タリホーです。

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ゲゲゲの鬼太郎(5期)第12話「霊界からの着信音」視聴

今回は10月21日までの配信。

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以津真天

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以津真天は鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』にその姿が描かれているが、伝承自体は太平記に記された怪鳥の記録を元にしており、怪鳥の名もその鳴き声に漢字をあてたものである。

原作で以津真天は登場せず今期のアニメで初登場。またビジュアルも伝承のような怪鳥ではなく巨大な朱色のヒルに翼がついた見た目で、怪獣と呼ぶのが相応しい。以津真天を題材にした物語は「地獄先生ぬ~べ~」で描かれているが、ぬ~べ~の方は比較的ストレートに「死体を粗末に扱うな」という教訓話となっているのに対し、今回の鬼太郎における以津真天はそもそも妖怪の成り立ちから変えており、現代に即した物語になっているのが評価ポイントとなるだろう。

 

妖怪の再構築と転換する「呪いの言葉」

元の伝承となる『太平記』における以津真天は、疫病の流行で大量の死者が出た時に現れた怪鳥であり、後世の妖怪図鑑ではその鳴き声から「(死体をきちんと供養せず)野ざらしのままいつまで放っておくのか」と恨んで「いつまで」と鳴く怪鳥の妖怪であると解説している。つまり、疫病や飢饉で死んだ人間の霊が妖怪化したものというのが従来の以津真天だったが、5期では(ベースに人間の魂が関わっているものの)無造作に打ち捨てられたゴミたちが妖怪化した、付喪神の一種として描かれている。

 

以津真天を付喪神の一種にしてしまうのは乱暴な改変ではないか?と思う妖怪好きの方もいると思うが、人間が疫病や飢饉によって大量死することがなくなった現代においては、むしろ人間より道具や器物の方が大量に生産されては大量に捨てられ死んでいく状況になっており、器物をベースにした以津真天が現れたという今回のプロットも現代に即した妖怪の再構築として実に高度な改変が為されたと私は思うのだ。

 

人間に捨てられたゴミや器物が復讐するというプロットは原作の「あかなめ」や「化けぞうり」でも見られるので、それだけだと話として単純な構成で、ありきたりな展開となってしまうのだが、本作では人間と器物、両者の執着・未練が描かれているのがこれまたよく出来ているなと思ったポイントで、電話ボックスの未練(道具としての使命)と人間の未練の掛け合わせが本当に巧い。呪いの言葉である「いつまで」が「いつまでもあなたを愛している」というポジティブな祝いの意味に転換されるというのも(物語として)キレイな捻り方だったな~と素直に思う。

 

※:ちなみに、ぬ~べ~の方も人間の大量死ではなくペットとなる動物の大量死という形で以津真天を成立させている。

 

「訪問者」

今回の脚本は長谷川氏によるもの。前半は夜の10時33分に女性から謎の電話がかかってくるというホラーとして描かれているが、特定の時刻に電話がかかってきたり、電話の声が「いつまでも、いつまでも」といったごく短い文言しか話さないというのはホラーではよくある展開。

今回改めて見て思い出したのがフジテレビ系列で放送されている「ほんとにあった怖い話」。ここの所は年に一度の特別編しか放送していないが、2000年代頃は週一の頻度でやっていた人気ホラー番組だったんだよね。そんな番組内で今回の以津真天回と一番プロットが似ていたと思ったのは「訪問者」というエピソード。

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ざっくり内容を説明すると、真夜中留守番をしていた女性が玄関が開く音がしたので玄関に行くと一人の老婆が立っていた。近所の人かと思い声をかけるが、何を問いかけてもその老婆は「タズネテキマシタ」しか言わない。それでこの老婆が普通の人間ではないと女性が怯えて話は終わる。たったこれだけの話なのだが、老婆の正体がわからずただひたすら「タズネテキマシタ」と言う不気味さがあって意外と怖い物語だった記憶がある。

番組ではドラマ本編の後に心霊研究というコーナーがあって、本職の霊能力者の方がドラマで登場した霊の正体やどういう目的で人間に近づいたか等の解説をしてくれる。この解説コーナーが個人的に好きで、今回のエピソードの解説もよく覚えている。確かこの老婆の正体は女性の祖母で、生前は女性の家族と疎遠状態だったため死後女性に会いに来たと解説していたはず。そして人間と違って霊は多弁に語れないため「タズネテキマシタ」という一文に会えた喜びを全て集約していたとのことだ。

 

霊から人間への交信はあくまでも一方通行。それだけに真意が掴めず人間は恐怖することになる。今回の以津真天の物語も真意がわからない一方通行の電話だっただけにそれがホラーとなっていたが、鬼太郎が霊媒として活躍したことで感動の物語となった。

そういう訳で、この12話はホラーとしては定番のプロットでも、鬼太郎作品としては少々特殊な物語だった気がするがどうだろう?原作で今回の話に近いのは「妖花」の回だけど、これはホラー味を抑えてファンタジックにしているから厳密には違うんだけどね。

 

 

さて、次回は大百足が登場。ぬりかべ活躍回として記憶に残っている方も多いのでは?私はちゃーんと覚えているよ。