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名探偵ポワロ「スズメバチの巣」視聴

名探偵ポワロ 全巻DVD-SET

 

スズメバチの巣」(「スズメ蜂の巣」)

教会で死んだ男 (クリスティー文庫)

原作は『教会で死んだ男』所収の「スズメ蜂の巣」。ポワロが事件を未然に防いだ数少ないケースの一つであり、本作のプロットは古畑任三郎の某作でも目にすることが出来る。

基本的にミステリは事件が起こった後を描くのが定番だが、それは事件が起こらないと探偵が推理するに必要な手がかりが揃わない、というか描くのが著しく困難になるという理由あってのこと。本作にしても事件解決の手がかりはポワロの後出し情報によって読者がようやくわかるものであり、事件前の関係者の人間関係の描かれ方なども簡素なものに留まっている。

つまり、読者も作中の探偵のように文中の手がかりから事件を未然に防ぐことが不可能であり、そのため事件を未然に防いだ探偵の天才性がややご都合主義的に見えてしまうきらいがあるのが本作の難点と言えるのだ。

一方のドラマ版は、原作通りにやると尺が全然足りない(ドラマにおける原作の部分は最後の15分程度)ので、事件前の関係者の人間関係が丁寧に描かれており、事件を防いだポワロの推理もより確かなものになっている。

 

(以下、ドラマと原作のネタバレあり)

 

個人的注目ポイント

ヘイスティングスの写真

ドラマは例によってヘイスティングスが写真に凝り始めたり、ジャップ警部が急病で入院したり、ミス・レモンがフィットネスクラブに通うといった追加要素が見られる。ミス・レモンのフィットネスクラブ通いは少々蛇足な感が否めないが、ヘイスティングスの写真は犯人の動機に関係してくるし、ジャップ警部の入院は劇中度々登場するドクロのステッキを持った怪しげな老人につながるので必要な「遊び」だと思う(ドクロのステッキは流石にやり過ぎだと思うが…ww)。

ヘイスティングスの写真が写したのは犯人の憎悪。原作ではポワロが診療所から出て来た犯人の顔を見ただけ。しかも憎悪の表情をしていたとはいえ、それが何に対する憎悪かを推理するには犯人が抱えていた三角関係について事前に知っていないと無理だが、ドラマでは写真に写った憎悪の表情に加えて、夏祭りの会場でポワロが行った紅茶占いと併せて推理を進めているため、視聴者もその気になれば推理することは可能になっている。

 

・「よりを戻した」ことを示す手がかり

犯行動機となったディーンとラングトンの復縁について、原作では二人がよりを戻しているというポワロの発言しかないが、ドラマでは二人がよりを戻したと窺える描写がいくつかある。それは劇中でポワロ自身が言及しているが、ディーンが口を付けたカップ別の色の口紅が付着していたことや、関係を解消しているはずのラングトンのアトリエに最近デザインされた衣装を着たディーンの写真が飾ってある、といったことが手がかりとなった。

極めつけはディーンの偽装事故。ラングトンの元に立ち寄っても不自然にならないようわざと事故を起こす。しかも夫が整備した車を壊してやったことなのだから、これはグレーなんてものではなく完全にクロな関係だ。これじゃあ犯人が憎むのも無理はないかな。

 

スズメバチを生かす

ハリスンとポワロの対峙シーンはやはり何度見ても名場面だ。話の流れはほぼ原作と同じだが、天水桶にぶちまけられたガソリンという新たに設定された手がかりによって、ラングトンが青酸カリを購入するよう誘導していた辺りがよく出来ている。原作では特にそういった工夫が見られなかったため、イマイチ物語に深みみたいなものがないのだが、ドラマでは前述した諸々の伏線や最後のスズメバチを生かすオチが良い余韻となっている(原作ではポワロが普通にスズメバチを殺している)。

 

蛇足になるが、ポワロが青酸カリとすり替えた洗濯ソーダ炭酸ナトリウムのこと。ラーメンを作る時に使用するかん水にも含まれている物質なので、多少口にしたくらいでは死ぬことはない(それでも一定量を超えると毒になるらしい)。