タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

最近プレイしたゲームの話(恐怖の世界、和階堂真の事件簿)

社会人になってから読書量がガックリと減っている。積読は一杯あるのだけど、限られた休みの中で長編を一冊読むとなると時間を大幅に消費する上に内容を理解するのに頭を使ってしまうということで、手を出すのをためらってしまう。実際は一度読み始めたら割とスラスラと読めちゃう時の方が多いのだが、ハマってしまうため途中で「切り時」を見失ってしまい、有効に時間が使えなかったなという後悔を残してしまうことも。

 

そういう事情からここ最近の娯楽はアニメとかゲームといった、ある程度所要時間が把握出来るものを選択することが多い。特に先月と今月は何本かゲームソフトを購入、ダウンロードしており、そのうちの二本を今回は紹介しようと思う。

 

「恐怖の世界」

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「恐怖の世界」はポーランド人の歯科医が本業の合間に制作したインディーズゲーム。1980年代の日本の港町「塩川町」を舞台に、その町で起こる数々の怪事件を調査しながら、旧き神の復活と世界の終わりを阻止するコズミックホラーRPGだ。

このゲームはニンテンドーダイレクトでその名を知ったのだが、映像を見た瞬間にこれは絶対にプレイしてみたいと思った一作である。本作のゲームシステムであるTRPG要素は YouTube のディズムさんのチャンネル※1でそういう遊びがあることを知っていたし、コズミックホラーというジャンルがあることは以前NHKで放送されたダークサイドミステリーのラヴクラフト特集を見ていたので、一度こういうジャンルのホラーゲームはやっておきたいなと思っていた。

 

一応TRPGが何なのか知らない人のために簡単に説明しておくと、TRPGとはテーブルトークロールプレイングゲームの略称で、紙・鉛筆・サイコロを使い、ルールブックに記載されたシナリオ・ルールに従ってプレイヤー同士が対話しながらゲームを進めていく。

product.kadokawa.co.jp

特に本作「恐怖の世界」はTRPGの中でもクトゥルフ神話TRPGというジャンルに基づくゲームシステムとなっており、ホラー作家のラヴクラフトが発案した架空の神話「クトゥルフ神話※2をベースとした古代の神々の復活を阻止するべく、プレイヤーはゲーム内で奔走しなければならない。

 

(調査する怪事件は病院内での集団昏睡事件、人々を魅惑するラーメン屋の謎、都市伝説系の怪異を扱った事件など、どの事件もバリエーション豊かでおぞましいものばかり)

 

基本的にストーリーは5つの怪事件(一番簡単な難易度だと4つ)を調査して特定のアイテムを集め、最後にとある場所へと赴き旧き神の復活を止めるという内容で、ストーリー自体は特別深いドラマがある訳ではない。とはいえ調査する事件はプレイする度にランダムで変更されるし、事件のエンディングも複数用意されている。事件を調査する順番もゲームのクリアを左右してくるから、やり込み要素には事欠かない。

通常のRPGと同様、プレイヤーはスタミナ(体力)と理性(精神力)の数値をゼロにしないよう事件を調査し、現れた異形の敵を倒していかないといけないが、このゲーム特有のシステムとして破滅値というものがある。これは事件を調査していくと少しずつ上がっていく数値でこれが100%に達すると旧き神が完全復活してしまいゲームオーバーとなる。だからスタミナと理性だけでなく破滅値にも注意してゲームを進めていく必要があるのが、このゲームの特性である。

 

もう既に私は何回かゲームをプレイしているが、同じ難易度でもプレイごとに難しさが変化するのが面白いポイントだなと思う。というのも本作は結構運に左右される要素もあって、調査の中で起こるイベントで同じ行動をとっても成功してアイテムや経験値をゲットしたり、或いは逆に失敗して理性やスタミナを減らしてしまうということが起こるのだ。これはプレイヤーが操作するキャラクターに設定された能力値が大きく関係しており、筋力や敏捷性、知力にカリスマ性といった能力の値の違いによってゲームの展開も容易になったと思ったら逆にハードモードへと変わるという感じで、余裕でクリア出来ないからこそ、その都度選択には注意を払わなければならない。

 

元々RPG系のジャンルはあまりやってこなかったので最初は何度もゲームオーバーになりながらプレイを進める羽目になったが、ある程度ゲームシステムを理解すれば難しいながらもゲームをクリアするコツみたいなものが掴めてきた。例えば、本作では通常のRPGと同様に仲間を手に入れることが出来るのだが、調査する事件によってはゲームクリアのために仲間を犠牲にするという選択肢も必要となる。プレイヤーが操作するキャラクターもゲームを進めていく中で怪我を負ったり呪いをかけられ状態異常になるし、事件の調査を進めれば進めるほど、塩川町はどんどん災害や暴動等のイベントによってゲームクリアの助けとなるアイテムショップや回復行為にまで制限がかけられてしまう。そういった数々の「縛り」をどう乗り越えていくかを考えるのも、このゲームの楽しみ方と言えるだろう。

 

ちなみに、本作に登場するキャラクターや怪異のデザインはホラー漫画家の伊藤潤二氏の作品をリスペクトして作られたもの※3だそうであり、あいにく私は伊藤氏の作品と言えば「首吊り気球」くらいしかちゃんと読んだことがないニワカのホラー好きなのでその辺りの出来については詳しく言えないが、感じとしてはただ怖い・グロテスクというキャラデザインばかりでなく、どこかユーモアのある敵もいて、そこは伊藤氏の作風をうまい具合にゲーム内に落とし込んでいたなと私は思った。

 

※1:ディズム - YouTube

※2:クトゥルフ神話 - Wikipedia

※3:『恐怖の世界』開発者パヴェウ氏×ホラー漫画家 伊藤潤二氏 特別対談。強い影響を受けたラヴクラフトへの想いや、ふたりの次回作のヒントも……!? | ゲーム・エンタメ最新情報のファミ通.com

 

「和階堂真の事件簿」

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「和階堂真の事件簿」は2020年にリリースされたインディーズゲームで墓場文庫という制作チームによって開発されている。今年の10月に Steam やニンテンドースイッチでもプレイ出来るようになったのだが、リリースされた四作のうち、二作目に横溝正史の『八つ墓村』を彷彿とさせるようなキャラが映っていたので、気になって購入した次第である。

 

内容はタイトル通り和階堂真が主人公として謎解きをする推理アドベンチャーゲームで、一つのエピソードが約1時間ほどでクリア出来るというお手軽なミステリという感じだ(実際はプレイしながらアレコレ考えていたので私の場合は1時間半くらいはかかっただろうか)。ゲームシステムとしては事件が発生し和階堂が事件関係者に聞き込みを行う。聞き込みをして必要な情報が集まったら現段階での事件の整理をする「推理パート」へと移行し、そしてまた新たな聞き込み・調査をするという実にシンプルな操作とシステムになっている。最後は事件の犯人やトリックを推理することになるが、選択を間違ってもゲームオーバーにはならないので、ミステリ初心者にも易しい安心設計になっているのもありがたい。

 

Twitter の方で簡単に四作品をプレイした感想を述べているが改めてそれぞれのエピソードについて言及しようと思う。

まず一作目「処刑人の楔」は首無し死体が電柱に逆さ吊りにされるという猟奇的連続殺人を扱ったエピソード。「殉教者の光」というカルト宗教が事件の背後にある内容で、犯人とその動機がわかったな…と思った所で終盤にまさかの展開が待ち受ける。事件のトリック自体はミステリにおいては定番なことをしているものの、別の所に仕掛けたサプライズによって上手く目くらましが効いていると評価した。

 

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続いて二作目「隠し神の森」は、田舎の山村で起こった神隠し絡みの連続殺人事件を描いている。これが当初私が気になっていた作品であり、実際プレイしてみると確かに横溝正史ミステリ的要素はいくつか発見した。

 

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(『八つ墓村』の濃茶の尼らしき人物も登場する)

 

横溝ミステリを意識した内容ではあるが、1時間ほどでクリア出来る作品なので複雑な家系図は出て来ないし、真相やトリックに関しても一作目と比べるとオーソドックスな感じで特別意外性はなかったと思う。それでも、徐々に村で何が起こっているのか明らかになるのはワクワクするし、終盤の謎解きにおける演出はなかなか不気味で良かった。

 

三作目「影法師の足」は主人公の和階堂が殺人の容疑者として追われる、金田一少年でもあったある種王道とも言える展開を描いた作品。被害者が人身売買組織のリーダーということもあって、物語はハードボイルド小説さながらの世界観で展開していき、和階堂も一時的な記憶喪失状態で捜査をするため、サスペンス性に関しては四作の中で一番かもしれない。

一作目と同様にこちらもゲームの特性を利用したサプライズを仕掛けてはいるが、個人的にサプライズとしてはちょっと弱さを感じたというのが正直な所で、序盤で伏線は張っていたものの、これをシリーズものとして考えるとあの程度の伏線ではミステリとしては弱いかなと私は思った。

 

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そして最新作である四作目の「指切館の殺人」は、嵐の山荘というミステリではお馴染みの舞台を題材にした事件。幽霊が出ると噂されている井戸が屋内にあるというシチュエーションは2017年に放送された麻耶雄嵩原作のドラマ「貴族探偵」の1話を彷彿とさせるし、宿泊客の中に変なことを口走る客がいるというのも、ベタなミステリドラマを見ているようだった。

割と早い段階で事件の背後に「アレ」が関係しているなということがわかったし、そこから怪しい人物も大体搾り込むことは出来たが、この「指切館の殺人」はフーダニットよりもホワットダニット、つまり館内で何が起こってこのような状況になったのか?をプレイヤーに問う作品としてよく出来たミステリであり、関係者の思惑をキチンと把握しておかないと、正しい推理を導くのは難しいだろう。

 

このように、四作品それぞれが趣の異なるミステリとして描かれた「和階堂真の事件簿」は、ゲームとしてもミステリとしても丁度良いシリーズであり、本格ミステリを読み漁っていた大学生の頃の私には物足りなかったかもしれないが、普段仕事をしていてじっくりミステリ小説を読むヒマと余裕がない今の私にはうってつけのゲームだったかなと思う。

最後に四作品のネタバレ感想を伏せ字で以下に記録しておく。

 

(ここからネタバレ感想)

処刑人の楔:事件自体は被害者と加害者の入れ替わりという「顔のない死体」を扱ったミステリにおける定番のトリックが使われていたものの、探偵役を誤認させるという一作目ならではの手法でベタなトリックが活きるようにしているのが巧い所。祖父が嘘をついていた手がかりとなった「教祖の首飾り」にしても、それが作中の台詞ではなくアイテム名としてゲームでは表示されるため、それが祖父の嘘ではなく小説で言う所の「地の文」としてプレイヤーが受け取ってしまうように仕組まれているのも巧妙だと評価したい。

 

隠し神の森:犯人についてはミスリードとして犯人が現場に残した髪飾りからニオイがしたという時点でほとんどの人はわかったのではないだろうか。だから意外性はそこまでないし、鍵のかかった蔵から面と蓑を持ち出すトリックにしても、果たしてそんなに上手く出来るのかやや疑問は残る。とはいえ、死体にお面を被せるというこれまでの神隠し事件とは違う現場の状況に犯人なりの告発――これまでの神隠し事件は被害者が行ったもの――が秘められていたのは物語として趣を感じる所だし、連続殺人ではなく不連続殺人事件というオチは良かったと思う。

 

影法師の足:一作目が「被害者と加害者の入れ替わり」がメイントリックだとすると、三作目は「探偵役の入れ替わり」をトリックとして扱っている。普通こういったトリックは小説では通用するがゲームといった映像媒体の作品では通用しない。しかし本作はシンプルなドット絵でキャラが描かれており顔が映らないため、本来なら映像作品で不可能な入れ替わりトリックが可能になっているのが面白いと感じたポイントである。

ただ、これをやるのだったら入れ替わりの相手役である探偵の安泉の存在を少なくとも二作目の時点でもっと押し出していた方がサプライズとして効果的だったのではないかと私は思っていて、一応序盤に安泉が変装・潜入を得意とする探偵であることは言及されていたからフェアなのはフェアだけど、存在感や活躍があまりなかった人物が重要なトリックを担っていたという所が、個人的には釈然としないというか何というか…。

 

指切館の殺人:早い段階で事件の裏に麻薬が絡んでいたこと、そして館のオーナーがそれに関係していることは大体わかったのだけど、それと最初の被害者が指を切られたこととどう結びつくのかがわからなくて結構悩まされた。途中で一作目に出て来た新興宗教「殉教者の光」がこの事件にも絡み出したのには驚いたが、そこから明らかとなる悪意なき悪意にはやはりゾッとしたね。前三作はシリーズとしてのつながりがあまりなかったけど、四作目ではシリーズものだからこそ入れられるネタだったり、効果的なオチが用意されていて、個人的にはシリーズとしてまた続編が出て欲しいなと思える最新作だった。

(ネタバレ感想ここまで)