佐木は和風の事件だとハブられる運命。#金田一少年の事件簿
— タリホー@ホンミス島 (@sshorii10281) 2022年6月19日
(以下、原作ほか初代ドラマ版も含めた事件のネタバレあり)
File.6「首狩り武者殺人事件」
記事タイトルにもあるように、今回リメイクされたのは1994年の8月から10月にかけて連載された「飛騨からくり屋敷殺人事件」。原作の時系列としては「金田一少年の殺人」の前に起こった事件になる。
剣持警部の幼馴染・巽紫乃からの手紙で剣持とはじめ・美雪は岐阜県の奥飛騨に位置するくちなし村の巽家を訪れるが、ちょうど巽家は先代当主の逝去による家督争いでもめており、先代当主が先妻・綾子の子供である龍之介を差し置いて、後妻である紫乃の連れ子の征丸に家督を譲るという遺言をのこしたために、いつ殺し合いが起きてもおかしくない状況になっていた。紫乃が剣持らを呼んだのは、そんな折に「首狩り武者」と称する者から脅迫状が届いたためで、剣持とはじめは彼女の窮状を救うべく調査に赴いたのだが、はじめ達がくちなし村に到着した日の夜、首狩り武者による襲撃があり、更には巽家の客人・赤沼三郎が合わせ扉の間で凄惨な死体となって発見される…。
以上が本作のあらすじとなるが、本作は横溝正史の『犬神家の一族』『八つ墓村』をリスペクトして作られた長編で、家督争い・落ち武者の怨霊・顔のない死体等々、これでもかと横溝テイストを盛り込んだ一作となっている。
横溝正史のテイストを模倣したミステリは数多く輩出されており、その中にはミステリとしてはイマイチな作品も少なからずあるのだが、本作は横溝が生前金田一耕助シリーズにおいて挑んだ「密室殺人」と「顔のない死体」の両方を取り込んだ作品であり、そのトリックも横溝の作品群と比べても劣らない出来栄えとなっている。また、解決編で明かされる犯人の犯行動機の異常性も凄まじく、物語は最後の最後まで意外性に満ちている。そういう訳で本作は横溝作品の模倣に止まらない、ミステリとしてクオリティの高い一作だと私は評価している。
(元々横溝正史の作品が大好きなので多少の贔屓目はあるけどね)
初代ではシーズン1の6話で放送されたが、舞台が岐阜県から宮城県に変わったことで、タイトルも「首無し村殺人事件」に変更されている。詳しい改変ポイントについては事件解説の項で語っていくが、初代ではこのエピソードではじめと剣持が「オッサン」「はじめ」と互いに呼び合う間柄になった。
そして今回のリメイクでも舞台が神奈川県(警察のパトカーを参照)に変更されたため「首狩り武者殺人事件」というタイトルに変更となった。その他の主な改変ポイントは以下の通り。
〇原作との相違点
・巽もえぎが和服姿の少女として変更されている。
・巽家使用人の桐山環、巽家主治医の冬木倫太郎、巽家次男の隼人がカットされ、環の代わりに原作で冬木の母にあたる冬木ウメが使用人になっている。
・原作で名前がなかった顧問弁護士が事件関係者として追加され、岩田和巳という名で登場する。
もえぎが和服の少女として改変されていたり、ウメが巽家の使用人になっているのは初代と同じだが、今回のリメイク版のもえぎは原作の隼人の設定を受け継いでおり、初代と比べると存在感のある役どころとなった。トリックや謎解きも改変されているがそれに関しては後ほど説明する。
原作の事件解説(密室殺人×顔のない死体)
Who:合わせ扉の間の密室トリックが実行可能な人物、鉛の詰まった銃
How:「赤沼三郎」を利用した二人一役トリック、合わせ扉の間のどんでん返しを利用した犯人消失トリック、一体の死体を二体に見せかける死体偽装トリック
Why:龍之介に巽家の財産を相続させるため(+共犯者の口封じ)
今回はじめは解決編にあたる第8回目において、この事件の謎を6つ挙げている。
①はじめたちの前に姿を現した「首狩り武者」は誰なのか?
②「赤沼三郎」は何者で、なぜ殺されたのか?
③合わせ扉の間からどうやって犯人は姿を消したのか?
④なぜ犯人は巽家と関係のない美雪をさらったのか?
⑤犯人が征丸を殺害した動機は何か?
⑥この事件の「本当の犯人」は誰なのか?
まず最初の赤沼殺し(②と③)から解説していこう。赤沼が殺害された現場は電子錠でロックされた密室であると同時に死体の首が切られて持ち去られているため、密室の謎と犯人が赤沼の死体を「顔のない死体」にした理由を推理していかなければならない。
作中で「顔のない死体」が出た場合は、まず被害者と加害者の入れ替わりを考えるのだが、本作では赤沼が殺された時点で失踪しているのは征丸しかいないため、当然死体は赤沼ではなく征丸ではないかと一旦考えるものの、死体の血液型がAB型でありO型の紫乃から生まれる子供ではあり得ない血液型のため、早々に読者が却下してしまうよう考えて設定されているのがトリックとして巧妙なポイントの一つだ。そもそも、当初から顔を隠していた人物の首を切断し持ち去るメリットが(一見すると)ないため、赤沼の死体=征丸の死体というシンプルな答えに辿り着けないようになっているのが秀逸な部分と言えるだろう。
また、赤沼が征丸や紫乃にとって不利な存在として描かれているのも強力なミスリードになっている。龍之介にしてみれば赤沼は征丸の家督相続の障害として利用出来る存在だから、龍之介が赤沼をでっち上げるというのは理屈が通る一方、征丸や紫乃が赤沼をでっち上げるメリットはないし、赤沼殺しで疑われるのはどちらかと言えば征丸や紫乃の方なので、その点から見ても(征丸はともかく)紫乃に読者の疑惑が向かないように作られている。
密室トリックについては、あらかじめ合わせ扉の間にいた共犯者(猿彦)が部屋を出て鍵をかけた後に、どんでん返しに張り付いてはじめと入れ違いになる形で抜け出し、どんでん返しの外側にいた真犯人に鍵を渡して開錠させるという至極シンプルなトリックだ。これに関しては死体が正座しているという状況もさることながら、殺害直後に首を刎ねればもっと現場に血が飛び散ってないとおかしいので、赤沼の悲鳴は死体となった人物ではなく部屋にいた共犯者によるものだと推理することは可能だ。ただし、真犯人が用意した偽の密室トリックがまたしても読者をミスリードへと誘う。
真犯人が仕掛けた偽の密室トリックは窓の鉄格子を一本外し、対岸までロープを渡してそこから綱渡りの要領で脱出するというトリックだ。このトリックは小柄で元軽業師の猿彦でないと実行出来ないトリックであり、原作の第4回目でもはじめは彼の体格と身軽な動きからこの脱出トリックの可能性を検討しているが、彼が高所恐怖症であることを見抜きそのトリックが真犯人が猿彦をスケープゴートにするために仕掛けた偽トリックだと推理する。
猿彦が高所恐怖症だと推理した根拠は、彼が庭木の剪定で脚立の上にのぼらず高枝切りバサミを用いて剪定していたことを根拠にしているが、実はこの根拠には弱い部分がある。というのも、脚立の正しい使い方としては天板にのぼったり跨ったりするのはNGで、作中の猿彦のように踏ざん部分に足をかけて作業をする方が安全なのだ。更に言うと剪定をする際は目線が上向きになってバランスを崩しやすいため、本来は四つ足の脚立を使うべきではなく三脚を使うのがベストなのだ。※1巽家に三脚があったのかそれはわからないが、高所恐怖症でなくとも安全性を考えれば作中のような形で剪定をするのはおかしいことではないし、たとえ素人目に見て違和感があったとしても、それを高所恐怖症の根拠にするのはちょっと無理がある。
高所恐怖症の推理に関しては論理的に弱い所はあるが、猿彦を犯人だとミスリードさせるためにわざわざ赤沼の殺害現場を密室にしているのが本作のユニークポイントと言えよう。基本的に現場を密室にするのは被害者を自殺か事故死に見せかけるためであって、どう見ても他殺としか思えない現場を密室にするメリットはないのだが、真犯人は自分が容疑者として疑われないために偽トリックを用意し、なおかつ自分に犯行は不可能であることをはじめに印象付けるために現場を密室にしたのだ。
そのため、密室にするメリットを考えれば、猿彦の高所恐怖症の件を考えずとも、猿彦が現場を密室にして有利になることはほとんどないため、そこから猿彦が真犯人のスケープゴートだと推理することは可能だと私は思う。
※1:高所恐怖症に関する推理についてのツッコミは、以下のリンクを参考にさせていただいた。
脚立の安全な使い方 | 製品の安全な使い方 | サポート | 梯子、脚立のパイオニア 長谷川工業株式会社
〇悪魔的な死体偽装トリック
次の征丸殺しにおける謎は上で提示した④と⑤に相当するが、やはり事件を解明する上で重要となるのは、征丸の生首を巽家の人間や警察ではなく、何故美雪やはじめに真っ先に見せる必要があったのかという疑問だ。征丸の死が確認されて有利な立場になるのは龍之介であるが、仮に龍之介が犯人だとしても、生首を警察に検めさせて征丸の死亡をちゃんと確定させた方が法律的にも有効だと思うので、わざわざ美雪をさらって征丸の生首を見せるという迂遠な死亡証明をしたのには何か理由があるのではないか…という考えに至るはずだ。
そしてこの迂遠な死亡証明の演出こそ、今回の真犯人の動機につながる最大の手がかりであり、ここで死体偽装トリック――征丸の死体の首を刎ね、胴体を「赤沼三郎」という架空の人物の死体にした――を見破れるかどうかが鍵となる。
この死体偽装トリックについて言及しておくが、いきなり征丸の生首を出すのではなく「赤沼」の死体をワンクッションはさんだ後に生首を出しているのが巧妙なポイント。
もし征丸の死体が首が切られていないそのままの状態で発見されれば、警察の捜査で血液型の矛盾から犯人の動機がバレることは明白だし、それを避けるため美雪やはじめだけに征丸の死体を目撃させたとしても、征丸の死亡を証明することはかなり難しい。何故ならば、仮にはじめと美雪が訴えた所で見間違いとして一笑されてしまう可能性の方が高いし、もし訴えが聞き入れられたとしても警察は死体を見つけるために捜索を開始するだろう。そうなっては死体の発見は時間の問題であり、発見されればそこから犯人が特定される危険だってあるのだからね。
そこで首を切り離して二件の連続殺人に見せかけることでこの問題をクリアしているのが本作の犯人の悪魔的な賢さで、先に胴体を「赤沼」として出しておけば身元不明の遺体として警察が処理するため死体を隠す必要もないし、この後の征丸の生首を用いた死亡証明の演出にも信憑性が出て来る。なおかつ、その目撃者に巽家と関係のない第三者で、警察から信頼されている美雪を選んでいるというのも本作のトリックを成功させる上で重要な一因となっているのだ。※2
しかも「赤沼三郎」が実在の人物であることを強調するために猿彦が赤沼になりすましていたのも実に用意周到で、外部からやって来た人物だと印象付けるためにバスに乗り込みはじめ達に目撃させたのもさることながら、猿彦=赤沼だと見抜かれないように真犯人自身も赤沼になりすましていたという徹底ぶりには驚かされる。
※2:首狩り武者(猿彦)が美雪とはじめに征丸の生首を見せた際、真犯人が征丸の服に着替えて「征丸の胴体」になりすましていたのも、死体偽装トリックとして巧妙なポイントである。
〇真犯人と動機について
本作の犯人当ては物的証拠が皆無に等しいことや、猿彦というスケープゴートの存在、そして何より序盤から読者に植え付けられた強烈な先入観が障壁となっているため結構難しい。
犯人特定の手がかりとして一番分かり易いのは、龍之介が征丸を殺そうと銃を持ち出した下り。一見すると征丸をかばっているように見えて実は龍之介が銃の暴発で死なないよう必死で止めていたという、ダブルミーニングとして秀逸な部分であり、これが紫乃と龍之介が真の親子であるというヒントになっている。
紫乃や征丸は日頃から龍之介に疎んじられているし作中でも紫乃は龍之介のことを「死んでしまえばいいんだわ」とまで言っている。だから本当に龍之介に殺意がある彼女ならばあそこで龍之介を止めず、銃の暴発で彼を見殺しにしたはずだ…と論理的に説明付けられるのだが、一方でこの説明は心理的に考えるとちょっと状況証拠としては弱いと思う。
いくら殺意を覚えるほど憎い相手とはいえ、普段寝起きしている邸宅内で死亡事故が起こるというのは気持ちの良いことではないし、現場が血みどろの状況になることを思うと生理的にそれを避けようと行動するのは決して不自然なことではないと思う。また、「首狩り武者」の脅迫による心労で銃に鉛が詰まっていたこと自体一時的に忘れていた可能性もあるから、これだけで紫乃が真犯人と特定するのは難しい。
メタ的に推理するとしたら、今回の事件はあらゆる点で紫乃が犯人でないよう演出されているので、そこから推理することは可能だし、解決編前の第7回目にはじめがホテルの回転扉で猫とすれ違った瞬間が描かれており、それがどんでん返しのトリックの直接的なヒントになっているので、これで真犯人が紫乃だと気付けるようになっている。
とはいえ、龍之介が紫乃の計画に乗じて彼女を自殺に見せかけて毒殺しようとしたり、征丸が紫乃の実子であるという強烈な先入観が邪魔をしているため、最後の最後までミスリードが張られており読者が翻弄されてしまう作りになっているのは特筆すべき点だと言える。
紫乃の犯行動機は、本当の実子である龍之介に巽家の財産を相続させるために長年育てた征丸を殺害するという到底信じられない動機だが、動機の根底には先妻・綾子の存在があり、どちらかというと綾子に対する復讐の方が割合としては大きいのではないかな?と思っている。勿論、実子の龍之介が裕福に暮らせることを願って嬰児交換をしたのは間違いないのだが、綾子の実子である征丸を息子として育て、苦労の多い人生を負わせることで恨みを晴らしていた部分も多かれ少なかれあったと思う。
龍之介の横暴な性格は綾子譲りであり、それを見越して先代当主は家督を征丸に譲ったのだろうが、結果的にそれが今回の事件の引き金になっているのがまた恐ろしい所で、嬰児交換・紫乃が巽家の後妻として嫁いだ事・先代当主の遺言といった諸々の事象が組み合わさって今回の事件が結実したというのも横溝正史の『犬神家』を彷彿とさせる。また、死者に復讐するため殺人を犯すというのも横溝の(ネタバレなので一応伏せ字)『獄門島』(伏せ字ここまで)に通じる所があるのではないだろうか?
最終的に紫乃は自分の息子に殺されるという報いを受けるのだが、征丸の殺害も含めてオイディプス王の悲劇※3を連想させるものがあり、本作が名作であるのはトリックのみならず古典文学の要素が物語にあるからではないかと勝手ながら分析した次第だ。
ちなみに、原作の最終回では医師の冬木が柊兼春の子孫であり、巽家の血統を根絶やしにするため紫乃の嬰児交換を黙認したという、はじめによる推測が為されているが、これは蛇足に近い設定のため、アニメでもドラマでもカットされている。
ドラマ(初代・五代目)の事件解説
今回の感想に移る前に簡単ながら初代ドラマ版の感想を述べたい。
初代は内容自体は原作と大体同じ作りになっているが、1話完結にしたこともあり、はじめ達がくちなし村に到着して以降の共犯者の行動がかなり忙しいことになっている。
まずくちなし村の入り口で「赤沼」に扮してはじめ達に姿を見せ、すぐに扮装を解いて猿彦に戻りはじめ達を巽家へ案内する。そして巽家に到着したら、はじめ達を放置してそのまま「首狩り武者」に扮して襲撃を演じ、それを終えたらすぐにまた「赤沼」に扮して巽家を訪れる…と、これだけ見てもかなりせわしない状況になっているのがわかるだろう。また、原作と違って紫乃が赤沼に扮装しないため、「猿彦=赤沼」の一人二役に関してはわかりやすくなっている。
紫乃と剣持の関係も実は改変されており、年齢設定の問題から幼馴染みではなく、剣持が駐在勤務をしていた際に知り合った間柄として変更されている。その改変に即して、剣持が紫乃に淡い恋心を抱いていた部分を活かした脚本になっており、解決編も紫乃の動機の異常性よりも、恋心を抱いた相手が真犯人だったという剣持の哀しさにスポットライトを当てたような結末になっていると私は思った。
〇五代目の改変について
そして今回のリメイク版となるが、はじめ達がくちなし村に到着後の共犯者の忙しさは初代と同様だが、今回のリメイク版では「首狩り武者」の襲撃と「赤沼」が巽家に到着するまでの間に時間の開きがあるため、初代に比べるとまだ余裕があった感じがする。また、原作通り「赤沼」の恰好でバスに乗っているため、初代と比べれば外部から来た人間として印象付けに成功していたと言えるだろう。
そして合わせ扉の間におけるトリックは、どんでん返しを利用する点は同じではあるが、その過程は原作やアニメ・初代とはちょっと状況が異なっている。
原作では、はじめがどんでん返しの内に入って扉の前に立った際に猿彦が悲鳴を上げ、はじめと紫乃が鍵を取りにどんでん返しの外に出てから部屋を出て施錠し、どんでん返しに張り付く。そしてはじめと入れ違いにどんでん返しの外側に出た猿彦が偽の鍵を持っていた紫乃と鍵を交換して脱出…という流れになっていた。
しかし今回のリメイク版では、はじめがどんでん返しの内側に入る前に扉を施錠してからどんでん返しに張り付いており、そこで悲鳴を上げてはじめ達と入れ違いに脱出し、鍵を元の場所に返している。この際、はじめを案内する形で真っ先に紫乃がどんでん返しに入ったのがポイントで、これにより入れ違いの際にどんでん返しの内側に猿彦が潜んでいたことをはじめに悟られにくいようになっているのがトリックとして優れている。
はじめが真っ先にどんでん返しに入った場合、いくらどんでん返しに張り付いていたとしても、どんでん返しを動かした際の抵抗感※4から裏側に人がいたと勘付かれるリスクは当然あるだろうし、はじめがどんでん返しの左から入るのか、右から入るのか猿彦にはわからないため、それが原因で入れ替わりに失敗してしまう危険もあったはずだ。このトリックの難しさは以前TBSの番組「水曜日のダウンタウン」でも検証されていたので、ドラマ制作陣も(多分)トリックのリスク性を考慮して今回は改変をしたのかもしれない。
あらかじめ猿彦と紫乃が打ち合わせをしておけば、どんでん返しの入れ違いも確かにスムーズになるのだが、しかしそうなると原作のように鍵の交換が出来なくなる。そこで今回のリメイク版では、偽の鍵をいさぎよくカットし、扉の施錠をしてから悲鳴を上げることでこの問題をクリアしている。また、鍵の保管場所も壁板の裏側に隠されているため、原作のように合わせ扉の間に入る前から鍵が保管場所にかかっていたことを示す必要がなくなっているのも改変として優れたポイントだ。
本来ならば鍵の保管場所がからくり細工のように隠されているというのはおかしな話だが、合わせ扉の間は先祖代々の財産が隠されている宝物庫であり、部屋がどんでん返しで隠されている以上鍵の保管場所も隠されていて当然だ。宝物庫の設定はドラマ独自の設定ではなく原作でも言及されているため、原作の設定を活かした改変になっているのも今回のリメイク版における評価ポイントだ。
このように、リメイク版は1話完結の都合や実行におけるリスクの面からトリックが効率よく改変されているのが特徴的で、なおかつ原作と違いはじめはどんでん返しの内側に入って以降扉の前から一歩も動いていないため、密室の状況が(ある意味)原作以上に強固なものになっているのが改変として巧妙ではないだろうか?
また、原作では密室トリックを実行した段階で既に征丸の生首は別場所に移されていたのだが、今回のリメイク版ではどんでん返しでの入れ違いの際、猿彦は征丸の生首を持ちながら入れ違っていたという推理をはじめはしており、あの段階ではじめの目と鼻の先に征丸の生首があったという、なかなかにホラーな真相となっているのも今回の改変の面白い所だと評価したい。この推理は流石に視聴者には無理だが、はじめは死亡推定時刻も警察から聞いているだろうし、死体発見時の血の凝固具合から見て、征丸の殺害からあまり時間をおかずにトリックが実行されたと推理して、生首の持ち出しに触れたのではないかと思われる。
そうそう、蛇足となるが猿彦の高所恐怖症の推理について触れておくと、今回のリメイク版では初代よりも大きな高所作業用の三脚を用いているのに、下の段にしか登らず高枝切りバサミを使用しているため、リメイク版の手がかりに関しては高所恐怖症という推理が成り立つと判断して良いだろう。
また、どんでん返しのトリックのヒントとして今回は原作の猫でも初代の犬でもなく佐木を用いていたが、五代目の佐木は金田一の下僕=忠犬として仕えている面もあるので、改変としてはある意味最適だったのかもしれない。
(それにしても、現代でも回転扉を設置したお店があったとはね。安全性の問題から回転扉を撤去している所も多いし)
※4:特に原作では赤沼に呼ばれる前に、一度はじめと美雪は環の案内で合わせ扉の間を見学しているため、よりどんでん返しの違和感に勘付かれる危険があったのではないかと思われる。
真犯人の推理に関しては、今回のリメイク版では赤沼の死体の血液型の問題がカットされているため、はじめの推理にやや飛躍的な所が見られるが、元々原作自体も真相に辿り着くにはある程度の飛躍的発想が必要だし、銃の暴発の件や征丸の生首を見せるために美雪をさらった点を突き詰めていけば、真相に辿り着けなくもないので大きな瑕疵ではないだろう。
むしろ動機に関しては初代よりもリメイク版の今回の方が推測しやすい構成になっており、生首祭りの下りでウメの口から先妻・綾子のことが語られているのが改変として実にナイスだった。初代では問題編の段階で綾子のことは一切触れられず、最後の紫乃の独白でようやく彼女と紫乃の間の接点や綾子の性悪さが明らかになった。それに対し、今回のリメイク版では綾子が実の娘のもえぎにも冷たく、育児を使用人に任せていたことや、紫乃と綾子が高校の同級生であることが明言されているため、初見の視聴者でも犯行動機の大本に綾子がいるのではないかと推測することは可能だ。
また、初代では物語のホラー性を引き立てる存在にしか過ぎなかったもえぎを、巽家の人間に嫌悪を抱いているキャラにしているのも巧い改変で、原作の隼人の設定を取り入れたことで、彼女が一連の事件を首狩り武者の亡霊の仕業だと吹聴するのにも納得のいく理由が付けられている。これに関しては「原作通り隼人を出しても良かったのでは?」という意見もあるだろうが、(仮病とはいえ)隼人は病気による知恵遅れの青年ということもあり、ドラマに出すには色々とデリケートな問題を抱えた存在なので、やはり私はもえぎに隼人の役割を担わせた今回の改変にして良かったと思う。
さいごに
予告の段階では前後編になると予想していた今回のリメイクは、意外にも初代と同じ1話完結のエピソードとなったが、放送前に懸念されていた生首や首なし死体が思いの外ハッキリと映されていたことや、1話完結に即してトリックも効率化したものになっている等、納得のいく改変になっており、五代目ならではのリメイクとして満足出来る一作だったと高く評価したい。
勿論、犯行動機の異常性や紫乃が抱くトラウマ感情という点では原作やアニメ版と比べて劣ってしまう部分があるし、嬰児交換にしても原作で龍之介や征丸が生まれたと思しき1970年代ではなく2000年代の頃になるだろうから、新生児の取り違えが起こらないよう病院側も対策をしていた頃だと思う。だから決してツッコミ所がない訳ではないのだが、これまでリメイクされたエピソードでは改悪要素が目立ったのに対し、今回のリメイクにはあまり改悪と思える部分がなかったので、私は今回のリメイクは成功していたと胸を張って言いたい。
さて、次回は金田一少年ではお馴染みオペラ座館を舞台にしたエピソードだが、原作は「オペラ座館・第三の殺人」ということで、ドラマ化初の新作エピソードとなる。ボリューム的には恐らく前後編になるのではないかと思われるが、そうだとすると恐らくこれが五代目金田一の最終エピソードになるかもしれない。