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名探偵ポワロ「西洋の星の盗難事件」視聴

名探偵ポワロ 全巻DVD-SET

サボっていた分の記事です。もうこれを含めると4本分溜まっているがなかなか捗らないんだよね。

 

「西洋の星の盗難事件」(「〈西洋の星〉盗難事件」)

ポアロ登場 (クリスティー文庫)

原作は『ポアロ登場』所収の「〈西洋の星〉盗難事件」。映画スターのメアリ・マーヴェルの依頼は所有している〈西洋の星〉というダイヤにまつわる脅迫について。かつて中国人から購入した〈西洋の星〉はさる寺院の神像の眼に嵌め込まれていた二つのダイヤのうちの一つらしく、それを取り戻そうとする輩の仕業らしい。かくしてポワロはダイヤの盗難を防ぐべく、もう一つのダイヤ〈東洋の星〉を所有するヤードリー卿の屋敷へ赴く…という話。

 

ドラマシリーズで盗難ものはこれで4作目となるが、原作の方はシャーロック・ホームズシリーズを意識したと思しきポワロとヘイスティングスの掛け合いが印象的で、題材となるダイヤ〈西洋の星〉のロマンチックな逸話も『四つの署名』の影響が大きいのではないかと思っている。

短編は長編には少ないポワロとヘイスティングスの掛け合い成分が多く含まれているが、本作はヘイスティングスのディスられ具合が尋常ではなく、『アガサ・クリスティー完全攻略』の霜月蒼はポワロのディスりを某アニメの猫型ロボットさながらだと評している。

 

(以下、ドラマと原作のネタバレあり)

 

個人的注目ポイント

 ・バン・ブラク

ドラマの展開はほぼ原作通りだが、唯一原作に登場しないオリジナルキャラクターが、宝石コレクターのバン・ブラクス氏である。これによって原作では描かれない事件の決着(イミテーションを利用し宝石が流れるのを防ぐ)を演出することが出来た。下手なドラマは劇中でブラクス氏をお縄にするのだろうが、いけしゃあしゃあとした態度で警察の手をかいくぐるブラクス氏の存在感はなかなかのものであり、このキャラ設定にしたのは良かったと思っている。

 

・ポワロなりの処置

ロルフとヤードリー夫人による狂言盗難というのが本作の真相。ヤードリー夫人は宝石が戻った上にロルフとの関係が解消されてめでたしめでたし。ではマーヴェル夫人はどうか?

本来所有していたと思ったものは夫が強請り取ったものであり、結果的に宝石を失い夫の真実の姿を知ることになった、(ある意味)一番の被害者と言えよう。マーヴェルだけ損をしているのではないかというヘイスティングスの意見に対し、原作でポワロは「彼女にとっては最高の宣伝(映画の)になったじゃないか」と言っている。一方ドラマのポワロはマーヴェルに「悪いニュースがあります」と前置きをして夫ロルフの悪行(不貞・強請・狂言盗難)を教える。彼女にとっては辛いことかもしれないが、悪人の夫と関係を続けるべきではないというポワロの意思が感じ取れる。

原作の方はやや突き放したような考えのため、ポワロの印象が悪く見えてしまうが、ドラマのポワロは女性心理を弁えた人として丁寧な描き方が為されているのが好印象に映る。

 

・ヤードリー夫人

ドラマでは言及されていないが、ヤードリー夫人は別の事件で登場したある女性と繋がりがあり、その人物の紹介によってポワロの事務所を訪れている。その人物はこの次の回として放送された「スタイルズ荘の怪事件」で、事件の容疑者の一人として登場する。

 

シーズン2、個人的ベスト8

シーズン2は「エンドハウスの怪事件」から「西洋の星の盗難事件」まで。「エンドハウスの怪事件」は長編作のため別格扱いとして、それ以外の8作品で順位をつけると以下のようになった。

 

1位:ダベンハイム失そう事件

2位:安いマンションの事件

3位:西洋の星の盗難事件

4位:二重の罪

5位:ベールをかけた女

6位:消えた廃坑

7位:誘拐された総理大臣

8位:コーンワルの毒殺事件

 

1位と2位はダントツでおススメ出来るが3位以下はちょっと微妙なものが多い。これは原作自体よく出来た作品ではないため致し方ない所はあるが、「誘拐された総理大臣」は肝心の総理大臣の存在感が皆無に等しかったのとアイルランド問題というとっつきにくいネタを改変材料にしたため原作よりも劣った感じがした(「誘拐された総理大臣」はNHKのアニメ版の方がおススメ)。

盗難ものの「西洋の星の盗難事件」と「二重の罪」はどちらを上にするか迷ったが、神秘的装飾とポワロの描き方という点で「西洋の星の盗難事件」を上とした。

「ベールをかけた女」と「消えた廃坑」もまた、ミステリとしてはイマイチな作品ゆえ(演出や話の展開を重視して)順位に迷ったが、話の展開として面白みがあると思った「ベールをかけた女」を上にした。

 

こうやって改めて見ると、シーズン2は殺人(がメインの)事件少なめだったが(微妙な作品が多いと感じたのも案外そのためだったり)、次のシーズン3からはまた殺人事件の割合がちょっと高まっていく。