タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

「古畑任三郎傑作選」を見る(ネタバレあり)

昨日完結したドラマ「ネメシス」が期待外れだったので、お口直しとして先週から今日までカンテレで放送されていた(フジテレビはもう少し前に放送されていたと思う)古畑任三郎傑作選」の感想を語ろうと思う。フジテレビでは第三シーズンの「再会」(津川雅彦ゲスト回)まで放送されたが、カンテレは傑作選の前に第三シーズンが一挙再放送されていたので、第二シーズンの「ニューヨークでの出来事」までの放送となっている。

 

「汚れた王将」

名探偵コナン」の作者・青山剛昌氏がおすすめとして名を挙げていた(多分)のがこの「汚れた王将」。再放送されるまで見たことがなかったが、今回ちゃんと見てみると滅茶苦茶というほどではないが、なかなか面白かったと思う。

(ここからネタバレ感想のため伏せ字)上記のツイートで述べたように、本作と「若旦那の犯罪」に共通する最後の決め手は商売道具に被害者の血が付いた点である。ただ、被害者の血が付いていたからといって犯行の証明にはならない。その血がいつ付いたものなのか、それが殺害時に出た血なのか証明出来なければ、いかようにも言い逃れは出来るのだ(鼻血だったとかね)。若旦那の場合はその言い逃れが出来る余地があったのに対し、米沢八段は飛車成りをしないという行動をとったため、完全犯罪と将棋に二重の意味で”詰んだ”形になっているのが秀逸ではないだろうか?(伏せ字ここまで)

惜しむらくは、米沢八段の合理的精神というものが取って付けた感じになっていたことだろうか。いくら古畑の気づきポイントを作るためとはいえ、スーツを畳んで置いておく行為をとらせるのはどうだろうか。流石に着物派の人間でもスーツまで畳まないと思うがな。畳みジワが出来たら厄介だもの。

 

「殺人特急」

再放送を見るまでスタミナ酢豚弁当のことしか覚えていなかった本作だが、列車という閉鎖空間で多数の乗客がいるなか完全犯罪を企んだ医師と同じ視点で事件を眺めるとなかなかにスリリングな作品。

(ここからネタバレ感想のため伏せ字)ツイートで評価した最後の決め手=上着の小銭」は、小銭の音に気付く下りや、みかんをカード払いしていた場面が実にさり気なく描かれているため、初見ではまず気付かないだろう。絶対みんなスタミナ酢豚弁当に意識向いたでしょ?(伏せ字ここまで)

閉鎖空間を扱った事件といえば、第三シーズンの「追いつめられて」を思い出すが、こちらはコメディなのかシリアスなのかイマイチわからない演出のせいで微妙だった。あと玉置浩二さんはコメディ的な役は似合わないな。

 

「VSクイズ王」

これは前に見たことがある作品だが、テレビ局でないと成立しえない密室トリックが印象に残っており、肝心の決め手部分はほとんど覚えていなかった。が、今回見てみるとその決め手部分もまたテレビ局ならではの仕掛けだったと感心した。

(ここからネタバレ感想のため伏せ字)決め手となった偽新聞は、視聴者からしてみれば実際に発刊されていない新聞だというのは百も承知だが、「古畑任三郎」という世界においては実際に発刊されているものだという思い込みを逆手にとって決め手として利用しているのが巧みな部分。メタ認識を逆手にとった仕掛けでシンプル過ぎるが故に、この高度な技術に気付いてない方も恐らく多いと思う。そしてこの仕掛けは普通の家や会社では成立しないことにも注目してもらいたい。テレビ局でないと偽の新聞なんて置いてないからね。(伏せ字ここまで)

ちなみに、池田貴族さんの名はガキ使の松本人志廃旅館罰ゲームで初めて聞いた。その時は名前だけだったからどんな人なのかわからなかったが、イメージ通り派手な人だったんだね。

 

「ニューヨークでの出来事」

古畑の傑作エピソードというと、初回の中森明菜さんの回やキムタクの回なんかが挙げられると思うが、このニューヨークの回もなかなかどうしてかなり挑戦的な作風であり、ミステリとしても秀逸である。

まずドラマとしては珍しいことに肝心の殺人事件の概要を映像で見せることなく、「トリック当てクイズ」として犯人の語り一本で通していること。これによって映像を流せば一発でバレてしまうトリックを活用することが出来たし、語り手=犯人なので、提示された情報に仕組まれた嘘をどう崩していくのかが見所となっているのも注目すべき点だろう。「VSクイズ王」がテレビという要素を最大限に活かした傑作だったが、このニューヨーク回はテレビで小説的手法を成功させた傑作と言えるのではないだろうか?

(ここからネタバレ感想のため伏せ字)古畑がのり子の嘘を見抜く過程だが、今川焼をくれた女性をまず「感じの良い女性」と内面描写で表現したことから疑いをかけているのが巧い点で、普通初対面の人の場合は外見から語るのに性格面から語っているため女性の存在そのものが嘘だと見抜いた一連の流れは実に秀逸ではないだろうか。

そして今川焼自体にも疑いをかけ、今川焼を温めた場所についての発言の矛盾から和菓子が鯛焼きだったと推理するのもユニークで面白い。ただ二段式のオーブンもあるだろうから、実際はオーブンでローストビーフの調理をしながら鯛焼きを温めることも出来なくはないはずだが、普通に考えて和菓子とローストビーフを一緒に温めるのは抵抗感があるだろうし、既にオーブンにローストビーフが入っているとこに和菓子を入れたら家政婦に物申されたはずだから、今川焼よりも薄く前後が存在する鯛焼きだと古畑が推理したのは妥当だと思う。ところで、トースターを持ってないからわからないけど、実際トースターで鯛焼きって温められるものなのだろうか。(伏せ字ここまで)

また、完全犯罪を達成したことにより生じた苦悩が描かれているのもドラマとしての魅力で、その伏線としてのり子が食堂に入った時の周囲の反応が描かれているのも見逃せない。

 

「再会(古い友人に会う)」

カンテレでは傑作選ではなく第三シーズン再放送の期間に流された。基本的に第三シーズンは前シーズンに比べると倒叙ミステリとして微妙な作品が多かったが、この回だけは名作として評価しても良いだろう。それはシリーズ中唯一殺人が起こらず、古畑が犯行を未然に防いだ異色作としての面もあるだろうが、来るべき苦悩からの解放を望む犯人に対する古畑の訴えかけが視聴者に感動をもたらした、というのが最大の評価点だと思う。ちなみに、本作のプロットは(ネタバレのため伏せ字)アガサ・クリスティの短編「スズメバチの巣」(伏せ字ここまで)から引用されたもので、トリックこそ違うが探偵が事件を未然に防ぐ点や、犯行動機はほぼ同じである。

 

 

さて、最後に私がまた見たいと思う古畑のエピソードを紹介する(第三シーズンと今回放送された傑作選の分は除く)。生憎全エピソードを見ていないので私の知らない傑作もあるだろうが、私の見たことのある範囲で挙げるとすると、以下の通り。

 

倒叙ミステリとしてもドラマとしても面白いエピソード

「死者からの伝言」「動く死体」「最後のあいさつ」「しゃべりすぎた男」「赤か、青か」「動機の鑑定」

 

倒叙ミステリとしてはそこまでではないが、ドラマとしては印象に残ったエピソード

ピアノ・レッスン」「さよなら、DJ」「笑わない女」「黒岩博士の恐怖」

 

・”惜しい”エピソード

「笑える死体」「殺人リハーサル」