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名探偵ポワロ「狩人荘の怪事件」視聴

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あけましておめでとうございます、新年一発目の感想記事です。

 

正月三が日は仕事でゆっくり出来ず、8日からの三連休で録画しておいた映画天河伝説殺人事件ボーン・コレクターを視聴し、ようやく正月休みらしい休日を過ごせた。どっちも映画としては良作だけど内容にはツッコミ所が多く手放しで評価出来ない所があったので、(凄く良かったらブログに布教がてら)感想を書こうと思ってたけどやめとくね。

(感想はざっくりとTwitterの方でツイートしてます)

 

「狩人荘の怪事件」

ポアロ登場 (クリスティー文庫)

シーズン3の最後を飾る今回のエピソードは原作『ポアロ登場』所収の「狩人荘の怪事件」。インフルエンザでダウン中のポワロの元にロジャー・ヘイバリングと名乗る男性が事件捜査の依頼をしに訪れるのが原作の始まりだが、ドラマのポワロはヘイスティングスと共にハリントン・ペイスが主催する狩猟に参加(ただしポワロは同行しただけ)した際に長時間外にいたことが原因で風邪をひきダウンしたという展開になっている。

原作の事件関係者は被害者のペイス氏と依頼人のロジャー、妻のヘイバリング夫人、そして事件後行方不明となった臨時雇いの家政婦のミドルトン夫人の計4名しかいない。流石にそれだとドラマとして面白くない(=犯人が限定されてしまう)ため、ドラマではオリジナルの登場人物としてロジャーの従弟で小学校教諭のアーチー・ヘイバリングと、ペイスの異母弟で猟場管理人のジャック・スタッダードが追加され、それぞれがペイス氏殺害の動機ある人物として設定されている。その改変の影響で、原作では「厳しいけど良い人」程度の性格描写だったペイス氏がかなり悪どい方法で財を成した人物として描かれているのも注目すべきポイントだろう。

 

(以下、ドラマと原作のネタバレあり)

 

個人的注目ポイント

・シューティング

原作では「ロンドンでのにぎやかな生活」に飽きたペイス氏がヘイバリング夫妻と共に狩人荘へ行くという話になっているため、当然ながらドラマであった狩猟のシーンはない。この狩猟(シューティング)については久我真樹『「名探偵ポワロ」完全ガイド』で詳しい解説が載っているのでここで改めて書くことはないが、シューティングは英国紳士のスポーツであり、地主がゲームキーパー(猟場管理人)を雇って獲物となるキジやライチョウを育成・維持させていたという。本作ではジャックがそのゲームキーパーであり、地主のペイス氏の異母弟であるにもかかわらず使用人同然の扱いを受けていたため、ペイス氏殺害の動機を持つ容疑者の一人であった。

また、アーチーが誤ってペイス氏を撃ってしまう場面は、アーチーがわざとペイス氏を狙ったとも思えるし、ペイス氏に酷い扱いを受けていたジャックがあえてアーチーに注意せず事故を誘発させたとも読み取れるので、サスペンスとして申し分ない導入になっていたと思う。

 

・ミドルトン夫人の失言

殺人事件の後に行方をくらましたミドルトン夫人は、本物のミドルトン夫人の登場によって狩人荘にいた眼鏡の女が偽物のミドルトン夫人であることが判明するが、この下りはドラマオリジナルの展開。ドラマ初回の「コックを捜せ」のプロットを彷彿とさせる所があるので恐らくそこから一部借用してきたと思われるが、本物のミドルトン夫人が登場する前に狩人荘にいたミドルトン夫人が偽物だと看破することは可能なのだ。というのも、地元の警察官が狩人荘に駆け付けた際にミドルトン夫人(偽)は

「(前略)ペイスさんにお会いしたいと言うので銃器室へ通しました。いつもそうしてますので

と警官に証言している。

この証言は警官とジャックしか聞いておらず彼らはその矛盾に気付かなかったが、もしポワロが聞いていたら臨時雇いの家政婦にもかかわらず来客をいつものように銃器室へ通したという矛盾に気付き、彼女が嘘をついていることをすぐ見破ったはずだ。

 

・神(GOD)の裁きが…

本作もこれまでの短編作品と同様の一人二役トリック――ヘイバリング夫人がミドルトン夫人になりすまして夫と自身のアリバイ工作をしていた――が最後に明かされる。

原作ではヘイバリング夫人が元女優という情報がヒントとして提示されているものの、これと言った証拠もなく夫妻は逮捕を免れるのだが、ヘイバリング夫妻が乗っていた飛行機が墜落し二人は死亡。法の裁きは免れたものの神の手による裁きを受けるというオチで物語は締めくくられる。

ただ流石にそれではミステリドラマとして体裁が悪いし、原作におけるアリバイ工作にも問題点(銃の線条痕)があるため、ドラマはジャックの飼い犬に事件解決の役割を担わせている。要は猟犬として偽のミドルトン夫人が狩人荘に残した服の臭いからヘイバリング夫人の一人二役トリックを見破ったという訳だが、これに関しては原作以上に効果的な決め手になっていたと思うし、盗まれた自転車が地面に埋められていたという不可解な謎が最後に明かされていたのも良かった。

 

それにしても、原作は神(GOD)の裁きだったのにドラマは犬(DOG)の裁きというのは何ともシャレが効いているではないか。ミステリマニアならここでG・K・チェスタトンのブラウン神父シリーズのあの名作、「犬のお告げ」の冒頭の一文を思い出さずにはいられないだろう。

「さよう、わたしは犬が好きだ。ドッグをさかさにつづってゴッドとしたんではまずいがね」ブラウン神父はこんなことを言っていた。

(中村保男・訳)

 

シーズン3、個人的ベスト10

シーズン3は「あなたの庭はどんな庭?」から「狩人荘の怪事件」までの10作品。シーズン2の時にやったように、今回も私なりの評価でランキングしたよ。

 

1位:あなたの庭はどんな庭?

2位:スズメバチの巣

3位:盗まれたロイヤル・ルビー

4位:二重の手がかり

5位:狩人荘の怪事件

6位:スペイン櫃の秘密

7位:100万ドル債券盗難事件

8位:戦勝舞踏会事件

9位:プリマス行き急行列車

10位:マースドン荘の惨劇

 

シーズン2と比べると殺人絡みのエピソードが多めで原作の人気エピソードである「スズメバチの巣」や「盗まれたロイヤル・ルビー」などが映像化されたこともあり、シーズン3は結構満足度の高いラインナップだったと思う。

50ページにも満たない短編もあるため大幅に改変されたエピソードもあったが、空の種袋というドラマオリジナルの謎を追加し、銀のベルを取り入れよりマザーグースらしい事件に仕立てた「あなたの庭はどんな庭?」をベストにした。

事件関係者が被害者と加害者しかいない原作の「狩人荘の怪事件」やミステリとしてイマイチだった「100万ドル債券盗難事件」も改変自体は非常に優れていたが、元の原作の事件内容が地味で面白みに欠けるため、どうあがいてもベスト3には届かなかった。

スズメバチの巣」は古畑任三郎のあのエピソードの元になった作品だし、ディーンとラングトンの復縁についてもちゃんと伏線を張っていたから、これは2位にしても文句はないだろう。「盗まれたロイヤル・ルビー」は大した改変はないが単純に原作そのものがクリスマス行事を取り入れたミステリとして面白かったので、これを3位にしたのは原作の力による所が大きい。

7位までは改変に特に問題はなかったかなと思うが8位以下は改変に難アリな印象があって特に「マースドン荘の惨劇」は原作のサイコスリラー的な真相が好きだっただけにあの凡庸なホラーテイストにしたのはちょっと私には納得がいかなかったので最下位にした。

 

次のシーズン4では長編3作が映像化されるが、前にも当ブログで述べたように長編は余裕のある時に感想をアップすることにして、まずは短編を優先させていきたい。ということで、次はシーズン5の「エジプト墳墓のなぞ」から感想記事を随時アップしていきたい。