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富豪刑事 Balance:UNLIMITED check-11「輝くものすべて金にあらず」視聴

最終回、一言でいうと「胸熱!!」だったと思うが詳細は後ほど。

 

check-11「輝くものすべて金にあらず」

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最終回のサブタイトルは英語のことわざ「All that glitters is not gold」を訳したもの。外面に気を取られて内面を見誤ることを戒めたことわざだが、神戸小百合殺害に始まる一連の事件を語る上で重要な格言と言えよう。

 

前回貨物船から逃亡した茂丸はかつての神戸家別邸だった第三研究所へ落ち延びる。大助と加藤も後を追うがそこで明らかとなったのはまさかの黒幕だった。

 

(以下、真相に関するネタバレあり)

 

神戸家、真の黒幕(ブラックボックス

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てっきり最終回は茂丸の動機語りに終始するかな~と思っていたが、茂丸は服部が変装したもので、真の黒幕は喜久子だったというまさかのどんでん返し。茂丸本人は小百合の事件直後に後追い自殺をしたが一命はとりとめ、心神喪失状態でどこかに収容されてた模様。ヒュスクとか科学技術とは無縁なフリして実はどっぷり漬かっていたのが喜久子だったという訳だ(どっちかと言うと実行役の服部の方が使い方は心得ていたかもしれないが)。

 

小百合の殺害動機についてはアドリウムの公表を阻止、使用に関する権利を独占するためという、まぁ凡庸と言えば凡庸な動機。喜久子本人は、アドリウムは軍事目的で利用されれば原爆に相当する兵器となり得ることを危惧し、新物質の存在を公表しようとした小百合を抹殺したと述べている。

喜久子の具体的な年齢が不明なので、彼女が第二次世界大戦時に戦争の悲惨さを身をもって知っていたのかどうかはわからないが、いくら戦争の悲劇を阻止するという大義名分があるにせよ、彼女の考えに基づく一連の事件の裏には彼女の自己批判の至らなさと傲慢さが内在している。

 

視聴者なら既にご存じの通り、アドリウムは5話で大統領暗殺のテロ目的に使用されている。このテロ事件に喜久子の意思がどこまで介入していたかは不明だが、軍事目的でないにせよ、死人が出ているのだから、死体の数が違うだけでやっていることは戦争犯罪人と五十歩百歩なのだ。にもかかわらず、社会はこの物質を悪に利用し自分はそれを善の目的で上手く管理していけると考えているのだから、正に傲慢と言うしかない。

また「外には厳しく内には甘い」というのが一連の事件から見えて来る喜久子の特徴で、外から嫁入りしてきた小百合や外部の人間である警察関係者(仲本・武井・斉木部長など)は容赦なく抹殺しているのに対し、親戚の鈴江や大助は負傷させる程度に止めている。これはアドリウム管理の継承者を残すため抹殺する訳にはいかなかったためでもあるが、身内ファーストの思想が介入している時点で正義や善悪を決める人間として既に「失格」。にもかかわらずそれをやったことでアンバランスが生じ、自分で批判することもなければ周りにそれを止めるような人もいなかったのが神戸家の悲劇に繋がったのだ。

 

意思の介入しない選択

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さて、黒幕が明らかとなった所で大助と鈴江はアドリウム公表の選択に迫られるが、当然ながら自分の一存だけで決められるような代物ではない。公表して兵器に利用され、大勢の死者を出してしまえば、結果的に喜久子以上の戦争犯罪人になり兼ねない。そんなジレンマを打破してくれたのが、他ならぬ加藤だったという点が本作のバディものとしての巧さだ。

加藤のトラウマを克服させたのは大助による「ヒーロー認定」のおかげだというのは前回の記事で述べたが、今回はその加藤が大助の後押しをすることになっている。ただ、前回の大助の後押しと異なるのは、加藤の後押しには彼の意思が働いていない偶然の後押しというのが重要な部分で、誰の意思も介入していない形でアドリウムが公表されたことに大きな意味がある。大助にしろ加藤にしろ、自分の意思で公表を選択した場合その選択には重すぎる責任が加わり、物語の収束として大きなしこりを残してしまうことになるからだ。

そもそも、自分の意思で選択するという行為自体独善的なものをはらんでおり、結果的にその選択が誤ったものだとしても、人はそれを認めたがらない。自己を正当化するための歪な論理を組み上げ、他者に落ち度があったと批判をして自己防衛に走る。それでは喜久子の二の舞というものだ。

独善的な正義を振りかざした喜久子を黒幕として配置した以上、それに対立するヒーローを描くとなると下手に自分の意思を介入させるのは物語として悪手になる危険性があったのだが、その選択を外部の人間である加藤が、しかも偶然という形で世間に公表したのだから、言い換えれば「神の選択」みたいなもの。だからこそ、大助はその結果を笑い飛ばして加藤に感謝することが出来たのだ。

ヒーローものによくあるジレンマを偶然の神に委ねて「正義」が陥る独善性を回避した。これがアニメ富豪刑事におけるヒーローとしての「回答」であり、見事な舵取りと言えるだろう。

 

富豪刑事、その後

EDを挟んだ後に描かれたのは事件収束後の大助と加藤、そして現対本部メンバーのこと。事件解決には現対本部メンバーの貢献があったことは疑いもない事実で、大助もそれに対する感謝の意を込めてか、現対本部メンバーにヒュスクをプレゼント。各々が趣味や実益にヒュスクを利用する描写があった。

(個人的にヒュスクのプレゼントは、アドリウムの独占という神戸家の過ちを踏まえて、新技術は独占せず公表すべきという考えもあるのではないかと思う。ただ、悪用される恐れもあるガジェットなので、世間ではなく信用のおける現対本部メンバー限定のプレゼントになったのだろう)

 

そして大助と加藤はアメリカのブロンクス区で行われていたアドリウムの闇取引を阻止していた。

サラッと描かれていたが、大助はロンドンの自宅からニューヨークのブロンクス区まで駆け付けたっぽい。ニューヨークとイギリスの距離はざっと5,580km、それを18分で駆け付けたということは、分速にして310km、時速だと18,600km(!?)になる。現在世界最速の無人航空機・HTV-2が確か時速21,245kmだが、それでもまだ開発中の段階だというのに有人飛行で車一台搭載出来てしかも時速1万超えってどんな技術を駆使したのだ!? というか、乗っていて耳が(気圧やら何やらで)エライことになりそうな気が。

 

それはともかく、この場面は言うまでもなくアドリウム公表で生じた後始末みたいなもの。当初から懸念されていた通り、不当な目的で使う輩たちは一種のガン細胞と同じ。それが生まれるのは自然の理で、それ自体を完全に潰すことは出来ない。生じたらその都度潰していくしかないのだ。これは加藤にとっての使命であり、大助にとってはいわゆるノブレス・オブリージュ(貴族の義務)」と言えるだろう。時速1万超えの乗り物があるのも案外この務めを果たすために作られたものかもしれない。

 

大助も加藤も現対本部メンバーも、表面上こそ大きな変化はないように見えて、実は1話と比べると互いの関係性などに成長が見られることを感じさせる、良い後日談となっていた。

 

あ、後日談といえば彼(↓)の存在が描かれていたのが結構胸熱だったな。

なぜ犯罪のライブ配信は止められなかったのか? 『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』第3話ガジェット解説

tariho10281.hatenablog.com

3話で妹の手術費用を捻出すべく新幹線立て籠もり事件を引き起こした青年が、この最終回で神戸財閥傘下の人間として登場。闇取引の阻止に一役買ってちゃんと恩返しを果たしている。

チョイ役とはいえ過去に出たゲストが主人公たちの助けをする展開ってやっぱ素敵だと思うし、5話で財閥傘下の人間のテロによってエライ目に遭った大助のことを思うと、対立した人物が逆に傘下に入って手助けしてくれている点に、「神戸大助流ノブレス・オブリージュ」の正当性が示されている感じがする。

 

総評

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この度のアニメ版富豪刑事は「有り余る財力を用いて事件を解決する」という点だけが原作準拠であとはアニメオリジナルの物語。主人公の大助も葉巻を吸って高いスーツを着ているというビジュアル以外、性格は原作のそれと全然異なり表面はぶっきらぼうで何を考えているかわからない面構えの人間として描かれている。

 

全11話の構成は、4話までは1話完結の短編で、残り7話分を神戸小百合殺害事件を発端としたアドリウム事件とでも呼ぶべき1本の長編という構成になっている。1~3話までは金の使用方法とその豪快さがある意味原作らしいと思わないでもなかったが、4話になると原作でも描かれなかった金なし状態の大助が描かれ、5話になると大助の全能性を崩すかのような事件が勃発し、物語はシリアス路線へと移っていく。

原作未読の方には関係ないことだが、原作で金が人に及ぼす影響や悲喜劇を描いていた分、アニメ版はシリアス路線に移って以降、バカバカしいまでの金の使い方もまともというか、あまり笑えない路線に使われてしまったため、正直な所「期待していたのとちょっと違うような…」という感覚が拭えなかったのは確か。

 

ただ、それがダメという訳ではない。原作でほぼ丸投げ状態だった「大助が富豪なのに刑事である理由」をオリジナルの事件を生み出すことで動機付けを成立させ、アイデアだけが先行したようなキャラではなく血の通った中身のある人物として描き切ったのは素晴らしいと思う。加藤とのバディも(ベタな面はあれども)決して陳腐でなく、互いが互いを補完し、自身で克服できない部分をパートナーが解消してくれるという「Balance」の良さを感じる二人だった。出来ることなら最終回の状態の関係で、1~3話のようなバカバカしいまでに豪快な解決をもっと見てみたいものである(つまり続編希望)。

 

主人公以外では原作にも登場した鈴江や、原作の喜久右衛門に相当する喜久子の設定が改変されていたのも見逃せない。鈴江は4話で見せた大助への過保護な対応の意味が掴めなかったが、7話以降から大助の両親代わりとして奉仕していたと推測出来たし、事件収束後バカンスに出かけたという何気ない情報も、神戸家の闇が暴かれ大助の保護者としての役割を果たす必要がなくなったことを示唆していると考えられるのだ。

喜久子は喜久右衛門とは性別も性格も真逆。贖罪のため莫大な財産の使用を大助に委ねる「過去の悪人」ではなく「現在進行形の悪人」として描かれ、ラスボスとして大助に立ちはだかった。それにしても、3話の時点で旧弊的な大奥様だと思っていたが、まさか黒幕とはね(せいぜい『八つ墓村』の小竹・小梅みたいなポジションだと思っていた)。

 

脚本とシリーズ構成は「啄木鳥探偵處」と同じ岸本卓氏だが、同じバディものでもここまで雲泥の差(勿論、富豪刑事が雲)が生じるとは思わなかった。別に脚本家の頭一つで物語が紡がれる訳ではないし、この度のアニメ化では専門的なガジェットを取り入れたり、OP・EDに著名なアーティストを起用したりとメディアミックスの面でも力の入れ方が違っていたから当然と言われれば当然なのだが、ミステリ好きの私としては「啄木鳥」の方ももうちょっと何とかならんかったのか…と愚痴りたくなってしまう。

 

物語はこれで一旦幕を閉じるが、DVDにはスピンオフとしてボイスドラマが収録されているようだし、更には近々舞台版もやるみたいで、まだ物語は完全に終わってない様子。出来れば追っかけてまた感想をつづるべきなのだろうが、生憎私の資産は「Balance:LIMITED」なのでちょっと無理かもね。