タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

ドラマ備忘録:「謎解きはディナーのあとで」(「貴族探偵」のプロトタイプ的ミステリドラマ)

謎解きはディナーのあとで (小学館文庫)

タリホーです。先日関西テレビでドラマ「謎解きはディナーのあとで」が再放送されていたので視聴しました。

 

櫻井翔さんと北川景子さんが出演しているこのドラマ、放送当時は平均視聴率が15%を超える人気ドラマだったようで、ドラマの後にスペシャルドラマが2本、映画が1本公開された人気シリーズである。当時の私はまだミステリに興味がなかったのでスルーしていたが、ミステリオタクとしてこの人気シリーズを無視する訳にはいかないと思い、今回備忘録としてドラマの感想と評価を残しておきたい。

(ちなみに原作は読んでないので、ドラマに限った感想となることをあらかじめ言っておく)

 

(以下、ドラマ本編のネタバレあり)

 

作品概要

原作は東川篤哉氏の同名小説。2007年に小学館の「文芸ポスト」に掲載された「殺人現場では靴をお脱ぎください」から始まるシリーズで、世界的大企業「宝生グループ」の総帥の一人娘でありながら、素性を隠して東京の国立市で刑事を務めている宝生麗子が本作の主人公だ。そんな彼女が担当する事件の謎を解くのが、執事兼運転手の影山であり、ドラマは「事件発生 → 麗子による捜査の概要説明 → 影山の麗子に対する毒舌 → 影山による事件の推理 → 事件解決」という流れがお決まりのパターンになっている。

原作では麗子が見聞きした情報を聞くだけで影山は推理をしているので、原作はいわゆる安楽椅子探偵ものに該当するのだが、ドラマはそれだと映像として動きが無さ過ぎる、要は影山の活躍が少なくなってしまうので、ドラマの影山は密かに麗子を見守りながら事件の情報を入手したり、自分の好きなことをして時間を潰している。

 

東川氏はユーモアミステリの巧手とでも言うべき方なので、当然本作もコメディ要素の強いミステリドラマになっている。特にその要素を担っているのが麗子の上司で、自動車メーカー「風祭モータース」の御曹司である風祭警部だ。鼻につくようなキザったらしい言動と素人以下のポンコツ推理で麗子を呆れさせ、よく警部にまでなれたよな~と思わずにはいられない人物なのだが、風祭警部はただの賑やかしの道化役という訳ではなく、ポンコツながらも推理に必要な情報を提示したり、真相につながる伏線を何気なく出してくるミラクルボーイとして描かれている。この辺り原作でもこのように描かれているのかそこまではわからないけど、いずれにせよ麗子や影山だけでなく、風祭警部の動向にも目が離せないようになっているのが本作の魅力的なポイントだ。

 

各エピソードランキング

ここからは1話から10話までのエピソードで個人的にクオリティが高いと感じたものをランキング形式でレビューしていこう。

 

9位:5話「アリバイをご所望でございますか」

まずワーストとなった5話について。この回はサブタイトルにもあるようにアリバイ崩しをお題とした事件で、神社の境内で漫画原作者が仕事のパートナーに殺されるが、その男にはアリバイがあった…という感じの話だ。

アリバイが生じた状況という点に関しては思わずニヤリとさせられる下りはあったものの、アリバイトリック自体は関係者のあの人が嘘をついていたという程度のものでさして出来が良いとは言い難く、そのトリックが考えられた動機にしてもややこじつけた印象を受ける。「そんな迷惑かけるトリック考えるくらいなら正直に言えよ!」って思ったわ。

実をいうとこのエピソードは2020年に放送されたドラマ「アリバイ崩し承ります」で似たようなシチュエーションのエピソードを知っていたので、それと比較するとどうしてもクオリティが低いなと思った。それだけ私の舌が肥えてしまったということなので、ミステリ初心者なら、まぁ十分面白い作品だとは思う。

 

8位:3話「二股にはお気をつけください」

3話は国会議員が宿泊先のホテルでパンツ一丁の死体となって発見される不可解な状況が目を引くエピソード。闇献金疑惑を追究していた議員ということもあり当初は政治絡みの事件と思われていたが、被害者の女性関係やホテルマンの目撃証言が事件を更にややこしくする。

…という話だけど、事件概要を聞いていたら(ネタバレなので一応伏せ字)部屋に入った女と部屋から出て来た男が同一人物(伏せ字ここまで)だというのは普通にわかることだし、そこからどういうトリックが使われたのかも大体想像がつくので、さして意外性はないので8位となった。手がかりの多さに作り手の丁寧さは感じるんだけどね。

 

7位:8話「殺意のパーティにようこそ」

8話は麗子の同級生や先輩などが登場。麗子の過去が事件の鍵となるエピソードというのが注目ポイントで、今回のエピソードの中ではある意味特殊な事件と言えるかもしれない。ただ、フーダニット自体は普通で面白みに欠けるので7位という低い順位となった。個人的にこのエピソードは京極夏彦氏の(ネタバレなので一応伏せ字)『姑獲鳥の夏』(伏せ字ここまで)を彷彿とさせる所があり、ミステリとしてはともかく人間ドラマとしてはなかなかの出来だったと評価しても良いだろう。

 

6位:2話「殺しのワインはいかがでしょう」

動物病院の院長が毒入りワインで殺されるこのエピソードも、正直フーダニットとしての面白さはあまりないし、子供の目撃証言も予想通りのものだったので、ランクは低め。とはいえ、事件の真相をアガサ・クリスティの要素を絡めることで仄めかしている点に関しては良かった。ミステリとしてのクオリティは7位とほぼ同じだけど、個人的な好みの観点から2話の方を上にした。

 

5位:6話「綺麗な薔薇には殺意がございます」

今回のドラマの中でも特にオカルト色が強いのがこの6話で、不可解な体調不良や事件前の被害者の奇妙な言動など、怪奇現象としか思えない出来事を合理的に解決する点がこのエピソードのユニークな所だ。死体がバラの中に安置されていた謎に関してはわかったが、そこから先の推理は予想がつかなかったので5位となった。純粋にフーダニットとしては文句なしの回だったよ?

 

4位:1話「殺人現場では靴をお脱ぎください」

アパートで派遣社員が殺されるという、初回にしては地味な作品だけど、謎解きはなかなかのもので、特に被害者のささいなリアクションを推理の出発点にしている点や、被害者の行動を裏付ける手がかりの出し方が実にさり気ないのも評価を高くしている。ドラマとしては(ネタバレなので一応伏せ字)犯人が問題編の段階で画面に映っていない(伏せ字ここまで)のが何とも挑戦的な演出だなと思った。

 

3位:9・10話「聖夜に死者からの伝言をどうぞ」

最終エピソードは前後編の構成なのでやはりミステリとしての充実度は高く、「X」のダイイングメッセージとある言葉の解釈など、そこはかとなくエラリー・クイーンの某作品を彷彿とさせる所がミステリオタクとしては嬉しい。

影山が殺人犯として留置されるという最終回らしい緊迫感のある展開もあったが、そこから「金田一少年の殺人」みたいに無実を証明するために事件を解決する、みたいな感じにはならず、割とアッサリ釈放されるので、流石に1位にランクインするほどのエピソードではなかったかな。

 

2位:4話「花嫁は密室の中でございます」

結婚披露宴の最中に起こった密室殺害未遂事件を描いた4話は、密室トリック自体はさしてユニークでもない、陳腐で手垢の付いた代物なのだが、このトリックを成立させるための状況作りや、上流階級を舞台にした本作ならではのミスリードが仕込まれていて素直に感心させられた。風祭警部のクソしょうもないギャグも推理に関わるし、色々と私の予想を超えて来たエピソードだったので高ランクとなった。

 

1位:7話「殺しの際は帽子をお忘れなく」

この7話は『21世紀本格ミステリ大全』でミステリ評論家の千街晶之氏が「原作の解決を更に一ひねりした神がかり的な大傑作」と絶賛しているエピソードであり、私も今回の9つのエピソードの中で最もクオリティの高い作品として評価している。

あいにく原作を読んでいないので原作からどうひねったのかまではわからないが、推理ドラマとしてフェアでありながら意外性のある犯人を生み出しており、それを推理する手がかりも映像は勿論のこと、音声にまで気を配っているのだからドラマという媒体を最大限に活用した、非常に質の高いミステリドラマだと言っておきたい。

 

ということで、個人的には1位から5位までがおススメエピソードであり、6位以下は初心者はともかく、散々ミステリ作品に触れて来た玄人には物足りないか、不満の残る作品かな?というのが私なりの評価である。

 

明暗を分けたのは「分かり易さ」か?

さて、記事タイトルに書いた通り、本作「謎解きはディナーのあとで」は、2017年に放送された相葉雅紀さん主演の貴族探偵」の前座、或いはプロトタイプ的なドラマだったなというのが私の感想で、脚本を担当したのが黒岩勉氏であることや、今回のドラマに「貴族探偵」でも出演していた方がゲストとして出演している点もふまえると、「貴族探偵」であれだけのことが出来たのは、ひとえに「謎ディ」のヒットも少なからず影響しているのではないかと考えている。

 

ただ、「謎ディ」のヒットと比べると「貴族探偵」は(ミステリ界隈は大絶賛したものの)世間的な評価は低いし、いわゆるドラマ評論家の評価も厳しいものが多かった。平均視聴率だって「貴族探偵」の方が低いからね。

勿論、「謎ディ」が放送された2011年と2017年とでは視聴傾向や評価基準も変わって配信や録画での視聴も込みで評価するべきという意見も増えたし、視聴率という指標があてにならないこともわかっている。あと「謎ディ」が好きな人には悪いが、正直今回のドラマを見て、平均視聴率15%をとれるほどのドラマだったかというと、私はそうは思わない。まだテレビでの視聴が主流だった2011年だったからあれだけの高視聴率がとれたのではないかと思うのだ。

 

しかし、スペシャルドラマ2本、映画1本が制作されている以上やはり「謎ディ」に人気があったことは確かなので、では「謎ディ」が世間的にヒットして「貴族探偵」はイマイチ受け入れられなかった背景は何なのか?と私なりに考えたのだが、この明暗を分けた原因は分かり易さにあるのではないかと思う。

 

前述したように、「謎ディ」は「事件発生 → 麗子による捜査の概要説明 → 影山の麗子に対する毒舌 → 影山による事件の推理 → 事件解決」というお決まりの展開になっており、途中から新たなキャラが参戦したり、縦軸となる長編エピソードも特にないため途中からドラマを見ても全然問題ない、取っつき易い構成になっているのがヒットの一因だろう。これは「古畑任三郎」しかり「鍵のかかった部屋」しかり、過去の人気ミステリドラマにも当てはまる要因であり、適度に難解でありつつも1話で完結するというのがミステリ初心者にはちょうど良い塩梅なのだろう。

そして「謎ディ」はお嬢様とそれに仕える執事という主従関係をメインにしている分かり易さがありながらも、普段は主人に従順なイケメン執事がサラっと毒づくという櫻井さんのファンの心をわしづかみにする展開がより良い効果を及ぼしていると思う。

 

一方「貴族探偵」って、まぁ~ミステリ作家の中でも特にひねくれた作風の麻耶雄嵩氏が原作のドラマだから、「推理しない探偵」という自己矛盾でしかない存在が主役だし、一つの事件に二つ(或いはそれ以上)の推理があるという多重解決形式のミステリドラマなので、ミステリ初心者に取っつき易いかと言われると、うーん、難しいだろうねww。

多重解決にしてもミステリマニアは当たり前のように受け入れているけど、初心者にしてみれば「真実は一つなのに、間違った推理を描いてどうするのよ?」って困惑させられるもんな。多重解決の面白さに辿り着こうと思ったら、アントニイ・バークリー『毒入りチョコレート事件』は最低限読んでおかないといけないし、いきなり「貴族探偵」を見て多重解決の面白さにハマる人は少ないだろう。

 

毒入りチョコレート事件 (創元推理文庫)

以前サイゾーのネット記事で「『貴族探偵』は謎解きが主役」ってレビューしたライターの方がいたけど、正に言い得て妙の指摘だった。重度のミステリオタクは別に作中の人間関係とか、主人公の成長・挫折・克服みたいなものを期待しているのではなく、この事件がどのような推理によって解決するのか、どれだけ意外性があってなおかつ論理的な推理で真相に辿り着けるよう設計されているのかという、そういった面を気にしている訳である。

これを料理で例えるなら、料理の美味しい・不味いが評価ポイントではなく、料理人の包丁さばきや食材の加工・保存技術に評価の意識が向いているという感じなのだ。つまり、料理の味など二の次で、「何故この食材はこの薄さで切ったのだ?」という問いに対して料理人が理路整然とその目的や意図を答えられれば、それは素晴らしい料理として評価されるのである。

 

確か「貴族探偵」のドラマスタッフの方が貴族探偵水戸黄門的な存在」だと述べていた記憶があるが、個人的には本作の麗子の方が水戸黄門らしさが強い。自分の素性を隠している点や、影山の推理の後そのまま事件現場に乗り込む点など、「謎ディ」の方が明確に水戸黄門らしさがある。

貴族探偵」も水戸黄門要素はあるが、あくまでも共通しているのは水戸黄門の作中における機能、つまり水戸黄門自身が直接悪を倒す訳ではないが、彼がいないことには事件が解決しないという権威としての機能貴族探偵と共通するということだ。ただ貴族探偵の場合は自分の素性はハッキリと明言していないものの、貴族であるということはひけらかしているため、パッと見で貴族探偵水戸黄門らしさは感じられない。この辺りの分かりにくさも、「謎ディ」の分かり易い設定に対して一般視聴者に受け入れられなかったポイントと言えるだろう。

 

さいごに

ということで「謎解きはディナーのあとで」のレビューは以上となる。人気のあるミステリドラマはやはり設定の分かり易さと取っつき易さが鍵であり、評価基準も私のような本格ミステリを重視する人間は、意外なトリックやロジカルな推理を注目するけど、「貴族探偵」のように謎解きが主役となるドラマは、ミステリ初心者には取っつきにくい作品だったのかもしれない。それでも相葉雅紀さんのファンとあれだけ相互理解を深められたことを考えれば、一般の視聴者にも本格ミステリにおけるトリックやロジックの面白さが伝わる可能性は十分あるという訳であり、ミステリの映像化は課題点だけでなく希望も大いにあると考えて良いだろう。

本作「謎解きはディナーのあとで」は、大がかりなトリックこそないものの、映像作品としての利点を活かしたミステリであると同時に取っつき易いユーモアミステリとして評価すべきドラマである。このドラマがなければ、もしかしたら「貴族探偵」もドラマ化していなかったのではないかと、そんなこともつい思った次第である。