タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

「探偵が早すぎる」シーズン2感想 #10(蛙の親は蛙)

葉子、疑ってすまなかった。

 

(以下、ドラマのネタバレあり)

 

10話感想(真の黒幕は…)

遂に最終回、一華と宗介の婚約が決定し物語はハッピーエンドに向かうかと思われたが、結婚式からしばらく経ったある日の夜、一華の頭上に鉄パイプが落ちてきてあわや衝突という所を橋田が救う。

ということで、真の黒幕の計画も大詰め。披露宴で一華を仕留めるために計画したのは一酸化炭素ガスによる中毒死。勿論、ただ一酸化炭素ガスを流したのでは事故にならないので、コーヒーの原液を抽出する作業で排出される一酸化炭素による中毒死に見せかけるためコーヒー焙煎の職人を雇っている。

この計画はターゲットの一華だけでなく列席者も巻き込んでいるためかなり悪質なのだが、事故死に見せかけるためには身内や第三者を巻き込む方が自然に見えるということはシーズン1のラスボス・朱鳥が既に実行しているため、今回の計画だけが特別異常ではないのだがそれはともかく。

 

任務を終え海外に行っていたと思われていた千曲川が披露宴会場の屋根から登場。宗介を介して事件を未然に防ぎ、真の黒幕を暴き立てる。

いや~、完全に予想から除外していた秋菜未亡人が黒幕とはね。

そうだよ、「加害者が被害者を装う」といえば他ならぬ秋菜未亡人だってその条件に当てはまるのだから、早々に除外したらダメだったのだよ。ミステリ好きながらこれは一本とられたわ。

 

ただちょっと言い訳させてもらうが、秋菜未亡人を黒幕だと思わせないためのミスリード要員(宗介・宗太など)が配置されていたこともあるし、宮崎美子さん自身のパブリックイメージ(あまり悪役を演じていない)とあわせて黒幕候補から除外していたんだよね。何より、秋菜未亡人が黒幕だとしたら、美津山一族はシーズン1の大陀羅一族と同じ構図(一人を除いて皆が金の亡者)になる訳で、まさかシーズン2でもシーズン1と同じ構図の敵を出してくるはずがないと思っていたから、そういう点で裏の裏をかいたミスリードだったなと思った。(メタ的に考えれば予想は簡単だったのかもしれないが)

でもよくよく考えれば、あの美津山四兄妹のクズさから逆算して「蛙の子は蛙」ならぬ「蛙の親は蛙」、つまり秋菜未亡人もクズだと予想することも出来る。

 

シーズン1の朱鳥はまだ健全な悪役(?)だったのに対し、シーズン2の秋菜未亡人は病的な悪役という感じで、実の息子の宗太を殺害してしまってからタガが外れて金の亡者になってしまった印象を与える(インサイダー取引をしていたから元々そういう性格だったのかもしれないが…)

秋菜未亡人の計画では一華の財産を狙うため、一華の母に命を救ってもらったという架空の昔話をでっち上げて一華と接触し、宗介と一華を結婚させた後に彼女を殺害。間接的に一華の財産を掌握しようというものだ。

しかし、ただ二人を結婚させたら四兄妹がハイエナの如く一華の財産を横取りしてくる可能性があるため、彼らを排除するためわざと孫の宗介・葉子と一華に遺産相続の話をもちかけ、自分や孫たちを狙わせた。ここまでが計画の第一段階だろう。

四兄妹を排除後は一華と宗介を結婚させる段階に移るが、ここでスケープゴートとして宗介の幼馴染みである奈々を許嫁として利用しているのが悪辣な所で、彼女の嫉妬深さを煽って暗殺計画に加担させているのもさることながら、(奈々と宗介の相性から見て)二人の結婚が成り立たないことを見越して縁談をまとめて来たのだから、こういう人の心を弄ぶ計画にしている辺り、実にサイコパス的な犯行計画で恐ろしいわ。

でも計画としては確実性に欠ける所があるのも確かで、そもそも一華の母親との話は調べれば一発で嘘とバレてしまうものだし、宗介と一華の結婚にしても当人同士どこまで関係を近付けられるかわからない。暗殺計画を利用して吊り橋効果を狙い二人の距離を縮めさせることは出来てはいるものの、それだって確実に二人を結婚に向かわせることにはならないんだよね。

そういう確実性の問題もあるから余計に黒幕候補から除外してしまった所もあるけど、調べればすぐにバレる嘘を平気でベラベラと話せるって実はサイコパスの性格の特徴の一つでもあるのよね。前に読んだノンフィクション小説で、とあるサイコパスの犯人が「自分はNASAの職員と関係がある」という嘘をついていたし、今回の秋菜未亡人にサイコパス性を感じるのも、こういう実録の事件の犯人とリンクする所があるからだと思っている。

 

計画がバレて自暴自棄に陥った秋菜未亡人は猛毒「リシン」を混ぜたスプリンクラーを発動させるが、これも千曲川によって未然に防がれ、トリック返しの空気砲で成敗される。(何故スプリンクラーのトリックに気付いたのかは分からずじまいだったが)

秋菜未亡人の悪行が明らかとなり、結婚も彼女の計画の内だと知った宗介は、一華のことを本気で好いていたものの、彼女を慮って婚約解消を決意。意外にも物語はビターな結末を迎える。

 

は~…。前回の宗介の変人さが一華と相性が良いことを知ってしまっただけにこの別れ方はちょっと胸に来るものがありましたね。正直美津山四兄妹編の宗介は「よ~わからん奴」程度にしか思ってなかったのだけど、黒幕編からは無愛想ながらも彼女を守ろうとしている姿も見られて、単なるイロモノでないキャラクターとして描かれていることがわかったから、やはり寂しいよ。

何かHULUで配信されている後日談では別れた後も宗介と一華は出会っているみたいなので、またSPドラマとかでも良いから宗介と一華の絡みを見てみたいな。

 

さいごに(ドラマの総評)

シーズン1でもやったが、今シーズンの暗殺トリックを改めてまとめてみよう。

【美津山四兄妹編】

黄燐マッチによる毒殺トリック

自動車ブレーキの油圧回路を停止させるトリック

エタノールと水晶の圧電効果を利用した焼死トリック

テントを利用した「屋根裏の散歩者」風毒殺トリック

硫黄入りバスボムによる毒殺トリック

酸化カドミウム入りフェイスペインティング用塗料による毒殺トリック

コンバラトキシンによる毒殺トリック

オレアンドリン入り抹香による毒殺トリック

棺桶爆殺トリック

 

【黒幕編】

ホスゲン入り消火器による毒殺トリック

地下駐車場を利用した窒息死トリック

自殺偽装トリック

ペットボトル爆弾による射殺トリック

看板落下トリック

火縄銃による射殺トリック

一酸化炭素中毒トリック

リシン入りスプリンクラーによる毒殺トリック

 

tariho10281.hatenablog.com

トリックの数を比較するためにシーズン1最終回の感想記事をはっておくが、サブタイトルに「春のトリック返し祭り」と冠しただけあって、トリックの数はシーズン1を上回っている。とはいえ、シーズン2は井上真偽氏の原作小説から離れた脚本の宇田学氏による完全オリジナルの物語だったため、トリックの量こそ増えたが質は劣ったということは言っておかなければならない。特にシーズン2は全トリック17件のうち毒殺が9件と半数以上を占めているし、千曲川がトリックを見抜く過程もあまり巧くないので、ミステリとしての快感はあまりなく、トリックの雑さにツッコみながら視聴していた。

 

ただ、物語に関しては明らかにシーズン1よりも良くなっており、黒幕編というフーダニット要素を取り入れたことで、後半にかけてダレることなく物語が加速していったのが良かった。シーズン1は原作の展開にオリジナルの物語(ニセ母の登場など)を付け足した分、それがやや冗長に感じてしまう所があったが、今回のシーズン2は暗殺計画と一華の恋愛模様という二つの柱が明確になっていたこともあり、軸がブレずに進んだ感じがした。

一華・千曲川・橋田の三人の関係性も、シーズン1を経て発展した部分と継続した部分を混ぜて描いており、千曲川の実力を理解しつつも性格ゆえに犬猿の仲状態でいがみ合う一華と千曲川の掛け合いもシーズン1より小気味よくなった気がする。あと3話でも言及したように原作にはないこの二人の関係性を活かした回もあって、そういう所も脚本の上手さを感じたと同時に、キャラ設定に愛を以て作られているなと改めて思った次第だ。

 

キャラ設定と言えば、何といっても宗介が後半にかけて一気に魅力的なキャラとして関わってきたのが印象的だったな。これは一華との結婚を解消したという「叶わぬ愛」で締めくくられたから余計に印象に残ったのかもしれないが、ギリギリまで黒幕っぽい動きをしていたことや、感情が表に出ないミステリアスさも相まって、視聴者につかみ所を与えさせないキャラとして描かれており、それが却ってその人が知りたいという関心を集めさせる効果を挙げていたのではないだろうか?また続編で出して欲しいな。

彼を演じたのは萩原利久さんだが、どこかで見た顔だなと思ったら四代目・山田版金田一少年に出ていた方だし、最近だと「准教授・高槻彰良の推察」(シーズン2)にも出演していて結構見かけていた方だと知った。

 

 

以上、「探偵が早すぎる」シーズン2の感想でした。何だかんだ色々とツッコミは入れたけど毎週の放送が楽しみだったし、思いのほか宗介に惹かれてしまったので、また続編やって欲しいですね。