タリホーです。

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「探偵が早すぎる」シーズン2感想 #1(完全オリジナル新作で帰ってきた探偵)

2018年に連ドラシーズン1、2019年にSPドラマが放送された井上真偽原作の「探偵が早すぎる」がまさかの連ドラとして帰ってきた。しかも今回のシーズン2はドラマオリジナル脚本の完全新作であり、主人公・十川一華が美津山財閥の遺産2000億円を相続することで、またしても命を狙われる。

 

ドラマオリジナルの演出や脚本が功を奏してシリーズ化するというのはライアーゲームをはじめとする過去のドラマでもよくあることなので特別おかしいことではないが、今回のシーズン2を見るうえで注目しておきたいポイントや、初回の感想をまず語っていこうと思う。

 

(以下、ドラマのネタバレあり)

 

1話感想(敵陣営にボスがいない?)

シーズン1は5兆円の遺産相続により一華が父親の親族である大陀羅一族から命を狙われるという話だった。今回も前シーズンのプロットは踏襲しているが、一族全体から狙われるのではなく、財閥のトップである秋菜の子供(二郎・純三郎・成美・明日香)たちに狙われるというのが前とは違う部分だ。

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個人的に気になるのは、前シーズンのようなボス的存在が敵陣営(美津山四兄妹)にいないこと。前シーズンでは片平なぎささん演じる朱鳥といった明確なボスがいたのだが、今回の敵陣営は母親から勘当同然の扱いを受けている四兄妹。しかも性格はヒステリックでおよそ知的には見えないから、これだけを見ると原作や前シーズンの大陀羅一族と比べてスケールダウンしている。

流石に最終回までこの四兄妹との戦いを描くだけでは安直過ぎるのであり得ないと思うが、そうなると考えられるのは四兄妹はシーズン2における敵陣営の四天王で、本当の大ボスが裏に潜んでいるのではないかという可能性だ。四兄妹を噛ませ犬として利用し、その裏で自分の計画を徐々に遂行していくという、そんなボスがね。

で、そんなボスが隠れていると仮定したらやはり一番怪しいのは秋菜の孫にあたる宗介・葉子の兄妹。父親の宗太が行方不明という訳あり事情を抱えているから変に勘ぐっている所はあるが、シーズン1でも味方側だと思った人が大陀羅一族に買収されて一華の命を狙った展開があったので、この兄妹も単なる良い人で終わるとは到底思えない。行方不明の宗太が裏で兄妹を操っている可能性もあるが、とりあえず次回以降は宗介・葉子の兄妹の動向に注目していきたい。

 

話は変わって初回で実行された暗殺計画について。

今回は美津山四兄妹の次男坊・二郎が考案した暗殺トリックが2つあり、1つは母親を燐中毒で毒殺するトリック、もう1つは車に仕掛けた装置で宗介もろとも一華を事故死に見せかけ殺害するトリックが実行された。勿論例によって千曲川によってトリック返しを喰らっているが、後者の事故死に偽装するトリックに関しては、車に細工の痕跡が残るという点であまりクレバーなやり方ではない。劇中で詳しく解説されていないが、恐らくブレーキの油圧回路の機能を停止させる装置を仕掛け、車が計画通り事故を起こしたら通報者を装い警察が到着するまでの間に仕掛けた装置を車から取り除く…という段取りだったと思う。

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本来ならば、千曲川がいつどのように二郎の計画を見抜いたのか知りたいし、これが小説ならそこもちゃんと描かないと作品としての価値が損なわれるのだが、初回なのでこれくらいは文句を言うレベルではないだろう。このブレーキの仕掛けは二郎が化学・物理系統に詳しい人物であることを示すためのトリックとして評価しておく。

 

そして最初の燐中毒の毒殺トリックだが、屋外に敷かれた屋敷の配線にスプリンクラーの水をかけて漏電を引き起こし停電させ、秋菜に黄燐マッチを使わせることで燐を含んだ煙を吸って死亡させる…というのが計画の全容だ。

黄燐自体は珍しい物質ではないが、一般的に発売されている赤燐マッチと違い毒性が強く、1922年に国際的に完全に製造が禁止される前は、黄燐による中毒で死亡する幼児や黄燐を含んだ蒸気を吸い続けたことで顎が壊死する人がいたという。今回は1830年代に製造されたスウェーデン産の黄燐マッチに更に黄燐を厚塗りすることでターゲットを確実に殺す手法がとられている。

実際、1830年代にはフランスで黄燐マッチが開発されているから何気にこの辺りの設定は適当に考えたのではなくちゃんと調べていることがわかるし、オリジナル製造の黄燐マッチではなくアンティークものの黄燐マッチを利用している所に芸の細かさを感じる。ちなみに、スウェーデンでは1855年に赤燐を使った「安全マッチ」が発売されているので、もし劇中の黄燐マッチが1850年代製造だったら齟齬をきたしていたのだが、そこもちゃんと調べていたのか、齟齬の無いよう作られている。

 

地味ながらも黄燐マッチ毒殺のトリックは以上で述べたように黄燐マッチのことを調べたうえで書かれた脚本だということがわかったし、しかも燐を用いた毒殺と配線を漏電させ停電を起こすトリックは、かのアガサ・クリスティの小説でも用いられている脚本の宇田学氏がクリスティの作品を読んで今回のトリックを思いついたのかどうかはわからないにせよ、クリスティ好きとしてなかなか良い合わせ技のトリックだったと思う。

 

※具体的には燐を用いた毒殺は『もの言えぬ証人』、配線に水をかけ停電を起こすトリックは『予告殺人』で使われている。もっと言うと、一華が千曲川が仕掛けた紐に引っかかって転ぶ場面があったが、『もの言えぬ証人』で被害者が階段に張られたワイヤーに足が引っかかって転倒する場面を想起させるという点で、実はあの場面もクリスティ作品のことが意識下にあったから生まれた場面なのだろうかと勘ぐってしまう。

 

まだ初回ということもあり小粒なトリックだったが、この度のシーズン2は「春のトリック返し祭り」という副題を冠しているので、次回以降は暗殺トリックの量は当然ながら質の方も前シーズンと比肩するレベルのものを期待したい。コメディパートばかり増強して肝心のトリックを疎かにしているようでは本末転倒だし、原作のタイトル・設定を借りて完全オリジナルの新作を作っているのだから、原作者の井上氏をリスペクトしたドラマ作りが為されることを願う。