引き続きサボっていた分の記事消化。
そういや『「名探偵ポワロ」完全ガイド』が発売されたけど、ファンなら勿論買っているよね?
こんなガイドブックが出たのだから記事を書く必要ないかな~とは思ったが、読んでみると各エピソードの紹介は見開き1ページにとどまっており、以前うちのブログで注目ポイントとして書いた内容が全て書かれている訳ではないので、現在再放送されている分のエピソードは当ブログで紹介していきたいと思う。
「あなたの庭はどんな庭?」
原作は『黄色いアイリス』所収の「あなたの庭はどんな庭?」。タイトルはマザーグース「つむじまがりのメアリーさん」の一節から引用したもの。
つむじまがりのメアリーさん
あなたの庭はどんな庭?
きれいなねえさん、ひとならび
このマザーグースが引用されたのは、庭にあるものが事件解決の鍵となったから。
事件は老婦人の毒殺事件で、ポワロが到着する前に依頼主が死亡するというパターンは前シーズンの「コーンワルの毒殺事件」でもあった。用いられた毒物は『スタイルズ荘の怪事件』と同じストリキニーネだが、当然強い苦みのあるストリキニーネをどうやって被害者に飲ませたかが謎となる。ただ、今回は短編のためスタイルズ荘の時と違って真犯人は別の人物を陥れるための細工をしているので、謎としては小粒な部類に入るし犯人の意外性もそれほどではない。
(以下、ドラマと原作のネタバレあり)
個人的注目ポイント
・空の種袋の謎
原作にはないオリジナルの謎として、本編に「空の種袋の謎」が追加されている。これはフラワー・ショーの会場でポワロが依頼人のアメリアから渡された種袋のこと。この種袋をアメリアが渡した時は依頼の手紙をポワロが手にしていないため、当然ポワロは意味がわからなかったが後にこの空の種袋が意味する所が明らかとなる。
・今回の相棒はミス・レモン
今回ヘイスティングスは花粉症(実際はポワロの香水が原因だったが)のため事務所でお留守番、普段事務所にいるミス・レモンがポワロのお供に。これは原作がミス・レモン初登場の作品であり、彼女に出番を譲る意味合いあってのことだろう。勿論、レモンをポワロのお供にしたのは請求書に関する原作での発言をより自然に物語に組み込むためでもあるだろうが。
ちなみに、原作のミス・レモンは「愛嬌たっぷりとはいいがたい、いかつい風貌の女性」と書かれており、ドラマのミス・レモンはチャーミングな女性としてうまい具合に改変されていることがよくわかる。
・カトリーナの素性
今回事件の容疑者となったロシア人女性カトリーナはロシア革命後に国を出た貴族令嬢という原作にない設定が追加されている。1930年代といえばスターリンが政権を握っていた時代で共産主義者への警戒が高まっていた頃。そのためイギリス人がロシア人はスパイだと思うのも不思議ではない。カトリーナの追加設定はそんな時代に生まれたが故の彼女の不遇な人生を強調してのことだろう。
・NO STOCKS
前述した「空の種袋の謎」はNO STOCKS、つまり株(STOCK)がない=株の無断流用という犯人の動機を示唆したものだった。ちなみに、この「空の種袋の謎」について、ジャップ警部は「STOCKS」の方でなく袋の一番下に記されていた「Catherine the Great」に注目し、Catherine=カトリーナが犯人だと示していたのではないかと推理した。確かに英語のキャサリンはロシア語ではエカテリーナという女性名になるが、これはこじつけに近い推理と言わざるを得ない(笑)。
問題となった毒を飲ませた手段については噛まずに飲み込んで食べられる牡蠣にストリキニーネを混入するという方法で目的を達成している。実は原作を読む前海外の某短編集(一応伏せ字)クリスチアナ・ブランド『招かれざる客たちのブュッフェ』(伏せ字ここまで)で同じトリックを用いた作品を読んでいたのだが、その短編集は1983年に初版が発行された作品であり、当然本作がトリックとしては元祖となる。
残った牡蠣の殻を花壇の縁取りに利用したのが本作のユニークな部分だが、ドラマの方は更にアメリアの手元にあった銀のベルを埋めることでカトリーナによる発見・救護を遅らせるようにしているのが評価ポイント。犯人の殺害達成をより確実にする手段でありながら、原作以上にマザーグースになぞらえた改変となっている。