【4話あらすじ】
— 【公式】富豪刑事 Balance:UNLIMITED (@fugoukeiji_bul) 2020年8月5日
非番の日、訳あって屋敷を飛び出してしまった大助。そこに加藤からの呼び出しが入る。
迷子の犬を探している小学生に泣きつかれ、手助けが欲しいというのだ。
ところが、大助は屋敷に財布もガジェットも忘れてきた事に気がつく。(続)
→https://t.co/lowCrCwplV#富豪刑事BUL pic.twitter.com/b7trbYIudl
もうこのあらすじだけで既に面白いのだが。
check-4「空っぽのポケットほど、人生を冒険的にするものはない」
今回のサブタイトルはフランスの詩人であり『レ・ミゼラブル(ああ無情)』の作者・ヴィクトル・ユーゴーの名言「Nothing makes a man so adventurous as an empty pocket」を訳したもの。金に関するユーゴーの名言は他にも「As the purse is emptied, the heart is filled(財布が軽くなるほど、心が満たされる)」がある。
これまでアニメ富豪刑事は爆弾騒ぎに暴力団摘発、立て籠もり事件と世間を騒がせる事件ばかりを扱ってきたが、ここに来て趣を異にした回が盛り込まれた。起こる事件と言っても迷い犬探しくらい、大助の武器となる金もAI執事も手元にないため今回は実質日常回。とはいえこれは加藤にとっての日常であって、大助にとっては非日常の世界。言い換えれば大助のささやかな冒険回でもあるのだ。
発端となった大助の家出の原因は本人の口から明言されていないので何とも言えないが、祖母(納豆を出した)と鈴江(靴を替えた)の双方に原因があったと見るべきだろう。市街の電光看板やレジ画面をジャックしてまで謝罪・帰宅を願う鈴江のウザさも多少は加味されている気がする。
(っていうか、大助身長アップシューズ履いてたんか…ww)
あ、それと鈴江と大助の関係が今回明言されたが配偶者ではなく親戚の間柄とのこと。その割には随分亭主関白よろしく鈴江に世話してもらっているんだね、大助。
保護された“迷い犬”
前述した通り今回の大助は金もなければAI執事ヒュスクもない。これまで彼の最大の個性であり武器だったこの二つを失った大助は加藤の元へホームステイ。いわゆる庶民的生活を送ることになる。
こんな具合に今回は非常にのどかな調子で話が進むが、唯一迷い犬探しの下りは肝心の犬は車に轢かれて死亡、兄弟犬を死んだ迷い犬と偽り返すことで落着させるというビターな結末を迎えることになった。
今回の迷い犬の一件は単純に大助の優しい一面を描写するためだけのエピソードとして解釈しても良いのだが、喜久子の「迷子の犬じゃあるまいし」や鈴江の「犬じゃないんですから」といった発言を聞く限り、今回の脚本は「大助=迷い犬」という符号を暗に劇中で示していると思う。自発的に家(飼い主)から離れている点にしても共通しているのだから多分間違いないはず。
で、そうやって大助=迷い犬として今回の話を見ると、今回の大助は実質加藤に保護されているも同然なんだよな。食事も、寝間着も、泊まる場所も全て加藤が“あてがった”ものであり、そこに彼の意思が介入されていない(家出の身だから当然と言われればそうなのだが…)。包丁で手を切った時の手当てさえも加藤の言いなりなのだから。
これまで大枚はたいて加藤の窮地を救っていた大助が金と情報(ヒュスク)を奪われてしまうと一気に無力化してしまうことが明らかとなったが、この一種ギャップ萌えをもたらした今回の物語はこれまでの物語に比べると風刺性が高い気がする。
これは何も「世の金持ちから金と情報を奪えば犬も同然」みたいなゲスい風刺ではなく、「一見自立している大人たちも実は金・情報といった保護があるからであって、それなしでこの世をサバイバル出来る人間は少ないのではないか?」という意味での風刺だと考えている。金は言うまでもないが、情報を奪われてしまえば今の世の中だと実に不便なことになるだろう。勿論、ここでいう情報は知識・経験に基づく情報ではなくスマホやパソコンで調べられるような情報(例えば、天気予報とか美味しい野菜の見極めなんかは特定の職種・経験を積まない限りはスマホ・パソコンといった媒体を通してでないと得られない)。
つまり、大助に限らず人は金・情報といったモノによって保護され、それを道具・武器にしてこの世を渡っているということになる。いわゆる成功者と呼ばれる人々、そう自負している人々も実際はそういったモノの保護や施しが与えられて成し得たことであって、彼ら自身にゼロからそれを生み出す力はないのである。その保護あってこその栄華で、それがなければ迷い犬みたいに死ぬことはなくても、待ち受ける運命が悲惨なものになるのは今の世の中だと、まず間違いない。
かつてブレーズ・パスカルが「人間は考える葦である」という言葉を遺している。広大な宇宙における人間の脆弱さとその宇宙において人間が優位である点を端的に表した名言だが、今回の物語において正にこれが当てはまっている。これまで大助の武器として描かれてきた莫大な資産もヒュスクも全ては与えられたものであって彼が生み出したものではない。物質的な武器は場合によっては壊れ・奪われ自分の元から必ず離れていくもの、それを克服するのが「考える」という行為にある。だからこそ人類はこの地球で優位な位置に立てている、ということだ。
金と情報を失った大助の脆弱さが明るみに出た一方、彼自身に備わる武器はあって、それが前述した迷い犬探しの決着方法である。真実を告げずに兄弟犬を与えるという行為の是非はともかく、「相手を悲しませたくない」という思考こそが大助の真の個性であり武器なのだ。これは前回の立て籠もり事件における手厚い補償においても窺えるし、今回いきなり取って付けたような設定だと思わなかったので個人的には「是」として評価したい。
蛇足(相手にモノを送る時は…)
2話で与えられた食べ物をちゃんと食べていた大助だが、今回加藤が酒のアテとして出した生ハム(1500円)は食べて吐き出すという拒絶を示した。これはこれまでのカップラーメンやカレーライスといった専門外の食べ物ではなく自分の得意分野に属する食べ物だったため。なまじ中途半端な知識で相手の得意分野のモノをあげると失敗するおそれがあるというのは「あたしンち」で知っていたのでこの場面は笑った。
加藤も自分の得意分野の丼モノを推したら成功したから、この教訓は当たってるんだよな。