タリホーです。

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新作放送記念、ドラマ「金田一少年の事件簿」を語っていこう(第一回:四代目・山田涼介版)

4月から道枝駿佑版・五代目金田一による新作ドラマが放送されることになり、過去作の配信が始まった。ということで、良い機会だからこれまでのドラマ金田一少年の振り返りと感想を語っていきたい。

まず今回は配信一発目を飾った四代目・山田涼介版の金田一について話していきたいと思う。

 

※一部内容に誤りがあったので訂正・加筆しました。(2022.04.21追記)

 

SPドラマ1:「香港九龍財宝殺人事件」

日本テレビ開局60年特別番組として2013年に初めて山田版金田一少年が放送されたが、四代目はズバリ、初代・堂本剛版の作風に原点回帰したことを知らしめた回であり、音楽は初代と同じ見岳章氏、演出は木村ひさし氏が担当している。この木村氏はTRICKシリーズで堤幸彦氏の作品に助監督として参加していたこともあり、演出の雰囲気も堤氏からある程度継承している部分はある。堤氏は初代金田一少年の演出を担当していたから、原点回帰を意識した四代目において、木村氏が選ばれたのは当然かつ最適と言えるだろう。

原点回帰としての一作目を飾る事件は「香港九龍財宝殺人事件」。初代金田一少年の最終作が映画「上海魚人伝説殺人事件」だったが、一作目に中国を舞台にした事件をやるというのは、(開局60年特別番組だから豪華にいきたいという制作陣の意向もあっただろうが)ある意味初代からの地続き的な意味合いがこもっていたのではないかと私は思う。事件内容にしても、「上海魚人伝説殺人事件」と同じ金属探知機の盲点を突いたトリックが使われているし、微かながらそういった面でも繋がりみたいなものが見出せる。

原点回帰とはいえ初代と全く同じかというと全然そんなことはなく、例えば有岡大貴さん演じる佐木竜二は、過去作ではじめの後輩として登場した佐木と比べてより助手としての存在感が強調され、同時にはじめがボケた時のツッコミ役も果たしている。またビジュアルや髪形のせいか、トイプードル的な可愛らしさのある佐木になっており、そこもまた四代目ならではと言えるだろう。

川口春奈さん演じる七瀬美雪に関しては、今回は序盤で犯人にさらわれるため、本作で美雪のキャラクターとしての魅力は見出せないだろう。少なくともこれが初見だったとしたら、「美雪ってはじめを尻に敷いた勝気な女の子だな」と思ってしまうかもしれない。

肝心の事件のトリックや犯人についてだが、本作はハウダニット重視で犯人当てのロジックは希薄だ。一応意外な犯人にしようという気概は見られるが、展開から作者が誰を犯人にしようとしているか(勘が鋭い方なら)すぐわかってしまうので、あまり真剣に犯人を当てようと考えず気楽に見た方が楽しめる一作だろう。また、本作の脚本は原作者である天樹征丸氏が担当しているが、ドラマの脚本に慣れていないのか、はじめが情緒不安定に見える場面があるのが少し気になった。

(ここからネタバレ感想)3件の殺人のうち、やはりトリックに一番難があるのが2番目のシン・リー殺し。ワイヤーとして利用したハンガーが形状記憶合金で、熱で瞬時に戻るというのは実際問題やってみないとわからないので百歩譲ったとしても、問題は犯行後のワイヤーの回収。ホテルから殺害現場まで約100メートルほどあるが、犯行後回収する際は空中に張られたワイヤーを切って回収しなければならないから、ワイヤーは当然地面に落ちてずるずる引きずられて窓から回収される訳であり、長いワイヤーが道を横断していたり、窓からぶら下がっていたら誰かしらそれを目撃しているはずだ。アニメ版では一応補足情報があったのでトリックにも説得力があったが、ドラマはホテルと殺害現場の間は普通に車や人が通っていたので無理。元々原作自体ドラマありきで考えられたらしいので、あくまでも雰囲気・世界観を楽しむべきなのかもしれない。(ネタバレ感想ここまで)

 

SPドラマ2:「獄門塾殺人事件」

「香港九龍財宝」から約1年後に放送された二作目は、日本を舞台にした事件をマレーシアのジャングル内で起こった事件として改変している。それに伴い、一部の登場人物が外国籍として変わっていたり、明智警視の代わりに前作で登場したリー刑事が続投で登場するなど、事件のトリックや骨子となる設定以外はかなり脚色が加えられている。

見所としては、本作からはじめの宿敵であり犯罪コーディネーターの高遠遙一が登場。二代目・松本潤金田一でドラマデビューした成宮寛貴さんが高遠を演じるというちょっとしたサプライズ的起用となっている。原作では「魔術列車殺人事件」ではじめと高遠が出会うため、はじめは高遠が犯罪コーディネーターになった経緯を知っているが、本作では既に犯罪コーディネーターになった時点での対面のため、その辺りの深掘りはされていない。また、原作・アニメ共に高遠は計画を失敗した犯人を抹殺するのだが、ドラマ版はこの後の「金田一少年の決死行」も含めて抹殺はしておらず、その点に関してはドラマ版高遠は原作ほど冷酷でないと言えるかもしれない。

また、前作であまり描かれなかった美雪とはじめとの関係性や、佐木の勇気ある行動など、主役のはじめだけでなくヒロインや助手ポジションの美雪・佐木にも見せ場があるのも評価ポイントの一つだ。

(ここからネタバレ感想)前作「香港九龍財宝」ではトリックに無理があったが、本作は設定に無理があるというのが正直な感想。そもそも勉強合宿のために何故海外、それもマレーシアのジャングル内にあるロッジまで行かなければならないのかとここから突っ込まないといけないし、サソリやタランチュラといった危険生物がいるジャングルなのに夜の散歩って危なすぎるだろ!

事件についてだが、本作もハウダニット重視でフーダニットに関してはアリバイトリックを行うための状況設定が出来る人物、犯人の失言、ダイイングメッセージでわかってしまうので意外性はない。というか被害者が多すぎて生き残った容疑者が(はじめ・美雪・佐木・リー刑事・高遠を除いて)実質四人しかいないので下手したら当てずっぽうでもわかるよ。日本が舞台だったらせめてエキストラの生徒役も用意出来ただろうが海外ロケだったのでそういう誤魔化しもきかなかったのだろうな。(ネタバレ感想ここまで)

 

連ドラ1話:「銀幕の殺人鬼」

二作目のSPドラマから約半年後に放送された連続ドラマ「金田一少年の事件簿N(neo)」の初回は2時間枠で、ゲストにかつてドラマ「探偵学園Q」で山田さんと共演した神木隆之介さんが蔵沢光として出演。「探偵学園Q」も見ていた私としてはこの起用は嬉しかった。そして本作から山口智充さん演じる剣持警部、浅利陽介さん演じるミス研部長の真壁誠がレギュラーとして登場。山口さんの剣持は初代の古尾谷さん演じる剣持とはまた違う親しみやすさがあったし、浅利さんの真壁は原作や初代で見られたナルシスト的な性格はなく、とっつきやすい性格の真壁だったから個人的には好感触というか、はじめ・佐木を含めてある種のトリオ漫才的な相性の良さを感じた。

SPドラマで初代への原点回帰を果たした山田版金田一だったが、実を言うとSPドラマよりも連ドラの本作が最も初代の原点回帰に相応しい内容だったと思う。というのも初回は、

正体不明の怪人に殺されるB級ホラー的演出

②はじめの(ある意味犯罪レベルな)スケベ気質

③CM前の容疑者一覧と「DEAD」の表示

といった、初代でも見られた演出・趣向があり、なおかつ原作がシリーズの中でもお気に入りの作品だったので、映像化としては素直に成功だとリアタイ当時も現在も評価している。とはいえそこはneo、四代目から追加された趣向も勿論あって、OPでは毎話事件に関する暗号が用意されており、本編も事件解決となる手がかりの場面が強調されていたりと、ミステリ初心者でも推理しやすい易しい作りになっているのが特徴だろう。

それから、本作で遊佐チエミを演じた上白石萌歌さんが五代目の美雪を演じることも忘れてはならない。上白石さんの美雪はどんな感じになるのか、今から楽しみだ。

(ここからネタバレ感想)最後の二重密室のトリックだが、原作ではフィルムがスムーズに映写室にいくために立てたロウソクは映画の見立てとしてカモフラージュの効果があったのに対し、ドラマは映画の見立てという意味合いがカットされているためやや唐突な印象を与える。また、原作では犯人のトリックに気付く切っ掛けに美雪がフィルムの缶を倒し、はじめが中身のフィルムと缶をバラバラにして入れてしまったという探偵側の意図せぬ妨害があったのだが、ドラマはそれがなかったため犯人の犯罪計画はほぼ完璧に遂行したと言えるだろう。紙コップのトリックにしても状況証拠にしか過ぎないのだから、自白さえしなければ証拠不十分で無罪もあり得たと思うのだ。

ちなみに、ドラマは蔵沢だけでなく黒河もスケープゴートとして利用されているが、原作の黒河は星占いが趣味の不思議系女子だったため、美雪に嫉妬心を抱く普通の女子高生にしたのは賢明な判断だったと思う。映研部員がミス研部員(準レギュラー)として移行する流れも連ドラに適した改変になっていた。(ネタバレ感想ここまで)

 

連ドラ2話:「ゲームの館殺人事件」

2話はシリーズでも異色のデスゲーム形式の殺人を描いた「ゲームの館殺人事件」。ものまねタレントの福田彩乃さんや、「真犯人フラグ」「怪物くん」で役者としても活躍しているダチョウ俱楽部の上島竜兵さんがゲストで出演しており、独特なキャスティングも相まってより異色さが出ている。本作の怪人「ゲームマスター」にしても、CGによるキャラクターで、ボイスチェンジャーではなく読み上げソフト「Softalk」(一部界隈ではゆっくりボイスで有名)を使っているのも、これまでの怪人と違う味わいがある。ただ、事件やトリックに関しては原作の段階で難点が多く、私の中ではシリーズ中ワーストレベルの出来と言って良いくらいだ。

ちなみにこれは豆知識だが、原作にはマツモトジュンが登場する。嵐の人じゃない同姓同名だけどね。

(ここからネタバレ感想)一番突っ込みたいのは、今回の犯人の動機が金銭目的にも関わらず、本作で扱われたトリックがかなり金のかかるトリックだという点だ。いくら廃墟を利用したとはいえ、3Dテレビや爆薬、暗証番号によるロック装置、炎が出る装置、催眠ガス等、ホームセンターに行っても買えないシロモノを用意・設置しなければならないのだから、いくら莫大な遺産という利益が得られるとしても、準備の段階でそれだけの資金が果たしてバー経営のママさんにあるのか疑わしい限りだ。それに、ターゲットとなる霜村親子が最終バスに乗るかどうかはあくまでTwitterのツイートという不確実な情報で、もしかしたら予定変更で早々に帰っていたかもしれない。そんな、あまりにも確実性を無視した計画だったのもマイナスポイントになっている。

ドラマではカットされていたが、原作では知恵の輪と宝探しゲームの間にカップラーメンの毒味という展開があった。ゲームらしくなかったからカットされたのだろうが、原作ではラーメンの毒味も含めて確実性の低いトリックを何度も仕掛けることでターゲットを殺そうとする「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」方式の殺人計画であり、それだけはユニークだと評価出来るが、あまり上手い使い方ではなかったのが残念だった。動機にしても金銭面だけでなく、自分と実の娘が不幸な境遇なのに対し、異母弟とその母親が裕福な暮らしを送っているという境遇差に対する嫉妬・憎悪も明言していたら、横溝正史らしさが出ていたのにな…と思うのだ。(ネタバレ感想ここまで)

 

連ドラ3・4話:「鬼火島殺人事件」

前後編として放送された「鬼火島殺人事件」は漫画ではなく同作者による小説が原作で、過去にアニメ版で放送されていたので内容を知っていた人は多いだろう。しかもこの作品で用いられたトリックはTBSのバラエティ番組水曜日のダウンタウンでミスターSASUKEこと山田勝己氏によって検証されていたから、そっちの方面から知った人もいるのではないだろうか。

ゲスト出演としてNEWSの増田貴久さんや、2時間サスペンスの常連俳優である布施博さん・森口瑤子さんが登場するが、個人的に注目すべきは間宮祥太朗さんが自殺未遂で植物人間状態の海老沢邦明の役で出演していることだ。当時まだ駆け出し状態の若手俳優だったとはいえ、今考えると間宮さんに植物人間の役を任せたのは何というか実に贅沢な使い方だったなと思う。当時の間宮さんは若手ながらもヒール役とかいじめる側の役を結構やっており、むしろそういう点では加藤賢太郎を演じた千葉雄大さんと入れ替えた方が原作の雰囲気に近かったのではないかと思う(別に千葉さんの演技がダメという訳ではないですよ?)。

あとこれは小ネタだが、今回の事件の舞台となった鬼火島の宿泊施設は、初代金田一少年の第二シーズン初回に放送された「悪魔組曲殺人事件」の御堂周一郎の別荘と同じロケ地である。屋内は全く違っているから別場所での撮影(或いはセット)だろうが、外観に関しては悪魔組曲の時と全く同じなので是非チェックしてもらいたい。

(ここからネタバレ感想)最初の殺人は「学園七不思議殺人事件」の応用編で、殺害現場を誤認させるトリックが用いられている。これだけなら大したことがないが、ミステリでは定番のバールストン先攻法――真犯人を死亡したように見せかけることで容疑者圏外に置く手法――が組み合わされたことでミステリとして面白い仕上がりになっている。ただ、今回のドラマではCM前、死亡した人物に「DEAD」の表記が付く趣向を採用しているため、この趣向がミステリとして少々アンフェアになっているのは指摘しておかなければならない。

記憶が確かなら、原作は椎名の首吊り発見と加藤の殺害、それから犯人が自殺しようとした時刻に大きな時間の開きがなかったため、椎名が吊るされていた時間はそれほど長時間ではなかったのだが、このドラマでは椎名の首吊りから加藤の殺害まで一晩経過しており、また再度首吊り死体としてぶら下がったのだから、椎名はほぼ丸一日ぶら下がっていたことになる。他の人がいつ何時来るかわからないし、腹が鳴ったら一発でバレてしまうトリックなので、多少の食糧はポケットに忍ばせていただろうが、トイレはどうしていたのだろうか。やはり長時間もつよう紙オムツとか穿いて万全の対策をしていたのかしら。

そして今回改めて見て思ったが、百日紅の間と同じように見せるため椎名はベッドや机といった家具を移動させているが、あれだけの家具を動かしたら振動や音で階下にいる人にバレそうな気が…。そして海老沢の小説のトリックを殺害に利用することで海老沢にだけ自分が殺したことを伝えようとしたらしいが、もし海老沢が回復してそれを知ったらショックでまた自殺するんじゃないかな…?だって自分が考案したトリックで友人含む三人が死んだなんて、そんな重い十字架抱えて生きていかなければならないの普通に辛すぎるでしょうよ。(ネタバレ感想ここまで)

 

連ドラ5・6話:「金田一少年の決死行」

1992年から続いていた原作シリーズ第1期の最終作である「金田一少年の決死行」は、数年後に続編として復活したので厳密には最終作ではないがグランドフィナーレ的な結末を迎えており、事件も高遠との対決色が強い内容となっている。そういうこともあって、「金田一少年の殺人」の時と同様はじめが殺人の容疑者として追われるサスペンスフルな展開と、高遠の手品師らしいイリュージョン性の高いトリックが組み合わさったのが、本作の特徴と言えるだろう。

ドラマ化にあたって、まず原作の舞台を香港から日本の横浜に変更(ホテルの名称はそのまま)。それに伴い一部登場人物の名前が変わっていたり、別のオリジナルキャラが追加されたりと様々な改変がある。そして国が変わったため、ホテルの少年ボーイとして登場した周龍道の設定が日本では通用しなくなり、代わりに職業体験で「子供コンシェルジュとして働く道場龍という少年に変更された。変更したとはいえ随分苦しい設定になったのは否めないが、苦肉の策として考えた結果だと思うので好意的に受け取りたい(そもそも殺人事件が起こっているのに職業体験が中止にならないのがおかしいよね)。

ちなみに、劇中登場した催眠術師の川上剛史さんは実在の催眠術師で、日テレでは「世界の果てまでイッテQ!」で出川哲朗さんをはじめとする芸能人の方々に催眠をかけたことがある方だ。

(ここからネタバレ感想)本作のトリックは鏡という古典的なトリックだが、窓に鏡を設置してリアルタイムで別場所の殺人を合成するという使い方が秀逸だったと思う。刺された胸の場所が左右逆というヒントもあったが、よく見るとはじめを演じた山田さんの腕の太さと実際に剣持を刺した犯人の腕の太さが全然違うので、そこから鏡のトリックに思い至った人もいたのではないだろうか。

また成長の止まった子供という意外な犯人の設定により、犯人の正体がわかってもそれをどう論理的に証明するかが問題となる所を、防空壕になかった靴という形で鮮やかに説明されているのも個人的には評価している。あと改変によって使えなくなった領事館の国旗というヒントをキングドラゴンホテルそのものを伏線として利用したのは脱帽だった。

子供が犯人ということもあり、当然子役となる方の演技が下手だともう話に集中出来ないし、何より壮絶な過去を背負った犯人としての重みもなくなってしまうが、高橋楓翔さんの演技が思いのほかしっかりしていたのと、山田さんのアクションシーンや高遠への怒り・犯人との友情を結ぶ下りなど、両者の熱演もあって見応えのある回になったと思う。

あとこれは蛇足だけど、リアタイ当時テレビで見ており、佐藤二朗さんの声が小さくてぶつぶつ喋ってるから何言ってるか全然聞こえないってツイートしてた記憶がある。それから高遠に関することだが、高遠って前半の事件は凝ったトリックを用意するのに後半になると雑というかトリックらしいトリックを使わないで殺すプランにする傾向があるよね。まぁ最初の「魔術列車」の時からそうだったのだけど。(ネタバレ感想ここまで)

 

連ドラ7話:「雪影村殺人事件」

シリーズ屈指の切ない事件として有名な「雪影村殺人事件」。被害者と加害者がどちらもはじめの友人であり、被害者のちょっとした意地悪が犯人の殺害動機とつながっている点など、未成年者の未熟性や不幸な偶然がより悲劇的な雰囲気を作っている。

原作では4月下旬、アニメでは11月下旬に起こった事件だが、ドラマは夏放送ということもあって、お盆の朝に一時間ほど雪が降るという特殊な気象条件の設定が為されている。夏場に雪が降るなんて富士山とか高所の山岳地帯でないとあり得ない(ましてや舞台は海沿いの村だからね)のだが、砂の雪が降る島もあるのだからそこはね、大目に見ましょう。

ドラマとしては入道雲をバックに佇むはじめの姿など印象的な場面も多く、1話完結とはいえハウダニット・フーダニット・ホワイダニットのバランスが良い一作としておススメ出来る。

(ここからネタバレ感想)雪の上に被害者以外の足跡がない、いわゆる屋外密室がテーマの本作だが、密室トリックではなくあくまでアリバイトリック――雪の積もった時刻に殺害現場にいないと偽の足跡は作れないと思わせる――が目的なのがミステリとしてひねりがあると言えるだろう。また、事件の発端となる春菜の自殺に近親相姦の誤解を絡ませているのが漫画媒体のミステリとしては少々センシティブな感じがする。本家金田一耕助の事件では近親相姦ネタは結構あるが、平成以降の現代を舞台とした少年の方でこういうネタを入れてくるとは、ちょっと意外だった。そもそも昔ならともかく現代で近親相姦自体馴染みがないというか身近ではないため、変にオブラートに包む表現をすると余計読者・視聴者にわかりにくいと思うが、アニメ・ドラマ共に近親相姦というワードを避けての映像化となった。

足跡トリックについてだが、映像を見ると偽の足跡と実際についた足跡とでは、偽の足跡の方が足跡としてクッキリ残り過ぎている。本物の足跡は雪を踏み固めるので雪の上の足跡になるが、このトリックは足跡の部分だけ雪が積もらなくなるトリックなので、当然偽の足跡が強調されてしまう。あくまではじめたちに目撃させるためのもので警察に検証されることも考慮しているから問題はないのかもしれないが、実際にやってみるのと紙の上(理論上)で描いたイメージとでは異なることをこのドラマは示す結果になった。雪質がもうちょっと水っぽかったら偽の足跡と本物の足跡の違いはそれほどなかったかもしれないね。(ネタバレ感想ここまで)

 

連ドラ8・9話:「薔薇十字館殺人事件」

山田版金田一少年の最後を飾るのは、原作が20周年記念の時に発表された「薔薇十字館殺人事件」。高遠の異母きょうだいが登場するシリーズ中ある意味重要な事件とも言える。原作のはじめと高遠は「魔術列車」以来ある時は宿敵として対立しある時は同盟関係を結ぶなど付かず離れずの平行線を続けているが、ドラマのはじめと高遠の関係は実質2,3回程度の付き合いであり、はじめからしたら高遠の依頼に乗る義理も何もあったもんじゃない。が、そこは犠牲者を一人でも救いたいという探偵としての使命感が強かったのだろうか、要請に応じている。

原作との違いは色々あるが、一番の改変は事件関係者で不動高校の教師・白樹紅音がドラマではミス研部長の真壁誠に置き換わっていること。しかも年齢の条件から高遠の異母きょうだい候補の一人として疑いが向く展開もあり、単なる賑やかし・数合わせではなくドラマを盛り上げる重要な役どころとして配置されているのがドラマの見所の一つだ。そしてその改変も無理くりではなく、原作における招待客の条件に一致しているのが何気に凄い。※

 

※他の方の感想記事を見て調べたら(一応ネタバレなので伏せ字)「誠」という品種のバラは存在せずドラマだけの架空の品種(伏せ字ここまで)とのことでした。なーんだ…。

(2022.04.21 追記)

 

(ここからネタバレ感想)事件のトリックはこれまでに同じタイプのものはなかったが、物語のプロットや構成は「悲恋湖伝説」と「魔術列車」のハイブリッドみたいな感じ。「悲恋湖」的な要素は招待客の条件という部分で、ホテル火災に巻き込まれ尚且つ名前に薔薇の銘柄(品種かな?)が含まれている人物を館に集めている。ただ「悲恋湖」と違ってここから更にターゲットを選別するための仕掛けを入れているので、悲恋湖の犯人と比べればまだ良識があると言えるのかもしれない(あの狂気性・暴力性も悲恋湖の魅力ではあるのだけどね?)。

そこに「魔術列車」で見られたイリュージョン性ある犯罪トリックが用いられているのがこの作品の特色なのだが、プロである高遠と違いやはりワン・アイデア型で気付いてしまえばスルスル解けてしまうのが犯人らしいというか何というか。それでも技術的には難易度の高いトリックで、特に円形応接室の密室トリックはカーペットの中心に杭を打ち込まないとキレイにカーペットが回転しないし、しかも死体を通して床に杭を貫通させる必要があるため、なかなか重労働なトリックなのだ。

また本作は王道のクローズドサークルものではあるが、障壁となるのが毒の塗られた薔薇のトゲというのがユニークである一方、クローズドサークルを構成する要素としては弱い部分があるのも確かで、招待客たち全員に火に対するトラウマがあるから燃やす手段がとれなかったとしても、薔薇のツタを取り除く手段は他にいくらでもありそうな気がする。佐木がモップを持って真壁を警護する場面があったが、あのモップでも十分有用だったと思うし。(ネタバレ感想ここまで)

 

さいごに

山田版金田一の個人的評価だが、初代堂本版に劣るものの歴代の中では堂本版に次ぐハマり役だったし、原作のはじめにも見られたスケベ要素や髪形(これはSPドラマ一作目だけだが)など様々な面で出来るだけ原作のはじめと近付けようとする心意気も感じられて、非常に好感の持てる作品作りが為されていたと思う。

そもそも歴代金田一の出来の良し悪しは必ずしも役を演じた方々の良し悪しだけでは決まらないと思っていて、原作エピソード自体の物語・トリックの質も大きく影響しているのではないだろうか。初期の原作エピソードと近年のエピソードとでは、初期の作品群の方がどうしてもミステリ的に良質なものが多いし、初代堂本版の売りでもあった「怪人による殺人場面」も、当然初期の作品に集中していることが多い(近年のエピソードは怪人名だけで犯人自身が怪人に変装してターゲットの前に現れることは少ない)。

怪人による殺人シーンは確かに映像として強烈で見所にはなるが、ミステリ的には少々厄介な問題を抱えている。というのも怪人に変装しての殺害は、裏を返せば遠隔殺人でターゲットを殺す手法がとれないということでもあり、殺害トリックの幅を狭めることになるからだ。また、グロ描写・トラウマ的描写の排除というドラマ制作における倫理上の問題もあるから、そこを考慮に入れて評価しないと不公平ではないかと思うし、初代以外の魅力を見出せなくなってしまう。

「では四代目・山田版の魅力は何だ」という話になってしまうが、個人的にはミステリドラマとしての間口を広くしたと思っていて、OPの暗号やヒントを目立たせる演出などミステリビギナーでも推理しやすい作りになっている点や、バラエティで培った山田さんのコミカルな一面がドラマに反映されており、楽しく見られるミステリドラマになっていたと思う。これはまた次回以降の記事で言及するが、個人的に不快指数が低かったのも評価ポイントの一つで、やはりそこはベースとなるレギュラーメンバーの設定を変にいじらなかったことが良かったと改めて考える次第だ。

 

ということで長くなったが、以上が四代目・山田涼介版金田一少年の感想・評価となる。次回は三代目・亀梨和也版の感想をお送りしたい。