タリホーです。

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展開が早すぎ! ネメシス1話視聴(ネタバレあり)

ネメシス1 (講談社タイガ)

さーて、今期最も楽しみにしていたドラマ「ネメシス」が始まりましたよ。通常なら日テレの探偵モノにさほど興味はわかないのだけど、今回はミステリ作家6名がトリック監修に関わっており、私が読んだことのある方が名を連ねていたから、これはミステリ好きとして見届ける責務があると思い視聴。

ということで、1話感想です。

 

ネメシス(Nemesis)とは

作品に言及する前に、本作のタイトルに冠されたギリシャ神話の女神・ネメシスとは何者か触れておきたい。

ja.wikipedia.org

一般的に復讐の女神とも呼ばれるネメシスは、ミステリ作品でも散見される象徴であり、有名なところだとアガサ・クリスティミス・マープルがネメシス的存在として事件解明に乗り出している。最近だと昨年NHKで放送された「ハムラアキラ」もネメシス的な物語だったと思う。

復讐の女神とはいえニュアンスとしては義憤に近く、犯人によって非業の死を遂げた被害者の無念を晴らし、法の網をくぐり抜けた犯罪者を暴くというのがミステリ作品におけるネメシス=探偵の役割なのだ。

 

(以下、小説版と合わせてネタバレ解説していくので要注意)

 

1話「天才探偵、現る!」

【探偵事務所ネメシス】。横浜のさびれたビルの2階に居を構えるこの事務所のメンバーは、天才的ヒラメキで事件を解決に導く助手の美神アンナ(広瀬すず、一見デキル男風だが実はかなりのポンコツ探偵=風真尚希(櫻井翔、ネメシスの社長であり探偵歴30年の大ベテラン=栗田一秋(江口洋介の3人だ。(中略)記念すべき依頼者第一号は、美しき医者の上原黄以子(大島優子。(中略)黄以子の依頼は、ざっと以下のようなものーー大富豪にして自分の雇い主”磯子ドンファン”=澁澤火鬼壱(伊武雅刀の、80歳を祝うパーティーが今夜行われる。だがそのパーティーを中止しないと、火鬼壱の命の保証はないという物騒な脅迫状が届いた!ーー聞けば火鬼壱は莫大な資産を、自分の死後6人の恋人達に分けるという遺言書を作っていたそうで……。さすがドンファン

初の依頼を受け、意気揚々と火鬼壱の豪邸に乗り込むネメシス3人。恋人6人が全員美女揃いというモテモテな火鬼壱に、栗田は渋い顔。だがパーティーの翌日、火鬼壱は”密室となった自室”で死体となって発見されてしまう!容疑者は依頼主の黄以子も含めたアリバイの無い7人の美女たち。そして全員に殺害の動機がある…天才助手・アンナとポンコツ探偵・風真は、初捜査にして、この難事件を解決できるのか!?(後略)

(あらすじは公式HPから引用)

1話はネメシス3人のお披露目回ということもあり、探偵のプロフィールや能力を視聴者に説明しなければならない。ただ、天才を描くとなると当然頭脳レベルが凡人では容易に解けないような事件を構築しなければ、アンナの天才性に説得力が生じない訳であって、それだけに1話の事件は複雑かつ視聴者もその気になれば解けるような難易度(100人中100人が解けない難問ではダメ)でなければならない。1話のトリック監修は『屍人荘の殺人』で推理作家デビューを果たした今村昌弘氏が担当しているが、先に小説版を読んでいた私の評価としては絶妙な難易度ではないかと思う。

 

情報過多になりがちな初回だが、そこは脚本の腕の見せ所で、事件自体はミステリとしてかなりオーソドックス。大富豪の屋敷で主人が殺害され、現場は密室な上にダイイングメッセージまである。正にベタにベタを重ねた定番の流れだし、容疑者と被害者の人間関係も複雑でないからすんなり頭に入る。また容疑者の名前も「色」をテーマにしているため混乱せず覚えやすいというのも情報過多なミステリにおけるストレス軽減に貢献しており、これは今村氏の『屍人荘の殺人』から続くアイデアがドラマにも活かされている。

とはいえ、ロジカルなミステリを時間枠拡大なしで1話完結にしたためか、小説版よりもサクサク事件・捜査が進展してしまい、視聴者が考察する余裕もなく物語としての遊びもなかったため、やや味気ない初回となったと思う。少なくとも小説版を未読で視聴した方はついていけたのかと思ったくらいだ。

 

小説版との差異

・20年前の回想シーンの追加

・浮気調査の依頼人がカット

・大阪出身の演歌歌手・森みどり→演歌歌手・森銀子に変更

・地下アイドル・桜田桃→漫画家に変更

・黒壇エイラ→関西出身に変更

・メイドの存在がカットされ、アンナのイタズラに遭う人物が執事の梶に変更

・アンナがイタズラに利用した鹿のはく製→熊のはく製に変更

・(ダイイングメッセージが書かれた場所)絨毯敷きの床→大理石の床に変更

暗号内容が大幅に変更

・謎解き過程が一部変更

 

事件について

※加筆・修正しました。青海の失言について一時ドラマの方が描写として劣っているといった旨の付記をしましたが、勘違いだったため削除しました。

(2021.04.12追記)

 

今回の事件ではまず密室状況の殺害現場と長すぎるダイイングメッセージが目を引くが、これは言ってみれば事件の装飾部分で犯人特定の材料にはならない。

むしろ重要となってくるのは暗号ゲーム(遺言書の隠し場所)の答え不可解な段ボール箱の移動だ。

 

森・黒壇・赤井がダイイングメッセージの偽装、青海が事件現場を施錠したことを明らかにしたうえで、段ボール箱が暗号ゲームの答えに辿り着くのに必要不可欠な道具、つまり隠し場所の時計に手を伸ばすための踏み台代わりに用意されていたことが本作の重要なポイントで、これによって不可解な段ボール箱の移動が踏み台の調達(事件現場入り口前の段ボール箱)と遺言書の発見阻止(クローゼットに隠された段ボール箱※1として説明出来るようになっているのが本作のミステリとして優れた所。

 

※1:ドラマでは隠された段ボール箱の存在がカットされている。

 

これによって犯人の条件は、

段ボール箱1箱では遺言書の隠し場所に手が届かない→火鬼壱より身長が低い人物

②凶器の灰皿が持ち去られていた→常時素手でいる人物(ドラマではカット)

③倉庫から段ボール箱が持ち去られていた→手近に段ボール箱を所持していなかった人物

となり、3つの条件全てに該当する桜田桃が犯人として指摘される。※2

 

※2:小説版では上記で示した犯人の条件①で黄以子は除外されることになったが、ドラマではギリギリまで犯人候補にされたため、代わりに条件③で除外されることとなった。そして村崎は小説版と異なり条件①の段階で犯人候補から除外されている。

 

ただ、桜田は他の容疑者たちと違って現場の偽装もしなければ、特定の容疑者を貶めるような行為もしておらず、容疑者の中で唯一表面上怪しい動きをしなかった人物であり、それが却って視聴者/読者の目に付いたという点からメタ的な推理で「桜田が犯人では?」と思った方がいたのではないだろうか?※3

勿論、今回のトリックを監修した今村氏にしてみれば、犯人の名が当たった所で痛くもかゆくもない訳で、犯人の意外性よりロジック重視の本格推理に舵をとったフェアなミステリドラマとしてよく出来ている。

 

※3:ただし、ドラマでは小説版で黄以子を貶める行為に加担した村崎が桜田同様ほぼ何もしていないため、メタ的推理で犯人を特定するのは小説版よりやや困難な作りになっている。

 

ドラマもほぼ小説版と同じだが、小説版と異なるのは暗号の内容と事件現場。小説版ではより複雑な暗号に仕立て上げられているが、ドラマでは暗号解読の説明に尺を割くと犯人解明のロジック説明の尺が放送時間枠に収まらなくなるため、シンプルな暗号(漢字を別の言葉に置き換える)に変更されている。

また、上記の「小説版との差異」でも指摘した通り、ダイイングメッセージが書かれた場所がドラマでは大理石の床になっているが、これによってダイイングメッセージ偽装の必然性が薄まっているのが個人的に残念ポイントとなった。

 

何故なら、ダイイングメッセージを偽装するよりも拭き取って消してしまう方がはるかに簡単で殺害現場に滞在する時間も短くて済むのに、わざわざ現場に留まって偽装工作をするのは自分の痕跡(毛髪・指紋等)を残しかねないし、他の恋人に見つかるリスクが高まるのだから、本来ダイイングメッセージ偽装は百害あって一利なしなのだ(黒壇に至ってはむしろ逆効果な気が…)。

ただし、小説版ではダイイングメッセージが書かれた場所が絨毯のため、血が絨毯に染み込んでしまい、後に来た森・黒壇はメッセージを拭き取れない=ダイイングメッセージの偽装をせざるを得ない状況になっているのが細かいながらもよく考えられた設定だった。床の素材がメッセージが拭き取れる大理石になってしまったのが個人的にマイナスポイントと言うのはそのためである。

 

さいごに

小説を先行して読んだ身としては、初回の駆け足気味の展開にもったいなさを感じたが、小説との違いを探したりドラマの縦軸(アンナの父の失踪)に遺伝子が関係してそうなことがわかったから、まずまず楽しめたかなと思う。

次回の話も小説版を既に読んでいるが、こちらはロジカルなミステリでない分、ドラマの方がもしかすると面白い出来になっているのではと期待している。