タリホーです。

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そこにAI(愛)はあるんか? ネメシス4話視聴(ネタバレあり)

ネメシス3 (講談社タイガ)

信じられるAI(愛)はあるんか~?

 

(以下、小説版と合わせてネタバレ解説していくので要注意)

 

4話「AIという名のもとに」

横浜・八景島シーパラダイスを、連続爆弾魔”ボマー”から救った【探偵事務所ネメシス】。(中略)そして今回の依頼者は、エリート女子高に常駐するスクールカウンセラー雪村陽子(村川絵梨。美術教師の黒田秀臣(水間ロン)が、昼休みに窓から校庭に転落。学校側は自殺で片付けようとするが、雪村は他殺を疑い犯人を突き止めてほしいと自称・名探偵(実際はかなりのポンコツ)の風真尚希(櫻井翔に懇願する。一度は依頼を断るよう風真に指示する社長の栗田一秋(江口洋介だったが、雪村の勤務先が”デカルト女学院”と聞くと、なぜか突然快諾。アンナをインドからの転入生として学院内部に潜入させ、風真は警察のタカ&ユージ(勝地涼中村蒼と共に外側から堂々と捜査を開始する。

JK達にチヤホヤされ分かりやすくテンションが上がる風真だったが、名門であるこの女学院は何より学院の名に傷がつくのを恐れていた。厳格な教頭の南禅寺光江(MEGUMIは、捜査を16時までには必ず終わらせることを要求。生徒や教員達への聞き込み時間が全く足りない中、風真が急遽呼び出したのは、17歳にして世界から注目されるAI開発の天才姫川烝位(奥平大兼)。(中略)あっという間に全員のアリバイと証言の真偽をAIによって割り出すことに成功し、アリバイのない4人を絞り込む。その頃JKとして潜入捜査をするアンナは、クラスメイト達から黒田が「生徒の夏本レナ(河合優実)と交際していたらしい」という情報を仕入れていた。そして事件は思わぬ方向へと転がっていく…(後略)

(あらすじは公式HPから引用)

今回は名門女子高で起こった男性教諭の変死事件。名門女子高で男性教諭が殺害される事件といえば、小説だと京極夏彦『絡新婦の理』、ドラマだと古畑任三郎の「笑わない女」が挙げられるがそれはさておき。

 

本作で特筆すべきはやはりAIによる捜査だ。人工知能をガジェットとして利用したミステリは本作以前にちらほらと出てきているが、小説よりもドラマで利用されている傾向が強く、有名なところだと以前日テレで放送していた「あなたの番です」やテレ朝で有料配信されている警部補 矢部謙三〜人工頭脳VS人工頭毛〜」などが挙げられる。あいにくどちらのドラマも未見のため詳しくは語れないが、評判を聞く限りでは両者ともAIは物語のネタというかガジェット止まりの扱いで、事件捜査におけるAIの長所と短所を描いたのは恐らく本作(小説版)が初ではないだろうか?

 

人間の知能すら凌駕するAIとはいえ、現状抜き出でているのは情報処理のスピードや量、学習能力くらいで、本作のように短時間で情報収集・分析する点は長所といえるものの、問題は情報(=証拠)の扱い。これは多重解決型のミステリでも扱われる問題だが、真相とは別に「偽の解決=誤った真相」が成立するにはいくつかの要素が必要で、以下の3点が多重解決を成立させるのに必要な要素となる。

①証拠事実の取捨選択の誤り

②証拠事実それ自体の誤り

③証拠事実の解釈 (推論) の誤り

(真田啓介「『毒入りチョコレート事件』 論」より)

特に①に関しては今のAIでは克服出来ない問題点であり短所といえるだろう。何故なら、事件に必要と思われる情報を入力するのはあくまで人間の判断に左右されることであり、AIが事件に必要な情報か取捨選択をする以前の問題だからだ。

 

今回脚本協力したのは、デビュー作『眼球堂の殺人』メフィスト賞を受賞した周木律氏。氏の作品は本作と『眼球堂の殺人』と「煙突館の実験的殺人」(『謎の館へようこそ 白』所収)しか読んでいないため詳しい作風は言えないが、物理法則を逆手にとった豪快なトリックが氏の作風ではないだろうか。内容やテイストは森博嗣氏に近いがトリックは新本格の作家たちに近いものがある。

 

小説版との差異

・回想シーン、菅容子についての情報が追加

・タイトル「愛という事件のもとに」→「AIという名のもとに」※1に変更

デカルト女学院:小説版よりお嬢様学園の色が強い

・平天彦:中年の男性教諭から30歳前後の男性教諭に変更

転落現場の状況が一部変更(水没したスマホ・転落場所の変更等)

・夏本レナ:小説版にあったギャルメイク要素がカットされ、絵の才能がある設定が追加

秋沢愛・冬石唯の役割が変更(転落の目撃証言)

・小説版にはいない西野歩美・南今日子が小説版の秋沢愛・冬石唯の役割を果たす

・小説版にはいない生徒(佐藤菜月・中居ふみ)が追加。

姫川・黒田の性格が一部変更

殺害トリックが簡素化

 

※1:ドラマのタイトルは江口洋介さんが1992年に出演したドラマ愛という名のもとにをもじったもの。

 

事件について

本作最大のトリックは転落死の偽装トリックで、被害者が地面に落ちたのではなく地面が被害者に落ちて来た=タイルの山が上から落ちて来たという逆転の発想が秀逸。本来タイルを落としただけでは体の一部分(特に頭)にしか当たらず、転落死を偽装することは到底無理だが、人型に固めたタイルの塊にしたことで表面積が増えて体全体に衝撃が与えられるようになっており、なおかつ人型にしたことで被害者の黒田が屋上から転落したと目撃者に錯覚させる心理トリックにもなっているのがよく出来ている。

 

ただし、これはあくまで「フィクションとしてよく出来た殺害計画」で、実際この計画で殺害するのはかなりリスクが高い。例えば、いくら人型にして表面積を増やしたところで被害者が何かの拍子に上を見上げてよけたり、ちょっとでも立ち位置が変わっただけでもタイルの当たる箇所が変わり転落死を偽装出来なくなる可能性がある※2。更に、落ちたタイルの塊が完全に粉砕されず一部が塊として残るリスクや現場検証でタイルが不自然に固められていることが鑑識によって露見する恐れがあるので、実際問題これで自殺に偽装をするのはかなり厳しいのだ。

 

以上が小説版の偽装トリックだが、ドラマでは更に偽装トリックが簡素化され美術室からブロックを落として転落死に偽装しているが、これは流石に無理のある改変。ただでさえ小説版のトリックでも転落死の偽装にリスクがあるのに対し、ドラマでは頭部にしか衝撃がいかず、詳細な検視をするまでもなく体に転落した際の打撲痕がないので、警察がそれに気づかないはずはないのだ。転落したのは美術室のある4階だからおよそ高さ12メートルの地点、3階から落ちても着地時には時速50キロに達している※3のだから骨が折れていて当然なのにそれすらないのだからね。

 

トリックに関してはこれくらいにして犯人特定に移るが、本作では恋愛交際禁止という学園独自のルールが事件を複雑にしているのが特徴で、それによる偽証や庇い合いが違和感なく成立しているのが巧い点だ。西野・南が雪村を庇い、雪村が平・夏本を庇うという「庇いの多重構造」や用務員の井山の勘違いが真犯人を見えにくくしているが、シンプルに考えて自殺で収束させようとする南禅寺が怪しいというメタ的推理が出来なくもないのは1話の事件と同じに思う。

 

さて、小説版ではAIの事件捜査における長所・短所をテーマにした作品だということは先ほど述べたが、では短所の部分はというとこれまた先述した多重解決を構成する3つの要素が関係してくる。

「①証拠事実の取捨選択の誤り」はAIが取捨選択する以前に入力する側の人間に問題がある以上AIが克服することが出来ないことは述べたが、これは小説版における井山の証言の下りスマホの使い方がわからず重要な証言をAIに送信しなかった)で現れている。残念ながらドラマではその下りはカットされているため、ドラマでこの要素は見られない。

「②証拠事実それ自体の誤り」もこれまた井山の証言から得られる要素であり、鏡で見た時計の時刻を誤認したことをAIに分析する能力がない限り、この点もAIの短所として付きまとうことになる。

「③証拠事実の解釈 (推論) の誤り」にしてもAIの場合証言者が意図的に嘘をついているかどうかはわかっても、証言の矛盾を論理的に解釈するレベルには達していないので、これも短所の一つと言えるだろう。

 

※2:ドラマでは、黒田から盗んで水没させたスマホを現場に置いたことで被害者がよける可能性を潰している。

※3:飛び降り - Wikipedia

 

さいごに

今回は殺害トリックの改悪によって転落死の偽装に無理が生じたのは当然ながら、小説版における「事件捜査におけるAIの長所・短所」といったテーマ性が薄れてしまい、チームネメシスの一人である姫川のキャラ設定もそれに伴い凡庸なツンデレキャラにされてしまったのが個人的に残念ポイントだったと思う。今のところドラマが小説版以上の効果を発揮したのは2話くらいしかないため、この先の事件や縦軸枠のアンナの父失踪事件の期待値にも暗雲立ち込めているところだが、次回の小説版はドラマ放送後に発売されることが決まっているため、次回はドラマのみの感想記事となる。内容的にオカルト要素や一族内の事件と食指が動く内容なのでそれなりに期待しておこうかな。