だと思う。

鍵で施錠しているように見せかけて実際は障子の足元に針状の釘を打ち込むことで密室だと思わせるのがこのトリックのポイントなのだが、この釘に関してはアンフェアではないかと思われる場面がある。それが第10回目の現場検証の下り、14ページの一コマ目ではじめは血が付いた方の障子をスライドさせてガタガタと動かしているのだ。※4第13回目では「接着剤でくっつけた短いネジ鍵とクギは警察が来る前には回収するつもりだったんだろう」とはじめは犯人に対して言っているので、この言葉が本当なら第10回目の時点では障子の足元にまだ釘が刺さっていたはずだ。にもかかわらず血の付いた障子をはじめが動かしているのだからこの描写は矛盾している。というか、鍵の問題以前に障子を動かしてみたらトリックが一発でわかるのだから、現場検証で釘の存在をスルーしていること自体おかしいと言えばおかしいのだよね…。

 

※4:この描写があったので、トリックはあらかじめネジ締まり錠で固定された二枚の障子を枠から外して、再び廊下側から嵌め直したのかなと思ったが、二人ならともかく、一人で二枚ごと嵌め直すというのは無理がある。そもそも、嵌め直す際に血の付いていない障子に指が挟まって嵌め直せないので、障子を枠から外して嵌め直すトリックはやはり現実的でない。

 

〇フーダニットと動機

ハウダニットについてはこれくらいにしてフーダニットと犯行動機に移ろう。本作のフーダニットは比較的易しい難易度で、メタ的に推理すれば第二の鵜ノ木殺しで八咫烏荘に戻ることを提案したり車の窓を開けたりと誘導的行為が多かった花鳥が怪しいし、第8回目の黒羽殺しでは八咫烏荘にいたにもかかわらず足跡が泥で汚れていたのだから、これで犯人が花鳥だと断定出来る。

花鳥を歴代の犯人と比べて評価するとやや凡人タイプというのが個人的な印象で、村が程なくダムで沈むため入念に証拠の隠蔽をする必要がなかったとしても、それ以外でボロを見せているし、トリックも細かい部分でツッコミ所はあるので凡人止まりと評価した(トリックは作者が考えるのだけど作中では犯人が考案したものだからね)。

 

犯行動機はシリーズお馴染みの復讐目的による殺人で、男鹿田弁護士とは婚約する予定だったが、ダム建設計画の不正を暴こうとした結果、知不美の両親もろとも口封じで殺害されてしまった模様。男鹿田弁護士の死体は八咫烏荘の屋根裏部屋の隠し扉の真下、ダミーの大黒柱の空洞部分から発見されたのだが、あの、和歌山県警の捜査杜撰過ぎません?畳をはがずに調べたとか論外だよ。※5あと男鹿田弁護士の携帯に残った録音データも調べずに返却するとか鑑識は仕事してんのかと言いたい。マジで日本の治安ノーフューチャーだわ。

 

※5:防腐処理されていない死体だから死臭が屋根裏部屋に漏れてそうなものだが…。

 

さいごに

本作「八咫烏村殺人事件」は30周年を記念した作品の割には従来通りのテンプレ的な物語で、真相解明後の展開にしても犯人の動機語りが終わった後は何のフォローもなく物語が終わっているので、そう思うと20周年の時に発表された「人喰い研究所殺人事件」の方が物語としては凝っていたし面白かったかな。生首だらけの事件だったけど、ホラーミステリとして振り切れてなかったし、物語の序盤で描かれた八咫烏の爪痕も本筋に全然絡まなかったから、そういった所でも肩透かしを食らった感じはある。

 

事件のメインとなる五重密室を含めたトリックも細かい所で引っかかりを覚えて素直に良いトリックだと言えないのが残念なポイントで、そもそも密室にするメリットがあまりないのも評価を下げた理由の一つとして挙げられる。首切りの理由にしても「五重密室のトリック+八咫烏伝承になぞらえて被害者三人が罪人であることをアピールする」以外の目的がなかったのもミステリとしては勿体ない点だ。古今東西のミステリ作品では意外性がありながらも合理的な理由で首を切断し、首無し死体や生首だけの死体を謎として提示してきた。金田一少年シリーズでも首切りを扱った秀逸な作品はあったが、今回の物語は到底そのレベルには及んでいない。

 

あと本作に限ったことではないが、あまりハウダニットに力を入れ過ぎると犯人を除く登場人物の印象が薄くなってしまうんだよね。トリックが物語の要になるのはミステリとして当然だけど、これは物語であってクイズ問題ではないのだから、登場人物も事件解決のための情報を垂れ流すだけの人形にせず、読者をミスリードさせたり物語に華を添えるような魅力的な人物として描いて欲しいと(贅沢な文句かもしれないが)思う次第だ。

 

次回から新章となる事件が始まるみたいだが、最後まで読んでみて面白かったら感想をブログにアップしようと思います。