タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

実はスピンオフが一番面白い? ネメシス2話視聴(ネタバレあり)

ネメシス2 (講談社タイガ)

2話の感想だYO!(柄にもないことするの恥ずかしい)

 

(以下、小説版と合わせてネタバレ解説していくので要注意)

 

2話「HIPHOPは涙のあとに」

磯子ドンファン殺人事件”を見事解決し、一躍名をあげた【探偵事務所ネメシス】。天才助手=美神アンナ(広瀬すずポンコツ探偵=風真尚希(櫻井翔、社長の栗田一秋(江口洋介の元には全国から続々と依頼が舞い込み、風真もホクホク顔だ。そんな時、おずおずと事務所のドアを叩いたのは可憐な中学生=神谷節子(田牧そら)児童養護施設「あかぼしの家」で共に育ったたった1人の兄=神谷樹(窪塚愛流が、1週間前から音信不通になってしまい、その行方を探してほしいと言う。早速樹の足取りをたどる3人は、ラッパーを目指していた樹がよく出入りしていたクラブ「P.O.P」へ!そこで出会ったのはフレンドリーで気のいいラッパー達。オーナーの阿久津(渡辺大知)や、スタッフの木嶋(般若)らを前に、なぜかアンナも即興でラップを披露し一同大盛り上がり!?だがそこで彼らから知らされたのは、樹が凶悪な特殊詐欺(いわゆる、振り込め詐欺)集団に関わっていたという衝撃の事実だった!ネメシスは無事、樹を見つけ出すことができるのか?(後略)

(あらすじは公式HPから引用)

前回が大富豪のお屋敷を舞台にした本格ミステリだったのに対し、今回はガラリと趣向を変えて犯罪行為に首を突っ込んだ兄を探す探偵物語となっているのが特徴。また登場人物も児童養護施設出身の兄妹やラッパーと、社会的に決して高いと言えない地位の人々がいることも目に付く。そもそも本作の題材の一つであるHIPHOPも元を辿ればニューヨークのストリートギャングと深く関わる文化(参照元:ザックリTV第47話)みたいなので、今回の物語が社会の底辺層にスポットを当てたものであることは確かだ。

 

公式HPでも記されているように総監督の入江悠氏は出世作SR サイタマノラッパーシリーズを手掛けており、ラッパーネタは氏にとってホームグラウンドと言えよう。また風真を演じる櫻井さんも嵐でラップ担当ということもあって、この2話は身内ネタ的な側面もある。あいにく私はサイタマノラッパーは未見だし、櫻井さんのラップもそこまで詳しく知らない人間なので、本筋となる物語に注目していく。

 

2話の脚本に協力したのは、以前日テレで放送された「今からあなたを脅迫します」の原作者・藤石波矢氏。「今から~」は私の推し・間宮祥太朗さんが出演した後半部分を見たっきりで原作未読のため氏の作品を読むのはこれが初めて。そのため氏の作風を詳しく述べることは出来ないが、前回の今村氏みたいなガチガチのロジックで犯人を暴く本格ミステリを得意とした作家ではなさそうだ。小説版を読んだ感じ登場人物間のコミカルな掛け合いが藤石氏の作風の一つだと思ったが、正直子供っぽい言い合いがダラダラ続いている部分もあって、スベったコントを見せられた感が否めない。個人的にはもうちょっとキレのある会話劇にしてほしかったかな。

 

ただし、これはあくまでも小説版「HIPHOPは涙の後に」に感じた不満。小説版にはスピンオフ(今回の事件の後日談)として「道具屋・星憲章の予定外の一日」が収録されているが、こっちは本筋の物語で感じた会話劇のスベった感はないし、むしろ物語としてはスピンオフの方が圧倒的に面白いのではないかと思っている。

スピンオフに登場する山田という男がボケ、道具屋の星がツッコミという形で役割分担されており、山田のとぼけた雰囲気と星のキレあるツッコミのおかげでコミカルな会話劇として成立している。物語も特殊なハードボイルド小説という感じで、一見すると変人でとっつきにくい星という男の意外な素顔も垣間見えるという点で、星を演じた上田竜也さんのファンでなくとも、是非読んでもらいたい一作だ。

 

小説版との差異

・タイトル「HIPHOPは涙の後に」→「後に」がひらがなに変更

・20年前の回想シーンの追加

・クラブの店名「キャンドル」→「P.O.P」に変更

・星に渡した弁当:崎陽軒シウマイ弁当淡路屋のひっぱりだこ飯に変更

西園寺が殺害された動機が変更(鬼道の正体の口封じ→金の持ち逃げ)

鬼道の正体を推理する状況証拠が一部変更

・樹が詐欺をした動機:妹の大学進学→ファッションデザイナーの夢実現に変更

・風真がラップ上手に変更

 

事件について

※加筆しました。(2021.04.19追記)

 

今回の西園寺殺しについては前回のようなロジックを駆使した消去法推理ではなく、殺害現場の違和感から樹が犯人でないことを推理し、真犯人・鬼道=阿久津を暴くというシンプルな謎解きのため特別ミステリの面で言うべきことはないが、小説版において犯人特定につながった西園寺の発言がダブルミーニングの効果を挙げていた点は見逃せない。

西園寺:『鬼道さんが注文したんすかね?』

木嶋:『……知るかよ!』

西園寺:『キャンドルに運びます?』

木嶋:『は? 何言ってんだおまえ。あっちに運んどけ!』

 ちょっと聞いただけでは日頃自分をこき使う木嶋に対する当てつけ=木嶋が鬼道グループに関わっていることを、何も知らない阿久津たちに対して仄めかそうとした発言にもとれるが、これが鬼道=阿久津であることを西園寺が知っていたことを示す状況証拠となっているのが、ミステリ小説としてよく出来た点だったのではないだろうか。

 

一方、ドラマでは鬼道=阿久津を示す状況証拠※1が序盤のラッパーたちのサイファーで木嶋がうっかり鬼道のことをラップにのせて口走ったという形に変更されている。悪の親玉の前で口走るなんてうっかりが過ぎる気もするが(笑)、ドラマでは更に物的証拠=西園寺から奪った現金500万が決め手となる。小説版では殺害時に履き替えた西園寺の靴※2が決め手の物的証拠だったが、ドラマはあぶない刑事を気取るタカに華をもたせるためか、金庫に向かって発砲(!?)、物的証拠の500万を得るというまさかの強硬突破。現実的に考えなくても無許可の発砲は始末書だけでは済まされない不祥事だが、個人的にはドラマらしい派手さがあって良かった場面だし、小説版でそれをやっちゃうと作品のノリに合わなかったと思う。

 

※1:小説版では更に状況証拠として詐欺組織のトップが末端の樹の家族構成=妹の節子の存在を知っていたことを不自然な点として挙げ、阿久津が犯人だと指摘している。

 

※2:小説版ではGPSが仕掛けられたのは西園寺の靴だけだったが、ドラマでは樹の靴にも仕掛けられている。これによって樹の靴が謎解き部分における西園寺の靴の伏線となっているのが秀逸。と同時に、風真とアンナが同じことを考えてた=コンビとしての親和性が描写されているのもうまい演出ではないだろうか。

fusetter.com

 

さいごに

今回はガチガチの推理じゃなかったということもあって、初回のような駆け足気味の展開になっておらず、ストーリーに遊びもあって大きな不満もなく見られたと思う。何より、小説版での子供じみた言い合いがカットされていたり、文字だけではイメージしにくいカラリパヤットインドのトンボが映像として表現されていたり、小説版にはなかった風真のラップ(カザラップ)が炸裂したりと、ドラマならではの利点が活かされた内容になっていて面白かった。

さて、次回は小説版の1巻に収録された「美女と爆弾と遊園地」になるが、ドラマは小説版とは内容が全然違うらしいので、感想記事を書くのが大変なことになりそう。