タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

雪のペンションは永遠のロマン、「アリバイ崩し承ります」4話(ネタバレあり)

アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)

こう毎回お風呂シーンが続くと誰かしら由美かおるさんを思い出しませんかね?

(何を言っているかわからない方は「水戸黄門」で調べてみてください)

 

(以下、原作・ドラマのネタバレあり)

 

「時計屋探偵と山荘のアリバイ」

今回は原作6話「時計屋探偵と山荘のアリバイ」。原作では刑事の〈僕〉が休暇中に事件に巻き込まれ、容疑者として捕まった少年・原口龍平を助けるべく、帰省早々美谷時計店に駆け込む…という展開になっているが、ドラマではペンション拘留中に察時が時乃に応援を要請し、「出張アリバイ崩し」として時乃が山梨まで駆けつける展開になっている。また、渡海は時乃の〈アッシーくん〉として同行し、親の権威を利用して捜査情報を収集する役割を果たす。

これまでは渡海のボンボン設定が牧村や綿貫のヨイショ的態度につながっていて、彼らの態度にやや辟易とさせられていた所があったが、今回はボンボン設定が有効活用され、ここにきてやっとドラマオリジナルキャラとしての設定が花開いたな、というのが個人的な意見。

 

事件概要についてはほぼ原作通りだが、注目すべきポイントは2つ。

①ペンション裏口から時計台へ続く足跡(サイズ25cmの往路長靴の往復路

②察時が黒岩と時計台を目撃した時刻(午後11時~11時10分

現場の状況から見てサイズ25cmの往路は黒岩のものであり、その足跡の上に長靴の往路があったため、時計台には「黒岩→犯人」の順で来たと考えられ、更に察時の目撃証言から、犯人は11時10分以降に時計台に来て黒岩を殺害したと推察。ペンションのオーナー夫妻と宿泊客4人のうち、唯一11時10分以降のアリバイがなかった原口少年に容疑がかかった…ということである。

今回は前回のように犯人が意図的に原口少年のアリバイを消した訳ではないので、アリバイ探しではなく、彼以外の容疑者に成立したアリバイを崩して犯人が誰か特定するフーダニットものになっているのが特徴。

 

そして、謎解きのポイントは足跡。黒岩は一度立ち止まって時計台に行ったにもかかわらず、黒岩のものと思しきサイズ25cmの往路に立ち止まった形跡がないことから、黒岩の往路は長靴の往路ということになり、長靴の往路はサイズ25cmの往路を踏んでいたことから実際は「犯人→黒岩」の順で時計台に来たと時乃は推理する。

つまり、現場に残った足跡はサイズ25cmの往路(犯人)長靴の往路(黒岩)長靴の復路(犯人)に分けることが出来るのだ。

更に、黒岩が自分の靴ではなく長靴をはいていたこと・周囲を気にしていたことから黒岩が犯人を殺そうとして返り討ちに遭ったという真相が導き出され、靴の入れ替えによって犯人がサイズ25cmの自分の足跡を黒岩の足跡に偽装したというのが、本作の秀逸な点だと言える。

 

実は劇中では言及されなかったが、黒岩の死体が手袋をしていたというのも黒岩が加害者として時計台に訪れたという“消極的”な手がかり(現場や凶器に指紋を残さないようにするため)になっている。いくら外が寒いとはいえ、ペンションと時計台は目と鼻の先。長時間外で話すのならともかく、時計台で話し込むのに手袋を着用して行くというのは不自然。ということで、足跡に着目しなくても手袋の違和感に気づければ、返り討ちの真相を暴くことは可能だったのだ。

 

さて、以上の推理から犯人を示す条件は、

①黒岩と同じ、サイズ25cmの足の人物。

②午後11時~11時10分のアリバイがなかった人物。

ということになり、これによって②の時間中に察時と一緒にいた原口少年はアリバイ成立で無実が証明され、①②の条件に当てはまる野本和彦が犯人だと特定された。

 

あ、蛇足ながら犯人特定の条件①について補足説明をしておく。

もしかすると視聴者の中には「黒岩に呼び出された犯人があえて自分の足のサイズより大きい靴をこっそり盗んではいて行った可能性があるのでは?」と思った方もいたかもしれないが、犯人に実は黒岩を殺す動機があり、その目的で時計台へ赴いたと仮定しても、普通は誰かの靴を盗んではいて行くなんてリスクの高い行為をとらず、長靴をはいて行くだろうし、盗んだ靴の当人に強固なアリバイが成立した場合、その努力は水の泡となる。

そもそも、上記で説明したように、黒岩が返り討ちに遭って死亡したのはあくまで偶然のアクシデント。予知能力者でない限り、自分が殺されると思わないのだから、当然自分の靴で時計台に赴いたことになり、よってサイズ25cmの往路(犯人)は偽装されたものではないと言えるのだ。

 

今回は雪の足跡と時計台が事件の謎解きに関わる要素であると同時に物語に情緒をもたらす題材になっていた。正直地球温暖化暖冬になっている昨今、雪が積もっているロケ地で時計台のセットを建てて原作通り映像化するのは難しいと思っていたから、「時計台は絶対に必要だから建てるだろうけど、どうせ雪の足跡は雨でぬかるんだ地面についた足跡に改変されるだろうな」と予測していた。しかし、その思いに反してキッチリ原作通り雪のペンションを舞台に映像化してくれたことが非常に嬉しかったのだ。

普通の視聴者にとっては別に大したことではないと思うが、ミステリ好きとして「雪が降り積もるペンションで起こる殺人」というのは永遠のロマンなんだよね。分かってくれるかな?

 

「アリバイ崩し」ミステリの紹介(足跡のアリバイと無罪証明)

今回は足跡が謎解きのポイントとなったが、本格ミステリにおいて足跡をテーマにしたアリバイ崩しはあまり見かけない。どちらかと言うと足跡は密室殺人の謎に使われる場合が多く、犯人が足跡を残さず出入りした密室(カーター・ディクスン『白い僧院の殺人』『黒死荘の殺人』)とか、犯人の侵入は認められるが出た形跡の無い密室(横溝正史『本陣殺人事件』)という形で扱われている。

ただ、今回のドラマのような形式のアリバイ崩しが全く無い訳ではない。過去に堂本剛さんによってドラマ化され、水曜日のダウンタウンでトリックが検証された、あの有名ミステリ漫画からこちらをご紹介しよう。

 

金成陽三郎(原作)/さとうふみや(漫画)「金田一少年の殺人」

金田一少年の事件簿」シリーズは「名探偵コナン」と並ぶ謎解き本格ミステリ漫画の代表作だから、今回紹介する「金田一少年の殺人」がどういう事件でどんなトリックが使われているのか知っている人の方が圧倒的に多いと思うが(なんなら現在発売されている「金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿」でネタバレされているし…)、改めて説明しよう。

 

金田一耕助の孫・金田一はじめは、知り合いのフリーライター・いつき陽介の依頼で、人気作家・橘五柳が開催する誕生日パーティーで行われる暗号解読ゲームに参加することになった。そしてパーティーの夜、橘は何者かに殺害され、金田一が殺人容疑で逮捕されてしまう。金田一は容疑を否認するが、犯行現場の離れの書斎に向かう地面に残った足跡は彼のものだけで、他には足跡どころか地面に何の痕跡も見当たらなかった…。

 

金田一が犯人でないことはわかっているので、この事件を「足跡なき密室殺人」に分類することも出来るが、見方を変えれば彼以外の事件関係者全員が「足跡のアリバイ」によって守られていると言えるだろう。そのため、金田一は警察から逃げながら真犯人に迫り、足跡のアリバイを崩すことになる。

メインは足跡のアリバイにあるが、橘が仕掛けた暗号も事件に大きな関わりがあり、それによって連続殺人に発展していくサスペンスな展開も素敵なんだよな。

 

で、肝心の足跡トリックについて。フィジカルなトリックで映像映えすることは間違いないが一点気になることがあって、もし使用人の菊さんが(一応伏せ字)寝室のドアを180°全開にしておかず、90°未満の角度で開いた状態にしていたら本館のドアと別館のドアの橋渡しは成立しない(伏せ字ここまで)ことになり、犯人にとって都合の悪いことになっていたという点。あくまで犯人は(一応伏せ字)菊さんに「寝室の風通しをよくしてくれ」と言っただけなので、ドアを完全に開かなかった可能性も大いにあったし、もしそうなっていたらまた電話をすることになって(伏せ字ここまで)余計な疑惑を生む結果になっていたと思うから、フィジカルな面と合わせてリスクの高いトリックだなと思っている。とはいえ、計画的ではなく咄嗟の機転でこのトリックを用いた犯人の頭の良さは評価すべきだろう。

 

金田一少年のシリーズではこれ以外にも「雪影村殺人事件」で犯人の足跡なき殺人を描いている。ただしこちらはアリバイ崩し要素はなく、不可能犯罪(屋外密室殺人)の色が強い。