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新作放送記念、ドラマ「金田一少年の事件簿」を語っていこう(第三回:二代目・松本潤版)

4月から道枝駿佑版・五代目金田一による新作ドラマが放送されることになり、過去作の配信が始まった。今回は二代目・松本潤版について語っていきたい。

 

※一部内容に誤りがあったので訂正しました。(2022.05.02)

 

SPドラマ1:「魔術列車殺人事件」

初代・金田一少年が終わって約3年ちょっとぶりに制作された二代目・金田一少年の最初を飾る原作は、はじめの因縁の宿敵・地獄の傀儡師が初登場する「魔術列車殺人事件」。時代が21世紀へ移行したことを作品に反映させており、冒頭の犯人からの予告状も20世紀から届いた予告状とやや大仰に扱われているのが面白い。当然ながらキャストも作風も一新されており、コメディ性やテンポの良さが目立った初代と比べると、本作はミステリアスさや重厚さを重視しており、舞台となる死骨ヶ原ホテルの雰囲気も相まって、日本なのに異国情緒を感じる世界観となっている。

本作で松本さん演じる金田一はじめは、顔立ちは原作のはじめに一番近いとは思うが、性格は原作と比べるとクールな面が強調されており、スケベ要素はほとんど感じさせない。また、初代にも出演していた鈴木杏さん演じるヒロイン・七瀬美雪も原作の美雪から漂う清楚さはまるでなく、警察の人間である剣持にズカズカ関わろうとする野次馬根性や、じゃじゃ馬娘的性格が目立つ。正直過去作で最も原作からかけ離れた美雪と言えるだろう。というか、キャラクターとしてはむしろはじめの従妹である金田一二三(ふみ)に近いのではないだろうか。そのため、はじめと対等の幼馴染みというより妹に近いし、多分恋愛の対象としてはじめも見ていないだろう。

キャストを一新した二代目の金田一少年ということもあって、出演者も何気に豪華なのが本作の特徴の一つであり、本職のマジシャンであるMr.マリックさんや、美雪の同級生として端役で登場した山田優さん、それから後に「99.9-刑事専門弁護士-」シリーズで松本さんと共演することになる片桐仁さんが出演している(特に山田優さんが端役で出演しているって今考えると凄いよな…)。それから室井滋さん演じるはじめの母も登場したが、はじめの母がドラマで登場するのは何気に本作のみで、そういう意味では貴重な役なのかもしれない。

肝心の内容に関してだが、アニメ版を先に視聴してこのドラマを見たせいか、全体的に地味に感じたというのが正直な感想で、世界に通用するはずの魔術団なのに作中で披露されるマジックがどれもパッとしない(最後の天外消失のアレが一番尺を使ってたし豪華だったけど)。これは本職のマジシャンではなく役者がマジックを披露するため、あまり専門的で技術を要するマジックが出来なかったせいもあると思うが、それにより作品自体の華やかさが損なわれているのが勿体ない部分だ。また、劇中はじめの態度が原因で美雪とはじめが口喧嘩する場面があるのだが、この場面における美雪の文句がほぼ難癖に近くて支離滅裂であり、いくら「喧嘩はしても幼馴染みとしてはじめは美雪を大切にしている」ことを視聴者にアピールするための描写とはいえ、あれでは美雪のヒステリックさが目立つばかりで見てる側としても良いイメージが持てない。これに関しては脚本の小原信治氏にもう少し考えてもらいたかった。

脚本面では他にも難のある部分があって、その一つが近宮玲子の設定だ。近宮は剣持(原作では明智警視)と友人であり、また本作の犯人の実の母親でもあった。その部分に関しては問題ないのだが、山神や左近寺といった弟子に冷徹で道具扱いしていた所に関しては納得がいかなかった。近宮が良い人であればあるほど彼女を葬り手品師としての技術を奪ったメンバーに犯人が怒り復讐するという構図が明確になるのに、そこで近宮の冷酷な面を描いてしまったら犯人の動機の正当性にブレが生じてしまう。近宮が弟子の邪な性格を見抜いていたから冷酷だったとも解釈出来るが、結局(犯人も含めて)事件関係者の誰にも同情出来ない物語になってしまったのは残念ポイントと言えるだろう。実は他にも言いたいことは色々あるが、キリがないのでやめておく。

以上のように、手放しに褒められない部分があるにせよ全くの駄作ではない。食堂車付きの列車や脱出マジックの生中継(今は全然やらなくなったよね…)など、ノスタルジックな要素が詰め込まれている点や、はじめを演じた松本さんの演技の拙さもある意味今となっては懐かしいような可愛げがあるような、そんな気持ちになってしまう。あと本作で左近寺を演じた井上順さんは、原作の左近寺とは年齢や性格が違っているものの、原作以上に悪党としての存在感があり、本作のMVPとして異彩を放っていたと言えるだろう。

(ここからネタバレ感想)メイントリックとなる山神団長の死体消失トリックについてだが、原作では山神団長の死体発見前に爆弾騒ぎがあったため、死体から出る煙を見て高遠が「爆弾」と言ったことに何の違和感もないようになっているが、ドラマは爆弾騒ぎをカットしているため、「爆弾」と言った高遠の一言に違和感が生じている。これは原作通りトレイン急便を映像で表現出来ない事情もあったからやむを得ない改変なのだろうが、その影響でこの場面が犯人特定のヒントになっているのは指摘しておかなければならない。また、死体の周囲のバラは死体の頭部につながった紐を隠すためであるのと同時に、死体に触れさせないためのバリケードとしての役割も果たしており、そこはちゃんと劇中で説明してほしかったと思う。

数ある犯人の中でも高遠は芸術的犯罪を求めるという点で異常性の高い犯人だが、今回のドラマでは続編で登場する予定がなかったのか、後に脱獄したという情報もないし原作の高遠らしいカリスマ性や異常性も希薄だった。解決パートで描かれる犯行の様子にしても余裕綽々で犯行を行っている感じはなく、一般の殺人犯と大差はなかったから余計にパッとしない印象があったかな。最後にはじめと面会した時、はじめに手品を純粋に楽しんでいた子供の頃に戻れよってキレられてたけど、警察に犯行予告送ったり死体消失トリックのため死体をバラバラに切断するようなサイコ野郎が純粋な少年期に戻れる訳ねーだろ、と盛大に突っ込みましたよ。(ネタバレ感想ここまで)

 

連ドラ1・2話:「幽霊客船殺人事件」

SPドラマから約3ヶ月後に放送が始まった連ドラの初回は小説が原作となる「幽霊客船殺人事件」。マリー・セレスト号を彷彿とさせる船長の奇怪な失踪から始まる連続殺人だが、小説が原作なだけあって「蝋人形城」や「魔術列車」の時みたいに猟奇的でも華やかでもない。どちらかというと地味目で静か、でも薄気味悪さのある事件という印象だ。

「魔術列車」では対立関係だったはじめと剣持の関係も、この時点ではすっかり仲良くなっており、相棒兼遊び仲間といった感じ。内藤さん演じる剣持は、他の方が演じた剣持と比べると紳士的な部分よりも腕白坊主な性格(特に日常)が特に顕著で、「魔術列車」の時のはじめ達に対する頑なな態度は彼の性格が悪い方に出てしまったことがわかる。敵に回したり怒ると怖いが、味方となればとことん可愛がってくれる、それが二代目剣持の持ち味と言えるだろう。

連ドラ初回となる本作は、ゲストに団時朗さんや伊武雅刀さん、いかりや長介さんといったベテラン俳優が揃っているが、個人的にいかりやさん演じる大槻機関長とはじめの関係が素晴らしかったと思う。前作「魔術列車」で描こうとして失敗したはじめの人間的魅力機関長の勇気づけという形で描かれており、それによって大槻が海の男としての自信を取り戻す展開は本作の名場面の一つと言える。また、事件自体はトラウマ級の他作品と比べると地味だが、船上という舞台を最大限に活かし、エンジン故障による漂流やパニックを起こした乗客との騒動、はじめの生命の危機など、ドラマとしての見せ場を要所に配置することで退屈しない作りになっているのも評価したい。

カメラワークの演出も含めて手が全く抜かれてない本作は、当初の期待以上にミステリとしてもドラマとしても秀作だった。堂本版がもてはやされるのは仕方ないとしても、この二代目もなかなか悪くないと思わせる初回になっていたのではないだろうか。

(ここからネタバレ感想)本作は「悲恋湖伝説殺人事件」の元凶となったオリエンタル号沈没事件につながる殺人事件であり、そのため本作を「悲恋湖」が映像化された初代の時に映像化してほしかったという意見もあるだろう。その点に関しては残念ではあるものの、ホッケーマスクを被ったナカムライチロウ(実は剣持の部下のワラガイ刑事)を登場させたことで、原作ファンに対する目配せ――悲恋湖のことも意識しているというアピール――になっており好感が持てた。また、ワラガイが序盤で持っていたパンフレットが伏線になっているのもミステリとして見逃してはならない。

フーダニットに関しては、若王子が殺害された時点で容疑者がかなり限定されているため意外性はないものの、ホットミルクの温度差から犯人のミスとアリバイトリックを暴く所は良く出来ていると思う。(ネタバレ感想ここまで)

 

連ドラ3話:「仏蘭西銀貨殺人事件」

「幽霊客船」の次に放送されたのは、服飾業界を舞台にしたシリーズ中でもオシャレ度の高い「仏蘭西銀貨殺人事件」。プロットは「タロット山荘殺人事件」と同様、真犯人が別の人物を脅迫して殺人を行わせるというものだが、「タロット山荘」と違って犯行計画の要に被脅迫者の心理・行動パターンが関係しているのが特殊であるのと同時にミステリとしてやや難があるため、駄作ではないがツッコミ所も多いというのが本作の特徴と言えるだろう。物語の流れは大体原作通りだが、原作で登場したフランス人探偵のセバスティアン・ルージュ・ド・メグレはアニメ版と同様カットされている。

ゲスト出演として本職のファッションデザイナーのドン小西さんが「キミサワ」のライバルである「六条」の社長・六条光彦として登場、事件の第一被害者になるが、あくまでも本作の見所は吹石一恵さん演じる高森ますみであり、彼女が序盤から真犯人に脅迫され殺人を実行する場面が描かれることで、犯人当ての要素を残しつつも倒叙ミステリの味わいもある一作となっている。

(ここからネタバレ感想)本作の犯行計画は、真犯人と同じ境遇の高森なら自分が予想する行動をとってくれるという、彼女の行動パターンに賭けた要素が大きいため、実質運任せなのがミステリとして評価が分かれる所だろう。そもそも高森がヒロシを殴らなければ殺人をやらせるための脅迫が出来なかったし、一番の標的であるはずの君沢ユリエを高森が撃たなかったら、犯人の目的は半分失敗していたのだから。

また、犯人が殺害予告に送った葬送銀貨付きのドレスも「犯人がターゲットの体のサイズ・寸法を知っている=犯人は『キミサワ』内部の人間」という具合に、容疑者限定の材料になっており、それなら普通に紙で殺人予告を送った方が手間も少ないしフロッピーディスクによる失敗もなかったのだから、賢くないというか、デザイナーとしての性が完全に裏目に出ている。コンペと並行して殺害計画を実行していたのは凄いけど、演出にこだわって墓穴を掘ったのが本作の犯人のダメな所だった。

ちなみに、最初の殺人は(ドラマだと)犯人が自分自身がターゲットだったと思わせるためにやったことだと説明されていたが、原作ではそれに加えて君沢ユリエ死亡後の「キミサワ」が弱体化し、「六条」が敵対勢力としてより強くなる可能性を見越した犯人がついでで殺したと説明されている。また、中山(原作は霧山)小夜子の殺害動機もドラマで触れられていないが、原作では犬飼の愛人であり、彼から犯人の過去を聞いていたため、口封じで殺されたことになっている。(ネタバレ感想ここまで)

 

連ドラ4・5話:「黒死蝶殺人事件」

4・5話の原作は、船津紳平金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』において犯人が歴史的奇行を繰り広げたと称された「黒死蝶殺人事件」。その歴史的奇行をのぞいても本作は「何故この場所でこのトリックをやるの!?」とツッコんでしまうくらい犯人の計画がリスキーで馬鹿なのではと疑ってしまう。アニメで本作を知った当時は何とも思わなかったが、ミステリ小説を何十冊と読んできた今となってはトリックありきで作られた物語という点で本作は個人的に評価の低い一作だ。

ドラマは登場人物の性別が一部変更されており、殺害の順番も原作と異なっている。この改変によって、はじめが護衛していた人物が殺される(殺人防御の失敗)というオリジナルの展開が生まれた。これは「幽霊客船」の時と同様、はじめの優しさや人間的魅力を引き出すための演出と考えて良いだろう。殺人防御に失敗した所はあるが、悲劇的な結末を迎えた原作と違ってドラマはまだ救いのある結末になっており、連ドラ初回の「幽霊客船」から続いて、はじめの探偵としての矜持や事件関係者に対する勇気づけが描かれているということ自体、この二代目金田一におけるテーマの一つになっているのかもしれない。

予防線を張っていながら事件関係者を死なせてしまうのはジッチャンである金田一耕助も経験してきたことなので、ある意味今回の演出は本歌取り的な部分もあると言える。「幽霊客船」と言えば、本作もあの「悲恋湖伝説」に関係する人物が登場するのだが、ドラマではカットされており、代わりにその人物の役目を六波羅舞子が担っている。

出演者に関しては、班目家の家長・紫紋を演じたムッシュかまやつさんや小柳ルミ子さんなど独特のキャスティングが目を引くが、やはり特筆しておくべきは後に四代目・山田版にも出演した成宮寛貴さんが班目揚羽役で出演していることだろう。成宮さんは本作がドラマ初出演で、後に松本さんとは「ごくせん」(第一シーズン)で再び共演することになる。

さて、SPドラマから続けて視聴してきた二代目金田一の作風もこの辺りから大体わかってきた感じがして、剣持のウザいくらいの熱血漢ぶりや、はじめの妄想パートなど、物語とは関係ない場面でも金をかけて制作しているのが要所要所で見える。それは結構なことではあるが、一方この二代目は美雪の扱い方が全然上手くないのも確かで、剣持がヒロインである美雪を喰う勢いではじめと絡むため、結果的に美雪とはじめの関係も他シリーズと比べて薄くなっているのがわかるだろう。

(ここからネタバレ感想)船津氏の「犯人たちの事件簿」で既に突っ込まれているが、そもそも蝶の専門家や資料がある屋敷で蝶のトリックを利用した計画犯罪をやろうとした今回の犯人はマジでアホとしか言いようがないよね…。ただ、るり殺しに用いられたアリバイトリックは(方法は違っているものの)横溝正史の某有名作で用いられたトリックと同質のものであり、その点に関しては本家金田一へのリスペクトが感じられる。それはトリックだけでなく使用人の名が竹蔵であることや、一族の娘が次々狙われるプロットからも察することが出来る。また、犯人につながるオッドアイの設定は同じく横溝の悪魔が来りて笛を吹くのアザのオマージュであると考えられる。もっと言えば、犯人が殺さなくて良い人間を殺してしまった所も実に横溝的と言えるだろう。

原作では犯人もオッドアイであることを示す手がかりを出すために、犯人が揚羽に告白するという歴史的奇行を繰り広げるが、ドラマは警察に喰ってかかる形で改変されているため、原作と比べると犯人の奇行度合いはマシになっていたのではないだろうか。(ネタバレ感想ここまで)

 

連ドラ6話:「速水玲香誘拐殺人事件」

原作「雪夜叉伝説殺人事件」で初登場したアイドル・速水玲香が事件に巻き込まれる本作は、あの地獄の傀儡師が犯罪プロデューサーとして初めて活動した記念すべき(?)事件である。初代では中山エミリさんが玲香を演じたが、二代目の本作では酒井若菜さんが演じている。二代目の玲香はアイドルとはいえ、清楚というよりはコギャルのようなチャラい印象を与える見た目であり、登場したのも本作のみのためキャラクターとしての魅力は正直見出しにくい。

また、ドラマは地獄の傀儡師が絡まないため怪人も「道化人形」から「影法師」という名称に変更され、容貌もピエロから真っ黒なお地蔵さんの様な姿に変更されている。そういった改変の影響もあり、はじめを身代金の受け渡し人に指名したのも(原作では)「魔術列車」の時にトリックを暴かれたことに対する地獄の傀儡師の仕返しと解釈出来るのに対して、ドラマは結局はじめを事件に巻き込んだ動機は不明のまま終わっている。

はじめがピンチに陥る展開があるおかげで、はじめと美雪との関係も一応深まっている感じはするものの、原作の(ある意味性欲モンスター級な)はじめと違い二代目金田一は美雪との関係を恋人レベルにまで発展させる気は毛頭ない。そのため、はじめの態度に美雪がやきもきさせられるというのが二代目独自の味付けになっている。せめて美雪が原作と同じキャラ設定ならば、美雪が抱くせつなさにも共感が出来るのだが、二代目の美雪はあまりスマートではなく感情的に動く場面も多い(警察の車を蹴った下りは正直引きましたよ…)ので、二人がくっついた所で前途多難な結果になるのは予想されるし、見ている私としても「この美雪と交際するのはちょっとキツイな…」と応援する気持ちにはなれなかった。

(ここからネタバレ感想)犯人の「踏み板」の失言は、原作だとはじめは吊り橋のロープが切れたことが原因で落下したのだが、ドラマはバランスを崩して橋から落下したことになっており、原作以上に犯人の失言が目立つ結果になった。しかも現場には剣持と美雪がいて、はじめが落ちた時の状況を目撃していたのだから、あの失言をした時点で剣持に突っ込まれていてもおかしくなかったのである。(ネタバレ感想ここまで)

 

連ドラ7話:「魔犬の森の殺人」

「魔犬の森の殺人」はシリーズ中でも野犬によってクローズドサークルと化した廃屋を舞台にしている点や、犯人がまさかの〇〇であった点など、色んな意味で異色作であるが故に結構印象に残っている人も多いのではないだろうか。(ちなみに、犯人を〇〇にしたことで、一部読者から苦情が来たらしい)

前回の事件ではじめと美雪の関係がギクシャクしてしまい、今回もその関係を引きずって物語は進展するが、ドラマの見所としてはこれまで端役として特別目立った活躍もなかった山田優さん演じるミス研メンバーの千堂恭子(原作の千家貴司に相当)が事件関係者として登場することだろう。また、二ノ宮朋子を演じた綾瀬はるかさんは本作がドラマ初出演であり、彼女の初々しい演技も見逃してはならない。あと個人的には誹謗中傷事件でその名が知れたスマイリーキクチさんが萬屋透として出演していたのが少々意外だった。

二代目金田一の中で唯一剣持が直接関わらない事件ということもあってか、サスペンス要素が強いのが今回の特徴で、前半は殺人と野犬の襲撃によるパニック映画さながらの展開だ。この事件を通じてはじめと美雪の関係は一応修復されたことになるが、相変わらず美雪は人に助けを求めたりブチギレたり責めたりと感情的な面ばかり強調されているので辟易とさせられる。どうせなら「見守る」とか「寄り添う」とか、柔らかい性格描写も見せて欲しかったのだけど、実際こんな状況になったら優しさなんて見せてられないか…。

(ここからネタバレ感想)本作は金田一の友人が犯人という意外な真相を売りにしているが、推理モノに慣れていない初心者ならともかく、玄人ならばこれまで全然本編で活躍しなかった千堂がここに来て事件に巻き込まれた上に狂犬病になって生死の境を彷徨うという展開に作為的なものを感じてしまい、そういうメタな視点で彼女を疑った人もいるだろう。「金田一の友人が犯人のはずがない」という先入観をメインに利用していることもあってか、作中で用いられたトリック自体はかなりシンプルで、ヒゲとダイイングメッセージを除けば犯人のミスもそれほどなかったのではないだろうか。

ターゲットが潜伏していた廃墟に行く過程も当然犯人が計画したもので、ドラマは「いいものを見せる」という漠然とした誘いではじめと美雪を事件に巻き込んでいる。一方原作ははじめが美雪と男女の交わりを為すため用意した幻覚キノコ入りのキノコ汁を利用している。これに関しては犯人よりもはじめのヤバさが凄い。犯人よりも金田一を刑務所に入れるべきでしょ。(ネタバレ感想ここまで)

 

連ドラ8・9話:「露西亜人形殺人事件」

二代目金田一の最後を飾るのは、金田一少年シリーズでもミステリとしての質が高い「露西亜人形殺人事件」。外界と遮断された空間で推理ゲームに乗じた殺人が起こるというのは「蝋人形城殺人事件」と同じプロットだが、殺人トリック重視の「蝋人形城」に比べると本作は暗号解読ゲームの方に力が入れられており、当初からターゲットを殺すために計画された「蝋人形城」よりは計画性のない犯人と言って良いだろう。

原作では編集者である宝田の依頼ではじめ・美雪・佐木の三人が事件に巻き込まれるが、ドラマは犬飼高志に代わって佐木が遺産相続候補者の一人として改変されており、はじめ・美雪に加えて剣持が協力者として参加することになった。この改変の影響で暗号解読ゲームを中止しようとするはじめに佐木が喰ってかかる等、はじめ達と佐木の間に溝が生じるのもドラマの見所の一つだ。

原作の佐木の父親はビデオ制作会社に勤めていたはずだから、差し押さえレベルの借金もないだろうし、ましてや猟犬を飼っているはずもないが、この辺りの改変は原作の犬飼の設定を継承していると考えられる。二代目で佐木を演じた長谷川純さんは四代目で有岡さんが演じた佐木ほど存在感もなく登場回数も少なかったが、遺産絡みで闇堕ちする佐木が見られるのは本作のみであり、その点に関しては貴重と言えるかもしれない。

それから忘れてはならないのが、「魔術列車」ではじめにトリックを暴かれた地獄の傀儡師が再登場することだ。原作では「魔術列車」以降人前に姿を見せる時は仮面をつけているが、ドラマでは途中まで姿を見せず、姿を見せたと思ったらサングラスに金髪と、奇術師というよりはまるでロックミュージシャンみたいな見た目だから、やはり原作とかけ離れているのは否めない(笑い方も下品だったし)

ビジュアルは違っているものの、前述した佐木の闇堕ちを含めて、人間のダークサイドな面を浮き彫りにし、はじめと対立する部分は原作準拠である。ただ、原作で登場した「速水玲香誘拐殺人事件」の時に登場せず今回いきなり再登場したため、犯罪芸術家としての矜持も信念もドラマを見ただけではわからないし、ここから両者の対決が本格的に始まる!って所でこの二代目金田一は終わったので、消化不良的な部分があるのも確かだ。

(ここからネタバレ感想)本作は暗号解読がメインのため、フーダニットに関しては露西亜人形の両隣にあったランプシェード以外に犯人特定の材料はない。実は、そのランプシェードにしても厳密には犯人特定の材料にはならない。というのも、はじめが劇中で解説した通り、マスターキーは知恵の輪の要領で誰でも取っていくことが可能なので、桐江の部屋のランプシェードと入れ替わっていたからと言って彼女自身が入れ替えたことにはならない。「真犯人が桐江に容疑を向けるためにマスターキーを使って彼女の部屋に侵入し、濡れたランプシェードと入れ替えた」と言い逃れすることも可能なのだ。勿論、はじめ達はそれを見越してあのようなお芝居を打ったと思うし、部屋のランプシェードが入れ替わっていたことを誰にも言わなかったことが間接的に彼女が犯人であることを物語っていると言えるのだが…。

約束通り高遠が犯人を殺さなかったのは、単にはじめとの約束を守っただけかもしれないが、原作では桐江の境遇――親が考案した作品のアイデアを別の人物に奪われた――に高遠が同情したのではないかと推察されている。ただ高遠は復讐目的なのに対して桐江は金銭目的の殺人だったことを思うと、同情はしにくいかな。(ネタバレ感想ここまで)

 

さいごに

堂本版の後に制作された二代目は、単発の三代目や原点回帰した四代目以上に初代と比べられやすいので分が悪い所は無きにしも非ずだが、それを考慮したとしてもレギュラーであるはじめ・美雪・剣持の関係のアンバランスさが目立った。剣持の腕白坊主な一面は確かに他のシリーズでは見られないコミカルさと魅力があったものの、その勢いが美雪の存在を喰っており、では剣持がいない時の美雪ははじめのパートナーとして立てていたかというとそんな感じはない。結局美雪も剣持と同様感情的でエゴが強い面が押し出されており、見ているこっちが引いてしまうような時もあったくらいだ。

つまり何が言いたいかというと、クールな部分・優しい部分をはじめ一人に背負わせ、感情的で熱い部分を美雪・剣持の二人が担っているため、はじめが二人の思いに寄り添い行動することはあっても、二人がはじめの気持ちに寄り添うことはあまりなく、その結果美雪・剣持がある意味自分勝手な人間に見えてしまうのが二代目金田一のちょっとした不満点なのだ。はじめを叱咤激励していると解釈出来る所もあるといえばあるが、特に美雪ははじめや相手に対して「~して欲しい」という自分の願望を押し付けている描写が多く、その未熟さにイラつかされるというのが率直な感想だ。

三人の関係のアンバランスさはマイナスポイントではあるものの、総合的には「金田一少年の事件簿」の映像化として及第点レベルだし、今ならこんなトコに予算はかけないだろうと思う所にまで凝っているのが当時のテレビ業界の様子を映していると私は思う。まぁ、はじめの妄想シーンという連ドラで毎回挿入された定番に関しては、全部見た今も結局何がしたかったのだろうと首をひねる演出ではあった。それなりに金をかけているのに本筋と全然関係ないしねぇ…。

 

次回は、初代・堂本剛版の感想をお送りする。