タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

名探偵ポワロ「プリマス行き急行列車」視聴

名探偵ポワロ 全巻DVD-SET

すみません、20日以上もほったらかしてましたね…。

(いや~、あつ森のハロウィン準備に力をいれてまして…)

 

プリマス行き急行列車」

教会で死んだ男(短編集) (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

原作は『教会で死んだ男』所収の「プリマス行き急行列車」。大富豪のハリデイ氏からの依頼で、ポワロはハリデイ氏の愛娘・フロッシーがプリマス行き急行列車の客車内で殺害された事件の調査に乗り出す。

本作は『青列車の秘密』の原型作品。日本人に馴染みのない地名が出て来るが整理すると以下のようになる。

 

パディントン駅(出発駅)

ブリストル駅(メイドのジェーンが下車)

ウェストン駅(新聞売り子、フロッシーと言葉を交わす)

トーントン駅

エクセター

ニュートンアボット駅(死体発見)

プリマス駅(終点)

 

NHKで放送されたアニメ版では地図があったためこの辺りの経緯がわかりやすかったが、ドラマは口頭での説明のみなので少々わかりにくい。

 

(以下、ドラマと原作のネタバレあり)

 

個人的注目ポイント

・新聞の遅版

原作との改変ポイントして最も注目すべきはウェストン駅で新聞売り子がフロッシーと言葉を交わしている下り。原作ではフロッシーが売り子に半クラウンのチップをやった後、購入した雑誌の話をしたということになっているが、ドラマでは新聞の遅版をしつこく要求したという改変が為されており、これが二人の男の容疑を濃厚にする展開につながっている。

二人の男というのはキャリントン卿とロシュフール伯爵であり、前者は競馬狂いの文無しでフロッシーの金を当てにしていたダメ男、後者はフランス人伯爵だが根っからの山師で、ドラマでも詐欺まがいの方法で株の売買をしていた。

この新聞の遅版に二人のどちらかに関わる何らかの情報が載っていたに違いないと視聴者に思わせて、実際は別の目的があった…というのがドラマ版の趣向だが、目的自体は原作と同じである。

 

・百万長者のかなしみ

原作でアメリカの富豪として描かれたハリデイ氏がオーストラリアからはるばる来た富豪という設定に改変されているのは、本作の事件の悲劇性を強調(心を慰めるため遠い故郷へ帰る富豪の悲哀を演出)する意味合いがあったのではないかと思っている。

よく考えなくてもフロッシーの周りにいたのはろくでもない奴らばかりで、ギャンブルの損失補填のため金をせびりに来る夫や、山師の伯爵、しかも側仕えのメイドも宝石強盗の共犯者だったのだから、ハリデイ氏がうちひしがれるのも無理はない。

またドラマシリーズの初期の作品には珍しく、殺害場面の尺がそこそこ長いのも特徴の一つ。これまで殺害の場面にそこまで尺が割かれなかったが、本作では実行犯のマッケンジー(原作のレッド・ナーキー)がフロッシーの胸を刃物で抉り完全に絶命させようとする描写がしっかり描かれており、それが余計に犯人の残忍性とフロッシーの死の悲劇性を際立たせているように思った。

 

ちなみに、ブリストル駅でジェーンが男性(マッケンジー)に時間が合っているか聞く場面があったが、これはハッキリ言って蛇足というものだろう。

演出としては「赤の他人の二人が実は共犯者でした」という伏線のつもりで入れたのかもしれないが、実行犯のマッケンジーが殺害後も下車駅にずっといた(映像を見る限り17時15分までいたことは確実)というのは人間心理としておかしい。殺害をした以上、出来るだけ事件に関係のある路線から離れたいと思うはずだし、ウェストン駅でフロッシーの振りをしたジェーンがブリストル駅に戻ってくるのを待つ必要はないのだから。

勿論、ジェーンが途中で裏切らないか監視する目的があったのかもしれないが、そうだとしたらもっと信頼出来る相手と共犯関係を結ぶか、そもそもこんな大それた強盗殺人計画なんか立てない方が楽ではないか?と思ってしまうのだ。